作品タイトル不明
23-25 真価/報告
「うぬぬ、あの無能は何をやっておるのだ!」
第一外務省長官ボジョリーのあたふたする様は、遙か後方にいる国王リシャールの知るところとなっていた。
というのも、エリアス王国であの『ゴーレム艇競技』の時に使用された 魔導投影窓(マジックスクリーン) と同じものが各所に配置されていたからである。
防犯カメラ、監視カメラと同じ用途である。そこに気が付いたセルロア王国は、やはりまだまだ侮れない国であるといえよう。
その 魔導投影窓(マジックスクリーン) で、第一外務省長官ボジョリーの無様な姿を見たものだからリシャールは憤慨していたのである。
「式典が終わり次第、更迭だな……」
いつも愛飲しているワインを飲みながら、国王リシャールは独りごちていた。
* * *
「ジン・ニドー卿、エルザ媛、久しぶりね」
「はい、ご無沙汰しております、陛下」
お揃いのデザインで仕立てられた2人の服を見て、女皇帝の顔が綻んだ。
「2人の服、変わっているけど素敵ね。それは……?」
「はい、『崑崙島』の正装です」
この時のために作った服である。
「まあ、そうなの。とても機能的ね」
ゆったりとした背広風の礼服は、動きやすく、機能的に見えたのである。
「あ、あの、陛下、ジン・ニドー卿、ここでの長い立ち話は……」
立ち話をし始めた彼等をどう遇せばよいか分からなくなったボジョリーが、少しおろおろしながら口を挟んだ。
「ああ、申し訳ない。ですが、あとちょっと。そうすれば……」
「そうすれば?」
女皇帝が少し何かを期待したような顔になった。
「……ああ、来ました」
仁はダリの西を流れる大河、アスール川を指差した。
「おお!」
「あ、あれは……?」
全長10メートル、銀色に輝く船が姿を現したのである。
「俺が作った船、『シャーク』です」
「シャーク……」
単胴船であるが、そのデザインは現代地球のクルーザーに近い。他の船と一線を画している。
「き、金属製なの?」
銀色に輝く船体を見、さすがの女皇帝も驚いて、声が若干上ずっていた。
「いえ、塗装してあるだけです。基本木造船ですよ」
「……やっぱり、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』ねえ……」
ゆっくりと桟橋に近付いてくるシャーク。仁は礼子を伴い、桟橋へ近付いた。
野次馬……といっても、一般人ではなく、式典に参加する貴族が大半である……が割れて仁を通した。
シャークが桟橋に接舷すると同時に中から出てきたのは老子である。アンも続いて出てきた。
老子はもやい綱を手にし、少々の距離など無いかのように、一跳びで陸に上がった。そして手慣れた手付きで船をしっかりと固定。そして仁に向かい、丁寧なお辞儀をした。
「 御主人様(マイロード) 、アンと共に、ただいま到着致しました」
「ご苦労。時間通りだな」
「ジ、ジン君、そちらは?」
少し遅れてやって来た女皇帝が、老子を驚いた顔で見つめていた。
「彼は『老子』。そしてこちらは『アン』。俺の 自動人形(オートマタ) ですよ」
周囲の見物人からざわめきの声が上がった。老子もアンも、人間にしか見えなかったからである。
「老子と申します。陛下、以後お見知りおきを」
「アンと申します。陛下、以後よろしくお願い致します」
「よろしくね。……はあ、やっぱりジン君ねえ」
驚きの連続のためか、女皇帝はつい、いつもの口調になってしまっていた。
一方、背後に控えるラインハルトは、仁の実力を知っているため、慌てもせずに眺めている。
そこに、『ゴリアス』を率いてきたフリッツ・ランドルもやって来た。
グロリアとシンシアはこの時点でクライン王国の者として別行動をしている。
因みにリタは雑用をする従者として届け出をしてあり、居室に置いてきていた。
「陛下、ランドル中佐、ただいま到着致しました!」
「ああ、ご苦労様。報告は後で聞くわ。式典は明日だし、ちょうどそこにエルザも来ているから、話をしてもいいわよ?」
「はっ!」
敬礼をしたフリッツは、仁の隣にいたエルザに向き直る。
「エルザ、ひさしぶりだな。会うたびにますますきれいになるな、お前は」
エルザはにこやかに挨拶を返す。
「兄様も元気そうで何より」
「はは、ありがとう。……ジン殿、お久しゅう。妹のお守り、ご苦労様です」
「兄様、子供扱い、しないで」
「俺から見たらまだまだお前は子供だよ。……ジン殿、妹をこれからもよろしく」
2人が同じデザインの服を着ている意味を、フリッツも悟ったようだ。
「はい、お任せください」
その言葉を聞いたエルザの頬が朱に染まった。
そしてフリッツは再度エルザに向き直る。
「すまないが、あとで俺の部屋へ来てもらえないか? 頼みたいことがあるんだ」
「……あ、はい、兄様」
話が一段落したことを見て取り、女皇帝がその場を仕切るように言う。
「さあ、そろそろ部屋へ引き上げましょう。そこのボジョリー殿が困った顔をしているわよ」
* * *
「うぬぬぬぬ……! な、なんなのだ、あやつは!」
セルロア王リシャールは、手にしたワイングラスを床に叩き付けて叫んだ。
その勢いに、お付きの侍女が青ざめた。
飛行船。 自動人形(オートマタ) 。船。そのどれもが、リシャールが見たことのないレベルであった。
技術立国であるセルロア王国の国王であるから、審美眼『は』優れている。
『崑崙君』ジン・ニドーがどれほどの技術を持っているか、それが自国に比べ、どれほど先を行っているか、分かってしまったのである。
「くう……! いや、まだ負けたわけではない。明日の式典で目にもの見せてくれる!」
悔しそうに呟くと、新しいグラスにワインを注がせ、一気に飲み干したのである。
そこへ、ノックの音が響いた。
「ん? 誰だ?」
「父上、私です」
「おお、セザールか。入れ」
「はっ、父上」
王太子セザールは昨日のうちにダリへやって来ていたのだが、リシャールは飛行船に乗っていたため、会う機会を失い、今日になったのである。
そのセザールは、朝からワインを飲んでいる父を見て渋い顔をした。
「父上、朝から飲んでらっしゃるのですか?」
だがリシャールはまったく取り合おうとしない。
「ふん、明日から記念式典だ。それにこのワインは、飲めば頭が冴える。そこらにある酒とは違うのだ」
「父上、違うのは分かります。ですが、酒は酒。飲み過ぎてお身体にいいはずがないではありませんか!」
そんな忠告も馬の耳に念仏。リシャールは無視していた。
「それよりも、お前は先日まで東部地方を視察してきたのだろう?」
「はい、そうです。その結果……」
だがリシャールは手を振ってそれを押し止めた。
「ああ、よい。式典が終わってから聞くとしよう。報告書にまとめておくように。下がってよいぞ」
「……はい」
下がってよい、という言葉は、この場合には『出ていけ』という意味である。
セザールは項垂れて部屋を出ていった。
「……ふん、ようやく考えに没頭できる」
リシャールの頭の中は、明日の記念式典のことでいっぱいだったのだ。
それも、いかにして自国の威を列席者に示すか。また、いかにして『崑崙君』ジン・ニドーの鼻を明かすか。
彼の頭の中はその2つでいっぱいであった。
その一方。
「父上……お痩せになった」
セザールが父王と会うのは昨年の秋以来になるのだが、その痩せこけた姿に一抹の不安を抱きつつ、自室へと戻っていったのである。