軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-26 迎賓館/世界会議

ダリには、こうした式典時のために用意された迎賓館がある。

各国の列席者は皆、そこに宿泊することになっていた。

国ごとに、棟もしくはフロアで分けられているが、交流を妨げるようなことはされてないので、内部では自由に動き回り歓談することができていた。

「……そう、そんなことが」

「はい。これはもう、自分だけで片を付けていい問題ではないと思いまして、リタ本人の了承も得、従者としてここまで連れて来てしまいました」

「それでいいわ。で、これが証文、そしてその胸元の入れ墨が元の所有者、ね」

「……はい」

ショウロ皇国女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロと、国外駐留軍中佐、フリッツ・ランドル・フォン・グロッシュ。そしてセルロア王国東部出身のリタ。

普通なら有り得ない3者面談が行われていたのである。

場所は、明るい窓際に設置された談話スペース。

とはいえ、当然のようにリタは顔も上げられないほどにガチガチに緊張している。

そこへ、エドガーを連れ、エルザがやって来た。仁は別行動中らしく一緒ではなかった。

実のところ仁は、置いてきてしまったハンナへのお土産をどうしようかと思案していたのである。それで付近にいたセルロア王国の侍女や使用人に聞いて回っているのだ。

「陛下、失礼します。……兄様、部屋に来いと言ってたけど」

「エルザもお掛けなさいな。今、フリッツから簡単な報告を聞いていたの」

女皇帝はエルザに掛けるように言った。

「はい、失礼します」

エルザは腰を掛け、兄の隣に座っている少女に目を留めた。

「兄様、この人は?」

老君からの報告で見当は付いていたが、確認のために尋ねてみる。

「ああ。リタと言って、……俺が『保護』した」

「ふうん」

容姿についての報告は聞いていなかったので、エルザはリタを眺めてみた。あまりじろじろ見ると、更に萎縮してしまいそうなので、ちらちらと目をやりながらの観察。

(……ちょっと私に似てる……かな?)

なんとなく、シンパシーに似たものを感じるエルザ。

(もしかして、兄様、リタを保護した理由って……)

勘のいいエルザである。

「……おい、エルザ、聞いてるか?」

と、フリッツからの声で我に返るエルザ。

「ん。何、兄様?」

「やっぱり聞いてなかったか。……あのな、彼女の胸元の入れ墨を消せるか、って聞いたんだよ」

「……大丈夫。簡単に消せる」

既に10名の少女を治療しているエルザは即答した。

「お、おお、そうか。だったら後で頼む」

「……後で? 今じゃなく?」

その疑問に答えたのは女皇帝。

「そうなのよ。リタには悪いけどね、セルロア王国の暗部を他の国にも知らせるための生き証人になってもらいたいの。うまくいけば、これからリタのように売り買いされる子を無くせると思って」

リタもこくん、と頷いた。自分のような境遇に陥る子が減るなら、と承知したようだ。

「……わかった。……リタ、偉い」

一(いち) 村娘にとって、なかなか重い決心だったろうに、と、エルザはリタを優しい目で見つめたのである。

「おや、アーサー殿」

そこに、クライン王国代表の第2王子アーサーが通りかかり、女皇帝が声をかけた。リオネス・アシュフォードも一緒である。

「これは、皇帝陛下。相変わらずお若くていらっしゃる」

「まあ、ありがとう。どうです、少しお話しして行かれませんか?」

女皇帝が水を向けると、アーサー王子は微笑みながら頷いた。

「いいですね。では、失礼して」

エルザのとなりに腰掛けるアーサー王子。

「エルザ媛、その節は父がお世話になりまして。ジン殿とご一緒ではなかったのですか?」

「殿下、ご無沙汰しております。ジンは今、別行動で……」

そう説明しているところに仁がやって来た。

「ああ、ちょうどいいわ。ジン君、こっちへ来ない? みんなで集まってお話をしているのよ」

天真爛漫、天衣無縫、等という言葉が似合う、ショウロ皇国女皇帝が中心になり、錚々たる顔ぶれが集まっているのを仁は見て取った。

「そうなると、ちょっと狭いわね。……皆さん、あちらへ移動しませんこと?」

女皇帝の言う『あちら』とは、談話スペースの横にある娯楽室である。

娯楽室には幾つかのゲームが置いてあるが、メインはセルロア王国で流行りのゲーム、『ロレット』である。

部屋中央に設置されており、ゲームテーブルの周囲には20名ほどが座れる。

『ロレット』はルーレットによく似たゲームである。というか、ルーレットのより原始的な形と思えばいい。

赤/黒、偶数/奇数などは無く、単に出目を予想し、それに賭けるだけであるが、マス目が12しか無いので、いわゆる『1目賭け』で十分賭けが成り立つのである。

閑話休題。

ちょうど手頃な大きさのテーブルであり、堅苦しい話ではないことを強調する意味もあって、談話スペースから移動してきた一同。

ラインハルトとマテウス、グロリアとその父ボールトン。更にはフィレンツィアーノ侯爵とマルシアに、ブルウ公爵まで加わり、壮観である。

知らない者が見たら、いつ世界会議が始まったのだろう、と思うような光景だ。

「最初に、食糧危機がどうなったか、情報交換しようではありませんか」

この場で一番立場的に上であると思われる、ショウロ皇国女皇帝が場を取りまとめる。

「そうですね。我がクライン王国は、ぎりぎりですが乗り切れそうです。これには、ショウロ皇国皇帝陛下、そしてエリアス王国フィレンツィアーノ侯爵閣下には感謝してもしきれません」

第2王子アーサーは深く頭を下げた。

「いえ、困ったときはお互い様ですわ」

「私どもも、ジン殿にトポポが安心して食べられることを教えていただいたおかげと思っています」

「それでは、この場を借りてジン殿にも感謝の意を……」

「いえ、俺……私は、自分が食べたかったということもあって……」

しばし、そうした歓談が続いた後、女皇帝は質問先を変える。

「エゲレア王国はいかがでしたか?」

それに答えたのは王の従兄であるブルウ公爵。

「北部地方が危なかったのですが、南部からの食糧輸送により、国内での危機は回避されています」

「それは重畳ですね」

そして今度は、食糧関係の情報交換が続いた。

やがて話題は、飢饉の話から食糧自給の話へと移っていった。

「保存さえ問題ないなら、何とかしてもっともっと生産を増やしたいとは思っているのですよ」

土地としては問題ない。どこの国も、人口不足なのだから。

「やはりこれからはゴーレムによる農業も考えていくときでしょうね」

力仕事、単純作業、害獣駆除など、人よりもゴーレムに向いている作業は多い。

「ただ、まだまだゴーレム1体あたりの製造費用を考えますと……」

「まったくですな」

その時、列席者の視線は、一斉に仁の方を向いた。

「……俺、いや私でも、手間を減らすことはできても、素材のコストを下げることは難しいですよ」

これは事実である。今のところ、まだ自由に物質を錬成することに成功してはいない。

「確かに、そうでしょうね」

金属材料だけでなく、筋肉の素材や 魔結晶(マギクリスタル) などは、どうしても高価である。仮に手間賃を0にしたとしても、各家庭に1体、というわけにはいかないのである。

「村などの共同体で1体ないし2体を所持し、持ち回りで使う、という方法はどうでしょう」

仁の提案。

「おお、それなら大きな村なら可能かもしれん」

更に提案。

「あとは、国が補助金を出すとか」

「まあ、それはいいですね」

仁としてはうろ覚えである農協の役割を思い出しつつ提案しているのだが、まだまだ縦割り社会であるこの世界において、その考えは斬新だったようで、各国指導者たちは真剣に考え始めたのである。