軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-28 診察/未知の金属?

非公式な世界会議は、午後4時前に終了した。

入浴の仕度ができたと知らせがあったからである。

「……ああ、有意義な時間だったな」

「まったくですね。こういう機会が何度もあればいいのに」

「面と向かって話をするのがこれほど面白いとは。やはり声だけよりも表情を見て話ができるというのはいい」

銘々の感想を呟きながら散って行く各国首脳・重鎮たち。

そんな中、仁を呼び止めようとした者がいた。

「……ジ」

ジン殿、と続けようとしたのだが、一瞬早く、お目当ての仁は別の人物に声を掛けてしまっていた。

「……王太子殿下、失礼かと思いますが、お話をさせていただけませんでしょうか」

「ふむ、『崑崙君』がこの私に何用かな?」

「はい。他でもない、殿下が保護された少女のことについてです」

「ほう? ……なるほど、フリッツ殿あたりから聞いたのか」

仁の横にいるエルザを見て、納得したように頷く王太子、セザール。

「いいだろう。フリッツ殿から聞いている。エルザ媛は優秀な治癒師だということをな」

そう言いながら、セザールは身を翻し、手招きをした。

王太子について、迎賓館を出て、隣に建つ離宮へ向かう仁とエルザ。付き従うのは礼子とエドガーである。

顔パスで離宮の門をくぐった一行は、2階奥にある王太子の居室へと招き入れられた。

そこには年配の侍女がおり、セザールは彼女に何ごとか指示を出した。

侍女は奥にある部屋へと向かい、1人の少女を伴って出てきたのである。

「この子が、私が保護した少女だ。記憶を無くしているらしく、名前さえ思い出せないでいる」

エルザが一歩進み出た。

「殿下、診察させていただいても?」

「うむ、頼む」

そこでエルザは少女にゆっくりと近寄った。身体を硬く強ばらせ、怯えの色を顔に浮かべる少女。

「……大丈夫。心配しないで」

エルザは優しく囁くように言い、しゃがんで目線を合わせると、そっと少女の頭を撫でた。

以前、仁がモフト村でエルザに教えたこと。『同じ目線で遊べばいいんだ』。

それは、目線の高さを合わせ、気持ちも子供側に立って、ということである。

見下ろされていると圧迫感を覚えるものである。

元々子供好きだったエルザは、仁に言われたことをちゃんと覚えていた。

「……『 診察(ディアグノーゼ) 』」

そうやって安心させた後に診察を行う。

「……?……『 分析(アナライズ) 』」

少し気になることがあったのか、診察の魔法だけでなく、分析まで行うエルザ。

「『 全快(フェリーゲネーゼン) 』」

外科系の最上級治癒魔法を掛ける。が、少女の表情は変わらない。

「『 完治(ゲネーズング) 』」

更には、内科系の最上級治癒魔法も併用し、改めて診察を行う。

そうやって、しばらくの間色々調べ、考えていたが、やがて落胆した顔で振り向いた。

「……申し訳ございません。私では、力不足でした」

だが、王太子はそんなエルザに優しく労いの言葉を掛けた。

「いや、エルザ媛、ご苦労だった。素人である私が見ていても、精一杯力を尽くしてくれたことが見て取れる。媛にできないなら、誰にもできないのだろう」

「……」

少女もまた項垂れていた。

王太子の心遣いと、エルザの尽力が分かるだけに、それに応えられなかった自分が不甲斐ないようだ。

そんな心の機微を察したセザールは、少女の下に自ら歩いて行き、優しく肩を叩いた。

「お前が悪いんじゃない。……いつか、記憶は戻るさ。そう信じていよう。な?」

「……はい、ありがとうございます、殿下」

仁とエルザはそれで王太子の元を辞した。

「……残念だったな、エルザ」

「……うん」

心なしか元気のないエルザを慰める仁。

「脳神経外科学みたいな分野は、俺のいた世界でもまだまだこれからだったんだから、気を落とすなよ」

仁がそう言っても、エルザは俯いたままだった。

迎賓館に戻った仁たちを待ち構えていた者があった。先程声を掛けそびれていた2人連れ。

「ジン殿、エルザ殿、お久しぶり」

「一別以来、お変わりもなく」

グロリアとボールトンのオールスタット父娘であった。

「グロリアさん、ボールトンさん、ご無沙汰してます」

「そちらもお元気そうで」

互いに簡単な挨拶を改めて交わす。

そして、より近くにあった彼等の部屋にお邪魔することとなった。礼子とエドガーも一緒である。

「先日は、娘の怪我をきれいに治して下さったそうで、父親として一言お礼を、と」

まずボールトンが頭を下げた。やはり、嫁入り前の娘に付いた致命的な怪我を跡形もなく治してもらえたことは嬉しいのであろう。

「ジン殿には、溶かされた剣を直していただいたお礼をまだしていなかったので、この場を借りてお礼申し上げる」

グロリアも頭を下げたのである。

「いや、あの剣が役に立ったようで良かった」

「本当に。ところでジン殿、この剣をちょっと見てもらえないだろうか?」

そう言いながら、グロリアは一振りのショートソードを仁に向けて差し出した。仁はそれを受け取り、

「ん? 重いな」

と、第一印象を口にした。持っただけでそれとわかるほど、非常に重いのだ。

「だろう? ここダリで買い求めた剣なのだが、素材がわからない。ジン殿にはわかるだろうか?」

仁は抜いていいか、とグロリアに尋ねる。

「もちろんだ。確認をお願いする」

了承を得た仁は、そっとショートソードを抜いてみた。

「これは……」

「未知の金属だろう? ……父の『顕微の魔眼』でも見極められなかったのだ」

白銀色の素材。一見すると銀のようにも見えるが、遙かに硬度があるようで、剣として十分に役に立つと思われた。

「……儀礼用かとも思ったのだが、拵えが実用的だしな。1万8000トールと言っていたのを1万2000までまけさせたのだ」

さすが剣フェチのグロリアである、と頭の片隅で考えながら、仁は材質の推測をしていた。そして。

「『 分析(アナライズ) 』」

エルザも仁の横にいて興味津々である。

「……やっぱりだ。これは……『イリドスミン』だな」

イリドスミン、とは、白金族の金属元素、イリジウムとオスミウムの合金である。非常に硬く、重い。融点も高いため、普通の炉では溶かすこともできない。

オスミウム50パーセントくらい含むものはオスミリジウムと呼ばれる。

白金——プラチナに似ているが、遙かに硬く、冷間加工は不可能と言っていい。

白金と一緒に、自然に産することがあるが、こちらは硬いので、過去、廃棄されたこともある。

「ジン殿、わかるのか?」

「うん。これは白金の仲間と言えばいいか。非常に重く、硬い。おそらく『 超巨大蟻(ギガアント) 』のような魔物の酸にも溶けないんじゃないかな」

魔物の酸と聞いて、グロリアの顔が僅かに歪んだ。やはり若干のトラウマになっているようだ。無理もない。魔物である『もどき』の体液に顔や肩を焼かれたのだから。

一方、ボールトンはといえば、素直に感心していた。

「ふーむ、そんな金属があったのですな。さすが 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ですなあ」

魔法で調べようとしても、知らない情報はわからないままである。

仁の場合は、原子が持つ電子の数などを参考にすれば、元素周期表を知っているので、見たことのない原子でも特定できるというだけのことだ。

とはいえ、ランタノイドやアクチノイドはあやふやであった。辛うじてウランが92と、ネオジム(強力磁石の材料)が60と覚えている程度である。

一方で、それ以外なら原子番号86のラドンまでは暗記していた。水兵リーベ僕の船、である。

それはさておき。

イリドスミンといっても、一部 魔力同位元素(マギアイソトープ) と置き換わっているようで、地球にある同等の素材よりも更に強度が高いようである。

「でも重いから、実用性は低いんじゃないかな?」

比重が約22もあり、アダマンタイトよりも重い。鉄の比重が7.86だから、3倍近い重さで、ショートソードなのに片手で振り回すことができないというのは問題だ。

「それでも珍しい剣が手に入ったから満足だ」

グロリアはコレクターとしての満足感を手に入れたようであった。