軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-25 一段落、でも心配事が

礼子の改造を終えた仁は、翌日には次の懸案事項に取りかかった。

「さて、 凍結竜(フロストドラゴン) の素材はどうなっているかな?」

そう、偶然とはいえ、手に入れた 凍結竜(フロストドラゴン) である。

『はい、 御主人様(マイロード) 。解析及び素材への展開は終了しております』

「おお、そうか」

「くふ、楽しみだね」

「ん、興味深い」

仁、エルザ、サキの3人は研究所裏に臨時に設けられた素材置き場へ向かう。

テントで覆われたそこには既に礼子が待っていた。

「お父さま、これが素材と、 凍結竜(フロストドラゴン) の剥製だそうです」

「うおっ!?」

そこには体長20メートルほどの 凍結竜(フロストドラゴン) 、その剥製が立っていた。

「皮は 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) や 海竜(シードラゴン) のものよりは弱いので剥製にしたそうです」

老君に代わって礼子が説明してくれる。

「骨と牙は丈夫ですので素材として使えます。どちらかというと象牙に近いかと」

そちらは綺麗に分類され、積み上げられていた。

仁は、お世話になった施設(孤児院)の院長先生が持っていた象牙の実印を見せてもらったことがある。気品のある質感であった。

「 自由魔力素(エーテル) を主食にしているためか、肉は食用になりそうもありません。ですが、まだ解析が終了していないので 魔力庫(エーテルストッカー) に保存してあります」

魔力庫(エーテルストッカー) では、魔力系素材の半永久的保存が可能。ゆっくりと解析していけばいい。

「内臓類も 魔力庫(エーテルストッカー) で保存していますが、解析なさいますか?」

「……うーん、どうするかなあ……」

仁は生物学者ではないし、解剖関係もしたことはない。理科の授業でもやったことはなかった。

「ただ捨てるというのももったいないし……。とりあえず保留しておこう」

こうして、使える素材、使えない素材、保留の素材、と分類し、あるものはストックし、またあるものは研究に供することとなった。

サキが興味を持ったのは牙である。

「最強の生物素材と言われる 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻を噛み砕くんだからねえ」

だが、仁がそれに反論。

「いや、サキが言ったんじゃないか、『ボクでも引きちぎれそうだ』って。……魔力の通っていない抜け殻だから容易に噛み砕けるんだよ」

「くふ、そうだったね。だとすると、同様に抜け殻だから消化できるんだろうね」

「そうなるな」

ここでエルザが発言した。

「…… 凍結竜(フロストドラゴン) は何のために 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻を食べるの?」

「うーん、何でだろうな?」

古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) や 凍結竜(フロストドラゴン) の生態については分からないこと方が多い。

「700672号なら何か知って……あ、そうだ」

「ジン、何か分かったのかい?」

「いや、そうじゃない。700672号に、抜け殻が見つかったという報告とお礼をしてないことに気が付いたんだ」

「ああ、そうか。それは義理が立たないよね」

「ん、行くべき」

「そうだよな……よし!」

礼子の改造も終わったことだし、これから行ってくる、と仁は言った。

「行ってらっしゃい、ジン兄」

「ボクは研究しているからね!」

* * *

「ほう、見事に手に入れたわけだな。重畳重畳」

礼子を連れて700672号の下を訪れた仁は、探査行の顛末を簡単に説明し、使い方を詳細に述べた。

「ふむ、見事だな。素晴らしい出来だ」

礼子を見た700672号は褒め称えた。

「魔力を循環させることで 不壊(ふえ) の皮膚となる。加えて、筋肉にも使い、骨格にも使ったと? その発想やよし。吾にも思いつけなかった」

照れた仁は話題を変えた。

「 凍結竜(フロストドラゴン) の死骸を偶然見つけて持ち帰ったんです。今研究中ですよ」

「ほう、それは運がいいな。北の地に棲む魔物、とりわけドラゴン種は、強力な魔物にしては例外的に、 自由魔力素(エーテル) だけで生きられるのだ」

下等な物は 自由魔力素(エーテル) のみで生きられる。高等な物は下等な魔物や動物、植物を喰らう、これが一般的な魔物の生態であった。

「とはいうものの、 凍結竜(フロストドラゴン) は 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻を食べるのは事実。食べて美味いのかもしれんが、それは吾にも分からんな」

700672号はそう言って微笑んだ。

「話を戻すと、そういった理由で、皮革に魔力を通すと強靱になるわけだが、筋肉も同じことが言える。ただし、保存性が悪いため、ほとんど使いようがないのだ」

「なるほど……」

やはり、 凍結竜(フロストドラゴン) の肉は使い途が無いようである。原子に分解し、廃棄するのが1番のリサイクルかもしれない。

「だが、 凍結竜(フロストドラゴン) の使う冷気系の魔法だが、それを司る『 魔力核(コア) 』が喉元にあると思う。確保しておくべきだ」

「 魔力核(コア) …… 自由魔力素(エーテル) の結晶体みたいなものですね」

「うむ、そう言って差し支えないだろう。要は生物由来の 魔結晶(マギクリスタル) だ」

胆石や腎臓結石も、人間の体内でできた結晶だ。そちらは害になるが、 魔力核(コア) は役に立っている点が異なる、などと仁は考えていた。

それからは素材の談義になる。その際、700672号が思い掛けない贈り物をくれることになった。

「素材の物性を調べるなら、この試薬をあげよう」

そう言ってネージュに運ばせてきた小さなコンテナ。衣装箱くらいの大きさだ。

「酸やアルカリが入っている。劇物なので取り扱いには注意をな」

「ありがとうございます」

化学は仁の苦手分野である。こういった試薬を貰えるというのは正直、とてもありがたい。

この他にも幾つか技術的な言葉を交わし、仁は蓬莱島に戻ることにした。

「それでは、いろいろありがとうございました」

「うむ、気軽に寄ってくれると吾も嬉しい」

「レーコさん、またきてくださいね」

「ネージュさんも、あなたの父さまをお大事にね」

* * *

仁が蓬莱島に戻って見ると、サキが小躍りしてはしゃいでいるところだった。

「サキ、どうしたんだ?」

「あ、ジン! 見てくれよ、この 魔結晶(マギクリスタル) ! 凍結竜(フロストドラゴン) の中から出てきたんだ!」

サキが指差したのは、バスケットボール大の 魔結晶(マギクリスタル) 。 水石(アクアマリン) とも異なる、薄い水色を帯びた色合いだ。

「ああ、これが 凍結竜(フロストドラゴン) の 魔力核(コア) だな」

「え?」

「ジン兄、知ってるの?」

そこで仁は、700672号から聞いて来たばかりの知識を披露した。

「ふうん……これが主になって、あの途轍もない冷気を放つのか。納得だね」

「で、肉は使い途がないそうだから、腐らないうちに処分してしまおう」

「ん、それがいい」

こうして、 凍結竜(フロストドラゴン) 素材の取り扱いは決定したのである。

「それから、この試薬を貰ってきた」

仁はコンテナを指差した。

「老君に管理を任せる。サキも使っていいが、注意してくれよ? ものすごく危険な薬も入っているからな」

まずは老君に調べさせ、仁の知るものであればラベルを追加しておいてもらうこととした。

* * *

『 御主人様(マイロード) 、報告したいことが幾つかあります』

昼食後、お茶を飲んでくつろいでいる仁に老君が語りかけてきた。エルザとサキは2人して工房へ行ってしまっている。

「ん? 聞かせてくれ」

『はい。セルロア王国のここ数ヵ月の動向についてです』

「ふうん?」

『昨年の6月頃から、飛行船を作っていたようです。ショウロ皇国での技術博覧会で 御主人様(マイロード) が発表したことが切っ掛けになったようです』

「うん、それで?」

『昨年11月に60メートル級の飛行船を完成させ、量産に入っています』

「……まさかと思うが、気体は?」

『水素です』

仁は渋い顔をした。

かつて地球にも、ヒンデンブルク号という超大型飛行船があった。全長200メートルを超える大型飛行船だ。

それが、突然の爆発事故で墜落。豪華客船タイタニック号の沈没や、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故と共に、20世紀の重大事故の1つである。

今では、爆発の原因は水素ガスではなく、船体表面の酸化鉄・アルミニウム混合塗料(テルミットと同成分)に、静電気による火花で発火したとNASAが発表してはいる。

が、可燃性の気体であることに代わりはなく、その気嚢も麻と軟質魔導樹脂で、これも可燃性である。 地底蜘蛛樹脂(GSP) のように不燃性・耐熱性はない。

「……飛行船を見よう見まねで作ったことはいいが……」

事故があった場合のことを考えると、自分にも責任の一端があるのではと悩み出す仁である。

『 御主人様(マイロード) 、とはいえ、急激に発火するような素材ではないので、そこまで心配されることはないかと』

「まあ、な。酸化鉄・アルミニウム混合塗料などという危険物も使っていないようだし」

とりあえず、消火の魔導具開発だけはしておこう、と考える仁。

「それなら、どこの国でも役立てられるはずだからな」

『わかりました。それともう一つ、懸念事項が』

「ん? 何だ?」

『礼子さんのことです。先程 転移門(ワープゲート) を使いましたが、その時に、個体認識機構がギリギリでしか反応していませんでした』

「え?」

『もしや、『 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革』が魔力を外に漏らさないからでは?』

「何だって……」

もし、老君の説が正しいなら、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革を使うことに意外な欠点があったということである。

仁はさっそく検証に取りかかることにした。