軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-30 開会/示威

2月22日の朝が訪れた。いよいよセルロア王国建国記念式典の開始である。

午前9時少し前、ダリの街中央に聳える『ギョーム離宮』内、大広間に設けられた式場には、各国からの客たちが全員集まっていた。

『ギョーム』というのは、先々代、つまり現国王の祖父の名前である。

クライン王国からは、第2王子アーサー、付き人リオネス・アシュフォード、ジェシカ・ノートン、グロリア・オールスタット、ボールトン・オールスタット、シンシア・カークマンの6名。

エゲレア王国からは、アンガス・ブルウ・パイロイド公爵とデーヴ・メイダ・ガラナ伯爵の2名。

エリアス王国からは、フィレンツィアーノ侯爵。 造船工(シップライト) マルシアは爵位がなく、出席はしていない。

フランツ王国からは、ルフォール・ド・オランジュ公爵。

そしてショウロ皇国からは、女皇帝ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ、ゲーレン・テオデリック・フォン・アイゼン侯爵、デガウズ・フルト・フォン・マニシュラス魔法技術相、ラインハルト・ランドル・フォン・アダマス男爵、フリッツ・ランドル・フォン・グロッシュ中佐、そしてマテウス・ガイスト・フォン・リアルガー大尉の6名が。

最後に、『崑崙君』ジン・ニドーと、その婚約者、エルザ・ランドル・フォン・ラズーラ女準男爵、そしてレーコ・ニドー従騎士である。

エドガーや 黒騎士(シュバルツリッター) は、残念ながら人数に数えてはもらえず、椅子は与えられないため、他国の護衛用ゴーレム同様、主の後ろに立っていた。

参加者はそれぞれ国ごとに分けられ、人数に合わせた豪華なテーブルに席を割り振られていた。わざわざ大きさの違うテーブルを用意させるところに、大国としての矜恃が窺える。

配置は、横3列、前後2列の3×2。前列は右から、フランツ王国、ショウロ皇国、エゲレア王国。後列は右から、崑崙君、クライン王国、エリアス王国となっていた。

そして大型日時計の影が9時を指した瞬間、ファンファーレが高らかに奏でられた。

それが終了すると、大広間の奥壁中程にある演壇が明るく照らされ、セルロア王国国王、リシャール・ヴァロア・ド・セルロアが姿を現したのである。

位置関係で言えば客は1階席、王は2階の桟敷、と言えばわかりやすいだろう。居並ぶ客を見下ろし、 睥睨(へいげい) できる位置取りである。

「皆の者」

リシャールの演説が始まった。

開口一番、無礼な口調である。仮にも国を代表する面々に向けて掛ける言葉ではない。まして、一国の皇帝陛下もいるのだ。

「わが偉大なる王国の建国記念式典に参集してくれたこと、嬉しく思う」

どこまでも上から目線の言葉が続く。

「わがセルロア王国は、かのディナール王国の正当なる後嗣である。ゆえにこのローレン大陸を背負って立たねばならない」

どんな理屈だ、と仁は思う。こっそり周囲を見てみると、ほとんどの面々は、この偉そうな演説を気にしていないかのような涼しい顔。

(あー……いつものことなのか)

仁にも覚えはあった。社会人だったとき、社長や役員が行う新年の挨拶である。

現場の認識と 乖離(かいり) したような突拍子もない社訓や社是や1年の目標やらをぶちあげ、自分の言葉に酔っている……そんな記憶。

そういったお偉いさんの演説は、右から左に聞き流すに限る……と、初年度にして悟っていた仁であったのだ。

「……ゆえに、この大陸の文化を主導するべく……」

『早く終わらないかな』と思いながら聞いている仁の耳には、最早内容は入ってこなかった。

そしておよそ30分が過ぎ、長い演説も終わりを告げる。

『まあ、あれだけの長い演説、台本も見ずにまくし立てたのだけは凄いかもな』とは仁の感想であった。

「……以上で開会の挨拶を終える」

割れるような拍手と歓声が巻き起こった。もちろん、式場のそこかしこに配備されたサクラ……もとい、警備兵たちである。

仁も、そして他の列席者も、お座なりに拍手をしておいた。

(……って、あれが開会の挨拶かよ……)

本番の演説はどうなるのか、本気でげんなりしてきた仁であった。

その時、大広間の天井と四方の壁全部が無くなったかのようにいきなり明るくなり、全員が一斉に顔を上げた。

驚いたことに、床を除く、四方の壁、そして天井は 魔導投影窓(マジックスクリーン) でもあったようだ。それが一斉に動作を開始したのである。

まるでいきなり屋外に放り出されたかのように感じられた。

「お、おお……!」

誰かが感嘆の声を漏らす。

魔導投影窓(マジックスクリーン) には、多数のゴーレムが登場していた。がっしりした体型の、戦闘型ゴーレムである。それが20体。

左右に分かれ、整列。そして、手にした槍を垂直に空へ向けて突き出した。

「おおっ!?」

驚きの声が上がる。

青空を背景に、大きな花火……いや、火属性魔法の炎が槍の穂先から上がったのだ。

それはおそらく火属性の中級魔法、『 炎玉(フレイムボール) 』。だが、その数と大きさは途轍もない。

(……そうか、『エルラドライト』を使ってブーストしているんだな?)

仁は想像する。そしてそれは正解であった。

とはいえ、火属性魔法を花火代わりに使いこなしている魔法技術は大したものである。

居並ぶ列席者たちは、改めてセルロア王国の文化程度に感心していた。

そして更に。

「あ、あれは!?」

大型のゴーレムが10体、登場した。身長はおよそ4メートル。

その巨体にも関わらず、軽々と動き、中央に列をなす。手にしているのは剣。

戦闘用ゴーレムが3列に並んでいるのを見るのはなかなか壮観であった。

デモンストレーションはそれだけでは終わらない。

巨大な飛行船……60メートル級のものが4隻、東西南北から近付いて来たのである。

「お、大きい……」

大きい=強い、ではないにせよ、大きいということはやはりそれだけで見る者に脅威を感じさせる。

仁を除いた列席者たちは、リシャールの意図通り、萎縮してしまっていた。

だが仁は違う。

(あれは水素で浮いているのか……。一応火気厳禁と言うことは知っているようだが……いずれ大事故を起こさなければいいが)

水素で浮いているからと言って、すぐに火事になるわけではないが、後で、王太子セザールに忠告しておこうと決めた仁であった。

そして更なる追い打ちが始まる。

「お、お? 霧が出てきた?」

ギョーム離宮周辺は広い水路で囲まれているが、そこから霧が発生し、あたりが霞み始めたのである。

「……『 霧発生(ミストフォグ) 』?」

エルザが小さな声で呟いた。

『 霧発生(ミストフォグ) 』は水属性魔法、中級の下で、水を粒子状にし、霧を人工的に発生させる魔法だ。目眩ましに使われる。

一瞬にして閉ざされる視界。見えるものは一面の乳白色だけ。とはいえ、画面の中のことなので、自分の周囲は別だ。

であるから、仁とエルザ、それに礼子とエドガーは、居並ぶ各国首脳たちがセルロア王国の実力に気圧されているのをまざまざと感じ取ることができた。

あの女皇帝陛下ですら、顔色が青ざめている。

(……確かに、この規模の魔法を一瞬で発動させる実力は看過できないと思うが……)

(所詮力業。技術的に見るべきものはない)

仁とエルザは顔を見合わせる。彼等にとっては虚仮威しにしか見えないのである。

2人が興味を持ったのは、これから何が始まるのか、それだけだ。

「おおおっ!」

誰かが叫んだ。

その霧のヴェールが薄れ、何かが姿を現したのである。巨大な影が1つ、2つ……計6つ。

「あ、あれはっ!」

一気に霧が消える。魔法で生み出した霧ならではの消え方であった。

そして霧が消え、姿を現したのは6隻の……この世界では『巨艦』。

全長60メートルの『木造魔導帆船』である。

因みに、この『木造魔導帆船』は仁の命名。地球で発達した帆船と違うのは、帆が1つしかないこと。

これはおそらく、まだ風を受けて進む技術が円熟していないからだろうと思われる。加えて、魔法による風を受けるものなので、1つあれば十分という考えにもなったのかも知れない、と仁は推測していた。

「なんと巨大な……」

「あれだけの物を作れるのか……」

整列したゴーレムと比べても、その大きさが分かろうというもの。列席者たちはその巨大さに圧倒されていた。

「ふむ、軍事的に考えたら使い途は多い、か」

ショウロ皇国のゲーレン侯爵も感心している。

が、仁は違った。

「……なんて危ない……」

竜骨が貧弱で、見るからに強度不足。

その構造の脆弱性を一目で見抜き、湖ならばともかく、波の荒い外洋に出たらたちまち分解してしまうだろうことを想像し、顔を 顰(しか) めていた。

《さて、諸君》

どこからか、セルロア王国国王、リシャールの声が響き渡った。

エリアス王国ポトロックで使われていた『 拡声の魔導具(ラウドスピーカー) 』のような魔導具を使っているようだ。

《我が国の実力の一端を見ていただけたかと思う。これからは、諸君らからの贈り物を順次拝見させてもらおうと思う。その内容は同じく 魔導投影窓(マジックスクリーン) にて全員に見てもらうこととしよう》

外の様子に代わって映し出されたのは、豪華な部屋であった。

いつの間に移動したのか、国王リシャールが奥に座り、執事と侍女、そして 自動人形(オートマタ) が並んでいる。

リシャールはいつも愛飲しているワインを、美しい侍女にグラスへと注がせ、それを掲げながら言った。

《では、まずフランツ王国の祝い品を見せてもらうことにする》

侍女が4人がかりで、一抱えほどもある大きな箱を抱えてきた。それを床の上に置く。

箱を上に持ち上げると、中身が明らかになった。

《ほう、これはなかなか》

それは黄金の壺で、宝石、 魔結晶(マギクリスタル) が散りばめられていた。

金額にしたら幾らになるか、想像も付かない。

《これは一財産であるな。フランツ王国の誠意、確かに受け取った》

その場にいないルフォール・ド・オランジュ公爵に向け、リシャールは褒詞を口にし、ワインをぐいとあおったのである。