軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-07 驚愕/別離

夜が明けて、蓬莱島に朝が来た。

時刻は午前6時。この季節ではまだ薄暗いが、マルシアとロドリゴはゆっくり寝ていられなかったとみえ、外に出てきていた。そして研究所を見て盛大に驚く。

「うわあ……。これが研究所か」

地上3階建て、堅牢な石造りである。

「ジン殿は、またとんでもないものを受け継いだものだ」

また、仁の『家』を見ては、

「変わった造りだねえ」

「うむ、屋根に乗っているものはなんだろう?」

などと疑問を浮かべている。やはりモノ作りに携わる者ということだろう。

「ああ、おはよう、マルシア、ロドリゴさん」

「あ、おはよう、ジン」

朝の早い仁が2人の後ろから声を掛けた。

「ジン殿、おはよう」

「2人とも早いな」

「うん、やっぱりおちおち寝ていられなかったさ」

「気持ちは分かるけどね。顔は洗ったかい?」

「ああ、そこの流しで」

庭先に設置してある掘り抜き井戸。いつも綺麗な水がちょろちょろと流れ出して小さな池に注ぎ込んでおり、飲み水としても美味しい。

「じゃあ、朝風呂にでも入って、そのあと朝食にしよう」

「ああ、いいね!」

そして午前7時半。

仁、エルザ、マルシア、ロドリゴ、ミーネの5人で朝食である。

白米のご飯、ワカメ(と思われる)の味噌汁、アジ(に似た魚)の干物を焼いたもの、お新香。

「うーん、美味い。お代わり下さい」

「美味しいねえ。お代わり」

2人ともお代わりするほど気に入ってくれたようだった。

さて、いよいよマルシアたちへのデモンストレーションとなる。

まずはタツミ湾へ移動。

「ああ、ここの海はきれいだな」

マルシアが目を細めた。そんな彼女等の前にやって来たのは駆逐艇、ストリーム1。

「おお! こ、これは三胴船!!」

ロドリゴが目を見張った。

「しかも金属製だよ、父さん!」

マルシアが艇体を見て叫ぶ。

「さあ、乗ってみてくれ」

「もちろんさ!」

駆逐艇は10人乗り。仁、礼子、エルザ、マルシア、ロドリゴ、アローが乗り込んだ。操縦するのはマリン1である。

「うーん、やっぱり安定しているようだな」

乗り込んだロドリゴが感想を漏らした。マルシアは無言で艇体を観察している。

「さあ、行くぞ!」

仁の声と共に、ストリーム1は発進した。

「おお!」

その加速に、ロドリゴが声を上げた。

「こいつの推進器は『 水魔法推進器(アクアスラスター) 』の発展型、『 魔法型水流推進機関(マギウォータージェット) 』。速いでしょう?」

「うんうん、速いね! ジンはやっぱりジンだったよ!」

歓声を上げるマルシア。ストリーム1はタツミ湾を抜け、外海へと出て行った。そして舵を左に取り、北へ。そのまま進むと、巨大な船の影が見えてきた。

「ジ、ジン、あ、あれは!?」

「蓬莱島海軍の巡洋艦、『梓』だ」

「……いったいどれだけ大きいんだい!」

「巡洋艦は100メートルだな」

「100メートルかい……」

絶句するマルシアである。

「全金属製で100メートルか。40メートルで騒いでいるのがばかばかしくなるな」

ロドリゴもかなり衝撃を受けたようだ。が、ある程度仁の実力を想像していたようで、それほど意外ではないという顔つきである。

「ん? その後ろにも何か……え、えええっ!」

「マルシア、どうした……な、なんだね、あれは!?」

『梓』の後方1キロメートルのところには、空母からの改装が終わった戦艦、『穂高』がその威容を静かに浮かべていたのである。

「2……200メートル以上はあるな? 100メートルと言っていた船がおもちゃのようだ!」

今度こそロドリゴが息を呑んだ。

改装された『穂高』は全長250メートル、排水量3万トン級である。

「……ジンはいったい何と戦う気なんだ……」

マルシアが呆れたように呟いた。それに仁は答えを返す。

「えーとな、『 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) 』っていただろう?」

「ああ、いたね」

「そいつを数十匹、楽々捕食する魔物がいるんだ。その名も『 海竜(シードラゴン) 』。そういう魔物に対抗するため……かな」

かつてポトロックを襲った 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) を、マルシアも知っている。また、先日は『ボウォール』という魔物に船を壊され、自身も危うく遭難しかけていたのであった。

「あー……確かにね。自分で自分の身は守らないとな……」

「海軍の役割っていうのは、輸送船を守るということだからな」

「うん、今はよくわかるよ」

だから、マルシアも仁の説明に納得したのである。

このようにして、蓬莱島1周の船旅を満喫したマルシアとロドリゴは、店のこともあるため、一旦ポトロックに戻ることにした。

「それじゃあ、また来るよ。……来ていいんだよな?」

「ああ、もちろんだ。……これを付けていてくれ。危ないときには『バリア』と唱えれば、結界が張られる」

ファミリーの印として、『 守護指輪(ガードリング) 』を渡す仁。

「 転移門(ワープゲート) を通るときにはくれぐれも人に見られないようにな」

「うん、もちろんさ。気を付ける」

「ジン殿、ではまた」

そしてマルシア父子はポトロックへと戻っていったのである。

* * *

一方、クライン王国。

国王アロイス3世自ら、娘である第3王女リースヒェンに頼み事をしていた。

「……それでは、父上は、セルロア王国の記念式典の祝いの品として、ティアを贈ろうというのですか」

「うむ、そうなのだ。他に適当なものもない、予算もないのだ。その上、食糧危機をギリギリで回避しておる。民にこれ以上負担を掛けることはできぬ」

「……」

リースヒェンは俯き、しばらく考えていたが、やがて顔を上げると、笑顔を見せた。

「分かりました、父上。ティアを、彼の国に譲りましょう」

「おお、そうか、済まぬ、リース。ありがとう、ありがとう」

本心では哀しみと悔しさに涙を流しているリースヒェンであるが、ほっとした父王の様子を見ては、それを顔に出すことも態度に表すこともできなかった。

「……ではティア、そういうことだ。この後、お前はセルロア王国に贈り物として引き渡されることになる」

「はい、陛下。そのお役目、お任せください」

あくまでも冷静に、感情を見せずに、ティアは頷いた。

「それでは、姫様。長い間、お世話になりました。どうぞ、いつまでもお元気で。わたくしはいつも、姫様のお幸せを祈っております」

「ティア……」

そしてティアは、アロイス3世と共に部屋を出ていった。

「……うっ……うう……」

扉が閉まり、1人になったリースヒェンは、誰憚ることなく、声を出して泣き崩れたのであった。