軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-34 怒り/全力全開

《では最後の模擬戦と行こうかな》

1勝1敗1引き分けとなった今、文字通りこれがセルロア王国の威信を賭けた一戦であることは疑いようがない。

《崑崙君の 自動人形(オートマタ) は、人形でありながら従騎士に列せられたほどの 強者(つわもの) と聞く。ならばこちらも最強の『ウィッパー』がお相手させていただく》

「いえ、そういうことでしたら、無事な全員で掛かってきてもいいのですよ?」

剣で貫かれたクラインゴーレムをちらと見た礼子が、冷ややかな声で言った。

《……何だと?》

さすがのリシャールも、その言葉はまったく予想していなかったと見え、一瞬絶句した。

「……あー、礼子、怒ってるな」

礼子が怒る理由は幾つかあるが、そのほとんどが仁に関係すること。

今回は、仁が作った汎用ゴーレム——礼子にとって弟的な存在を壊されたことによる。

仁は大広間、礼子は外。

釘を刺そうにもグロリアがそばにいるうえ、各国の要人たちも仁の方をちらちら見ている。このような状況で腕輪に仕込んだ『 魔素通信機(マナカム) 』を使うわけにはいかなかった。

「……まあ、仕方ない、か」

何かあっても、その結果を受け止めようと腹をくくる仁であった。

《後悔するなよ……『スペイダ』も行け》

剣使いのゴーレムはスペイダと言うようだ。

そのスペイダが礼子目掛けて斬りかかってきた。折れた剣は新しいものと代えており、最初から全力だ。

その素早さに、礼子はまったく動けない……ように見えた。だが。

《な、なに!?》

スペイダが振り下ろした剣は、礼子が左手だけであっさりと掴んでいたのである。

「おおっ!?」

見ていた各国代表たちもその光景に目を見張る。

スペイダは剣を動かそうと力を込めているようだが、万力に挟まれたかのように剣はピクリとも動かなかった。

《馬鹿な!? 体重差がこれだけあるというのに!?》

礼子は密かに 力場発生器(フォースジェネレーター) を使い、自分の身体を固定していた。

今の礼子を動かそうとするなら、数十トンの力が必要であろう。

が、礼子の相手は1体ではない。

『ウィッパー』が、手にした鞭を振るい、叩き付けてきたのである。

礼子はそれを空いている右手で掴み取った。

《あり得ん! 鞭の動きは目で追えるようなものではない!》

仁がグロリアに語ったことをリシャールも気が付いているようだが、その先までは知るべくもない。礼子の動体視力は超音速の物体も見切れるのだ。

だが、ウィッパーが持つ鞭は1本ではない。

もう1本の鞭が礼子を襲った。

細い鋼を撚り合わせて作られたその鞭は、ウィッパーが全力で振るえば、青銅製のゴーレムなら、胴体を真っ二つに斬り裂くほどの威力があった。

それが礼子を襲う。見物客のほとんどは、斬り裂かれる礼子の姿を想像した。

が。

鞭が叩いたのはスペイダであった。

礼子が、剣ごとスペイダを持ち上げ、鞭の軌道に置いたのである。

スペイダの鋼の鎧と、ウィッパーの鋼の鞭。2つがぶつかり合い、甲高い金属音が上がった。

さすがと言うべきか、スペイダの鎧はウィッパーの鞭に耐えている。

「同士討ちですか」

礼子は、いつの間にか3メートルほど離れた場所で静かに微笑んでいた。

《う、うぬぬ! ……わかった、レーコと言ったか、それまでだ!》

これ以上やっても、恥をさらすだけと判断したのか、リシャール王は礼子の勝ちを宣言したのである。

眺めていた各国代表たちから溜め息が漏れる。

礼子の計り知れないポテンシャルと、それを作り上げた仁の技術に、尊敬と、若干の畏怖を交えて。

礼子は撮影している 魔導眼(マジックアイ) に向かって、優雅に一礼して見せた。

「あー……礼子、まあ仕方ないな」

相手を破壊したりしなかったことは褒めてやらなければならない、と仁が思った、その時。

ウィッパーの鞭が、礼子の身体に巻き付いたのである。

《よくやった、ウィッパー。そのままレーコを抑えておけ》

「終わったのではないのですか?」

礼子の静かな声が響いた。

《第2戦の開始だ。すまんな、言い遅れて》

それに対し、白々しい声が答えた。

列席者の大半は、これで礼子も壊されてしまう、と思ったのだが、幾人かは真逆のこと、すなわちセルロア王国の面子が壊される未来を予感した。

「そうですか。それではわたくしも、少し本気を出しましょう」

《ほざけ。スペイダ、叩き斬れ》

スペイダが剣を振りかざし、動けない(はずの)礼子に切り掛かる。

「それは無理です」

礼子が少し力を入れると、身体に巻き付いていたウィッパーの鞭は千切れ飛んだ。

次いで斬りかかってきたスペイダの剣を、礼子は右手の人差し指と中指で挟み取り、そのまま手首を返した。

それだけでスペイダの剣は中程から折れ、礼子に届くことはない。

更に礼子は踏み込み、スペイダの腕を掴んで胴体腹部に前蹴りを放つ。スペイダは前転しながらすっ飛んでいった。

そして礼子の手の中にはスペイダの左腕が。肩関節部分から礼子がいつのまにかもぎ取っていたのである。

そして、スペイダが吹き飛んでいく先にはウィッパーがいた。

2体のゴーレムは轟音を上げて衝突。

スペイダの勢いはかなり殺されたが、それでも2体はかなりの速度で吹き飛んだ。

そんな2体目掛け、礼子は手にしたスペイダの左腕を投擲した。

その勢いは凄まじく、激突した瞬間、耳を聾するような轟音が響いた。

そして人々が目にしたのは、おかしな形に変形し動かなくなったスペイダとウィッパーの姿であった。

これで終わり、かと思いきや、振り回された鎚が、背後から横薙ぎに礼子を襲った。

今まで動かなかった『マルトー』がここぞとばかりに襲いかかったのだ。

礼子は振り向きざま、回し蹴りを放った。

鎚と脚が激突し、先程に倍するような轟音が響く。

その結果がもたらしたのは、翻ったロングスカートの裾を押さえる礼子と、鎚ごと腕を粉砕されたマルトーの姿であった。

「……」

見ていた者たちは声も出ないほど驚いていた。

そもそも、鞭をなしているワイヤーロープの破断強度は、5トンほどもある。それが3重に巻き付いていたのだが、礼子はやすやすとそれを引きちぎってしまったのである。

つまり、礼子の力は最低でも15トン以上あるということ。それは最上級に分類される戦闘用ゴーレムの10倍以上。体格を加味したら20倍はあるかもしれない。

そして、振り回された鎚の破壊力をものともせず、逆にそれを破壊する礼子。

そう考えたら、先程感じた若干の畏怖は、大きな恐怖に変わる。

《ううぬ、『リヨン1』、かかれ!》

『リヨン1』というのは4メートルのゴーレムの通称らしい。

最早模擬戦ということもどこへやら、常軌を逸した命令を発するリシャールであった。

「……無駄なことをするのですね」

礼子は溜め息をつくような仕草をすると、リヨン1を迎え撃つべく、地を蹴った。

* * *

「いくらなんでもおかしいぞ?」

「……リシャール王は正気なんでしょうか?」

列席者たちは、さすがにこの流れを 訝(いぶか) しみ始めた。

しかし、リシャールがどこから命令を発しているかわからないため、どうしようもなかったのである。

だが、1人だけ、国王の元へ行くことができる者がいた。

「父上!」

王太子、セザールである。

ギョーム離宮の地下にある秘密の部屋。そこに入ることができるのは、ギョームの血を引く者だけである。

今この場にあっては、リシャール王とセザール王太子だけが該当する。

王太子が扉に両手を当てると、数秒して施錠が解かれ、ゆっくりと開き始めた。

セザールは扉が開き切るのを待たずに部屋へ飛び込んだ。

そこには、髪を振り乱して半狂乱になった、セルロア王国国王、リシャール・ヴァロア・ド・セルロアがいたのである。