軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-31 閑話43 飢饉、各国は……

3458年、1月の終わり。

前年秋に流行ったカビの害による、食糧不足がいよいよ顕在化してきていた。

〜ショウロ皇国〜

「乾燥剤の出荷は順調のようね」

手元の報告書を見つめながら、女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロは宰相に微笑みかけた。

「は、クライン王国とフランツ王国、それにエゲレア王国に輸出しておりまして、先頃エリアス王国からも引き合いが来たと聞いております」

宰相は手元の資料にちらと目をやってから答える。その答えに女皇帝は満足そうに頷く。

「食糧援助の方はどうなっているのかしら?」

「は、我が国にも、それほど潤沢な備蓄があるわけではないのですが、小麦100トン、大麦100トンを送り出しています」

1人あたり、小麦で言うと年間150キロくらいを消費するから、月に直せば12.5キロ。大麦小麦併せて、16000人を1ヵ月養える量である。

「そのくらいが限界ね」

「はい。エリアス王国などからも援助物資が出ているそうですからな」

〜エリアス王国〜

「トポポ100トンを援助物資として放出せよ」

エリアス王国国王、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世は、直々にフィレンツィアーノ侯爵に命を下した。

これにより8000人が1ヵ月間、飢えずにすむ。節約すれば1万人が助かるだろう。

「は、早速手配いたします。その他、『干し魚』の増産に入っており、こちらも順次出荷できるかと思われます」

「うむ、ご苦労」

穀類と違い、海産資源は短期間でかなりの増産を見込める。

干し魚は日保ちもするので好都合。この他、塩漬けも同時に生産する予定だ。

カビの害とは無縁であったエリアス王国は、小群国内の飢饉を回避すべく尽力していた。

〜エゲレア王国〜

「我が国の状況はどうであるか?」

隣国、セルロア王国のリーバス地方では、飢饉といかないまでも、食糧不足が発生していることを聞いたエゲレア王国国王、ハロルド・ルアン・オートクレース=エゲレアは、ウィリアム内務相に質問をした。顔つきが若干険しい。

「はっ、まったく問題なし、とは言えませんが、不足しているのは北部地方のみです。南部では問題なく、若干の余剰も出ていますので、北部への援助を行うべく手配しております」

その答えに国王は安心し、険しかった顔も少し緩んだ。

「我が国内では飢饉の心配はないと言うことでいいのだな?」

「は、陛下」

〜フランツ王国〜

「何とかせよ!」

会議室に、国王リジョウン・ド・バークリーの声が響いた。

リジョウンは体重89キロに対し、身長170センチ。明らかに不健康な横幅である。

「陛下、そう仰いましても、セルロア王国からの要請を断ることはできませぬ」

「うぬぬ……」

先日、小麦500トンを寄越せ、という命令が届いたのだ。

ここフランツ王国でもカビの害は発生しており、このままでは国民の大半が軽い飢餓状態になることは目に見えていた。

が、小麦の収穫期である6月まで耐えれば、何とか大きな被害を出さずにしのげるはず……であったのだが、500トンの小麦をセルロア王国に送ってしまえば、その目算は根底から崩れてしまうのである。

500トンといえば、1万人が4ヵ月……2月、3月、4月、5月をしのげる量である。それを奪われては、大きな被害が出ることは間違いなかった。

今でさえ、農民の大半は小麦や大麦を口にすることはできずに、野草や木の実を探して糊口を凌いでいた。

それでさえ、この先どこまで保つのかわからない。

〜クライン王国〜

「乾燥剤の効果は出ております。導入以降、カビ害は発生しておりません」

「おお、そうか」

「加えて、かの『除湿器』の効果は大きいです。地方へは乾燥剤、首都近郊では除湿器と、使い分けております」

「ふむ、それはいい知らせだな」

クライン王国王城内でも、飢饉を未然に防ぐべく、連日会議が行われていた。

「エリアス王国から援助物資が送られてくるそうです」

「うむ。それについては、レナード王国を通る仮街道が開通したのは大きいな」

セルロア王国を経由せずにクライン王国とエゲレア王国を結ぶ街道。それは2国間に大きな利益をもたらすであろう。

そして早速、こうした物流に役立っている。

「ぎりぎりで足りるかどうか、といったところか……」

国王、アロイス3世の顔色は冴えない。

「は、しかし、各国の援助がなければ、間違いなく飢饉となっていたでありましょう」

「うむ。……これを教訓とせねばな」

〜セルロア王国〜

「ふむ、王都近郊の飢饉は回避されたのだな、良くやった」

「は、ありがたきお言葉」

食糧庁長官、クヌート・アモントは国王リシャールから褒詞をもらっていた。

だが、首都エサイアから遠く離れたところほど、国民の怨嗟の声は高まっていたのである。

* * *

「……もう喰うものが無い……」

「だからといって種にまで手を付けるわけにはいかぬ……」

「とはいえ、このままでは飢え死にだ……」

ここリーバス地方西部のイリゴ村は危機に瀕していた。放牧で暮らしている東部と違い、農村だったからである。

食べられるものは草の根、木の皮まで食べ尽くしてしまっていた。

「村長! 何かやってくるぞ!」

村の入口を守る自警団が慌ててやって来た。

「何? 国はこれ以上我等から奪っていく気か……」

絶望が広がる村内。

村民は家の中でじっと息をひそめる。村長以下、数名の者だけが村の入口に立ち、近付いてくる隊列を睨み付けていた。が。

「な、何だ?」

近付いて来たのは、ゴーレムが引っ張る荷車。それが数十台。

先頭は、馬に跨った金色の髪の少女。少女は比べようがないほど美しい顔立ちをしていた。

「イリゴ村の皆さん、私たちは『 懐古党(ノスタルギア) 』です。少しですが食糧を持って来ました」

「な、なんですと!?」

「小麦は無理なので干し肉、干し魚が主ですが、暫くはしのげるでしょう」

「お、おお! ありがとうございます!!」

干し肉、干し魚、それに乾燥野菜と新鮮な果物。

180人ほどの村人が1ヵ月暮らせる量があった。

「ありがとう、ありがとうございます……!」

『 懐古党(ノスタルギア) 』はこうして、危機に瀕した村々に食糧の援助を行っていった。

これにより、辛うじてではあるが、セルロア王国内で飢え死にする者は出ずに済みそうである。

〜蓬莱島〜

『小麦の備蓄が200トンになりましたか、あと一歩ですね』

老君は農産物の生産量と備蓄を比較し、管理している。

蓬莱島では1年を通じ、連作が可能で、しかも 自由魔力素(エーテル) の効果なのか、連作障害が起きない。

そのため、あと3ヵ月もすれば、小麦の備蓄が一桁増える予定なのである。

更に、ソバの備蓄も、あと2ヵ月で1000トンに達する予定。

これらは、飢饉の可能性が生じてから打った、増産計画の賜物。

もちろん、慈善事業ではないのでそれなりの代償と引き替えに、各国へ援助する予定だ。

『それまでなんとか持ちこたえてもらわなければ』

海産物も含めた援助を、 懐古党(ノスタルギア) を通じて計画している老君。

『全ては、 御主人様(マイロード) の平穏のために』

ぎりぎりの綱渡りだが、なんとかなりそうな見通しがつき、老君もほっとする。

蓬莱島の空は今日も青く晴れていた。