軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-12 最強の生物素材

女皇帝との会談の終わりに、仁は『一旦崑崙島に帰る』と伝えておくことにした。

「そう、あの飛行船なら楽に行き来できるのよね。また会える日を楽しみにしているわ」

女皇帝はそう言って仁たちを送り出した。

* * *

午後3時、バロウとベーレに見送られて、仁、礼子、エルザは『コンロン2』で飛び立った。

そのまま一気に高度を上げる。

地上からまったく視認できない高さまで上がると、仁は700672号からもらった『転送装置』を起動した。

マーカーは蓬莱島の研究所、その前庭。現地時刻は夜の9時頃。

魔導ランプで煌々と照らされる前庭に『コンロン2』が着陸すると、思わぬ人物が仁たちを出迎えた。

「やあ、ジン、エルザ、お帰り。待ちかねたよ!」

「サキ?」

「サキ姉?」

『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 。素材の物性調査ですが、サキさんに手伝っていただいておりました』

老君の説明になるほどと頷く仁。サキなら喜々として手伝いそうだ、と仁は微笑んだ。

早速工房へ向かう。仁がいつも使っている1階の工房ではなく、2階の研究室だ。

「試したのは 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸、 海竜(シードラゴン) の翼膜、水晶、キュービックジルコニア、金、ミスリル銀、軽銀、アダマンタイトさ」

「ふうん、素材としてはいい線だな」

強度や耐久性を要求されるものを重点的に選んである。

「それに対し、試した薬品は、 巨大百足(ギガントピーダー) の体液、 超巨大蟻(ギガアント) の体液、それに『もどき』の溶解液」

「ちょっと待て、『もどき』の溶解液って……どうやって?」

これに回答したのは老君だった。

『 御主人様(マイロード) 、あの時彼等は、金の容器1つを残して廃棄していました。ですのでその最後の容器から、こっそり半分ほど頂戴してきたのです』

「そ、そうか」

『これも研究のためです』

どこかのマッドサイエンティストが言いそうなセリフだ。

それは取りあえず不問にし、先を促す仁。

「対薬品性が最も高かったのは 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸だったね。金属に限れば、アダマンタイトが優秀なんだが、それでも 巨大百足(ギガントピーダー) の体液と 超巨大蟻(ギガアント) の体液には若干冒される」

「ふうん……」

『土剋水みたいで面白いじゃないですか』

老君の声。

地中に棲む魔物が水中の魔物に勝ったことを言っているのだ。

土剋水とは、古代中国で始まった『五行』という考え方だ。

土は水に 剋(か) ち、水は火に剋ち、火は金に剋ち、金は木に剋ち、木は土に剋つ、というもの。

マンガや小説にも取り上げられるので仁も少し知っていたのである。

『それはともかく、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸では軟らかいので構造材や装甲には使えません。何かよい素材を探す必要がありそうです』

「うーん、そう言ってもすぐにはなあ」

「ジン兄、『700672号』に聞いてみたら?」

「……ああ、そうか」

困った時に頼りにしてばかりというのは、正直気が進まない仁であるが、まだ旧レナード王国の遺跡にこうした危険な魔物がいたらと思うと、そうも言っていられない。

「聞きに行くか……」

実のところ、強力な魔物や魔獣は北方に多い。ゆえに北の地にいる700672号ならそれらの情報を豊富に持っているだろうとの期待もあった。

「ジン、その700672号のところに行くのかい?」

「そうだな、もらった転送装置のお礼もしたいし、明日行ってくるよ」

* * *

そして翌朝。

大急ぎで朝食を済ませた仁たちである。

「ボクも行ってみたい……けど、今回はよしておくよ」

少し残念そうにサキが言った。

「そうか、その方がいいかもな。じゃあ、俺と礼子で行ってくる」

「ん、行ってらっしゃい」

エルザとサキに見送られ、仁は礼子と共に 転移門(ワープゲート) 室へ。

途中で老君に用意してもらった手土産代わりのペルシカジュースを受け取る。

そして2人は 転移門(ワープゲート) へと踏み込んだ。

『天翔る船』内部に出た仁と礼子を迎えたのはここを警備している 職人(スミス) 45と46だった。

「ようこそ、ご主人様」

「異常ありません」

「ご苦労さん」

短いやり取りを交わし、仁は『白い部屋』の扉に手を当てる。仁を認識して扉が開いた。

「ジン様、レーコさん、いらっしゃいませ。父さまに御用ですね?」

「ああ、ネージュ、こんにちは。今日はちょっと聞きたいことがあってね」

ネージュとそんな会話をしていると、700672号が姿を見せた。

「おお、ジン殿、ようこそ」

「こんにちは」

仁は手土産のペルシカジュースを手渡す。

「おお、ありがとう。この前もらったのが残り少なくなったところだ」

「それでしたら、定期的にお届けしますよ」

「それは嬉しい」

部屋の外には 職人(スミス) が詰めている。扉の外まで彼等に運ばせれば、ネージュが適時受け取るだろう。

なんとなく牛乳配達を連想する仁であった。

「それで今日はどうしたのかね? 何か聞きたいことでも生じたのではないのかな」

700672号の鋭い洞察に仁は頷いた。

「そうなんです。実は……」

仁は、旧レナード王国に残った遺跡の話と、地下から出てくる魔物の話をする。 海竜(シードラゴン) の翼膜で作った礼子の皮膚が溶かされた話も。

「ふうむ……」

700672号は、時折質問を挟みながら、最後まで話を聞くと、腕組みをして考え込んだ。

1分弱、そうして考えていた彼は、腕をほどくと、口を開く。

「確かに、地下に棲む魔物は強力なものが多いのは事実だ。劣悪な環境で生きるため、魔力的に進化している。そのため、 海竜(シードラゴン) の翼膜も溶かされたのだろう」

仁は頷いた。700672号の言っていることは理解できる。

「通常の酸性物質に加え、 自由魔力素(エーテル) により、物質の結合を弱めるような働きを持つのではないか、と吾は想像する」

「わかります」

「さて、前置きはここまでにしよう。……今は冬だったな?」

「え? はい、そうです」

「ふむ、それは都合がいいな。ジン殿、『 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) 』というのを知っているかな?」

思い出そうとしたが、仁に心当たりはなかった。

「いえ、知りません」

「そうか。この大陸の北端に住むという巨大な竜で、おそらくこの惑星に棲む生命体の頂点に位置する魔獣だ」

「生命体の頂点……ですか?」

「うむ。もちろん、生物だから倒すことはできよう。だが、基本おとなしく、南へやって来ることもない。極寒の地に棲み着き、高濃度の 自由魔力素(エーテル) を喰らっている」

聞くからに強力そうなドラゴンである。

一般的にいって、この惑星アルスの生命体は、草食獣より肉食獣、肉食獣より 自由魔力素(エーテル) 摂取する魔獣の方が強力になる傾向にある。

強力さにもいろいろあり、長寿だったり、身体的に頑丈だったりするのだが。

「その 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) だがな、冬の最中に脱皮をするのだ。その皮を手に入れられれば、最強の素材の1つになるだろう」

「わかりました! ありがとうございます」

貴重な情報が得られ、仁は礼を言った。

「探しに行くのかな?」

「ええ、そのつもりです」

「寒さ対策は言わずともわかるだろうが、北限の地にはもう1つ、強力な魔獣が棲む。それには気を付けるように」

「別の魔獣ですか?」

「うむ。『 凍結竜(フロストドラゴン) 』という。 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の脱皮した皮を食べる習性があるという」

「そ、それは……」

だとすると、鉢合わせする可能性が非常に高いわけだ。

「 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の棲息数は少ない。おそらく10頭はいないだろう。対して 凍結竜(フロストドラゴン) はその3倍はいると思われる」

「まず確実に出会いますね」

「と、思う。であるからして、対策は万全にな」

「名前からして、 凍結竜(フロストドラゴン) は凍らせるような魔法を使いますね?」

「うむ。小さな火山くらいなら凍らせてしまうほどというからな。気をつけて行かれよ」

「わかりました。いろいろありがとうございます。採取に成功したら報告しに来ます」

「成功を祈る」

そうして、仁は蓬莱島に戻ったのである。