作品タイトル不明
22-22 開始!
1キロほど進んだところで、 力場発生器(フォースジェネレーター) を起動する。
そして時速100キロで進めば、午前中に森羅の氏族領に到着してしまった。
「……ジンの技術力はでたらめね」
半ば呆れ、半ば畏敬の念と共にシオンが呟いた。
このあたりまで南下すると、海沿いということもあって、雪の降り方も穏やかで、積雪量も少ない。
「あー、帰ってきたのね」
今日は2月4日、出発したのは1月の末日。4日ぶりということになる。
「なんだか、随分長いこと出掛けていたような気がするわ……」
しみじみとしたシオンのセリフ。短いが密度の濃い、いろいろあった4日間であった。
「お帰りなさい、シオン、ご無事でのお戻り、お喜び申し上げますわ、ジン様」
シオンの姉、イスタリスが出迎えに出てきてくれた。
「ジン様、ご無事のお帰り、お喜び申し上げる」
そしてシオンの父、ラデオゥスも出迎えてくれたのであった。
* * *
明けて2月5日、仁たちが蓬莱島に帰る日となった。
「ジン、また来てよね……」
「ああ、春になったらな」
「ジンしゃま、きっと来てください」
シオンやマリッカは仁との別れを惜しみ、
「ジン殿、エルザ殿、サキ殿、お元気で」
バルディウスやラデオゥスは仁たちの健勝を祈りつつ見送った。
「お世話になりました」
森羅の氏族たちと別れ、動き出すカプリコーン1。
ちらちらと舞い落ちる雪が視界を閉ざしていった。
「ああ、色々なことがあったな」
「くふ、楽しかったよ。勉強にもなった。ありがとう、ジン」
サキは満足げにシートにもたれている。
「……てっきり、ジン兄はシオンさんを連れてくる気かと思った」
エルザの疑問に、仁は正攻法の答えを返した。
「ああ、でもさ、蓬莱島って、地中はともかく、地上部の 自由魔力素(エーテル) 濃度ってあまり高くないんだ」
「え、そう、なの?」
「ああ。だから、今のままだとシオンたちだとちょっと居心地悪いだろうな」
「……納得」
蓬莱島が 自由魔力素(エーテル) の特異点であるとはいえ、地上部の 自由魔力素(エーテル) 濃度はクライン王国やエゲレア王国とさほど変わらない。
平均的に言って、魔族領の半分以下だ。それでは、シオンたちにとっては、例えて言うなら普通の人間が富士山頂で暮らすようなもの。
酸素と 自由魔力素(エーテル) の違いはあるが、居心地はあまり良くないだろうと思われる。
以前シオンたちがやって来たときのように、身体をゆっくり慣らしながら南下するならともかく、転送装置で一気に 自由魔力素(エーテル) 濃度の薄い地に連れていくのは憚られた、というわけである。
「さて、そろそろいいだろう」
森羅の氏族領から十分距離を取り、もう見えないだろうというあたりまで来たので、いよいよ転送装置を使おうというわけだ。
「ランド1、帰るぞ」
「了解!」
転送装置が起動。視界が一瞬で切り替わる。あっという間に、カプリコーン1は蓬莱島の研究所前広場にいた。霜が付いて真っ白である。次いでそれが溶け、水滴となってしたたり落ちていった。
「ふええ、話に聞いてはいたけど、転送装置というのはすごいものだね。冬景色だったのが、たちまち春になっちゃったよ」
感心したようなサキの声。
「さあ、降りてゆっくりしよう」
「……どうせすぐに素材の研究したがる癖に」
仁の掛け声に、エルザがぼそりと反論した。
「あはは、エルザは分かってるね。さすが奥方」
「ま、まだ奥方じゃない、から」
サキの冗談に、真顔で答え、真っ赤になるエルザである。おまけにタラップを踏み外しそうになった。
「おっと」
「あぅ」
危うく転けそうになったところだったが、仁がすかさず腰を支え、大事に至らずに済んだ。
踏み外しても50センチの高さなのだが、サキがからかうような言葉を投げかけた。
「やるねえ、ジン。頼れる旦那様」
「……サキ」
仁も顔を赤くし、サキを睨む。
「あはは、独り者のやっかみだと思ってほしいな。さあ、新素材の研究だ!」
あくまで明るく陽気に、サキは研究所に消えていった。
「……」
「……サキ姉、少し寂しいの、かな」
エルザがぽつりと呟いた。
「ラインハルトはベルチェ一筋だしな」
「そこに、お父さまとエルザさんの仲がいいところを見せつけられたわけですしね」
そばにいた礼子までそんなことを言う始末。
『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 。ご無事のご帰還、お喜び申し上げます』
老君が声を掛けてくれたので、照れていた仁も気分を入れ換えたのである。
まずは手に入れた 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻を 鞣(なめ) すところから始める。
通常の皮革とは手順が異なるので、仁はエルザに説明しながら作業を進めることにした。サキは完全見学である。
「まずは洗浄だ。これはまあ、大抵の皮革で行うけどな」
「ん」
『 浄化(クリーンアップ) 』や『 分解(デコンポジション) 』、『 殺菌(ステリリゼイション) 』を使い、汚れを落としていく。同時に殺菌消毒も行う。
「それから『 軟化(ソフトニング) 』でしわを伸ばすんだ」
この時点で、工房では収まりきらないので、研究所の屋上で作業を行っている。
「こんどは最も重要な作業だ。……素材として使うため、質の良いところと、そうでないところを見極めて分別、切り出していく」
天然素材なので、どうしても、傷が付いていたり、薄い厚いの差があったりと均質ではない。
それで、できるだけ均質になるようにトリミングをしていくことになる。
「背中の部分が一番硬くてお腹側が一番軟らかいな。脚の部分は分厚いし、尻尾の部分は凸凹している」
全体の特徴を把握し、どの部分で切り離すかも判断する。目利きが大事な工程である。
「ん、難しい。頭の部分は硬くて分厚い。使いづらそう」
エルザも、自分の目で見て、思った事を口にしている。
「ああ、そうだな。そうするとこのあたりで切り離そう。……礼子、押さえていてくれ」
「はい、お父さま」
応急修理の礼子であるが、この程度の作業は十分サポートできる。
「……ああ、向こう側も押さえていて欲しいな。 職人(スミス) も呼んでくれ」
「ん、了解」
ということで、仁、礼子、エルザ、 職人(スミス) たちで協力し、1時間ほどで一連の作業は終わった。
「くふ、多少の切れ端はやっぱり出るね」
立体的な抜け殻をできるだけ平面に切り取っていくのであるから、半端な形の 端布(はぎれ) が多少なりとも出るのは致し方ない。
だが、そういった切れ端は、小物の製作やサキの研究に使えばいいのであるから、無駄になることはないのだ。
「ジン、この切れ端は、ほんとにボクが使っていいのかい?」
「ああ、自由に使ってくれ」
体長40メートルを超す 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻であるから、かなりの量の素材が手に入ったのである。
「うん、楽しみだ!」
大量の切れ端を手にしたサキは自分の研究室に向かった。
おそらく老君のアドバイスでいろいろ研究をするのだろう、と仁が思っていたら、置いただけで戻ってくる。やはり仁が何をする気なのか気になるようだ。
仁は大量の素材を手にした礼子を連れて工房へ向かった。エルザとサキもそれに続く。持ちきれない分は 職人(スミス) 3体が運んでくれた。
「さあ、やるぞ!」
やる気満々の仁。サキとエルザは固唾を呑んでそれを見つめている。
礼子の体表面積は1平方メートルと少しくらい。 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻はその1000倍くらいの面積があった。
「礼子の皮膚以外にも色々作れそうだな」
それこそ、強化鎧には最適な気がしている仁。気が多いのは工作馬鹿だから仕方ない。
「だけど、まずは礼子からだ」
この抜け殻の1番いい部分を礼子の 魔法外皮(マジカルスキン) に使う仁である。
いよいよ仁が本領を発揮するときが来たようだ。
まずは 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) から得た『 竜革(ドラゴンレザー) 』の使用法の確認をし、礼子に応用していくという順だ。
喜々として仁はその作業に取りかかったのである。