軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-21 入手

「ご苦労だったな、礼子」

帰ってきた礼子を労う仁、その目は厳しい。礼子に不具合がないか、見つけ出そうという目である。

「それで、身体の方はどうだ?」

「……はい、正直、左半身に違和感があります」

マイナス250℃で凍らされてしまったのだから、何らかの影響が出ているだろうと仁は思い、そしてそれは当たっていた。かなりの不具合が見られる。

仁はチラと窓の外を見ながら礼子に言う。

「 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の脱皮にはもう少し掛かりそうだ。今のうちに整備してやるぞ」

「……お願い致します」

そこで仁は礼子を一旦停止し、診察を開始した。

「……酷いな」

超低温に曝された後、動作を試みた際に 魔法筋肉(マジカルマッスル) が断裂を起こしていたのである。

また、 海竜(シードラゴン) の翼膜で作られた皮膚も、弾力を失ってひび割れていた。

「とりあえず応急修理だ」

蓬莱島に戻ったら徹底的なオーバーホールをするつもりである。

まず筋肉。断裂していない部分は強化し、断裂している部分は工学魔法で接続する。

そして皮膚は、『 軟化(ソフトニング) 』と『 強靱化(タフン) 』を掛け、しばらく保たせることにする。15分ほどで作業は終わった。

「よし、これで通常動作は問題ないだろう。だが、出せてせいぜい10パーセントだからな。注意しろよ」

「はい、ありがとうございます」

起き上がった礼子は仁に礼を言った。

「ジン兄、外!」

ちょうどその時、エルザが叫んだ。仁は窓の外を見る。

「おおっ!……」

そこには、脱皮を終えた 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) が静かに佇んでいた。

静かに佇む 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) 。その体表は艶やかな象牙色に輝いていた。足元には脱いだばかりの抜け殻が。

「ランド1、ゆっくり後退しろ」

仁は、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) を刺激しないよう、後退を命じた。 凍結竜(フロストドラゴン) は近くにいないので安心だ。

力場発生器(フォースジェネレーター) を使えば、無音で移動できる。そのまま、2キロほど距離を取った。

いつの間にか空のほとんどは雲に覆われており、風花が舞い始めている。まるで 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の脱皮が終わるのを待っていたかのようだった。

雪が落ちてくると、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) はゆっくり歩きだし、20分ほどで視界から消えた。

「よし、急いで抜け殻を回収だ!」

応急修理された礼子と、操縦を担当していたランド1が外へ出た。

脱皮したばかりの抜け殻は予想以上に軟らかく、氷点下の寒さでも硬くなっていない。

そのため、礼子とランド1は10分足らずで抜け殻を小さく畳み、回収できたのである。

カプリコーン1後部の倉庫ハッチを開け、抜け殻を収納。

それを待っていたかのように、本格的に雪が落ちてきた。

大急ぎで戻った礼子とランド1。

2人は室内でたちまち霜の塊となった。

「『 加熱(ヒート) 』『 乾燥(ドライ) 』」

2人を温め、乾燥させる仁。

「お父さま、ありがとうございました」

「ご主人様、ありがとうございました」

「2人ともご苦労さん。無傷でいい素材が手に入った。上々の首尾だ」

仁も上機嫌である。その後ろではサキとエルザがにこにこしていた。

「ジン、おめでとう! 目的を達したわね」

「ああ、シオン、君やアレクタスのおかげだ」

「あたしなんて、何もしてないけど」

「そんなことないさ。シオンの勘のおかげで 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) を見つけたられたじゃないか」

そして仁はランド1に指示を出す。

「よし、急いで戻ろう。 力場発生器(フォースジェネレーター) 解禁だ」

「わかりました。まずは『福音』の氏族領ですね?」

「そうだ。急いでくれ」

抜け殻を見つけるまでは、地上をそれなりにゆっくり進む必要があったが、目的を達した今、そのような制約はない。

力場発生器(フォースジェネレーター) を使い、カプリコーン1は雪の上3メートルほどのところを、時速100キロで進み始めた。

まだ吹雪にはなっておらず、視界が利くうちに距離を稼いでおきたいのだ。

「は、速いわね……」

行きと帰りの速度差にシオンが目を見張る。

「くふ、早く帰っていろいろ試験もしたいね」

サキも顔には出さないが、内心わくわくしているようだ。

そんなサキの目に、違和感が映った。いや、風景に違和感を感じたのだ。

「ジン、悪いけどちょっとだけ止まってくれないか?」

「うん? わかった。ランド1、停止だ」

力場発生器(フォースジェネレーター) 駆動のため、揺れもなく、瞬時に停止。

「どうした? サキ」

「うん、ボクの気のせいでなければ、今通り過ぎた場所に何かがあった」

「何か?」

「うん、確認するには時間がなかったけどね。何か気になるんだ」

「わかった、ちょっと戻って見てみよう」

ということで、カプリコーン1は1キロほどバックした。

「お父さま、あそこに何かあります」

最も目のいい礼子がそれを見つけた。

カプリコーン1で近付いてみれば、それは 凍結竜(フロストドラゴン) だった。ただし、動かない。

大きさはかなり小さめ。先程転送銃で飛ばした個体ではなさそうだ。

「……死骸でしょうか? 魔力を感じられません」

死骸だとしたら、素材が採れるかもしれない。サキは目を輝かせ、仁を見つめる。

仁にはサキの気持ちがよくわかった。だが、この巨体をカプリコーン1で運ぶわけにはいかない。

「……転送銃、か」

転送先を蓬莱島に再調整し、送り出すことを仁は選んだ。

調整には30分ほどかかった。何せ、目的地を変えられるようにはできていない銃である。

いい加減な調整をしたら、せっかくの貴重な素材が駄目になってしまう。

「よし、これでいい」

礼子が外に出て、試しに適当な雪の塊を転送してみる。銃を作動させると、直径40メートルほどの半球型にすっぽりと雪が無くなった。

『 御主人様(マイロード) 、研究所前に雪の塊が』

すぐに老君から連絡が入る。上手くいったようだ。

「よし、今度は本番だ」

礼子は 凍結竜(フロストドラゴン) の死骸に狙いを付け、転送銃を作動させた。

『 御主人様(マイロード) 。 凍結竜(フロストドラゴン) と思われる素材、確かに送られて来ました』

老君の報告。

「これでよし。それじゃあそちらは頼む」

素材への展開は老君に任せ、仁たちは再度帰路についたのである。

カプリコーン1は、ツスル台地の高低差も、チカグワ湖も何のその、直線軌道で福音の氏族領を目指した。

2時間半ほど、夕暮れ前に福音の氏族領に到着できた。

「おお、ジン殿、無事目的を果たしてのご帰還、おめでとうございます!」

「ありがとうございます。運良く、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の脱皮場面に出会えたもので」

夕食を御馳走になりながら、会話に花が咲いた。

「ふむ、チカグワ湖を回り込み、ツスル台地へ行かれてからそんなことがあったのですな」

グランドラゴンの群れの話。

「冬にはそんな色になるとはな。初めて聞いた」

「 凍結竜(フロストドラゴン) は手強かったのですか」

「ほほう、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) はそんな色で、ふむふむ」

皆、訪れたこともなく、これから訪れることもないであろう地の話を興味深く聞いていた。

その夜も、仁たちはカプリコーン1の中で寝る。

福音の氏族、そしてシオンは慣れているのか、厚めの布団と毛布で十分らしいが、仁たちは室内気温が10℃を下回っている環境では寒いのである。

「……慣れ、だな」

「慣れ、だね」

「……慣れ」

「慣れなのかしら」

仁たちは半ば感心しつつ、シオンは自分のこととはいえよくわからないという反応だった。

とにかく4人はカプリコーン1の中で休んだのである。

翌朝も吹雪いていた。あの晴天は1月に1回か2回くらいしかない、貴重な雪の止み間だったようだ。

「それでは、お世話になりました」

「もう少しゆっくりしていって欲しかったのですが……」

「はは、早く帰って新素材でいろいろ試してみたいですし」

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ですなあ……」

「また来ますよ」

「ええ、お待ち申しております」

短いが、互いに心の籠もった言葉を交わし、仁たちはカプリコーン1に乗り込んだ。

福音の氏族達は、吹雪の中を歩き出すカプリコーン1の姿が見えなくなるまで見送っていた。