作品タイトル不明
23-27 融和/傲慢
首脳たちの非公式な会議はまだ続いていた。
「……ここで1つ、私からお話ししたいことがあるの」
居住まいを正し、ショウロ皇国女皇帝、ゲルハルトが口を開いた。
「リタ」
「はっ、はい!」
それまで、各国の重鎮に囲まれて小さくなっていたリタが顔を上げた。
「この子はリタ。……フリッツ中佐、説明をお願い」
「はっ。……自分はエゲレア王国からこちらへ来たのですが、テルルスで足止めされた際、偶然に彼女を見つけまして……」
経緯を簡単に説明したあと、
「問題の第1点は、『期間限定雇用』のはずが、『隷属の首輪』によって、奴隷同然、いや、奴隷として扱われていたことであります」
場がざわめく。小群国に現代地球でいうような『国際法』は存在しないが、それでも不文律というものがある。
奴隷の売買は、かの魔導大戦の前に消滅した……はずであった。
更にフリッツの言葉は続く。
「第2点は、こうした人身売買ともいうべき行為を認めている地方領主がいるということで……」
「それらに関しては面目ないことこの上なく思っています」
「殿下!」
声の主はと見れば、セルロア王国の王太子、セザール・ヴァロアであった。
一同は口を噤み、少し青ざめる。
勢いで話が弾んでいたが、ここはセルロア王国。その王太子に聞かれたということは……。
「ああ、陛下、セザール殿下は既にご存知です」
「え? 聞いていないわよ?」
「それに関しましては……」
説明を省いたというより、本人がいない場所で王太子の話をすることが憚られた、とフリッツは弁明した。
当のセザール王太子は柔らかい笑みを浮かべ、一同を安心させるように告げる。
「先日、既にフリッツ殿やグロリア殿とお会いし、リタの件は手を打つ所存です」
皆、ほっとした息を吐いた。
「そして、このリタのことはおそらく 数多(あまた) 起きているうちの1つに過ぎないでしょう。それらを全て解決しない限り、国民の平穏はないのです」
「ほう、ご立派なお考えですね」
王太子の 為人(ひととなり) の片鱗を知った各国首脳たちはほっと溜め息をついた。
そして、セザール王太子を交えての会議へとなっていく。
当初は若干の遠慮があったが、当の本人が遠慮なしに自国の悪い点を述べていくものだから、非公式な会議であるという意識も手伝って、次第に内容はヒートアップしていった。
「1つには、食糧の自給率が低いことが挙げられると思うのです」
と、アーサー王子。
「それは確かに言えるわ。今回の問題を別にしても、ね」
女皇帝が頷く。
「それには、『流通』を考慮するといいのではないでしょうか?」
と、フィレンツィアーノ侯爵。
「なるほど、物資の平均化、といいますか、偏在を減らすということですな」
これはセザール王太子だ。
「そのためには輸送手段を発展させる必要がありますね」
ラインハルトが提案し、
「そ、それでしたら、河川を使い、物資を運ぶために浅底船を開発中です!」
マルシアが発言する。
「作物の選定も大事だと思いますわ」
フィレンツィアーノ侯爵が再度発言する。
「ショウロ皇国にはイトポという芋があります。まだあまり普及してはいませんが、これも今後に期待できるのではと思います」
これはラインハルト。愛妻ベルチェお得意の『アレ』という名称の『大学芋』好きならでは。
「そういうものは『救荒作物』と言えますね。クライン王国では『そば』というものも作りはじめているんですよ」
アーサー王子の付き人、リオネスの話には、皆、耳を傾けた。
有意義なひとときであった。
「皆様、ここにいらっしゃいましたか。昼食のお時間です」
夢中になって話をしていたら、あっという間に2時間が過ぎており、正午となっていた。
集まった面々は名残惜しそうに席を立ち、大食堂へと向かった。
仁は心中密かに、これならば、今後『世界会議』を開くということはこの世界にとって有益だろうと考えていた。
そして、そのために自分は何をすべきかということも。
* * *
昼食というワンクッションを挟んでも、流れは変わらなかった。
正式な会議ではないので、相変わらず場所は娯楽室。主催国であるセルロア王国がこの集まりをどう捉えているか甚だ疑問であるが、列席者はその内容に夢中である。
午後の話題は『インフラ』であった。
もちろん、『インフラ』という言葉は仁が言い出したことである。
この世界でのインフラとは、産業や生活の基盤となる施設のことであり、具体的には道路と水路、となる。
「輸送を高速化すると共に、大量輸送を可能にする方法を模索しなければなりません」
と、女皇帝がまず提案を行う。
「そのことですが、今回『ゴリアス』と共に行軍していて気付きました。いや、正確にはクライン王国の女性騎士、シンシア殿が考えついたのですが、巨大な幅広の車輪を使えば、より平坦で平滑な道路ができるのではないでしょうか」
と、フリッツからの発言。本来なら秘匿すべきアイデアかもしれないが、元々シンシアからの提案であるため、問題にはならない上、
「ああ、『ロードローラー』ですね」
と、仁が事も無げに発言したからである。
「ジン殿はそういった道具をご存知か?」
アーサー王子の付き人、リオネス・アシュフォードが感心した顔で確信を持って尋ねてきた。
「ええ。ロードローラーは、巨大な鉄の車輪で、幅が広くなっています。それを転がすことで、地面を平坦に均すことができる道具ですよ」
「ほほう、構造そのものは簡単ですので、すぐに作れますな」
グロリアの父、ボールトンが頷きながら発言した。
「道が平坦になれば、馬車ももっと速度を上げられるということですな。結果、物の流れが順調になる」
と、ブルウ公爵。仁がアーネスト王子に贈ったゴーレム馬と馬車を知っているだけに、道路整備の恩恵に真っ先に気が付いたようだ。
同時に、水路を使った船での物流も話題になる。
「物資を入れる箱を規格化することで、国同士での受け渡しがスムーズになるはずですよ」
女皇帝が以前考えていた案を口にした。
「なるほど、確かに」
「似たようなものは崑崙島でも使っていますね。我々は『コンテナ』、と呼んでいます」
仁の発言に、列席者は頷く。
「なるほど、『コンテナ』か。用語は統一した方がいろいろと便利だろうから、我々もその呼び方をしたいと思うが」
「それでいきましょう」
「積み卸しには『ゴリアス』のような巨大ゴーレムがあると便利ですな」
「それはその通りでしょう。ですが、なかなか手に入るものでもない……」
「いえ、機敏な動作を必要としないのなら、やりようはいくらでもあります」
と、仁が助け船を出す。
「ほう、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』たるジン殿のお言葉は重みがありますな」
「こうして、各国の人間が集まっているときにするには絶好の話題ですな」
仁が適度な間隔で合いの手としての助言や説明を加えるので、話はとんとん拍子に進んでいく。
軽い調子で話をしているが、皆、これが世界を変えるような内容だと気付いているのかどうか。
* * *
「王よ、あ奴等を放っておいてよろしいので?」
各国代表の中で、唯一話に参加していない、フランツ王国の代表、『南侯爵』ルフォール・ド・オランジュが、そのずんぐりした体躯を揺らしながら、セルロア国王リシャールに尋ねた。
「ふふ、良いではないか。話の内容も他愛もないものばかりだ。こちらとしては実害が無い限り放っておき、その成果だけをいただければそれでよい」
「なるほど、恐れ入りましてございます」
自慢げに話してはいるが、仁が作り上げた『 忍(しのび) 部隊』はとっくの昔に盗聴装置の存在を検知していた。
が、『世界会議』の内容が平和的なものであるため、今は何もしないことにしていたのである。
つまり、期せずして『世界会議』は、文字通り全ての国の代表が参加したことになったわけだ。
残念ながら発言権がない国が2国……いや、辛うじてセルロア王国はセザール王太子が参加していたのだから、発言したくてもできないのはフランツ王国のみといえようか。本人は気付いていないが……。