軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-29 一足早い春

「ラインハルト、ベルチェ、おめでとう!」

仁たちは、ラインハルトの家、『 蔦の館(ランケンハオス) 』に集まっていた。

ベルチェ懐妊のお祝いにである。

「ライ兄、ベルチェさん、おめでとうございます」

「ありがとう、エルザ」

エルザと仁は、お祝い、というわけでもないが、蓬莱島産のペルシカとシトラン、それにラモンを持って来ていた。

ペルシカは栄養があるし、シトランとラモンは妊娠初期に酸っぱいものが食べたくなるだろうという配慮からである。

「ラインハルト、おめでとう」

「サキ、ありがとう」

この日は、仁ファミリーのほとんどが集まっていた。

「ラインハルト殿、おめでとうございます」

「トアさん、ありがとう」

「ベルチェ様、おめでとうございます」

「ミーネさん、ありがとうございます」

みんなみんな、ラインハルトとベルチェにおめでとうを言っていく。

「ラインハルト君、おめでとう。奥さんを大事にしてあげなきゃ駄目よ」

「うん、ステアリーナ、ありがとう」

「ベルチェさん、おめでとうございます。でも、もう仕事しちゃ駄目ですよ。美味しいもの食べて、適度に身体を動かすのはいいけれど」

「はい、ヴィヴィアンさん、ありがとうございます」

ヴィヴィアンは語り部だけあって、母体を大事にしなければならないことをよく聞いており、それをアドバイスしていた。

「では、ラインハルトとベルチェの将来を祝って、乾杯」

「乾杯!」

「乾杯!」

仁が音頭を取って、夕食会が始まった。

皆、見知った顔ぶればかりなので、気楽に食べ、気楽に話を交わしながらの会食だ。

「だいたい、3ヵ月と言ったところ。え、と、安定期? に入るまでは気を付けて」

サリィ・ミレスハンに聞いてきた知識を披露するエルザ。一方仁は、

「ベルチェは安産型だから安心するといいよ」

などと、一歩間違えるとセクハラになりそうなセリフを言っている。尤も、この世界にセクハラという概念は無いが。

「安産型、って何ですの?」

ベルチェが問い返した。当然の疑問である。

「えーと、骨盤が大きくてしっかりしているから……」

実は仁もよくは知らない。単にお尻が大きい女性を安産型、と周りが呼んでいたから知っているだけだ。

「確かに、腰回りがしっかりしているとお産が楽だと言いますね」

ヴィヴィアンが補足した。さすがに色々なことを聞いてよく知っている。

「……モーリッツ兄様と私はお祖母様似だって聞いたことがある」

2人とも華奢で、線が細い感じがするところが似ている。一方、次男のフリッツやエルザの父はがっしりしているのだ。

ベルチェは身長150センチ、エルザより10センチも低いのに、尻回りは85センチ以上。エルザは82センチである。

「ジン、エルザを見てやれ」

仁が安産型などと口走ってから、明らかにエルザの様子が沈んでいるのに気が付いたラインハルトがそっと仁に忠告した。

いくら仁が鈍くても、その忠告の意味が分からないと言うことはない。

だが、何と声を掛ければいいのか、悩む仁。そんな時であった。

「この場を借りて、皆さんに聞いて欲しいことがあります」

トアの発言。意図的なものなのか、そうではないのか。

皆、そちらへ注目した。

「えー、私とステアリーナは結婚します」

「おお!」

「やっと!」

「おめでとうございます!」

「……お幸せに」

エルザも顔を上げ、祝福の言葉を掛けているので仁は少なからずほっとした。

「先日、義父であるテオデリック侯爵家には挨拶に行ってきまして、再婚の許可を得ました。このあと、国に届けを出します」

亡命者であるステアリーナとの婚姻であるので、無断でとはいかないわけだ。が、ステアリーナもこれで、亡命者でなしに、ショウロ皇国籍を手に入れることができることになる。

「それでしたら、あとで俺が『コンロン2』で 宮城(きゅうじょう) へ送りますよ」

仁はアポイントなしで 宮城(きゅうじょう) を訪れることができるから、ちょうどいい。

「ありがとう、ジン殿」

トアは頭を下げた。

「で、新居はどうするんですか?」

「私の家はそれなりに部屋があるので、一緒に暮らします」

「しばらくボクは蓬莱島や崑崙島にいるからね。新婚さんのお邪魔をしては悪いしさ」

サキは悪戯っぽく笑ってそう言った。トアとステアリーナはそれを聞いて少し照れている。

「ああ、そうそう。アアルは置いていくから、用事があったら言いつけてやって」

トアも家事には疎い。サキは言わずもがなだが、崑崙島や蓬莱島にいる限りはそちらの心配はいらない。

「ああ、ありがとう」

「くふ、今度は弟が欲しいかな」

「なっ……」

突然のサキからの言葉に、顔を赤くして固まってしまうトア。

「父さん、ステアリーナさんを幸せにしてあげてよ。ああ、……もう『母さん』と呼んだ方がいいのかな?」

「サ、サキさん」

ステアリーナも顔を赤らめている。が、2人とも幸せそうだ。

そんな2人を見つめているエルザの隣に、仁はさりげなく座った。

「……ジン兄?」

「焦らず、ゆっくり行こう」

仁はそれだけを言って、エルザの肩を抱いた。

不意のことにエルザはびっくりして身体を硬くしたが、すぐに力を抜き、仁にもたれかかった。

その様子を見たラインハルトは少し苦笑気味に微笑み、実母ミーネは柔らかな笑みを浮かべた。

* * *

翌日、仁は『コンロン2』にトアとステアリーナ、それに礼子とエルザを乗せ、ショウロ皇国 宮城(きゅうじょう) へ向かった。

アポイント無しで訪問できる仁の特権行使である。とはいえ、そうしょっちゅう行使しているわけではないので、業務への割り込みは目を瞑ってもらいたい仁であった。

30分ほど待たされたあと、宰相と女皇帝にお目通りが叶った。

「ジン君、今日は何かしら?」

すっかりフランクになった皇帝陛下。

「はい、今日は、友人のトアさんとステアリーナさんが結婚するというので、お許しを得るためにまいりました」

どんな反応が返ってくるか、少し緊張する仁たちだったが、

「まあ、そうなのですか。おめでとう!」

女皇帝の反応は祝福の言葉であった。

「ステアリーナさん、我が国としても、ステアリーナさんのような優秀な人材を国民にすることができてこんな嬉しいことはないわ。ショウロ皇国の国民として、末永くお願いしますね」

「は、はい、精一杯努力いたします」

少し固くなって答えるステアリーナであった。

「トア殿、お幸せにね」

「はい、ありがとうございます!」

トアに対しては短い言葉であったが、それでも女皇帝の思いは通じたようだ。

宰相は、ステアリーナがトアの妻となる事で、外国人登録者から国民になることを証明する書類を発行してくれた。

「それでは、わざわざありがとうございました」

「ありがとうございました」

「いいえ、お幸せにね」

謁見は割り込みによる短い時間であったが、これでトアとステアリーナは書類上も夫婦となる事ができた。

一旦、ロイザートの館に『コンロン2』を着けた仁。

「どうする? すぐにバンネへ帰るかい?」

館でお茶を飲んで一息つきながら仁が尋ねた。

「いや、せっかくだから……」

2人は仁に、ゆっくりと2人で短い旅行を楽しみながら家に戻る、と告げる。

対岸へ船で渡り、歩いても半日行程である。仁は笑って2人を送り出した。

「それじゃあジン君、また」

「ジン君、エルザさん、またね」

2人は仁とエルザが見送る中、ロイザートの街中へと、腕を組んで歩き出したのであった。

「……」

仁は何も言わずにエルザの肩を抱いた。

吹く風はまだ冷たかったが、お互いの温もりを感じているトアとステアリーナ、そして仁とエルザは寒くはなかった。

ロイザートの空は今日も青く澄んでおり、少しずつ強くなってくる日射しは、春がもう遠くないことを感じさせていた。