軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-22 トーレス川/蓬莱島

王太子セザールが言ったように、城壁間の検問はほとんど顔パスで通過できた。

「このくらいしか私の権力も使いようがないのだよ」

そう言って笑ったセザールであるが、その声には少し陰鬱な響きが含まれていた。

「しかし殿下、護衛2名くらいで夜に外出して大丈夫ですか?」

仮にも一国の王太子が不用心ではないか、と思うフリッツである。

「はは、王太子といっても、単に長男であるというだけだ。弟も2人いるし、私がいなくても父は困らないだろうよ」

今度の言葉には自嘲の響きがあった。

そして歩くこと20分ほどでトーレス川だ。

真っ暗なので、フリッツは『 光の玉(ライトボール) 』を使った。

あたりが淡い光に照らされる。見たところ、『ゴリアス』は付近にはいなかった。

「もう少し下流かもしれません」

5分ほど移動し、そこにも『ゴリアス』はいなかったので更に5分、下流へ移動。

「お? あれは何だ?」

『 光の玉(ライトボール) 』の光に浮かぶ『ゴリアス』の頭部をセザールが見つけた。

「ああ、あれです。『ゴリアス』! 来い!」

そして現れる巨体。

驚いて見上げるセザール王太子の前に、5体の『ゴリアス』が勢揃いした。

「ほほう、話に聞いてはいたが、これは壮観だ。ここまで歩かせてきたのだろうが、道中、止められたり、疑われたりはしなかったのかね?」

フリッツは『ゴリアス』の調子を確認しながら、その質問に答えた。

「ええ、クライン王国へ行っての帰りですから。つまり、行きにも通っているんです。ですので特に怪しまれませんでした」

「ははあ、そう言えばそうだったね」

「皇帝陛下からの書状も持っておりますので、きちんと話を通せば、文句を言われたことはないですね」

「ふむ、それもそうだ。感謝する、フリッツ殿。いいものを見せてもらった」

その時である。暗闇から炎が飛び出した。

「殿下!」

いち早く気付いたフリッツがセザールを突き飛ばす。

「うわっ!?」

間一髪で、『 火の弾丸(ファイアバレット) 』はセザールの顔を掠めて通り過ぎたのである。

「何者だ!」

体勢を立て直したフリッツが振り返った時、『 火の弾丸(ファイアバレット) 』を放った犯人は、王太子の護衛に斬り伏せられていたのである。

(なかなか素早いな……)

護衛2人の反応もなかなかであった。1人は王太子を守るように立ち、もう1人が犯人を倒している。

『 光の玉(ライトボール) 』の光でその男を見ると、昼間諍いを起こした上級兵士。

急所を斬られ、最早息がなかったので動機を聞くことはできなかったが、ウラウ侯爵に知らされてはまずいと短絡的な行動に走ったものであろうと思われた。

「殿下、こういうこともあります。お気をつけ下さい」

フリッツが言うと、セザール王太子は苦笑した。

「……わかった。フリッツ殿には大きな借りができてしまったな。……カーク、スケーブ、帰るぞ。上級兵士の遺体については屋敷に戻り次第、人を出す事にしよう」

* * *

同じ頃、蓬莱島。

研究所にいたサキは、窓から見える仁の家にまだ明かりが灯っていることに気が付いた。

時刻は午後11時を回り、0時に近い。

「……夜更かしなボクよりも寝るのが遅いなんて珍しいね。それともまた何か作ろうとしているのかな?」

基本的に、仁は早寝早起きだ。何かを作ろうと夢中になっていないとき、という但し書きは付くが。

まだ眠くなかったので、なんとなく仁の家に足が向いてしまうサキである。

(くふ、ジンとエルザが……の最中だったらどうしよう)

ここのところ睡眠不足の日が続いたせいか、妙にテンションの高い状態だ。

そっと近付いていくと、南に向いた縁側に座る1つの影が見えた。

「……ジン?」

思わず声が出た。

「サキ、か。どうした、こんな夜遅く?」

「それはジンの方だろう? 普段早寝する癖に、今夜はどうしたんだい?」

すると仁は、ふ、と少し辛そうな笑いを漏らした。

「……ちょっと、な。いろいろ考え込んでいたんだよ」

「……レーコちゃんは?」

「どこか近くにいてくれているだろうが、今夜は1人でゆっくり考えたかったんだよ」

「そう、か。ボクはお邪魔しちゃったみたいだね。窓から、まだ明かりがついているのが見えたから、ちょっと気になってね。おやすみ、ジン」

そう言って研究所に戻ろうとしたサキを、仁が呼び止めた。

「サキ」

「ん?」

足を止め、振り返るサキ。

「……ちょうどいい。ちょっと、聞いてくれるか?」

「ボクは構わないけど、1人で考えたかったんだろう? それに、エルザを差し置いて、いいのかい?」

「ああ。1人で考えるのも少し行き詰まってきていたし、エルザにはちょっと聞きづらいこともあるしな」

「ふうん。……まあ、聞くだけなら」

サキは引き返してきて、仁と並んで縁側に腰を下ろした。

「……今のままじゃいけない、と考えていたんだ」

ゆっくりと、仁は話し始めた。

「俺は、ここ蓬莱島で好きなことをして暮らせればいいと、そう思っていた」

淡々と語っていく仁。

「俺の知識と技術は、今のこの世界の水準から大きく逸脱している。不自然なくらいに」

「……」

「俺が気儘にこの世界を塗り替えたら……。それは『文化の侵略』になるんだろう」

半ば独り言のように、そして半ばサキに聞かせるように。

「『文化の侵略』という言葉は俺じゃなく、ミツホ国の 賢者(マグス) が遺した言葉らしいけどな」

「……ジン、ただ聞いているだけでいいのかい?」

無言で聞いているだけに耐えかねて、サキが尋ねた。

「ああ、でも気になったら何でも言ってくれ」

そう言って、また仁は語り始めた。

「だから考えた。『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』である俺がやるべき事は、文化の侵略ではなく、融合なんだろうと」

「融合、ね」

オウム返しに行ったサキは、何度か深く頷いた。

「そうなんだろうと思うよ。で、何をそんなに悩むんだい?」

今までの語りを聞く限りでは、悩む要素は感じ取れなかったサキである。

「ああ。ここからだ。……じゃあどうすれば融合なんてことができるのか?」

そこで仁は言葉を切る。サキは、自分の考えを問われているのだろうと思った。

「そうだね。押しつけでないこと。そして、急激でないこと。それから……軋轢を生じないこと……かな?」

仁は微笑み、頷いた。

「だよな。付け加えるなら、人々を幸せにできる方向で、そしてこの世界にとって良き方向で」

「くふ、ジンらしいね」

「……ありがとう。じゃあ、俺はどうあるべきなんだ?」

そこまで聞いて、サキは納得がいった。仁は己の立ち位置を見失っているのだ、と。

サキは、そんな仁に対して、自分は何を言ってやれるだろうか、と自問する。

そして出た答えは。

「くふ、ジンは、時々おかしなくらいに落ち込むよね。まあ、そういうところがあってこその人、なんだろうけどね」

そう前置いて。

「ジン、1人で悩んじゃ駄目だよ。エルザに、ボクに、ラインハルトに。……『ファミリー』に相談しておくれよ。そのための仲間じゃないか」

と締めくくるサキ。

「ジンは、何でも1人で背負い込もうとしているように見えるな。そんな必要無いのにさ」

「……そうかな?」

サキは微笑みを浮かべながら頷いて見せた。

「そうさ。『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』だって、『崑崙君』だって、中身はジンなんだから」

「なんだよ、それ」

「ジンが背負い込む必要なんてない、ってことさ。ジンは勘違いしてるんだ」

「俺が、勘違い?」

「そうさ。ジンの知識は、技術は、力は、求めて得たものじゃないだろう? もっとも、だからこそ持て余しているのかもしれないけどさ」

仁にはサキの言わんとすることがまだよくわからない。

「その点において、ボクはジンに近いから言える。ジン、得たものに振り回されちゃ駄目だよ」

「振り回される……か」

「ああそうさ。権力者は、ジンの力を欲しがるだろう。利用しようとするだろう。だけどそんなの関係ないね」

そこで一旦言葉を切ったサキは、仁の手を取り、目を真っ直ぐ見据えて言い放った。

「ジン、思ったようにやってみなよ。ボクは、いや、ボクたちはいつもジンの味方だよ。もしも、ジンが間違いそうになったら、ボクらが止めてあげるから」