作品タイトル不明
22-19 ドラゴン
平原を順調に進むカプリコーン1。とりあえず、仁たちは朝食にした。
「あー、温かい飲み物がありがたいわ」
室内の温度は22℃くらいに設定してあるが、外には極寒の風景が広がっているため、気分的に寒く感じるのだ。
ツスル台地の差し渡しは長辺で180キロくらいはある。時速5キロで進むカプリコーン1がいつ頃ギールツェ岳に辿り着けるかどうかはわからない。
「うーん、せっかくの晴天を利用しない手はないよな」
おそらく、半日もしないうちに、また吹雪に視界を閉ざされるだろうことは容易に想像できる。
「ランド1、 力場発生器(フォースジェネレーター) で進むことを許可する」
「よろしいのですか?」
「ああ。ここは 自由魔力素(エーテル) 濃度の高い北の地だ。ガス欠、いや 魔力素(マナ) 欠になることはないだろう」
ということで、カプリコーン1は 力場発生器(フォースジェネレーター) を使い、雪面の上を進むことになった。速度は時速50キロ。
2時間ちょっとでギールツェ岳に着けそうである。
「礼子、 自由魔力素(エーテル) の濃さ、どのくらいか分かるか?」
ふと、興味を持った仁は礼子に尋ねてみた。
「そうですね、人類の居住地を基準にして、優に5倍はありますね」
「そんなにか」
それなら、カプリコーン1の巨体を飛ばし続けても大丈夫だろう、と仁は判断した。
窓の外は雪面だが、ところどころに樹氷と化した森があり、岩塊があり、小さな山がある。
「くふ、こんなところまで来た人間はボクらが最初だろうね」
楽しげな口調でサキが呟いた。
「ん。ジン兄じゃないけど、この景色が見られただけでも、来て良かったと思う」
その隣で外を見ていたエルザも同調する。
「あ、あれ!」
そんな中、驚いたようなシオンの声が響いた。
「どうした、シオン?」
まず、仁がシオンの隣に移動し、並んで窓の外を覗く。
シオンが指差した先に、動くものがあった。
「……ドラゴン?」
背中が白、腹側が茶色のドラゴンである。巨大なイグアナのように見える。
「……グランドラゴンね」
以前、礼子とアンが倒したドラゴン種である。確かに体型がそっくりだ、と仁は思った。
「冬はあんな体色になるのね。知らなかったわ」
百手巨人(ヘカトンケイル) の天敵と言われるグランドラゴン。それがおよそ10頭、遠くで蠢いていたのである。
「気付かれないうちに通過しよう」
倒せないこともないが、無理に事を構える気はない。時間を無駄にしたくないのだ。
「それがいいわね」
「うん、賛成」
「ん、それが賢明」
意見の一致を見た仁たちは、横目でグランドラゴンを眺めながら通過。 力場発生器(フォースジェネレーター) による移動なので音がしないのも利点だった。
5分ほどでグランドラゴンの群れは視界から消えた。
そして進むこと30分、ギールツェ岳がいよいよ大きくなってきた。
「晴れているうちに見つけられるといいんだがなあ」
仁がぽつりと呟いたとき、今度は礼子が叫んだ。
「お父さま、右前方にまたドラゴンです!」
「何?」
そちらを見ると、純白のドラゴンが2頭、何かを食べているではないか。
「まさか……」
「あれは、もしかして 凍結竜(フロストドラゴン) ?」
シオンが引き攣ったような声を出した。
「あのドラゴンが 凍結竜(フロストドラゴン) なのかい? とすると、食べているのは……」
仁たちが探している 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻かもしれない。
「お父さま、わたくしが『 不可視化(インビジブル) 』を使いながら様子を見てきます」
礼子が言った。確かにこの場合は、カプリコーン1で近付くよりも、小柄な礼子が適任だ。
「よし、気をつけて行ってこい。言っておくが、 凍結竜(フロストドラゴン) を刺激しないようにな。念のため、転送銃も持つんだぞ」
「はい、わかっております」
そこで仁たちは、カプリコーン1をもう少し 凍結竜(フロストドラゴン) から離し、一旦停止。礼子はエアロックから飛び出していった。
「これで目的のものが見つかったんならいいんだけどね」
待っている間、少し心配そうなサキがぼそりと呟いた。
そして待つこと10分。
「ただいま戻りました」
礼子が帰ってきた。
「おお、どうだった? ……って、ひどいな」
室内に入った礼子の身体に、一瞬で霜が付着したのである。髪、服、靴など、直接体温発生をしていない部分だ。
そして霜はすぐに溶けて露となり、床に滴り落ちた。
「『 乾燥(ドライ) 』」
仁はすぐに工学魔法で濡れた礼子を乾燥させた。
「ありがとうございます、お父さま」
「それでどうだった?」
「はい、 凍結竜(フロストドラゴン) を刺激しないようにということでしたので、持ち帰れたのはこれだけです」
礼子が差し出したのは10センチ四方くらいのものが3枚。要は切れ端だ。
「わたくしが行った時には、大半が食べ尽くされていました」
「そうか、残念だが仕方ないな」
済まなそうな礼子の頭を仁はぽんぽん、と優しく叩き、労ったのである。
「ランド1、前進再開だ」
そして完全な抜け殻を探し、再度進み始めるカプリコーン1。
「……ジン、これが本当に最強の生物素材なのかい?」
礼子が持ってきた切れ端の1枚を手にしてサキは首を傾げている。
「ボクが引っ張っても破れそうだよ? それに、あの 凍結竜(フロストドラゴン) が食べる、ということは……」
凍結竜(フロストドラゴン) より弱いということ。それは仁も感じていたことだ。
だが、仁はその答え、とまではいかないが、ヒントは掴んでいた。
「うん、それなんだがな。昨日、サキが言いだしたことがあっただろう?」
「うん? 何だっけか?」
「金属の強度の話さ」
サキの顔に納得の色が浮かぶ。
「ああ、確かに! アレクタスさんとも話した、あれか!」
金属の強度は何で決まるか、というテーマであった。
「一言で言えば原子同士の結合力じゃないかな?」
サキが断定するように言う。が、仁はそれを否定した。
「違う。……違う、はずだ。確か、原子の結合力の強さは、共有結合>イオン結合>金属結合だったと、思う」
正確には分子の、である。
「……塩……塩化ナトリウム、は、イオン結合?」
エルザも議論に参加してきた。シオンは残念ながら、おおよそ小学生レベルの科学知識しかなく、聞いていることしかできない。
「そうだ……と思う。塩の結晶は硬いけど脆い。だから、結合力だけで強さは語れないはずだ」
「うーん、そうか。じゃあ……」
日常的に目にするマクロの現象と、原子、分子の世界で起きるミクロの現象には異なる法則もあったりして、単純に比較類推できるものではないが、それでも彼等は推測し、討論を重ね、真実に迫ろうとする。
「硬さでは、炭素の結合がもっとも丈夫だからダイヤモンドが硬いと言われるんだが、同時に脆いからな」
硬さ、強さ、という場合、大抵『試験法』もしくは『単位』を問題にする。
モース硬度というのは、互いに引っ掻き合った場合に、軟らかい方に傷が付くことを利用している。ダイヤモンドはモース硬度10、水晶は7だ。
「だけど、ダイヤモンドよりモース硬度の低い鉄製ハンマーでダイヤモンドを叩くと割れるからな」
耐衝撃性という意味ではダイヤモンドは低い。
「うーん、難しいね」
サキは頭を抱えた。
「そこで 自由魔力素(エーテル) さ。ニュートラルな 自由魔力素(エーテル) は、あらゆる物質、分子、原子の間に入り込むことができる。その 自由魔力素(エーテル) に方向性を持たせることができたらどうなるか?」
仁がずっと考えていたことである。
「究極の強度は、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』と『 障壁結界(バリア) 』が鍵になると思っているんだ」
「は? ジ、ジン、飛躍しすぎ! 付いていけないよ!」
サキが悲鳴を上げた。だが、エルザは見当が付いたようだ。
「…… 障壁結界(バリア) を自由な形に展開できたら……という、こと?」
「うん、その通り! 凄いな、エルザ」
エルザは、仁の考えをずばり言い当てたのである。
「つ、つまり、 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻にバリアと同じ効果を持たせられるというの?」
次いで、黙って聞いていたシオンが、分かりやすい表現で言い替える。
「確かに、それなら最強の素材と言えるかも……」
シオンの言葉を反芻したサキが、感に堪えないように言葉を口にした。
「やっぱり、ジンはすごいよね。さすが 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だよ」