軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-21 王太子/謎の少女

「……ふむ、興味深い話だ」

フリッツ、グロリア、シンシア、そしてリタからの話を聞いて、不快げに頷いているのは、セルロア王国の王太子、セザール・ヴァロア。

無礼な上級兵士とのやり取りの後、フリッツたちは王太子に乞われて同行したのである。

5重の城壁のうち、4つめと5つめの間、つまり貴族街にある別宅に案内されていた。

そして、リタが足りない税を埋めるために売られたことを聞き、王太子は静かに憤慨していたのである。

「そもそも、奴隷そのものが違法だ。先程、船の上で騒いだ兵士が『奴隷』という単語を口にしたときから気になっていたのだよ」

(……このようなことを続ければ、国民の心が国から離れるに留まらず、国から脱出する者も出てくるだろう。それはすなわち国力の低下だと、何故誰も気付かないのだ……)

更にセザールは、彼等に願いを伝えた。

「テルルス経由と言うことは、貴公らはエゲレア王国を通ってきたということだろう? 気が付いた事を教えてもらえないだろうか」

それを口にしてからすぐ、言い方が悪かったことに気付いた。

「いや、すまん。これは、エゲレア王国の情報を要求しているのではないのだ。何と言えばいいかな……そう、外から見た我が国の評判を聞かせてもらいたいのだよ」

これならば、フリッツたちも憚ることは少ない。

「そうですね……技術的に進んだ国、ですね」

「ほう、ショウロ皇国のフリッツ殿にそう言われるとは光栄だ。最近の貴国はさまざまな新技術を開発しているそうではないか」

「ええ、まあ……。開発もしてはいるのでしょうが、大半は与えられたものかもしれませんがね」

「んん? どういう意味だ?」

セザールが首を傾げた。

「殿下はご存じないですか? 『崑崙君』ジン・ニドー卿の名を」

「いやいや、知っているとも。世界にただ1人の『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』だからな」

「でしたら、彼の前にはどんな技術も色褪せて見えるということがおわかり頂けるかと」

すると、セザールは目を閉じ、椅子に深くもたれた。

「……やはり、そうなのか。私は、あまり外の情報を得られる立場にいないので、そういう話がほとんど入ってこないのだよ」

「殿下が、ですか……」

仮にも大国の王太子が情報管制を敷かれている、という事実にフリッツは驚愕した。

「ふふ、それが事実なのだから仕方ない。太子といっても、継承権1位という以外に何の権力もない……いや、無いというのは言い過ぎかもしれんが、父王に比したら無いに等しい」

セザールは自嘲気味に笑った。

「他には? どんな噂があるのかな?」

「……先日、旧レナード王国の遺跡で起きた事件をご存知ですか?」

今度口を開いたのはグロリアだった。

「……いや、知らない。聞かせてもらえるか?」

「はい。1月の下旬だったと思います。場所はソルドレイク遺跡。そこでゴーレム500体が発見されたということです……」

エゲレア王国のゴーレム回収部隊がセルロア王国の辺境兵団と一悶着起こしたこと、 超巨大蟻(ギガアント) が現れたこと、辺境兵団が全滅したこと、等を語った。

彼女は、エゲレア王国での療養中に詳しく聞いて知っていたのである。

「……何だって……そんなことが……」

顔に手を当て、気落ちしたように俯く王太子。

「……父上は何を考えているのだ……」

溜め息をつき、顔を上げた。

「……貴重な話を聞かせてくれて感謝する。もし良かったら、泊まっていってもらえないだろうか? もちろん、貴公らの自由は保障する」

「私は構いませんが……」

フリッツが答える。ショウロ皇国は、セルロア王国と諍いをした過去はないため、比較的気楽だ。が、グロリアとシンシアは違う。クライン王国は、セルロア王国やその属国、フランツ王国と年がら年中小競り合いをしているのだから。

「グロリア殿、シンシア殿の安全も、私の誇りにかけて保証する」

「……お言葉に甘えましょう」

そもそも、断るという選択肢が取れるかどうかも怪しい状況なのだ。

若干躊躇いながらであったが、グロリアは承諾した。セザールは笑みを浮かべる。

「そうか、ありがとう。ささやかではあるが歓迎させていただくよ。そしてできれば、もっと色々な話を聞かせて欲しい」

とはいえ、時間も時間なので、入浴、そして夕食という流れになった。

その夕食の場で、セザールは1人の少女を連れてきて、フリッツたちに紹介した。

珍しい漆黒の髪、もっと珍しい赤い瞳、そして抜けるように白い肌。見たところ8、9歳くらいか。少女というより幼女に近い。

少女は型通りのお辞儀をし、半歩下がってセザールの後ろに引っ込んだ。その間、ずっと無言のままである。

「彼女は、ヌバリ鉱山の近くで、偶然私が見つけたんだ。見つけたときはぼろぼろで、名前すら覚えていなかった。今もまだ思い出せないらしい」

セザールの後ろで、少女は悲しげに顔を俯かせている。

「貴公たちに尋ねたい。彼女のことについて、何か手がかりになるようなことを知らないだろうか? 見ての通り、髪の色、目の色、かなり珍しい部類だ。血族が同じ特徴を持っているなら、どこかで会ったことはないだろうか?」

だが、フリッツもシンシアもリタも、首を横に振った。ただグロリアだけは、少し緊張したような面持ちで少女を見つめていたが。

「……そうか、残念だ」

「ですが、この先、何か手がかりを掴んだらお知らせしますよ」

代表してフリッツが請け合った。

「そうか、それはありがたい」

そして、少女も無言のまま、ぺこりと頭を下げたのである。

* * *

フリッツたちも、夕食後は特に質問攻めに合うこともなく、与えられた客室で寛ぐことができた。

「……ふう」

「何というか、少し気疲れしたな」

フリッツが溜め息をつき、本音を漏らした。

「……まさか王太子殿下にお会いし、そのまま別宅に招かれるとは思ってもみませんでした」

シンシアも疲れた顔だ。リタに至っては気疲れの果てに、既にベッドに突っ伏して眠っていた。

「だが、あの子、おかしいと思わなかったか?」

フリッツの言葉に、シンシアは頷いた。

「ええ。何というか……違和感を……感じました」

「違和感か。うむ。違和感、それが一番妥当な言葉だな。だが、それを抜きにしても、記憶がないというのは気の毒だ」

フリッツが難しい顔をしながら呟いた。

「もしかして……だが、妹ならなんとかできるかもしれんが」

「エルザ殿……か」

「ああ。おそらくジン殿と共に、今度の記念式典に来るだろうから、俺から頼んでみてもいいな」

「ですね。フリッツ殿からお願いしてもらうのが一番いいと思います」

シンシアも同意した。

「リタの入れ墨ももしかしたら消してもらえるかもしれませんし」

「ああ、そうだな。シアの言う通りだ。フリッツ殿、そちらも併せて頼んでもらいたい」

「言われるまでもない」

そしてフリッツは、グロリアの表情がいつもより冴えないのを訝しく思った。

「グロリア殿、どうした? 気分でも悪いのか?」

するとグロリアは伏せていた目を上げ、ゆっくりと話し出した。

「……あの子の名は……もしかしたら、アルシェルというのかもしれない」

「グロリア殿、知っていたのか?」

「ああ。だが、記憶にあるアルシェルとは違いすぎてな……」

そしてグロリアは、かつてクライン王国の山中、ラクノーとドッパの間で出会ったモンスターテイマーの話を語ったのである。

「……ふむ……巨大なハサミムシ、ギガントーアヴルム、か」

「本当に同一人物なのか自信がない。それほどに雰囲気が違いすぎる。だが容姿はそっくりなのだ。双子の姉妹かもしれんが」

「確か、『 傀儡(くぐつ) のアルシェル』と名乗っていた。あの時、デウス・エクス・マキナ殿に助けられなかったら、今頃私はここにいなかっただろう」

「ふむ、マキナ殿か」

そして話題はデウス・エクス・マキナの話に移っていく。

ボッツファ遺跡で『もどき』なる化け物に襲われた時に救ってくれた人物でもある。

グロリアは気を失っていたが、シンシアは彼の姿を目にしていた。

「ジン殿の兄弟子だということだが」

「うむ。……今回の記念式典に招待されているのだろうか?」

グロリアは少しだけ期待を込めた物言いをした。

「それはどうかな。ジン殿と違い、正体不明で拠点も分からないのだから、招待しようにもできないだろうし、そんな怪しい人物を招待しようとも思わないだろう」

「違いない、な」

そして話題はもう一度少女——アルシェルのことになる。

「いずれにしても、グロリア殿。貴殿の懸念は王太子に伝えておいた方がいいと思う」

「わかった。明日、きちんと話をしよう」

そしてフリッツはちらと窓の外を見た。もう真っ暗である。だいたい午後7時といったところか。

「それじゃあ俺は、殿下に断ってちょっと出てくることにする」

「何を……ああ、『ゴリアス』の件か」

「そういうことだ。おそらく浅瀬で待機しているだろうから、指示を出し直してくる」

廊下を歩いて行くと、4人の護衛が守る扉があった。王太子の居室である。

フリッツは護衛の1人に取り次いでもらい、王太子に話をすることができた。

「ふむ、『ゴリアス』か。ちょっと興味があるな、付いて行ってもいいだろうか?」

セザールが思い掛けないことを言いだした。

「私が一緒なら、城壁の通過が楽になるぞ」

「確かに……」

少し考えた末、フリッツは同行してもらうことにした。どうせ式典で公開するのだから、今更隠す必要もないし、ここまでの道中、目立っていたことに間違いはないのだから。

「では、お願いします」

ということで、セザールとその護衛2名と共にフリッツは出掛けたのである。