軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-29 忙中閑あり/情報不足

グロリア達と別れ、自室に戻った仁たち。

老子とアンも 侍(はべ) っている。

室内は、『 忍(しのび) 部隊』により、盗聴等の魔導装置等がないことも確認済みであった。

風呂好きの仁は、まず入浴することにした。迎賓館1階にある浴室へ向かう仁。

王太子やグロリア親子といろいろあったため、他に入浴している者はもういなかった。

「空いていていいけどな」

他に客がいないので、護衛と介添えのため、礼子と共に浴室へ。

「割合広い風呂だな」

大理石の様な石で作られた浴槽は、10人くらいは十分は入れそうな広さがあった。

このように、セルロア王国ではお湯を張った浴槽に入浴する習慣が一般的なので、仁としてはその点では文句はない。

ただし。

「……ぬるい」

お湯の温度が低かったのである。体感にして摂氏38度くらいか。

熱い風呂が好きな仁としては、身体が温まらず、なかなか出ることができなかった。

「……熱くするか」

他に入浴客がいないので、仁は工学魔法『 加熱(ヒート) 』を使った。たちまちお湯の温度が上がっていく。

「あー、これでいいや」

のんびりと、入浴を1人楽しむ仁であった。

一方、女性用浴室に向かったエルザの方も他に誰もいないので、1人静かに入浴できたようである。

* * *

各個に配膳された夕食が済んだあと、仁はエルザに疑問をぶつけていた。

「なあエルザ、アルシェルと思われる子を診察してから、なんとなく態度がおかしいのは俺の気のせいか?」

「……ジン兄、わかる?」

「そりゃあ、それなりに付き合い長いし、何といっても大事なエルザのことだからな」

「……」

自分で言っておいて照れる仁と、言われて真っ赤になるエルザ。沈黙の時間が流れる。

「お父さま、エルザさん、お飲み物をどうぞ」

沈黙を破るように、礼子が冷えたジュースを2人の前に置いた。

「あ、ああ、ありがとう、礼子」

「ありがとう、レーコちゃん」

ジュースを一口飲んだ2人は気を取り直して会話を再開した。

「彼女はアルシェルじゃ、ない」

「えっ?」

エルザの口から、いきなり予想もしなかった言葉が紡がれ、さすがの仁も面食らった。

「どうしてそう結論したんだ?」

「……ん、幾つか理由はある、けど」

ゆっくりとエルザは説明を始めた。

「……もし、あの子がアルシェルだったとしたら、あるべきものがある、はず」

いきなりのエルザの言葉に、仁は一瞬考え込んだが、すぐにその意図を悟った。

「『 操縦針(アグッハ) 』か」

「そう。蓬莱島で彼女の事を聞いた時も、『 操縦針(アグッハ) 』の打ち込みミスで記憶が混濁、というような話をしたはず」

「ああ、そうだったな」

仁はその時のことを思い出し、頷いた。

「……で、その『 操縦針(アグッハ) 』が、彼女には無かった。考えられる理由は、2つ」

「そうだな。既に『 操縦針(アグッハ) 』を取り出した場合と」

「元々、打ち込まれていなかった、可能性」

仁は再度頷いた。

「でも、過激派には、元々人類を憎んでいたという理由で『 操縦針(アグッハ) 』を打ち込まなかった例も多いよな?」

「うん、それは知っている」

「じゃあ、なぜ?」

エルザは言葉を選ぶように、慎重な話し方で答える。

「それがもう1つの理由。彼女の身体……の中、の『流れ』は異常。人のものとは思われなかった」

「どういうことだ?」

エルザは首を振って、少し残念そうな顔をした。

「上手く説明できないし、証拠もないけど、体内の構成が人間とは違う気がする。もう少し精密に調べられたらよかったのだけれど」

王太子がいる前では、あれ以上は不自然になるかもと思った、とエルザは言った。

「人間でもなく、魔族でもない、か……」

「……彼女はいったい、何者?」

「わからないな。情報が無さ過ぎる。蓬莱島で調べられたらわかるかもしれないが……あるいは7006……」

72号に聞いてみたら、と続けようとした仁はあることに思い当たった。

「……『 人造人間(ホムンクルス) 』?」

人造人間(ホムンクルス) 。それは人工的に作り出された魔導生物である。仁が今口にしようとした、700672号もその1体であった。

「だが、一体誰が? 何のために?」

その疑問への答えは無い。そもそも 人造人間(ホムンクルス) を作ることができる者が、今のこの世界にいるのだろうか。

「それに、推測でしかないしな」

「……でも、その可能性は高い。『 診察(ディアグノーゼ) 』で診た違和感は、そう考えれば説明が付く」

「それも含めて、『 知識転写(トランスインフォ) 』で記憶をコピーして調べてみればすぐにわかるんだがな」

その方法なら、本当に記憶喪失なのか、それとも演技なのかもわかるだろう。が、さすがの仁といえども、王太子の前でその魔法を使うのは憚られたのだった。

「……うん、それは考えた。もし本当に記憶を失っているとして、記憶が脳に残っているなら、その方法で少しでも記憶を戻してあげることもできたかも、しれない」

「だな」

記憶と人格とは違うので、それによって元に戻るかどうかはわからないが、記憶喪失治療の一選択肢であることは間違いないだろう。

仁たちは尚も話し合ったが、明日は記念式典である。アルシェルらしき少女にもう一度会えるとしても、式典終了後になるだろうから、それまで早計な結論は出さないことにした。

そんな仁たちの会話が一区切り付くのを待っていたアンが口を開いた。

「ごしゅじんさま、エルザさま、一言申し上げてよろしいでしょうか?」

「ん? もちろんだ。気が付いたことがあったら言ってくれ」

「はい、それでは。……もしもその少女がアルシェルであった場合、記憶を取り戻した途端に攻撃を仕掛けてくる可能性もあったことは考慮されていましたか?」

「うっ……」

正直考えていなかった仁である。

というのも、『 操縦針(アグッハ) 』の影響が無くなった魔族は皆、好戦的ではなくなっていたからであるが、今回の場合は例外となる可能性もあったわけで、それをアンは指摘したのである。

礼子とエドガーが付いていたとはいえ、安全に対する認識が甘かったことは反省点であった。

「わかった。アン、忠告ありがとう。気を付けるよ」

「いえ、むしろご忠告が遅れて申し訳ございませんでした」

一礼してアンは下がったのである。

仁は気を取り直して、もう1つ気になることを考えることにした。

グロリアが手に入れたイリドスミンの剣である。

「一体誰が、何のために作ったんだか……」

拵えはそれほど古いものではなかった。むしろ、今現在使われているものとよく似ていた。

であるから、 古代遺物(アーティファクト) の類ではなさそうである。

「……溶けないことが重要だった?」

エルザがぽつりと漏らした言葉に仁は閃くものがあった。

「そうか! 超巨大蟻(ギガアント) みたいな、強力な酸を持つ魔物に対抗するためなら頷ける。アダマンタイトでもいいんだが、分布が限られているしな」

アダマンタイトの主要な産地は、人類の住むローレン大陸では、東部に集中していたのである。

蓬莱島はもちろんだが、旧レナード王国には大きな鉱山が幾つもあった。それゆえ、『もどき』を封じた容器にもアダマンタイトが惜しげもなく使われていたのである。

逆に、蓬莱島ではイリドスミンはほとんど採れなかった。

「ここセルロア王国……というより、過去にあった国、ディナール王国で作られたとすれば……ああ、拵えのデザインが今風なことが説明できないか」

「あとから変更した、という可能性は?」

エルザが思いついたことを口にする。

「その可能性もなきにしもあらず、だけどな。でも、俺が見た限りでは、剣そのものと同じ時期に作られたものじゃないかと思うんだが」

そんな時、老子が口を挟んできた。

「 御主人様(マイロード) 、お話中のところ申し訳ございませんが、もう11時になります。明日は式典がありますので、そろそろお休みになった方がよろしいかと」

「……ああ、もうそんな時間か。わかった。寝ることにしよう」

仁は頷いて、会話を打ち切ることにした。元々結論を出せるような話でもない。

「これまでのお話に関する情報は、私の方でも集めておきましょう」

老子が請け合う。それを聞いて仁も少し気が楽になった。

「それじゃあエルザ、おやすみ」

「ジン兄、おやすみ、なさい」

寝室は別々である。仁とエルザは礼子とエドガーを連れ、各寝室に入った。

『 人造人間(ホムンクルス) とイリドスミンの剣、関係があるかもしれませんね』

蓬莱島の魔導頭脳、老君は不眠不休で作業できる。

その夜も、自らの移動用端末『老子』と、超小型ゴーレムによる『 忍(しのび) 部隊』、そして 第5列(クインタ) を駆使し、情報収集に余念のない老君であった。

そして、セルロア王国の建国記念式典は翌日に迫っていた。

空は晴れ、一際明るい星と並んで月は地上を照らしていたのである。