作品タイトル不明
23-31 お披露目/試技
《さて、次は……おお、エゲレア王国の贈り物であるな》
最もセルロア王国と仲が悪いと言える国がエゲレア王国である。そのためか、今回訪れているのは、護衛は別にすれば2名のみ。
王の従兄、アンガス・ブルウ・パイロイド公爵とガラナ伯爵である。
《これは……ほう》
人の背丈ほどもある何かに、布が掛けられている。その布を取り去ると、現れたのは。
「……おお!」
「あれは!」
魔導投影窓(マジックスクリーン) を見ている人々から歓声が上がった。
《ふむ、黄金のゴーレム、か》
そう、それは黄金のゴーレム。
黄金色の、ではない。ガラナ伯爵の財力を注ぎ込んだ、純金製のゴーレム。デザインは重鎧姿の騎士。
ガラナ伯爵が連れている護衛ゴーレムも金色をしているが、それは外見だけ。こちらは金無垢である。
《ふむ、普段は置物とし、いざとなれば護衛にも使えるか。なかなか考えているな》
あくまでも高飛車な物言いで評価を下すリシャールであった。
続いては、エリアス王国からの贈り物である。
《ほう、面白い》
実物は倉庫に入れられているので、目録及びトポポ数個と、その調理品がサンプルとして並べられていた。
救荒作物としてのトポポは10トン。そして最近作られるようになったトポポ 粉(デンプン) 。トポポ侯爵の本領発揮である。
《変わっているな。……この白い粉は、小麦粉とは違うのだな》
皿に載せられたトポポ粉をつまみ、臭いを嗅いでみるリシャール。
《しかし、このような芋が、このようなつまみになるとはな》
連れてきた調理人に作らせたトポポチップスとフライドトポポを一口食べたリシャールは、手にしたワインを一気に飲み、満足そうに頷いた。
《農業国としての役割、大儀であった》
どこまでも上から目線である。
そしてクライン王国。
《ほう、『噴き出しポンプ』だと?》
元の名称は『押し上げポンプ』であるが、より印象的な名称に変えられていた。
壁を装った 魔導投影窓(マジックスクリーン) の一部が切り替わり、また外を映し出した。
護衛について来た者であろう、クライン王国の兵士が作業をしていた。
水路にポンプをセットし、取っ手を動かす。すると、吹き出し口から、5mほどの高さまで水が噴き上がったのである。
「おおっ!」
「魔法も使わずに!」
(……ジン君の作よね?)
その光景を見た者は一様に驚き、感心した。事情を知っているラインハルトを除き、女皇帝だけは、それが仁の製作物だと当たりを付けていたのであるが。
《魔導具ではないのに水を噴き出させることができる、か。小国にしてはなかなか考えているではないか。だが、我が国なら、水属性魔法で同じ事をもっと容易く実現するだろう》
魔法技術至上主義のセルロア王国らしい物言いである。
《次はショウロ皇国、か。……これは何かな?》
侍女が運んできたのは『木紙』。それを1枚手に取ったリシャール。
《ふむ? 紙、だな。だが、これは……》
執事に命じ、ペンとインクを持って来させたリシャールは、さらさらと試し書きをしてみるのだった。
《ほう? ……何でできているか分からぬが、なかなかの書き心地。インクの乗りもよいな。おまけに薄く、色も白い。……さすが大国、ショウロ皇国と言わせてもらおう》
腐っても鯛と言うべきか。リシャールには、この『木紙』の文化的価値が理解できたようである。
《そしてまだあるのか。これは……?》
連れてきていた料理人が作った味噌汁が饗された。もちろん毒見は済んでいる。
具はグラスボア(豚に似た獣)の肉とマルネギ(タマネギ)。つまり、シンプルな豚汁である。仁ならトポポも入れたくなるかもしれない。
《……ふむ、変わった味だが、悪くない。それどころか……美味い》
鰹節の出汁を利かせた豚汁は、リシャールの口にも合ったようだ。
《ワインには合わぬようだが、美味かったぞ。魔法技術では我が国を超えられぬとみて、このような奇手に出るとは面白かった》
失礼千万な物言いであるが、女皇帝は柳に風と聞き流していた。
仁は仁で、味噌仕立ての豚汁に合う酒はやはり日本酒だろうなあ、などとぼんやりと考えていたのであった。
《さて、最後は『崑崙君』からの物を見せてもらおうか》
仁の贈り物を最後に持って来たのは、単純に楽しみを最後にとっておいたのか、それとも他の国の贈り物と比較するに最も良いと考えたからなのか。
とにかく、リシャール国王は、身の丈ほどもある贈り物に被せられた布を、侍女に命じて剥ぎ取らせた。
「……おお!?」
「……見事!」
「素晴らしい造形!」
「……ジン兄……」
布の下から現れたのは、真っ白な大理石でできた裸婦像であった。
ポーズは、ミロのヴィーナスではなく、貝殻に乗って胸に手を当て、髪と手で局部を隠している、『ヴィーナスの誕生』と呼ばれるそれである。
美術的センスが無いことを自覚している仁は、記憶に頼って、この有名な絵画を元に像を作ったのだ。
これは、 第5列(クインタ) が聞き集めたリシャールの嗜好が、成熟した豊満な女性美であるらしいところから、腕のないミロのヴィーナスでなしにこちらに変更したのであった。
その出来は地球の物に比べたら素晴らしいとはいえないが、そもそもこうした造形美術は未発達なアルス世界。目にした者たちはその造形美に目を奪われたのである。
唯1人、エルザだけは、そのプロポーションがマルシアのものであることを察し、半眼で見つめていたが……。
(仁の名誉のために書き添えておくと、ヴィーナス向きのボディラインを思い描けるような相手がマルシアくらいだっただけなのだ。更にいうと、仁はステアリーナをモデルにしたかったらしい……)
《ほほう……! これはこれは、なかなか素晴らしい置物であるな……。そうか、『崑崙君』は、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』と各国で呼ばれているのだったな》
今のリシャールは、素晴らしい物をもらって喜ぶべきか、それとも自国にない才能と技術に歯がみするべきなのか迷い、複雑な表情であった。
《色を付けることなく、素材のみで表現するとは、なかなか大胆な技法だな。まずは、礼を言っておくとしよう》
その言葉には内心の葛藤と折り合いを付けるかのような響きが含まれていた。
《さて、これで贈り物のお披露目が終了した。今一度礼を言わせてもらう》
あくまでも尊大に、セルロア王国国王リシャールが言い放った。
そしてリシャールの映像が消え、代わって空が映し出される。そこにはもう飛行船の姿は無かった。
《さて、昼食会としよう。存分に食べていってくれたまえ》
気が付けば時刻は11時半を回っていた。
王の言葉が終わると同時に、侍女たちがワゴンに乗せた料理を運んできた。
いちいち列記はしないが、食糧危機にあるというのに、豪華すぎる献立であった。
仁もエルザも、いろいろ思うところはあったが、ここで何かいっても始まらない上、残すということはそれだけで食糧に対する冒涜になるので、運ばれてきた分だけは全て平らげたのである。
お代わりはもちろん頼まなかった。
* * *
昼食の後は、セルロア王国の習慣に従って食後の休憩時間になる。およそ1時間ほどあるらしい。
仁が、暇だな、と考えながら運ばれてきたフルーツジュースを飲んでいると、リシャール王の声が響き渡った。
《諸君、休憩時間の戯れ事に、試技をごらんに入れようと思う》
「試技?」
訝しむ仁。その声が聞こえたわけではないだろうが、続けてリシャールの声が、
《我が王国の誇るゴーレムの技をその目に焼き付けるが良い》
と、これまた尊大な言葉で説明をしてくれたのである。
そして明るくなる壁、いや、 魔導投影窓(マジックスクリーン) 。
そこには、5体の戦闘用ゴーレムが立ち並んでいたのである。
うち4体は、身長2メートルほど。鈍い銀灰色をしている。
1体は剣、1体は槍、1体は鎚、そして1体は珍しいことに鞭を持っていた。
5体目は、先程も見た、身長4メートルの大型ゴーレムであった。これは盾と剣を持っている。
《これから、それぞれが実力の一端を見せるから、楽しんでくれたまえ》