軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-08 ウォッチャー/願い

2月13日。

この日は、蓬莱島にとって記念すべき日となった。

監視衛星『ウォッチャー』が1〜6までの6機、打ち上げに成功し、軌道に乗ったのである。

今、仁たちは『ウォッチャー2』が送ってくる地表の画像を、司令室の大型 魔導投影窓(マジックスクリーン) で眺めていた。

なぜ『2』の画像を、かというと理由は単純。

今現在、ちょうど蓬莱島の真上付近にいるからである。

「おお、蓬莱島がよく見えるな」

「くふ、研究所ってこんな位置に建っているんだね」

「タツミ湾の形がよくわかる」

『 御主人様(マイロード) 、拡大します』

老君の声が響くと同時に、画像がズームアップされる。

「おお、畑までよく見える」

「あ、あれ、もしかしてアクア?」

「すごいもんだねえ……」

畑やタツミ湾にいるゴーレム達までそれと分かる解像度に、仁は大満足し、エルザとサキはびっくりしていた。

『ウォッチャー』の周回高度は1500キロくらい、速度はおおよそ秒速7キロメートル。このくらいの距離になると、今一つ測定精度が甘くなるのは仕方がないところである。

それが6機、ほぼ正六角形の頂点に来るように、赤道上を周回していた。

直径1メートル、厚さ50センチの円筒形。球形にしなかったのは、作りやすさや内部の 魔導装置(マギデバイス) の配置しやすさ等を考慮した結果だ。

元々真空の宇宙に配置するものであるし、転送機で送り出すので打ち上げも必要無い。

主な機能は地表の観察。各個それぞれの姿勢制御は 力場発生器(フォースジェネレーター) で行っている。

全体を制御するのは老君だが、高度や相対位置を細かく制御するのは専用の頭脳、『小老君』である。

地表を監視すると同時に、宇宙の様子も観察し、いろいろとデータを送ってくるようになっている。

いつか宇宙へ行ってみるときのための情報集めだ。

「ジン、思ったより時間が掛かったんだね?」

仁が『ウォッチャー』を作っているところを見て知っているサキがそんなセリフを口にした。

途中、マルシアたちを呼んで中断していたものの、老君側は作業を続けていたし、普段の仁ならもっと早く完成させられると思ったのだ。

「ああ。順番があったからな」

「順番?」

「そうさ。まず『1』を転送機で上空に送り込み、軌道に乗せるのに苦労した」

打ち上げでなく、転送で送り出し、ほぼ円軌道を描くように軌道と速度を調整するのに老君と小老君といえど丸2日掛かったのである。それがマルシアたちの来る前。

「あとは楽になったよ。同じ軌道上へ60度ずつずらして転移させ、軌道調整し、位置を安定させて……。で、今に至るわけだ」

その後、残りの5台を同じ高度に転送し、調整した、というわけだ。

「なるほどね。細かい点はともかく、苦労したらしいことは分かったよ」

サキは再び地表の画像に目を向けた。

「ジン兄、武装とか防御装置は付けたの?」

今度はエルザが質問してきた。エルザは、今回仁が『ウォッチャー』を製作していた時、実家の母が風邪気味で具合が悪いと聞き、見舞いに行っていたので詳細を知らないのだ。

「一応はな。防御用にはちゃんと 障壁発生器(バリアプロジェクター) を装備しているし、レーザー砲も付けている。でもあそこまで誰が攻撃してくるんだと思うが」

「それは、確かに」

「まあ、最終的な安全装置として転送装置を内蔵しているから、敵の手に渡るとか、落下して地上に被害がありそうなときには転移させてしまえるし」

転送先は蓬莱島の東の海上となる。

「外装の材質は?」

「マギ・アダマンタイト、軽銀、18−12ステンレスの3層構造だ」

「……まあ、必要だから仕方ない」

またしてもかなりの資材を使ったことを知り、エルザは渋い顔を見せた。

とはいえ、これはポーズ。実の母ミーネにも言われているが、本気で仁を縛るつもりはない。ただ、ほんの少しだけ節約意識を持って貰えればいいと思っているのだ。

仁もそれを知ってか知らずか、エルザの言うことは比較的良く聞いてはいる。

「あ、画像をもっと西にできる? ……ん、ありがとう」

画面に映っているのはエリアス半島。

「あ、あのあたりがポトロック。……で、あれがイオ島」

懐かしい地名がエルザの口から出てくる。

そのまま画像は西へと移っていき、エゲレア王国へ。ブルーランドが映し出された。

「あ、ブルーランド。ビーナやルイス様、元気かな」

飛行機から見るのとはまた違った感覚。しばらくエルザは本当に楽しそうに地表の画像を楽しんでいたのである。

* * *

『 御主人様(マイロード) 、あまり良くないお知らせが一点あります』

ウォッチャー成功の余韻が収まった頃、老君が話し掛けてきた。

「何だ?」

『はい。クライン王国が、セルロア王国の記念式典の祝いに、『ティア』を贈ることを決めました』

仁は驚いた。その乳母 自動人形(オートマタ) を、リースヒェン王女がどれほど大切にしていたか知っているからだ。

「何考えてるんだ、あの国は……」

怒りが湧き上がる。

『どう致しましょうか?』

「そうだなあ……」

その時、エルザが仁の腕を掴んだ。はっとした仁はエルザの顔を見た。

「ジン兄、……怖い顔、してた」

エルザに言われた仁は、少しだけ冷静になる。そして、『まだ』『今のところは』『穏便に』すませようと決めた。

「よし、『コンロン2』でクライン王国へ行こう」

仁の顔を見てどんな態度を取るかで、そのあとの行動を決めようと考えたのである。

「ごしゅじんさま、その『ティア』というのは、私と同型の 自動人形(オートマタ) ですね?」

アンが仁に尋ねてきた。

「ああ、そうだ。話した事あったっけ?」

「はい、以前、老君から聞いております」

「そうか。アンの姉妹になるわけだからな」

「はい。できましたら、本来あるべきごしゅじんさまにお仕えできるようにしてあげてください」

そして頭を下げた。仁は頷き、胸を叩く。

「ああ、任せておけ」

ということで、仁はエルザと礼子を伴い、『コンロン2』に乗り込んだ。

もう午後なので、転送機を使って王城付近まで一気に移動する。

「ジン兄、具体的に、何か計画は?」

「幾つか案はある。だが、クライン王国側の出方次第だな」

「ん、わかった」

そんな会話を交わしているうちに、王城が見えてきた。警備の熱気球も飛んでくるが、仁の『コンロン2』だと分かると、敬礼して離れていった。

十数分後、仁たちはクライン王国王城前に着陸していた。

「ジン! よく来てくれたのう」

いつも通り、第3王女リースヒェンが出迎えてくれた。その顔色が少し冴えないのは、ティアの一件だろう。泣き腫らしたのだろうか、目も赤い。

「リース、しばらく。元気そうだね」

非公式な場では、仁やエルザはリース、と呼んでいる。

「う、うむ……」

元気そうだ、という仁の言葉に、少し言い淀むリース。が、すぐに表面上は明るく振る舞う。

「ジン、『崑崙君』宛てに、セルロア王国から何やら言伝があるそうじゃぞ?」

「ふうん」

内容は分かっているが、知っているとも言えないので、リースの言に従い、国王に会いに行くことにした。

『崑崙君』である仁と、『 名誉治癒士(オノラリ・ヒーラー) 』のエルザであるから、国王に会うのにも、余計な手続きはいらなかった。

国王の執務室。なぜか護衛もいない。同席しているのはリースヒェンだけである。

「おお、ジン殿、エルザ殿、レーコ殿、しばらくである。元気そうであるな。我も、おかげで健康を取り戻せた。改めて礼を言う」

余人がいないと言うことで、アロイス3世は気さくに話し掛けてきた。

「さっそくであるが、セルロア王国から『崑崙君』宛の言伝が来ている」

アロイス3世は皮紙を差し出した。仁はそれを受け取り、エルザと共にそれを読んだ。

「何々……『来たる2月22日、我が国のダリの街において建国記念式典を開催するものである。崑崙君の出席を願うものである。セルロア王国国王』」

「……原文はもっと高圧的だったようだが、書記官が少しだけ軟らかい表現にしたと言うことだ。許してやって欲しい」

仁としては、書記官を咎めるつもりはなかった。

「わかりました。自分としては『コンロン2』で向かうとしましょう」

「おおそうか。これで一つ、肩の荷が下りた」

そう言ったアロイス3世は言葉を切り、大きく深呼吸をした。そしてもう一度口を開く。

「……それで、まことに図々しいということは重々承知しておるのだが……我の願いを聞いてもらえないだろうか?」

アロイス3世は少し申し訳なさそうな顔で言った。

仁は眉を 顰(ひそ) める。そして、この王様が何を言うのか。一応聞いてやろう、と決めた。

「……何でしょう? お聞かせ下さい」

仁の言葉を聞いた国王は、言いづらそうに話し始めた。

「……これは……国王ではなく、父親としての願いなのだが……セルロア王国向けに、何か見栄えのよい、贈り物に相応しい何かを一つ、作ってもらえないだろうか?」

「父上!」

それまで黙って横にいたリースが、驚いた顔で父王を見つめた。

「……恥ずかしながら、あの国から招待が来て、行かないという選択肢はない。そして、出るならば、それなりの贈り物をせねばならん。だが、今の我が国にはそんな物を作る技術がないのだ」

「……」

さらに王の言葉は続く。

「……そして、我は、父親として……してはならぬ選択をしてしまった。だが、今ならまだ取り返しがつく。ジン殿、頼む。我にできることなら何でもしよう……」

頭を下げるアロイス3世。

今、仁の前にいるのは国王ではなく、リースヒェンという娘を持つ、1人の父親であった。