軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-41 ワインの功罪/今後の対応

エドガーがワインを探しに行ったあと、セザールは逆にエルザに質問をした。

「エルザ殿、今のは……どういうことだ?」

が、エルザは首を横に振る。

「……今は、不確かなことを口にするわけにはいきません。もう少しお待ち下さい」

そんなやり取りをしているとエドガーが戻ってくる。1分ちょっと、ものすごいスピードだ。

「エルザ様、お持ちしました」

「ありがとう。……『 分析(アナライズ) 』」

さっそくエルザはそのワインを分析する。その顔がしかめられた。

「どうした、エルザ?」

今まで黙って傍観していた仁だったが、エルザの表情が常ならないものだったので口を出したのである。

「……毒が混入されているかと思ったけど、それはなかった」

「ああ、なるほど」

サキの祖父、テオデリック侯爵も砒素入りのワインを飲まされ、肝臓を壊していたのである。それを思い出したのであろう。

だが、それならなぜ、エルザの顔が晴れないのか。その理由はすぐに語られた。

「……でも、よくわからない植物性のアルカロイドみたいなものが混じっている」

「ちょっと待て」

エルザの言に、仁は待ったを掛けた。

「植物性アルカロイドだって?」

アルカロイドとは、天然由来の有機化合物の総称で、たいていの場合塩基性(アルカリ性)を示す。モルヒネやニコチンはアルカロイドである。

仁は、アルカロイドには麻薬も含まれることくらいは知っていた。

「アルカロイドの中には、興奮作用や麻酔作用を持つものがあるぞ」

『 分析(アナライズ) 』の魔法といえど万能ではない。術者が知っている物質でなければ理解できないのである。エルザには、いや、仁であっても、アルカロイドらしい、という以上の情報は得られないだろう。

「……そのあるかろいど、というものが何かわからんが、父はこのワインを飲むと頭が冴えると常日頃言っていたな」

「頭が冴える、ですか……」

「通常、アルコールを摂取すると、判断力や反応が鈍くなる。それが『頭が冴える』と言うのは……」

仁とエルザは考え込んだ。そして、辿り着いた結論は。

「……麻薬成分が含まれているとしか考えられませんね」

植物由来でそういった効果がありそうなもので真っ先に思いつくのがカフェインである。

「『 分析(アナライズ) 』『 分析(アナライズ) 』」

仁は、飲用に用意されていたテエエとワイン双方を調べてみた。カフェインそのものの構造式を知らなくとも、共通の物質があればそれとわかるだろうという考えである。

「……カフェインじゃなさそうだな」

だが、共通の物質は含まれていなかった。

「ジン兄、そうなるともっと強い麻薬?」

「ああ。あるいは、俺も知らない、こっち特有の麻薬かもな」

喉が渇いた仁は、そう言いながら、そばにあったジュースを飲んだ。

「そういえば、ジュースにもいろいろ添加物が入っているとか何とか言われていたよな……」

現代地球では、いろいろな合成物質がジュースに使われている。仁も、施設の子供たちに飲ませるジュースを、院長先生が苦心してできるだけ天然素材だけで作られたものを用意していたことを思い出した。

「コーラは飲んだことなかったよな……」

定時制高校に通っているとき、自販機で買って飲んだコーラの味には驚いた。美味い不味いではなく、違和感を感じたのである。

(もっと不味い飲み物もあったな……)

薬臭くて仁にはとても飲めないような清涼飲料水、というものもあった。

「……コカイン!?」

そして不意にその単語がひらめく。今はもう添加されていないが、最初期には添加されていたらしいということも。

「確か……」

TVでやっていた麻薬・ドラッグ特集を思い起こす。

「確か、シャーロック・ホームズもコカイン中毒だったっけ……」

中枢神経に作用して、精神を高揚させる働きを持つという。当時は中毒性がないと思われていたらしく、一般人にも簡単に手に入ったらしい。

実際のコカインは粉にして鼻から吸入するか、水溶液を静脈注射するのだが、仁はそこまで詳しくはない。

どのみち、このワインに含まれる成分は、経口でも効果が現れるようで、その点ではコカインとは異なるようだ。

「また私の知らない単語が出てきたな。こかいんというのが何かわからんが、そのワインはアルコール度数が高いだけでなく、いろいろな薬草を漬け込んで作るらしいことは知っている」

「そうですか……」

セザールの言葉を聞き、仁とエルザは、その植物由来の成分がリシャール王の精神と肉体を蝕んだことをほぼ確信した。

エルザははっきりとそのことを告げる。

「その薬草の一部に、毒性があったのです。確かに頭は冴えるかもしれませんが、それ以上に身体を蝕むという」

「……確かに。ここ半年で父は異常なほどに痩せてしまっていた」

「そして、高血圧による脳内出血、これが陛下が倒れた直接の原因です。先程の治療で出血を止め、循環系を整えましたが、既に壊れた脳細胞は戻りません……」

魔法でも脳細胞の再生はできないのである。

悲しそうなエルザの様子を見た王太子セザールは、沈痛な顔で頷いた。説明された内容の半分くらいは理解できなかったが。

「……そうご自分を責めなさるな、エルザ媛は精一杯のことをしてくれた。それはこの私がよく知っている。父王の意識が戻らなくとも、それは貴女の所為ではない」

「殿下……」

項垂れたエルザであったが、王太子セザールからの感謝の言葉に、少し気が楽になったようだ。

「……その薬草があれば、もっと詳しいことがわかるのかな?」

そして、今後の話を少し。

「はい、何種類も、ということであれば、そのどれが毒性を持つのか、実物を調べればわかるでしょう」

「うむ。ならば、できるだけ急いで取り寄せよう。同じ被害者を出さないためにも」

サンプルがあれば、もしかしたら対策もできるかも知れないし、予防もできるだろう。エルザと仁は一も二もなく賛成した。

「さて、そろそろ日も傾いてきた。お客人方には、迎賓館にお戻りいただこう」

王がこの有様なので、必然的に王太子が指揮を執ることとなる。

各国首脳たちは少し疲れた顔で迎賓館へと向かったのであった。

* * *

迎賓館では入浴の準備と夕食の準備が調えられていた。

昼間の騒動で精神的にも肉体的にも疲れていた一同は、入浴もそこそこに済ませ、夕食も残していたようだった。

一方で、仁はゆっくりと風呂に浸かり、食事も残さず平らげていた。精神的な余裕の違いである。

もちろん、エルザも同様。

そして2人は、あてがわれた部屋で、老子を通じ、老君からの報告を受けていた。

『マキナの役目は無事終了、先程全て撤収完了しました』

送り出しは転送機を使ったが、蓬莱島への帰還はそうもいかない。

が、アスール湖には、 統一党(ユニファイラー) との戦いの時に設置した浮沈基地があり、中には大型の 転移門(ワープゲート) があるため、そちらを経由して帰島したというわけである。

「とりあえず俺とマキナが別人という証明はできたよな」

『でしょうね。それで、あと一つ報告があります』

「うん、聞かせてくれ」

『私とアンとで見つけた地下室ですが』

離宮から少し離れたところにあった建物で見つけた地下室のことである。

『王家の者が持つと思われる『鍵』でしか開けられないような封印が施されていました。それは解除しましたが、さらに地下があって、その中には 古代遺物(アーティファクト) が眠っている可能性があります』

「ふうん……」

セルロア王国は古い国であるし、魔導大戦当時の遺物が残っていてもおかしくないのだ。仁も少し興味がある。

「明日、王太子に聞いてみるとするか」

『今のところ緊急度は低いので、それでいいと思います』

次は、今後の対応についてである。

『おそらく明日には、首都エサイアから、閣僚や軍がやって来るでしょう』

「だろうな」

『問題は、今現在、この国の指導者が不在であるということです。王太子がいるとはいえ、求心力が十分かどうかは未知数ですし』

「それで思い出した。……エルザ、リシャール国王は、もう回復の見込みはないのか?」

仁に尋ねられたエルザは悲しげに頷いた。

「……うん。無理」

高血圧性脳出血を起こしており、手当が遅れたことによる脳細胞の壊死は元に戻せないレベルであった、とエルザは言う。

加えて、常飲していたワインに含まれている麻薬成分による中毒症状。肝臓と腎臓のダメージも見逃せない。

『そうなると、明日、周辺国の代表がいる時に、王太子に仮にでも即位してもらうのが一番でしょうね』

「ああ、そうか……」

王国である以上、秩序の維持には王の存在が不可欠である。

「そのあたりは俺が口を出すことじゃないけど……」

これにはアンが異を唱えた。

「いえ、ごしゅじんさま。ごしゅじんさまは、既に各国代表と同等の存在です。その意見は無視できない重さとなっております。そのことをどうぞ御自覚下さいますよう」

『アンの言うとおりです。おそらく、各国代表の誰かが言い出すかと思いますが、誰も言い出さないなら、 御主人様(マイロード) が率先して提案すべきです』

「ああ、うん……だけど、内政干渉になるんじゃないか?」

元々、単なる技術屋である仁には、少々荷が重い。が。

「いえ、ことはセルロア王国に留まりません。ご覧になったでしょう、『リヨン』をはじめとする戦闘用ゴーレム、大型飛行船、そして大型船。あれは何のために用意されたものだとお思いですか?」

アンの言葉に仁も察することができた。

「戦争、か……」

「そうです。圧迫外交、というのでしたか? 最低でもそれを考えていたのでしょう、リシャール国王は」

「……」

再度仁は考え込んだ。そんな仁を見て、エルザが声を掛けた。

「……ジン兄、私もいる。忘れないで」

エルザの一言が、先夜のことを思い出させてくれた。仁は1人ではない、と言ってくれたことをだ。

「……そうだったな」

1人では背負えない荷物も2人なら背負うことができるように、仁もエルザがいてくれるなら、何とか『崑崙君』としてやっていけそうな気がしていた。