軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-06 蓬莱島クオリティ/新興商会

「さて、このタイミングで呼んだのは……」

仁は、いよいよ核心に触れる話を始めた。

「マルシアとロドリゴさんが『スクリュー』を独自に開発したと聞いたからなんだ」

「……さっきの話で出てきた『 隠密機動部隊(SP) 』が知らせたのかい?」

「ああ、そうさ」

仁は頷いた。

「ジン殿、その『すくりゅう』というのが、『水没水車』の正式名称なのですか?」

そして、すかさず『スクリュー』という単語に食い付いてきたロドリゴ。

「正式名称といいますか……俺のいた世界でそう呼ばれていたんですよ。その形状はこのようになります」

仁が老君に合図をすると、正面にある 魔導投影窓(マジックスクリーン) に図面が映し出された。

それは現代地球で使用されているスクリュー。2枚羽根、3枚羽根、4枚羽根、5枚羽根、6枚羽根が描かれていた。

「おお、これは……!」

ロドリゴが息を呑む。

「俺のいた世界では、こうしたものが実用化されています」

4枚羽根のものは、ロドリゴたちが開発したものとそっくりである。違いがあるとすれば、ロドリゴたちのものの方が軸が太く、羽根の曲線が滑らかでないくらいだろうか。

「なるほど。それでジン殿、一番お聞きしたいのは……いや、止めておこう」

だが、仁には何となく心当たりがあった。それで口に出して尋ねてみる。

「……もしかして、スクリュー軸の水漏れ対策ですか?」

「ど、どうしてそれを?」

大当たりであった。

仁自身も、モーターで動く船の模型を作った時に悩まされた問題だからだ。

仁が使った、模型用のスクリューの多くは2ミリ軸。それを、外径3ミリ、内径2.4ミリのパイプに通すだけであるから、隙間が結構空いているのだ。

潜水艦のプラモデルも作ったことがある。

その時は、船内にグリス溜まりを設け、そこをスクリュー軸が通る構造だった。

グリスがはみ出すと接着剤が効かないので大変だったなあ、と仁は思い起こしていた。

これは『スタンチューブ』と呼ばれ、シール構造がいろいろ考案されているのだが、仁はそこまで専門的なことは知らなかった。

で。

「俺も同じ苦労をしたことがあったから」

と答えると、マルシアもロドリゴも、同じように目を丸くした。

「えっ、ジンも?」

「ジン殿が?」

その顔がよく似ていて、ああやっぱり親子だなあ、などと仁は思う。

それで仁は、自分が施した対策を1つだけ口にする。

「1つは軸を長くして、喫水線より上に、パイプの口を持ってくればいいんですよ」

喫水線、つまり船の外の水面より上には、基本的に水は入ってこないはずだ。軽い模型の場合は特に有効であった。

「なるほど!」

「他にもありますが、ロドリゴさんは人に聞かずに完成させたいようですから」

とは言ったものの仁も、実際の船舶がどうなっているかは知らなかったりする。蓬莱島の船でスクリューを使っているものは無いのだから。

「いやいや、それだけ聞かせてもらえれば十分ですよ」

ロドリゴは満足したように頷いた。

仁も、何から何まで教える気はない。彼等のサポートができればいいと思っている。

「それじゃあ、今夜は難しい話はこれくらいにして、時間もいいようなので夕食にしようか」

蓬莱島時間では午後8時近い。仁とエルザはかなり空腹を感じていた。

一方、ショウロ皇国から来たラインハルトやサキたちは昼食を食べて1時間くらいしか経っていない。

「ジン、僕らはまた明日にでも来るよ」

「ああ、それがいいかもな」

ということで、ラインハルト、サキ、トア、ステアリーナは一旦ショウロ皇国へと戻っていった。

「……はあ。これがジンの実力かい。やっぱり、とんでもなかったね」

地下1階の司令室から1階の食堂へ移動する途中、しみじみとした口調でマルシアが言った。

「あの時、ジンに出会えたことがどんなに幸運だったのか、今になってやっと分かった気がするよ」

食事風景。

「これは美味しいね!」

「確か米、というのでしたね。こんなに美味しいものとは知りませんでした」

マルシアはお米のご飯を気に入ったようだ。

また、ロドリゴはショウロ皇国で口にしたことがあったようだが、それは精米していない玄米だったようで、白米の味に驚いている。

「このスープもよく合うんだね! 中の具も、変わってるけど美味しいし」

豆腐と油揚げの味噌汁であるが、マルシアも気に入ってくれたようだ。

「この漬け物は……? 酢漬けではなさそうですが、何とも言えない風味がありますね」

キュウリ(に似た野菜の)糠漬けをぽりぽりと囓りながらロドリゴが感想を述べた。

そして食後のほうじ茶。

「うーん、砂糖も入れないのに感じるほのかな甘味、渋み、それに香ばしい香り。気に入ったよ!」

「まったくまったく。故郷の味、クゥヘもいいですが、こういう素朴な味わいも格別です」

どこかの料理評論家みたいなコメントをしつつ、マルシアとロドリゴはお茶を味わっていた。

仁も、和食を気に入ってもらえてほっとしている。

「はは、気に入ってもらえて何より。まあ今夜はこのあと温泉に入ってもらい、ゆっくり休んで下さい。明日、明るくなったら色々見せたいものもありますから」

浴室。

「うわあ、これはただのお湯じゃないね! 気持ちいいよ!」

「……」

一緒に入っているエルザは、マルシアとの差に、分かってはいても打ちのめされていた。

「ジン殿、『温泉』といいましたか。地の底からこんなお湯が湧くものなんですね!」

ロドリゴは頭にタオルを乗せ、湯船でくつろいでいる。完全におっさんである。

寝室。

「うーん、床に寝るというのは斬新だね。それだけ清潔な床なんだな!」

「それにこのふかふかな布団。素材も素晴らしいな」

畳敷きの部屋と 魔絹(マギシルク) の布団を、彼等も気に入ったようである。

* * *

「陛下、城下にある『ラグラン商会』という商店なのですが」

クライン王国では、セルロア王国の建国記念式典に持参する贈り物に関し、まだ議論が続けられていた。

「ラグラン商会?」

「は。ここ1、2年で大きくなった新興商会なのですが。なんと、カイナ村と取り引きをしているとか」

そう報告したのは、密かなる反逆を企てたデライト・ドムス・ハンクスの後釜に座ったジャクソン・レッド・バドス産業相。

「何だと?」

大声を出しのはクラロト・バドス・ケーリス魔法相。

「カイナ村と言えば、『崑崙君』、ジン・ニドー卿のいる村ではないか!」

「そのとおりです。かの商会は、ジン・ニドー卿がまだ一般人であった時からの付き合いだそうで、彼の作った道具や魔導具を半ば独占的に取り扱っておるのです」

「独占的に、か……」

何か言いかけた魔法相だが、宰相パウエル・ダーナー・ハドソンが先に発言する。

「独占を禁止する、とか、優遇されていることをとやかく言う、等の愚行は避けるように。かのワルター伯の二の舞は演じてくれるなよ」

「わ、わかっております」

「それでですね」

ジャクソン産業相の発言が続く。

「私が独自に調査した結果、『金属製ペン』『ゴムボール』『魔導コンロ』などの独自製品がありましてですね。特に、この『金属製ペン』は皆さんもお使いになっています」

「おお、このペンはそこから入手したものであったか」

王城内でも金属製ペンが普及していたのだが、入手ルートについては誰も気にしていなかったようだ。

「……敢えて言わせていただきますと、一見些事に見えるそうした日常の変化にも気を配って欲しいですね」

あって当たり前、という意識では、進歩がない、と遠回しに言う産業相。36歳と、閣僚としてはまだ若いが、言うときは言うようだ。

「……うむ。ジン・ニドー卿の作となれば、セルロア王国にはないことは明白。『金属製ペン』も候補に挙げておくとしよう」

「……若干見劣りがしそうですが」

ぼそりと一言口にしたのは魔法相。便利なことは間違いないが、国から国への贈り物としては、という意味である。

「時間があれば、これは青銅でできているようだが、銀や金、ミスリルなどで作らせたらいいのではないかな?」

と宰相が言う。それには国王アロイス3世も頷かざるを得なかった。

「うむ、……あと10日程しか時間が残されておらず、特注は難しそうであるのが残念であるな」

「と、なりますと……」

「ジン・ニドー卿の作なら、万能ゴーレムはいかがでしょう?」

20体を作ってもらい、そのうち10体はイナド鉱山から 巨大百足(ギガントピーダー) が現れた時に失われてしまっていた。つまり残りは10体。

「うむ……。確かに、あれならばセルロア王国製のゴーレムにも引けは取るまいが……」

いかにも惜しい、という顔の国王を見て、今まで黙っていたファダス・ロフス・フェアグラム防衛相が口を開く。

「僭越ながら申し上げます。陛下、リースヒェン殿下のところに、 古代遺物(アーティファクト) とはいかないまでも、出来の良い 自動人形(オートマタ) がございましたな?」

「おお、おったおった。リースヒェンの乳母役もしていた 自動人形(オートマタ) で、確かティアと言ったな」

「それを贈るというのはいかがでしょうか?」