軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-40 地下室/診察

老子とアンは内部へと足を踏み入れる。中には明かりが無く薄暗かったが、老子もアンも問題なく行動できる。

「……これは……」

床は石英のタイル、壁は花崗岩。天井は玄武岩らしき石材で堅牢に作られていた。外側は少し崩れていたが、内部は全くの無傷。

「外と中は造りが違いますね。外側は後付けでしょう。この造りは……300年前によくあったものです」

アンは、300年前、魔導大戦直前に作られた 自動人形(オートマタ) がベースになっている。そうした経験は老子よりも豊富だ。

「この模様は床下に何かを隠すときのパターンですね」

色の違う石英タイルが規則正しく並んだ箇所を靴の踵で軽く蹴っていたアンだったが、

「……この下に空洞があります」

地下室を発見したようだ。

「……これ以上踏み込みますか?」

さすがに越権行為になるかもしれない、とアンも思ったようだ。

「いえ、この先は 御主人様(マイロード) とも相談の上、がいいでしょう」

「そうですね」

* * *

フリッツと『ゴリアス』は、地下室を探そうと、離宮の瓦礫撤去を更に進めていた。

そして今、最後の瓦礫が取り除かれる。

「おお? あれは……!」

地下に続くと思われる穴が見つかった。覆っていた扉は崩れてきた瓦礫により粉砕されており、今はぽっかりと床に口を開けていた。

「行ってみる」

フリッツが向かおうとしたので。ラインハルトが慌てて止めた。

「フリッツ、危険過ぎる。僕の『 黒騎士(シュバルツリッター) 』を向かわせよう」

「……そうだな」

フリッツも、その忠告は素直に受け入れた。

ラインハルトの『 黒騎士(シュバルツリッター) 』ノワールは穴の中に踏み込んだ。

階段が付いており、危なげなく下っていけるようだ。

ノワールが姿を消して5分。

「おっ!?」

ノワールは、セザール王太子を背負い、リシャール王を腕に抱き上げて戻って来たのである。2人とも意識がないようだ。

「陛下! 殿下!」

駆け寄ったのは王太子の護衛、カーク・アット。重傷だったが、エルザの治癒魔法により回復している。潰れた腕はまだ治療途中だ。

かなり血を流したためまだ動けるような身体ではないはずなのだが、忠義故か、2人に駆け寄っていた。

「まだ2人、怪我をした人がいます。重傷ではないようですが、急いで救助してあげてください。内部は、もうこれ以上崩れる心配はなさそうですので」

そう告げると、ノワールは2人を迎賓館の医務室へと運んでいったのである。

ノワールの言葉通り、地下室には侍女が2人倒れていた。崩れてきた天井の破片が頭に当たり、気を失っていたようだ。

診察してみたところ、彼女等の傷は軽かった。運良く、ガラナ伯爵の金無垢ゴーレムと仁のヴィーナス像のそばにいたため、崩れた天井に潰されずに済んだようだ。

その金無垢ゴーレムは変形し、仁製作のヴィーナス像は半壊してしまっていたが……。

とはいえこうして、生存者はほぼ全員が救出されたのである。

* * *

「エルザ殿、お願いできるだろうか?」

セルロア王国の総務省第三席、ルドロード・コーレスが頭を下げた。

第一内政省長官ランブロー、第一外務省長官ボジョリー、第一技術省長官ラタント等閣僚のトップが皆負傷してしまっているため、災害現場の総指揮を執っているのだ。

「わかりました」

エルザのそばには仁とラインハルトが付いていた。

そこへ女皇帝もやって来る。

「この混乱を収拾してもらわないとね。何といっても国王ですから」

他国の人間が口出しできないようなことも多々あるので、国王ないし王太子の意識回復は緊急に必要であった。

彼等の身体に付着した汚れなどはきれいに拭われている。

王には特に外傷は見られなかったが、王太子の頭部には打撲によると思われる傷があった。

そこでエルザは、2人の容態を診察することから始める。

「……『 診察(ディアグノーゼ) 』『 診察(ディアグノーゼ) 』……!?」

その顔が少し険しくなった。

「……『 快復(ハイルング) 』『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』……」

診察の結果、まずは王太子に治癒魔法を掛けるエルザ。

瓦礫がぶつかったと思われる傷を治し、内臓などの調子を整える。その効果はすぐに表れた。

「……うう?」

王太子セザールの意識が戻ったのである。

「殿下!」

総務省第三席、ルドロードが喜びの声を上げた。

セザール王太子は、ゆっくりと上半身を起こしていった。そして思い出すかのように呟きを漏らす。

「……私は……そうか、天井が崩れて……そうだ、父上!」

そのセザールは、隣に横たわる父王、リシャールを見ると切なげな顔になった。

「殿下、大丈夫ですか? 頭は痛みませんか?」

心配そうな顔でエルザが尋ねた。セザールはエルザに向き直る。

「ああ、もう大丈夫だ。頭もはっきりしている。私を手当てしてくれたのは貴方か。礼を言う」

「……それは、ようございました。それでは、陛下についてお聞かせいただけますか? 診察してみましたところ、どうも様子がおかしいのです」

「おかしい?」

「はい。外傷によって気を失われたようには見えません」

「そうか……」

セザールは目を閉じ、思い出すような仕草をしたあと、口を開いた。

「あの時……父は、鼻から血を流し、錯乱していたようだった」

辛そうな口調である。

「『リヨン』に暴れろ、という命令を出してしまった直後、私が当て身で気絶させたのだ」

「ああ、なるほど」

音声だけであるが、離宮大広間では聞く事が出来ていた。その事情がはっきりしたのである。

「あの時の父は明らかに正気ではなかった。放っておけば、全ての戦闘用ゴーレムに、とんでもない命令を下していた可能性がある」

「……わかりました」

説明を聞いたエルザは、再度リシャール王の診察を行った。今度は脳を重点的に。

「『 全快(フェリーゲネーゼン) 』」

そして、最上級の外科系治癒魔法を掛ける。

だが、王が目を覚ますことはなかった。再度診察をしたエルザは、肩を落として報告をした。

「……できるだけのことはしましたが……」

言い淀むエルザ。

「……正直、脳が駄目になっている可能性が高い、です」

「そうか……」

悲しそうなセザールに、エルザは再度質問をした。

「陛下におかれましては、何か悪習のようなものはございましたか?」

その質問には、すぐに答えが返ってきた。

「悪習とはいえないが、父は、いつもワインを好んで飲んでいたな。朝から飲んでいるので、昼間はやめた方がいいと言ったのだが聞き入れられなかった。あれは確か、コーリン地方特産の銘柄だ」

ワインを常飲していたと聞いて、エルザには引っ掛かることがあった。

「そのワインはありませんか?」

「おそらく、地下室にまだ残っているかと思う」

その答えを聞いたエルザは、エドガーに頼む。

「エドガー、持って来てくれる?」

「はい、わかりました」

返事を残し、エドガーは走り去っていった。