軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-27 練習する礼子

「え? 俺に?」

サキが広げて見せてくれたベスト。色は黒く染められており、落ち着いた雰囲気だった。

「ほら、ここを見ておくれよ。ミスリル銀で裏打ちしてあって、魔力をより効率良く循環させるようになっているんだ」

サキとエルザからの説明によれば、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革だけでは、魔力を込めた時の方向性が決まらない。電気で例えるなら静電気が溜まっているようなもの。

そこでサキは、部分的に切れ込みを入れたり、ミスリル銀の裏打ちを入れることで、何もしなくても魔力が循環するように構成したようだ。

こうすることで、着ている者の余剰魔力……意識せずに漏れ出している魔力を効率良く巡らせて、強靱さを増そうというのであった。

「ふうん、すごいじゃないか!」

図らずも、仁と似たような理論を構築し、独自の解決法を見出していたのである。

「だろう? 裏打ちの形と場所は悩んだけど、ようやくこの形に落ち着いたのさ」

早速袖を通してみる仁。大きさはちょうど良い。しかも今までのものよりも軽い。

「ああ、これはいいな。さすがだよ、サキ、エルザ」

「ん、気に入ってもらえたら、嬉しい」

今まで着ていた魔獣の革より更に数段上の防御力を誇る素材だ。

「しかし、そうなるとファミリーみんなの分も作りたいな。目立たない範囲で」

「そうだね。それはボクとエルザで考えて見るよ。場合によっては他のメンバーにも助っ人を頼んでさ」

デザインなどはステアリーナが秀でている。

「ああ、それはいいな。是非頼むよ」

こうして、仁ファミリー専用の服が作られていくことになった。

* * *

さて翌朝、仁と礼子はペガサス1で旧レナード王国にやって来ていた。上空にはバックアップのため『ファルコン』1から5が地上を監視している。

仁たちがいるのは、周囲に集落のない場所。つまり目撃者がいないような場所を選んでいる。

「よし、礼子、路面に『 舗装(ハーデン) 』を掛けてみろ」

「はい、お父さま。『 舗装(ハーデン) 』」

工学魔法『 舗装(ハーデン) 』は仁オリジナルだ。舗装したかのように道路を固めることができる。

『ゴリアス』が踏み固めた街道の弱そうな部分を補強しようとした仁であった。

その『 舗装(ハーデン) 』により、50メートルほどが一気に固められた。

「うーん、まだちょっと制御が甘いな」

仁の目から見て、魔力制御の精密度にはまだ不満があった。

「はい、済みません」

「謝らなくていい。もう一度だ」

「はい」

仁と礼子は移動しつつ練習を繰り返す。

10回ほど行うと、礼子は次第に慣れていき、20回に達した頃には、自由自在に『 舗装(ハーデン) 』を操れるようになった。

「うーん、いい感じだ。もっと移動するぞ」

こうして、事前に調べさせておいた、街道の脆弱な部分を補強しながら移動していく。

「さて、ここはちょっと違う場所だ」

今、仁たちがいるのは岩場である。

本来ならば『切り通し』もしくは『隧道』を付けるべき地形だ。

それまでほぼ水平に辿っていた街道の前に巨大な岩が立ち塞がっている。

街道は、岩場を避けるように迂回し、非常に歩きづらい。よくまあ『ゴリアス』が通過できたと思うような 隘路(あいろ) も何カ所か。

「さっき説明したように、ここに切り通しを作る。礼子、やってみろ」

「はい、お父さま」

今度は、向上した身体能力の見せ所だ。

日常生活レベルのパワーには慣れたが、戦闘時のパワー制御にはまだまだ不安が残っている。

「では……行きます!」

地を蹴った礼子は、眼前の岩壁に突撃し、拳打を一発放った。

「あ」

「あっ」

その拳打の衝撃で、20メートルほどの高さに聳えていた岩壁はひび割れ、崩壊したのである。

轟音と共に崩れ落ちる岩壁。もうもうと砂埃が上がっている。

「……も、申し訳ない結果になってしまいました……」

小さくなる礼子。だが仁は優しく宥める。

「いいから。そのための訓練でもあるんだ。次はもっと気を付ければいい」

「はい」

崩壊した岩壁は瓦礫を片付け、平らに均し、街道を通した。

「……まあ、結果的にはちゃんと通りやすくなったからな」

道を塞いでいた岩がなくなったため、真っ直ぐに道を通す事ができたのである。

似たような場所はまだ数箇所あり、2箇所目で早くも礼子は力加減を覚えたようだ。

「はっ!」

連続で放たれる拳打は、岩の特定部位のみを破壊していく。

飛び散る岩屑。10分足らずで、礼子は厚さ10メートルの岩盤をえぐり取ることに成功していた。

かつて仁を捜して流離った際、砂漠の岩に穴を穿つのに半日ほど掛かったが、今回は10分足らず。

力とその制御が向上した証である。

「お父さま、できました」

「うん、すごいぞ。よくやった」

仁に褒められ、礼子は嬉しそうに微笑んだ。

同様の箇所を3箇所、切り通しにして道を通し、力の制御もこれで大丈夫、と仁は礼子を労った。その時、繁みが揺れる音が聞こえた。

「ん?」

その物音に振り向いた仁。現れたのは 牙猪(サーベルボア) 。何かに興奮しているのか、仁たち目掛けて突進してきた。

「止まりなさい」

礼子が進み出、 牙猪(サーベルボア) の鼻面に軽い一撃を加える。それだけで 牙猪(サーベルボア) は絶命した。

「見事だ、礼子」

強すぎず弱すぎず。今日1日で、力の使い方に習熟した礼子である。

「この 牙猪(サーベルボア) は持ち帰ってみんなで食べようか」

言わば野生の猪であるから、十分食用になる。無益な殺生にしないためにも、有効活用しようと仁は思った。

「お父さま、それはいいのですが、この 牙猪(サーベルボア) を追って何かが来ます」

「ん?」

牙猪(サーベルボア) を興奮させたその『何か』が姿を現したのは1分後だった。

「『 装甲亀(アーマータートル) 』か」

装甲亀(アーマータートル) は岩場に棲む陸生亀である。硬い甲羅は細工に使われ、全長1メートル。

草食だが、怒ると突進して攻撃してくる習性がある。その速度は、時には時速50キロにもなる。その上全身が硬いため、 牙猪(サーベルボア) でさえ逃げてしまうのだ。

「だが、あれは……ちょっとおかしいぞ?」

全長は2メートルを超え、頭部には普通の 装甲亀(アーマータートル) には無い突起が生えていた。

「魔物でしょうか?」

「様子を見よう」

仁と礼子はペガサス1に乗り、上空に舞い上がった。様子見に徹する仁。

見ていると、時速20キロほどで走ってきたその 装甲亀(アーマータートル) は足を止め、礼子が倒した 牙猪(サーベルボア) の肉を食べ始めたではないか。

「何だって!? 装甲亀(アーマータートル) は草食のはずだろう?」

「お父さま、似ていますが、違う生き物……魔物のようです」

魔力を調べていた礼子。どうやら新種、あるいは突然変異した魔物らしい。

「どうしますか?」

「うーん、俺たちには害がないから放っておいてもいいんだが……」

20キロほど先には人が住んでいる集落があるのだ。『 装甲亀(アーマータートル) 』の進行方向が変わらないと、その集落に行き着く可能性は大きい。

「もう少しだけ様子を見よう」

そこで仁は折衷案として、あと少しだけ観察することにした。

その『 装甲亀(アーマータートル) 』は5分ほどで 牙猪(サーベルボア) を骨まで食べ尽くすと、行進を再開した。進行方向は集落方面。

「追いかけてみよう」

ペガサス1は時速30キロほどで進む 装甲亀(アーマータートル) を追った。

「あの 装甲亀(アーマータートル) ……いや、『 装甲魔亀(アーマーモンスタートル) 』と呼ぶか」

仁がいつもの調子で命名した。

「 装甲魔亀(アーマーモンスタートル) はやはり肉食だな。しかも凶暴だ」

足も速く、途中見つけた 山鹿(マウンテンディアー) を3頭、瞬殺して腹に収めている。生態系も崩してしまいそうな勢いだ。

「退治した方が良さそうだな」

集落まで10キロ、半分以上近付いている。

「わかりました」

仁に皆まで言わせず、礼子はペガサス1から飛び降りた。

50メートルほどの高さからではあるが、 力場発生器(フォースジェネレーター) を使い、ふわりと着地。

「貴方に怨みはありませんが、周囲の生き物の迷惑になります」

言い聞かせるように一言呟いた礼子は、右手の人差し指を 装甲魔亀(アーマーモンスタートル) に突き付け、

「『 光束(レーザー) 』」

髪の毛ほどの細さのレーザー光を放った。

それは過たず、 装甲魔亀(アーマーモンスタートル) の頭部から尾までを貫き、瞬時に絶命させたのである。

上空から一部始終を見ていた仁は、礼子の仕上がりに大満足であった。

装甲魔亀(アーマーモンスタートル) はこういう時のための転送銃を使い、蓬莱島に送る。色々研究し、素材として利用するためである。

どうしてこのような魔物が出てきたのかは老君主導で調査させることにした。

そうして仁と礼子、それにファルコン部隊は蓬莱島に帰還したのである。