軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-33 剣/槍

「おお、やるなあ」

セルロアゴーレムの動きを見て、仁が感心したような声を上げた。

どう見ても、『 変形動力(フォームドライブ) 』の動きではなかったからだ。

「まあ、 統一党(ユニファイラー) がいた国だしな」

それもその筈、セルロア王は、前回ラインハルトの 黒騎士(シュバルツリッター) に、自国最高と謳われた『 金剛戦士(アダマスウォリアー) 』が敗れて以来、戦闘用ゴーレムの開発に血道を上げていたのだから。

その情熱を別の方向に向けられないところがリシャールの限界である。

黒騎士(シュバルツリッター) とセルロアゴーレムの戦いは激化していった。

黒騎士(シュバルツリッター) が切り下げれば、セルロアゴーレムは切り上げで対抗する。

セルロアゴーレムが横薙ぎを繰り出せば、 黒騎士(シュバルツリッター) はそれを受け流し、突きを繰り出す。

繰り出された剣を、セルロアゴーレムは身体を半身にして躱し、その勢いでもう一度横薙ぎで攻撃。

黒騎士(シュバルツリッター) はそれをバックステップして避けた。

「ほう……凄い、私にはできないな」

見ているグロリアの口から、悔しそうな声が漏れた。

「それは仕方ないさ。人間とゴーレムでは筋肉への命令伝達速度が違いすぎるからな」

仁の何気ない発言に、グロリアが食い付いた。

「ジン殿、それはどういう意味だ?」

「あー……えーと、例えば、『剣を避ける』という動作の場合、『剣を目で見て』『頭で避けようと判断して』『身体の筋肉に避けるための動きをするよう命令を出して』『筋肉が反応して身体が動く』……わけなんだが」

「ほう、そうなのか」

グロリアは彼女らしく、仁の言ったことをまずそのまま飲み込んだ。

「……で、頭が出した命令が筋肉に届くために掛かる時間があるわけだ」

「うむ、道理だな」

余計な質問を挟まないのがいかにもグロリアである。

「で、命令が伝わる速度が、俺の知る限りだと30メートルから70メートル毎秒くらいだったな」

「結構遅いのだな」

秒速50メートルとして時速180キロである。

「だが、ゴーレムの場合は違う。魔力の波動は、電磁波の上位互換だから、秒速30万キロメートルに近い」

「でんじはというのがよくわからんが、1000万倍以上か……それは速いわけだ」

「まあ、頭脳にあたる 制御核(コントロールコア) での情報処理時間もあるから、単純には言えないが、な」

理論上の値であり、骨格の強度や筋肉の反応速度も影響するので、一概に何倍、といえるものでもない。

が、やはり人間より速いことだけは間違いない。

《なかなか見応えのある勝負であるな》

リシャール王が感心した様な声を漏らした。

黒騎士(シュバルツリッター) とセルロアゴーレムの戦いは更に激しさを増していた。

やや 黒騎士(シュバルツリッター) が優勢か。 黒騎士(シュバルツリッター) の身体には傷が一つも付いていないのに対し、セルロアゴーレムには幾つか浅い傷が付いていたのだ。

黒騎士(シュバルツリッター) の斬撃は更に速くなった。

セルロアゴーレムは最早完全に防戦一方。

そしてついに。

キイン、という金属音と共に、セルロアゴーレムの剣が折れ飛び、 黒騎士(シュバルツリッター) はそのセルロアゴーレムの喉元に剣を突き付け、寸前で止めていた。

《……み、見事だ、 黒騎士(シュバルツリッター) 》

悔しげな声で、セルロア王は 黒騎士(シュバルツリッター) の勝利を認めた。

見ていた各国代表たちはやんやの喝采を贈る。

「ラインハルト殿、さすがだ!」

「いや、さすがショウロ皇国。大したものですな」

「素晴らしい名剣ですね!」

「ラインハルト、見事でしたね」

各国から称賛の言葉が掛けられた。

「……いえ、辛勝ですよ」

とは答えたものの、当のラインハルトも嬉しそうである。

《なかなかの名剣のようだな。それゆえの勝利か》

負け惜しみにしか聞こえない言葉を王は吐き捨てた。

「剣のせいにするとは笑止」

グロリアは鼻で笑った。

「 黒騎士(シュバルツリッター) は相手の剣をまともに受けることは数回しかせず、ほとんど受け流していた。対してセルロア王国のゴーレムは受け流さず、受け止めてばかり。あれでは剣への負担が違いすぎる」

「と、いうことは、受け方でも剣の傷み方が違うのか」

今度は仁からグロリアへの質問である。

「ああ、その通りだ。……」

達人級になると、剣と剣を打ち合わせたときにも、己の剣へのダメージを減らす方法があるらしい。

「剣の先で受けるのと元で受けるのとでも違ってくるしな。 黒騎士(シュバルツリッター) はそのへんも良くわかっているように見えた」

仁は、グロリアの解説を聞きながら、触覚を持たせたのは間違っていなかったと満足していた。

さらに王は言葉を続ける。

《さて、これで一対一。次は、そうだな、クライン王国のゴーレムと我が『ランツァー』にやってもらおうか》

『ランツァー』は槍を持ったゴーレムであった。対するは、仁製作のクライン王国のゴーレム。武器は剣。

「ジン殿、この勝負、どうなるだろうか?」

仁が作った事を知っているグロリアは興味深そうに尋ねてきた。

「……今の戦いを見る限り、不利だな……」

「ジン兄、どうして?」

エルザも気になるらしく、質問してきた。

「ああ。剣と槍では間合いが違うからだよ」

やはり得物のリーチというものは大きい。

その時仁は、ふと思いつき、グロリアに質問を行う。

「グロリア殿、クライン王国の騎士が槍に対したときにどう戦うか知ってるか?」

グロリアは大きく頷く。

「ああ、もちろん。元々、騎士の武器は 突撃槍(ランス) だし、その騎士を止めるための歩兵の武器も槍だ。騎士なら、当然熟知しているさ」

「そうか……」

少し安心する仁。というのも、クライン王国の汎用ゴーレム、その武技は、有望な若手騎士、ハインツ・ラッシュのものを転写しているからである。

「ジン殿?」

「あ、ああ、悪い。えっと、あのゴーレムの動作は、ハインツ・ラッシュを元にしているので、彼が槍相手に戦う術を心得ているなら、何とかなるんじゃないかな?」

《始め!》

仁たちがそんな問答をしているうちに、3戦目が開始されていた。

セルロア王国のゴーレム、『ランツァー』の武器は普通の槍である。対するクラインゴーレムは、護衛用の片手剣だった。誰が見ても不利である。

が、グロリアが言ったように、クラインゴーレムはうまく鋭い突きを剣で受け流していた。

「だが、やはり槍が有利か……」

グロリアが悔しそうな声を出す。が、仁は興味津々。

「いや、多分まだ様子見しているぞ?」

自分が作ったゴーレムの限界値くらいは見当が付く。

まだセルロアのランツァーも全力ではないし、クラインゴーレムも全力ではない。

ただ片や4割、片や6割、といった手加減度であろうと思われ、仁は忸怩たる思いを噛みしめていた。

剣対剣、あるいは槍対槍なら引けは取らないのに、ハンデ戦では……と仁は残念に思った。

いくら依頼された物とはいえ、自分の作ったゴーレムが敗北し、壊されるのはやはり悔しく、悲しいのである。

「ジン兄……」

そんな仁の思いがわかるのか、エルザは少し心配そうな顔である。

「だけど」

「え?」

「『 制御核(コントロールコア) 』だけは十分なスペックを持っているはずだ」

素材に左右されない、『魔導頭脳』。それは 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) である仁が、十分すぎる仕様で作り上げた物だった。

「ハードウェアで劣っても、ソフトウェアはこっちが上だ」

その言葉通り、クラインゴーレムは、相手の動作を覚えつつある。そして、手加減されているうちに勝負に出ることを選択した。

仁が6割、と見た動作を一気に10割に。

ランツァーが繰り出した槍を半歩右に避けて躱すと、槍が引き戻される前に左手でその槍を掴んだ。

槍を突き出したときの重心はやや前に寄っており、その状態でクラインゴーレムは槍をぐい、と引いた。

が、敵も然る者、瞬時に重心を戻し、クラインゴーレムに対抗した。

2体の力が一瞬拮抗する。いや、非力な分、ややクラインゴーレムが不利である。

そこでクラインゴーレムは、相手が槍を引く力を利用し、一気に懐へ飛び込む。それは見事に成功した。

……かに見えた。

手加減を止めたランツァーは、クラインゴーレムが飛び込んでくる直前に槍を手放し、予備武器のショートソードを手にしていたのである。

交差する2振りのショートソード。

《それまで!……見事なものだ》

セルロア王リシャールの、半ば悔しげな、そして半ば感心したような声が響く。

2体のゴーレムは、互いにショートソードを胸部に突き立て合っていたのである。

クラインゴーレムの意地が引き分けに持ち込んだ瞬間であった。

「だが、負け惜しみではないが、我が国のゴーレムの勝ちだと思うがな」

グロリアがぽつりと呟く。

その理由はとエルザが問えば、

「我が国のゴーレムは剣を相手の左胸に突き立てているが、セルロア王国の『ランツァー』の剣は右胸だからだよ」

「なるほど、人間なら心臓を貫いているわけだものな」

仁もそれを聞いて、少しは溜飲が下がったのである。

実際の心臓は左胸というより中央左寄り、といった程度であるが、この場合は『判定基準』ということなので仁も何も言わなかった。