軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-32 余興/模擬戦

居並ぶ列席者たちは、手にしたソフトドリンクを飲むことも忘れ、 魔導投影窓(マジックスクリーン) に釘付けになっていた。

型通り、見事な剣技を披露するゴーレム。目にも止まらない速度で槍を操るゴーレム。超重量の鎚を棒きれのように自由自在に振り回すゴーレム。

そして、仁も初めて見る武器、『鞭』を操り、4メートルの大型ゴーレムと模擬戦を繰り広げるゴーレムである。

「……鞭、か。初めて見るが、やっぱり厄介かな?」

そこで仁は、休憩時間であることを利用し、隣のテーブルにいたクライン王国の女性近衛騎士、グロリアに尋ねてみることにした。

グロリアは椅子を動かし、仁たちのテーブルに来てくれた。

「……ジン殿の言うとおり、鞭はあまり一般的ではないな。一つには、戦場で使いづらいということ。また、熟練しないと使いものにならないということが挙げられる」

前者は攻撃範囲が広いため、味方を巻き込む恐れがあるということ、後者は単純に扱いが難しいということである。

「だが……、あれを見ると脅威だな」

達人の鞭は、その先端がまれに音速を超えることもあると、仁はどこかで聞いたことがある気がした。TVで見たのか本で読んだのかネットで知ったのかはあやふやだったが。

時間にしておよそ3分。

試技が終わると、見ていた者の大半が溜め息をつく。

「まずは見事、だな」

剣は達人級のグロリアも絶賛した。

ゴーレムの動作速度が速いということは、 魔法制御の流れ(マギシークエンス) が適切だということでもある。仁もその点は、セルロア王国の技術を認めたのである。

《さて、余興はいかがだったかな?》

続けて響く声。

《ところで、諸君らもゴーレムを連れてきているであろう。どうかな、こやつらと模擬戦を行う、というのは?》

会場がざわついた。

人間と違い、ゴーレムは休憩や睡眠を必要としないため、要人の護衛には不可欠であるから、各国首脳が連れてきていないはずはない。そこをリシャールは突いたのである。

《諸君らの優秀なゴーレムとの模擬戦、この上ない余興になるだろう。国の威信にかけても、よもや断る者はいないと思うが、どうかな?》

その言葉に、誰も答えを返さない。いや、いきなりのことに返事のしようがなかったというべきか。先程見せられたセルロア王国のゴーレムを見て、声を失っていたということもありそうだ。

畳み掛けるようにリシャールは続ける。

《あくまでも模擬戦だ。そう堅く考えなくてもよい》

列席者は少しだけ胸を撫で下ろす。『模擬戦』ということで、傷付けられることはあっても壊されはしないだろう、ということが救いである。

まず名指されたのはエゲレア王国だった。

《そうだな、ガラナ伯爵、貴公はどうかな? 金色のゴーレム、強そうではないか》

「は、はい」

お抱えの 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ボーテスが作った、金ぴかのゴーレムは、会場で非常に目立っていた。

この流れでは断りきれるものではない。まして国の威信も掛かっている。伯爵は、目立つ金色にするのではなかった、と臍を噛んだがあとの祭り。

唯一、『模擬戦』という言葉に一縷の望みを託して、ガラナ伯爵は己の護衛ゴーレムを出動させた。

《それに……いかがかな、ラインハルト男爵? 貴公の『 黒騎士(シュバルツリッター) 』は先年、我が国のゴーレムを圧倒したな。再度その勇姿を見せてほしいものだな》

等と言っているが、その実、雪辱戦がしたくてたまらないということが誰にもわかる。

無言で頷く女皇帝、ラインハルトは模擬戦を承知した。

《それから、クライン王国も忘れてはならないな。なかなか優秀そうなゴーレムを引き連れているではないか》

アーサー王子が護衛に連れてきたのは、かつて仁が製作した汎用ゴーレムの1体である。

模擬戦、ということでアーサー王子も否やは言えなかった。

《これで3体、か。あと1体。……『崑崙君』とか言ったな。そなたの従騎士に参加してもらいたいが、どうかな?》

どうかな、と言う声にはありありと嘲りが感じられた。

礼子の事は噂で聞いてはいるが、話半分どころか10分の1にも信じていないらしい。

「仕方ない。礼子、頼む」

仁の言葉に礼子は頷いた。

「はい。お父さま、行ってきます」

* * *

ギョーム離宮前広場が模擬戦の会場である。

大広間を出た礼子とゴーレムたちは、10分ほどで 魔導投影窓(マジックスクリーン) にその姿を現した。

護衛のゴーレム達は全て高度な自律型なので、主人がそばに居なくとも、命じればこうした模擬戦もこなせるのである。

《では、まずは『マルトー』と、ガラナ伯爵のゴーレムとで行うとしよう》

鎚を持つゴーレムは他に比べ横幅があり、名を『マルトー』というらしい。

同じくどっしりした型であるガラナ伯爵のゴーレムが相手をすることになった。

ガラナ伯爵のゴーレムが手にしているのはメイスである。

《始め!》

金色のゴーレムと銀灰色の『マルトー』が得物を打ち付け合った。鎚とメイスがぶつかり合うと凄まじい轟音が響き、火花が散る。

広間にいる者たちはただ、その激しい攻防を、固唾を呑んで見つめるだけだ。

10合ほど打ち合い、一旦2体は距離を取った。

「ふむ、どちらもやるな」

グロリアが呟いた。仁は、ガラナ伯爵のゴーレムが意外といい動きをしているのに感心していた。

「ジン兄、伯爵のゴーレムって、『 変形動力(フォームドライブ) 』使ってる?」

エルザも同じことを感じたようだ。

「ん? ジン殿、そのへんけ……『 変形動力(フォームドライブ) 』? というのは?」

同じテーブルに付いたままのグロリアが質問してきた。

「ええと、ゴーレムを動かす方式の一つで、筋肉じゃなしに、『 魔導樹脂(マギレジン) 』という素材を中身に使い、それを変形させて動かす方式……かな」

簡単な説明であるが、グロリアはそれで納得したようだ。

「ついでに言うと、その方式で機敏な動きをさせるのは結構難しい。だからあの金ぴかゴーレムは出来が良さそうだ」

「ふむふむ、何となくわかった。感謝する。……おっ?」

画面内では新たな動きがあった。

《なかなかやるではないか。それではマルトーも本気を出させよう。どこまで耐えられるかな?》

「は、話が違う!」

画面の中では、先程よりも速度を増したマルトーの鎚がうなりを上げていた。ガラナ伯爵のゴーレムは辛うじて防御している。

《まだまだ速くなるぞ……!》

ついに、マルトーの鎚が、ガラナ伯爵のゴーレムを掠めた。

模擬戦なのでどちらかが壊れるまではやらないだろうと考えていたガラナ伯爵、その望みが 潰(つい) える。

「うわあああ!」

画面内では、メイスを弾き飛ばされたガラナ伯爵のゴーレムが、全身にマルトーの鎚を受け、動作不能になって倒れるところであった。

「……」

「……酷い」

ガラナ伯爵は好きではないが、このやり方はもっと気に食わない。仁とエルザは奥歯を噛みしめた。

《なかなか楽しい戦いであった。……次は『 黒騎士(シュバルツリッター) 』との一戦と行こうではないか》

進み出たのは剣を持ったゴーレムである。

それを受けて、『 黒騎士(シュバルツリッター) 』も剣を抜いた。

「ジ、ジン殿、あの剣は、ただの鋼ではないな?」

グロリアが興奮気味に尋ねた。 魔導投影窓(マジックスクリーン) 越しに材質の違いを見抜くとは、一種の才能である。

仁は、もしかしたら魔眼の一種かもしれない、などと考えつつ、その質問に答える。

「さすがグロリア殿。あの剣は複合材を使っているんだ」

「複合材? というと、以前作ってもらった剣のような?」

「そう。とはいえ、使っているのは鋼系だけなんだが」

仁が思いつきで、ラインハルトと一緒に作った剣である。

要は硬い鋼と軟らかい鋼、言い替えると脆い鋼と粘りのある鋼を積層状に組み合わせたものだ。1つ1つの層は1ミリくらいで、違う性質の層が交互に積み重なっている。

それを研ぎ上げると、縞模様が浮かび上がる。現代地球で『ダマスカス鋼』と呼ばれるものだ。

そう言っているうちに、2体のゴーレムは向き合い、剣と剣を合わせた。

《始め!》

リシャール王の声と同時に、2体は剣を振りかぶり、叩き付け合った。これまた火花が飛ぶ。

「おお……」

「凄い……」

列席者は先程の戦い以上に、夢中になって画面を見つめる。

「ラインハルト、 黒騎士(シュバルツリッター) は大丈夫かしら?」

女皇帝はこうした武技に関しては素人、少し心配そうだ。

「陛下、ご安心下さい」

内心の不安を隠しながら、ラインハルトは女皇帝を安心させるように言った。

「ふむ、だがラインハルト、 黒騎士(シュバルツリッター) の動きは以前より更に良くなっているな?」

フリッツも感心したように言う。彼が知っているのは、ラインハルトが仁と知り合う前の 黒騎士(シュバルツリッター) だからだ。

今の 黒騎士(シュバルツリッター) は、蓬莱島の素材を一部用い、当時とは比べものにならないくらいに性能アップしているのだ。

「確かに凄い」

ラインハルトの義兄、マテウスも2体の戦いを食い入るように見つめていた。ゲーレン侯爵も同様に、目を凝らして見つめていた。

2体はもう20合以上も剣を合わせている。

《ふむ、 黒騎士(シュバルツリッター) も以前より改良されているようだ。素直に称賛を贈ろう》

リシャールの声が響く。

《敬意を表し、本気で相手してやろうではないか》

その声が終わらないうちに、敵ゴーレムの速度が一気に速くなった。