作品タイトル不明
23-36 誘導/対策
狂王リシャールが起動した『リヨン』は10体だけではなかった。
もう20体いたのである。それらが離宮の反対側から現れたのを見た面々は蒼白になった。
23体の『リヨン』は縦横無尽に暴れ回っていた。
今のところ、攻撃を受けているのは離宮だけ。警備の兵士も逃げ出せたようで、人的被害は無さそうだ。
だが、まだ迎賓館には関係者が多く残っていた。
式典に出席できなかったマルシアとアロー。フリッツが救ったリタや、各国の警備要員たちだ。
「……全員は乗せられない。ならば……そうだ!」
仁は操縦を自動に切り替えると、客室へ向かった。目的はショウロ皇国の皇帝陛下である。
「ジン・ニドー卿、どうしました?」
「陛下、迎賓館に残っている人たちや、逃げ遅れた人たちを、船に避難させようと思います。それで……」
「ああ、わかったわ。いいでしょう」
皆まで言わせず、女皇帝は即座に許可を出した。
「我が国の船、役に立てられるなら嬉しいわ」
「早速のお聞き届け、ありがとうございます」
仁は礼を述べる。女皇帝はそんな仁を遮って、
「お礼なんかいらないわ。でも、誘導できるの?」
と、懸念事項を口に出した。仁は頷き返す。
「はい。地上にはまだ、老子とアンがいます」
「ああ、そうだったわね」
その言葉に、一同は窓から下をのぞき込む。
仁は操縦席に戻り、『コンロン2』の高度を下げていった。
今のところ、迎賓館の近くでは『リヨン』の被害は生じていないが、念のため『 障壁(バリア) 』も展開しつつ、である。
地上から10メートルくらいまで下げ、そこで待機していた老子とアンに向かって『口頭で』指示を伝えた。
もちろん、風属性魔法、『 伝声管(アコチューブ) 』を使って、である。
《老子、アン、陛下からのお許しが出た。ショウロ皇国の船、『ベルンシュタイン』と『グラナート』に、可能な限り、人々を避難させるんだ》
「わかりました。行きますよ、アン」
すぐさま行動に移る老子とアンを見て、フリッツが立ち上がった。そして操縦席のドアを叩く。
「兄様、どうしたの?」
顔を見せたのはエルザだった。フリッツは、妹に己の意志を伝える。
「もう少し高度を下げて欲しい。そうすれば、俺も『ゴリアス』を使い、人々を避難させたり、『リヨン』の足止めをしたりできると思う」
そして振り返り、
「陛下、許可いただけますか?」
と、尋ねた。女皇帝は苦笑しながら頷く。本来なら、飛行船の高度を下げてくれと言う前に許可を取るべきなのだ。が、女皇帝はそんな些事に頓着しなかった。
「……ありがたき幸せ」
フリッツは礼を言うと、船室後部の出入口へ向かった。ハッチ開閉の補助にリリーが付き添う。
途中、グロリアとシンシアが、
「フリッツ殿、お気をつけて」
「ご武運を祈ります」
と、短く激励の言葉を贈った。フリッツは無言でそれに頷いた。
エルザが仁に告げ、『コンロン2』は更に高度を下げた。地上から2メートルほど、すれすれと言ってもいい高度だ。
リリーがハッチを開け、そこからフリッツは飛び降りた。
飛び降りたフリッツは『ゴリアス』5体を駐機している場所……迎賓館の裏手へと走っていったのである。
一方、老子は人々の避難を誘導していた。
「慌てる必要はありません! 落ち着いて避難して下さい!」
一般人は少なく、騎士が多かったために、侍女や使用人たちも比較的安心できたようで、この避難誘導はスムーズに行われた。
ただし、マルシアとアローは例外で、自ら、何人かを引き連れ、新型三胴船へと避難させていたのである。
アンは迎賓館内部を全力で駆け回り、逃げ遅れた人がいないか、確認していた。
そして、奥の部屋に1人蹲った少女を発見する。それはフリッツが保護したリタであった。
「ここにいては危険ですよ。私と一緒に避難して下さい」
と、優しい口調でアンが言うと、震えながらもリタは立ち上がった。
アンはそんなリタの手を握る。リタは安心したようにアンの手を握りかえしてきた。
そのまま2人は外へ向かった。
* * *
上空から、『コンロン2』は地上の様子を観察していた。
「あ、老子が避難者の第2陣を連れ出したな」
「マルシアさんたちも数名、避難させてますね。さすがです」
仁と礼子が現状を述べ、エルザとエドガーがまとめていく。
迎賓館に待機していた人数に関しては、客室にいる各国首脳がある程度把握しているので、そちらに問い合わせながら、である。
「アンが出てきたな。……女の子を連れているようだ。あれは……リタだな」
フリッツが率いる『ゴリアス』3体は、離宮と迎賓館の間にあって、『リヨン』がこちらへ来ないよう牽制していた。
とはいえ、『リヨン』は離宮への攻撃しかしないようだ。目の前の物しか見えていないかのよう。
「これならなんとか全員が避難するまで保ちそうだ」
独りごちたフリッツは、残る2体と共に避難誘導に当たる。
「これでほぼ避難は終わったはずだな」
眼下にはもう人はいない。人的被害は最少に抑えられたようだ。
セルロア王国の面々も、なんとか避難を終えられたようである。
「うん。例外はリシャール王とセザール王太子。どこにいるのかわからない」
エルザが、各国代表たちから聞き取った人数のチェックをした手元のメモを見て答える。
王と王子はおそらく、ギョーム離宮内の秘密の部屋にいると思われるが、探している時間はなかった。
そのギョーム離宮は既に『リヨン』により、半壊している。
「……まてよ?」
仁はふと、1人の少女のことを思い出した。
メモを見ても、名前は載っていない。
それはそのはず、王太子セザールが自分の部屋に置いていたのだから、他国の人間に存在が把握されているはずがなかった。
「アルシェルがまだ離宮にいるかもしれない」
エルザもその可能性に思い当たり、心配そうに眉を 顰(ひそ) めた。
いずれにしても、王と王太子も救い出す必要がある。
「ジン兄、何か、『リヨン』を止める方法はない? 例えば、『エーテルジャマー』とかで」
停止させられれば、それが一番だ、とエルザは考えた。
「うん、あれは十中八九、『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』方式だから、『エーテルジャマー』は効果が無いだろうな」
エーテルジャマーは、一定範囲の 自由魔力素(エーテル) を支配下に置き、相手の魔法を封じるものである。 魔力素(マナ) には効果が無いのだ。
「……理解した」
「残念だけどそもそも『コンロン2』には積んでないし」
今現在、操縦席と客席の間の扉は閉めていたので、こうした会話も可能なのである。
「……そうなると、『 魔法無効器(マジックキャンセラー) 』を使うしかないんだが」
魔力素(マナ) を強制的に 自由魔力素(エーテル) に戻してしまうことで、ごく一部の魔法を除き、相手の魔法を掻き消してしまうことができる魔導具である。
最重要部の 魔導装置(マギデバイス) には『精神触媒』を必要とするため、仁にも量産はできなかった。
1基は仁の乗機、『ペガサス1』に。そしてもう1基は礼子用の腕輪に仕込んであった。
「礼子の腕輪は蓬莱島に置いてきてしまったしな」
少し前、ショウロ皇国の 古代遺物(アーティファクト) 、巨大ゴーレムが暴走しかけた時停止させるために無理な使い方をして壊れていたものを仁が修理したのである。
今礼子が嵌めている腕輪は、仁やエルザが付けている物と同じ仕様の腕輪である。礼子用の色は乳白色、セットされた 魔結晶(マギクリスタル) は半透明。ただし『 魔法無効器(マジックキャンセラー) 』の機能はない。
「……思わぬところに落とし穴があったものですね」
礼子の言葉に仁も苦笑せざるをえなかった。旧時代的といえる『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』仕様のゴーレム対策が必要になるとは、彼も考えていなかったのである。
実は、礼子にも超小型の『 魔法無効器(マジックキャンセラー) 』が内蔵されてはいるのだが、射程距離・効果範囲を考えると、今回の場合には有効とはいえない。
そもそも、かつて魔族領で対決した『デキソコナイ』が起こそうとした『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』を防ぐための装置だったのである。
「ここは……ペガサス1の出番かな」