軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-23 相談/発見

「サキ……」

仁は嬉しいような、呆れたような顔をした。

「祖父さんはジンにいろいろ言ってたようだけどね。祖父さんは所詮、権力者側の立場でものを考える人だから」

侯爵という立場が骨の髄まで染みついている、とサキは笑う。

「だからこそ忘れてる。ジンが、まずは1人の人間であると言うことを」

何かスイッチが入ったように、今夜のサキは饒舌である。

「力があったって、その力はジンに何かを強制する訳じゃないさ」

「まあ、な……」

「くふ、納得し切れていないような顔だね。じゃあ言おう。ジン、君の力の一番いい使い途は、『世界征服』だよ」

「なっ……」

サキの口からとんでもない単語が出てきたことに驚く仁。

「それができる力。そうすれば世界は平和になるよ? ジンに何かを強制しようという奴もいなくなるよ?」

どこまで本気なのか、と仁はサキの顔を見つめた。

「そういうことさ。もし、セルロアの王様がジンの半分でも力を持っていたら、間違いなく世界征服に使ってるね」

それは何となく納得できる仁であった。

「だからね、もう一度言うよ? 力は使うためのものであって、使われるものじゃない。ジン、君は力に使われるな。使いこなしてやれ」

そこまで言ったサキは、ふあああ、と大袈裟に欠伸をしてみせた。

「なんか眠くなっちゃった。ボクはもう寝るよ。あとはエルザに任せて、さ」

「え?」

サキはもう何も言わず、手を振って研究所の自室へと引き上げていったのである。

「エル……ザ?」

サキの言葉に振り返った仁は、縁側の背後にある障子が少し開いていることに気がついた。

そこから水色の瞳が覗いていることも。

「何やってんだ」

からり、と障子を開けると、パジャマ姿のエルザがそこに蹲っていた。

「……話し声がしたから来てみたら、ジン兄とサキ姉が、話し込んでた」

俯いたままエルザが答えた。

「あー……悪い、起こしちゃったか?」

「ううん、そうじゃない。でも、ジン兄が悩んでいることに気付けなくて、ちょっと、ううん、すごく残念」

そんなエルザの頭を撫でてやる仁。

「ありがとう。そう言ってもらえるだけで嬉しいよ」

そして中天にかかる月を見上げた。

その隣にエルザは座る。そして、

「……ジン兄は、人に頼るのが下手。……ずっと、誰かに頼ってきた私と、正反対」

ぽつりと、そう言った。

「そんなこと無いだろう。700672号に分からないこと聞きに行くし……」

だが、エルザは首を振った。

「ううん。それは、資料を調べるのと何も変わらない。うまく言えないけど」

「ああ、そうか……」

自分の出自。孤児であるがゆえに、人に頼らない生き方を求めた。人に頼らないで生きられる強さを求めた。

「ほんのちょっとだけで、いい。悩んだとき、私のことも、思い出して。そして、頼って……ううん、悩みを分けて、ほしい」

「エルザ……」

「半分、十分の一、百分の一でもいい。肩代わり、させて」

水色の目が、黒い目を真っ直ぐ見つめて、そして。

「私は、私の分だけ、ジン兄を楽にしてあげるから」

「ありがとう」

仁はエルザの肩を抱きしめた。

「俺は馬鹿だな。仲間を、エルザを、不幸にしたくないなんて言いながら、心配掛けているものな」

仁の言葉には、今までになかった力強さが感じられた。

「らしくないな。これまで通り、やりたいようにやってやるか!」

「ん、それでいいと、思う。決して長いとはいえない付き合いだけど、私はジン兄の性格を知ってるつもり。好き勝手やってもいいといわれたって、それなりに節度を持ってる」

そこでエルザはにこっと笑って言った。

「常識はぶっ飛ばしてるけど」

そんな2人が見上げた空には、一際明るい星が一つ輝いていた。

* * *

翌日の朝、仁は司令室にエルザとサキを呼んだ。礼子とアンも同席している。

「くふ、ジン、悩みは晴れたようだね」

仁の顔を見て微笑みながらサキが言った。仁は苦笑し、話を続ける。

「……えーっとな。まずは、今度のセルロア王国建国記念式典で俺はどういう態度を取ればいいかな? それを相談したい」

「うんうん、なかなか難しい問題だね」

仁は大きく頷いた。そして言葉を続ける。

「……俺としては、各国の首脳とかが集まるその場所で、エルザとの、その、……婚約、を、公表しようと思ってる」

「え」

エルザがあっという間に真っ赤になった。サキは手を叩いて喜ぶ。

「あはは、いいね、ジン! そうさ、はっきりさせなきゃね! 『崑崙君』に娘を嫁がせたい貴族だって出てくるだろうしね」

「あ、ああ。それ以上に、どこまでやらかそうかな、と思ってる」

「どこまで?」

「ああ。乗っていくのは『コンロン2』なんだが、セルロア王国が調子づいているというか、武力で各国を脅そうとしているようだし……」

巨大な飛行船、エカルト式の巨大船、そして何やら見つけたらしい 古代遺物(アーティファクト) 。

他にも、あの国特有のゴーレムなどはありそうだ。

「 第5列(クインタ) に調べさせているんだろう?」

「ああ。だけどな、非常に厳しい警戒と、特殊な結界のある場所があってな。そこは調べていないんだ」

戦時下でもないのだから、不必要な警戒をさせたくなかった仁である。

「ですが、別方向からのアプローチで、おおよそのことは掴めました。特殊なゴーレムを研究している機関です」

アンが代わって説明した。

「直接内部を観察できなくとも、出入りする人間の漏らす情報を再構成すれば、かなりのことが掴めます。あそこでは4メートル級のゴーレムを開発しています」

「4メートル? 中途半端なんじゃないのかい?」

サキの言葉をエルザが否定した。

「サキ姉、そうでもない。ボディの強度と、出せる力を考えると、ゴーレムの場合は3メートルから4メートルが最も効率がいい……のかも、しれない」

エルザの言葉を仁が補足する。

「エルザの言う通りだ。人間の場合、骨の強度と、筋肉の出せる力などの関係で、身長2メートルくらいが上限だと言ってもいい。だが、金属の骨格、 魔法筋肉(マジカルマッスル) 。ゴーレムだと、4メートルくらいが上限と判断したことは間違いじゃない」

仁の技術、蓬莱島の素材であれば、15メートルの『タイタン』を作り出すことができている。

「『ゴリアス』は大きすぎて、動作速度が犠牲になっているからな」

「ふうん、なるほどね」

「で、だ。俺はどうしようかという話になるわけだが」

その場にいるのはセルロア王国の人間だけではない。仮に『コンドル』や『ペガサス1』を見せたりしたら、ややこしくなるばかりだろうと仁は考えていた。

「『コンロン2』、護衛用に再編成した 隠密機動部隊(SP) 、礼子。あとはどうしよう? ……こんなことを考えるのって傲慢だろうか?」

当人である仁にはなんとも判断がつきかねていた。子供を叱るかのように、一国の言動を窘めるという行為を個人が行おうというのであるから。

「そうだね、上から目線であるとは言えるんじゃないかな? でも、仕方ないだろう? 叱るというのはそういうことなんだからさ」

同じ目線だったら叱る、というよりもただの喧嘩になってしまうだろう、とサキは付け加えた。

「それもそうか。……。そうなると、あの国が何をしようとしても対応できるようにするのがいいかな」

「くふ、ボクとしては徹底的に打ちのめしてやってもらいたいけどね」

意外と過激なことを言い出すサキであった。

「そういえば、マルシアさんとロドリゴさん、は?」

エルザの発言に、仁はわかっていることを説明する。

「船外機を完成させ、エリアス王国に2台納入したようだ。それを使った小型船を急遽製造し、式典に間に合わせると言っているようだが……」

仮に時速50キロを出せるなら、少し無理をすれば、ポトロックからダリまで3日で行くことができる。

老君の報告によれば、マルシアは三胴船に船外機を付けたものを用意したらしい。フィレンツィアーノ侯爵は大喜びで受け取ったとのことだ。

「ショウロ皇国の大型船とエリアス王国の新型船かい。セルロアの船に引けは取らないだろうね」

「同感」

仁は、こうして、自分以外の者たちがセルロア王国に目にもの見せてくれることを喜ぶと同時に、害を加えられないかどうかが心配になった。

「マキナの出番も考えておくか」

『そちらはお任せください』

老君が請け合う。

続いて仁たちにとって衝撃的な報告が。

『ところで 御主人様(マイロード) 、行方不明だったアルシェルさんらしき人物が見つかりました』

「アルシェルが?」

『はい。セルロア王国の王太子が保護しているようです。ですが、記憶を無くしているらしく、自分の名前さえも思い出せない状態です』

「エルザ、どう思う?」

「……もしかしたら『 操縦針(アグッハ) 』の影響なのかも」

仁もその可能性は考えてはいた。

「だが、あれは耳の後ろか、心臓に打ち込むんじゃないのか? それで記憶が無くなるかな?」

「それは私もそう思う。でも、耳の後ろへ打ち込むときにミスがあったら?」

何百人も処理をされていた『 操縦針(アグッハ) 』である。1人や2人、ミスがあってもおかしくはない、と主張するエルザ。

「それは……あり得るか」

とはいえ、ここで議論していても結論は出ない。

「記念式典で、あるいは終わった後に会う機会があるだろう。その時に確認できるな」

「ん」

兄であるベリアルスが非常に心配していたことから、できるだけのことはしてやりたい、と思う仁であった。