作品タイトル不明
22-26 応用
結論からいうと、『 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革が外に魔力を漏らさない』、ということは事実であった。
魔力・魔法との親和性が良すぎ、また容量が大きすぎるため、礼子の体内からは検知できるほどの魔力が漏れていなかったのである。
「うーん、普通はこの100倍くらいは漏れ出ているはずなんだがな」
それだけ魔力の運用効率が良いとも言えるのだが。
「待てよ? もしかして……」
ふと思いついたことを確認しに、仁は礼子を連れて窓辺に行った。
「礼子、何か魔法……そうだな、『 光の玉(ライトボール) 』でいい。外に向けて放ってみてくれ」
「はい、わかりました」
仁の指示に頷いた礼子は右腕を伸ばし、詠唱を行う。
「『 光の玉(ライトボール) 』……!?」
「うあおっ」
もう一つ太陽が、というと少々大袈裟だが、そう形容したくなるほどに途轍もなく明るい 光の玉(ライトボール) が放たれた。
「お、お父さま、申し訳……!!」
仁を驚かせてしまったことに恐縮する礼子。だが仁は怒ってはいなかった。目を押さえつつ考え込んでいる。
「うーん……精神波は魔力波と同じだ……だから 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革は精神波も漏らさないはず……しかし……」
仁はもう一つ、思い浮かんだ事を尋ねてみた。
「礼子、 自由魔力素(エーテル) の供給は、なされているか?」
精神波が 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革を透過できないなら、空間にある 自由魔力素(エーテル) も集められないのではないかと考えたのである。
「はい、まったく問題ありませんが?」
「そうか……うーん」
またしても考え込む仁。
「……確かに、革が 自由魔力素(エーテル) を通さないなら、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) も 自由魔力素(エーテル) 不足になるかもしれないか……」
呼吸によって取り込んだ空気に含まれている 自由魔力素(エーテル) だけであの巨体が支えられていると言うことも考えづらい。皮膚や体内の 魔力核(コア) でもエネルギーに変換しているのだろうと思われる。
そして、 自由魔力素(エーテル) は元々、陽子や中性子よりもずっと小さな粒子であると推測されている。つまり、強化された革でも透過することができる。
「『 自由魔力素(エーテル) 』を取り込むのには問題ないわけだ」
これは事実であるから、仁は取りあえず前提とすることにした。
「 竜革(ドラゴンレザー) の特性は、己の魔力波で制御できる……魔力波イコール精神波だから、自分の意志で調整できるのかも?」
そこまで推測した仁は、取りあえず検証してみることに。
「礼子、もう一度 光の玉(ライトボール) を放ってくれ」
「わかりました。……『 光の玉(ライトボール) 』」
「『 追跡(トレース) 』」
仁は、今度は光そのものを見つめることはせず、魔力の流れを追う。そしてわかったことは。
「ははあ……。皮膚が取り込んだ 自由魔力素(エーテル) が働いていたのか」
つまり、皮膚である 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革が、礼子の精神波に同期して 自由魔力素(エーテル) を取り込み、 魔力素(マナ) に変換し、魔法をブーストしていたのであった。
「これは調整が難しそうだな……」
最低威力の魔法が最大規模になってしまうと言うのは困りものである。
マッチの火が欲しいのに火炎放射器になってしまうようなもの、いやもっと酷いかもしれない。
物理攻撃主体の礼子とはいえ、これは 大事(おおごと) であった。
工学魔法をきちんと使えないと、仁の助手としての手伝いもできないということだ。礼子自身もそれがわかっており、不安そうな顔をしている。
『 御主人様(マイロード) 、1つずつ解決していくといいと思いますよ』
悩む仁に老君が助言を呈してきた。
「あ、ああ、そうだな。まずは……」
転移門(ワープゲート) に代表される個体認識である。
「何で 転移門(ワープゲート) を使えたんだ?」
今の礼子の身体からは、個体が識別できるほどの魔力は発せられていなかった。
「……ああ、ペンダントか」
礼子に首から下がるペンダント。 守護指輪(ガードリング) などの魔導具を作った際に、仁が併せて製作し、礼子に与えたものだ。
仁の魔力パターンを持っているから、図らずも礼子の認識票として働いたのである。
今、礼子の身体のうちで、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革に覆われていないところは目と口の中、それに鼻と耳の穴くらいである。
そこから漏れる程度では個体認識の魔導具に反応しないのだ。
「まあそっちは何とかなるだろうが……」
最悪、ペンダントのような魔導具を持てばよい。
問題は、魔法の威力制御である。
「意識的に皮膚からのブーストを抑えられるか?」
「はい、やってみます」
3 度(たび) 光の玉(ライトボール) を放つ礼子。
「おお、うまくいった」
今度は普通の 光の玉(ライトボール) が飛び出した。
「礼子、やればできるじゃないか」
だが、礼子は渋い顔。
「お父さま、制御がとても微妙です。咄嗟の場合には加減できそうもないと思われます」
「うーん、そうか……」
強すぎて困ることもあるのである。
「制御と言えば杖なんだが……」
魔導士が杖を使うのは、指向性・収束性を上げ、制御しやすくするためである。
掌などから直接魔法を発するのは、収束性・指向性があまり良くないのだ。
「と、なると、何か極のようなものがあればいいのかな?」
考えて見ると、その方がより効率がよさそうである。
仁は腕を真っ直ぐ伸ばしてみた。人差し指が目標を指す。その指先を見つめた仁に閃いたこと。
「爪、か!」
「お父さま?」
考え込んでいた仁が突然大声を上げたので、礼子が怪訝そうな顔をした。
「爪だよ、礼子。お前の爪を魔力の極にすれば、そこから魔法を放てるはずだ」
そう言って、仁は 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革を物色し始めた。
「あったあった。これを使えばいい」
端材の中から、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の脚と思われる部分を見つけた仁。
「ほら、この部分は厚くて硬い。これを爪に使おう」
爪は、内側で指先の骨と接続され、魔法を放つ極となる。
念のために足の爪も同様に改良した。
「どうだ、礼子?」
「はい、試してみます」
そう言うと礼子は窓から手を伸ばし、魔法を放った。
「『 光の玉(ライトボール) 』」
普通の 光の玉(ライトボール) が放たれる。
「お父さま、むしろ今までより楽にできるようになりました!」
「じゃあ、成功だな」
「はい、これは凄いです」
その後、いろいろ試して見た結果、1箇所でも『極』があれば、魔法の威力制御は楽にできることがわかった。
「つまり今までは、制御するための精神波が皮膚全体に拡散してしまうから制御が難しかった。が、発動の極があればそこに集中すればいいから楽に制御できる、とこういうことだな」
これで仁はほっとした。
「あとはその制御に慣れるため、少し練習するか」
考えた後、礼子に向かって仁が言った。
「お父さま、練習、ですか?」
「そうだ。要は制御データを蓄えるわけだな」
『 御主人様(マイロード) 、何かお考えが?』
老君も仁の真意を測りかねたようだ。
「ああ、クライン王国とエゲレア王国を結ぶ街道が旧レナード王国に通ったろう? あれをこっそり整備してやればいいかな、と思ってさ」
仁が懇意にしているクライン王国、エゲレア王国に利益が上がり、敵対とまではいかずとも、あまりいい印象のないセルロア王国を牽制できるわけだ。
「それに、カイナ村からも将来的に行けるようにしたいしな」
『なるほど、慈善事業というわけでもないのですね。それでしたらよろしいのではないでしょうか』
「よし、明日の朝行ってみよう」
気が付けば、もう日が沈む時刻。
そこへサキとエルザもやって来た。手には何かを持っているところを見ると、2人で何か作っていたようだ。
「やあジン、こっちにいたのか。何かやっていたのかい?」
「うん、実はな……」
仁は2人に、かいつまんで説明をした。
「……確かに、その理論は理解、できる」
「ふうん、そんな弊害が……」
「……だからサキ姉、ジン兄に相談した方がいいって言ったのに」
「くふ、いいじゃないか。自分で考えることに意義があるんだよ!」
そんなことを言い合っている2人に仁からの質問が飛ぶ。
「そう言えば、2人は何をやっていたんだ?」
その質問に直接は答えず、サキは手にしたものを広げて見せた。
「これを見ておくれよ」
それは革製のベストであった。そしてその材質は。
「 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革……か」
「くふ、そうさ! ボクがアイデアを出して、エルザが作ったんだ。ジンへのプレゼントだよ」