軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-11 ロイザートでの再会

日没前、仁たちの乗る『コンロン2』は、ショウロ皇国の首都ロイザートに到着した。

そのまま仁の屋敷屋上に着陸する。飛行船の大きさを同じにしてあるのでこういう時は都合がいい。

「お帰りなさいませ、ジン様、エルザ様、レーコ様」

バロウとベーレが出迎えてくれた。

色々調整した結果、2人とも、生国であるここショウロ皇国の屋敷で働くことを希望したので、その意志を尊重したのだ。カイナ村は……これからということ。

「ただいま。何か変わった事は?」

「はい、特にはありませんが、お向かいのお屋敷に、外国から亡命された方が来ておられます」

「亡命?」

「はい。エカルト・テクレスというお方とそのご家族だそうで、セルロア王国からだとか」

仁は頷いた。向かいはショウロ皇国の産業相次官、ヨルゲンス・ヘケラート・フォン・パドック子爵の屋敷である。

セルロア王国の大商人だったエカルトが一時寄寓するにはまあまあ妥当ではないだろうか、と仁は考えた。

入浴し、汗と埃を流してから夕食である。

白いご飯にトポポ(ジャガイモ)とマルネギ(タマネギ)の味噌汁、目玉焼きにアジ(によく似た魚)フライ。

「うん、うまく炊けてるな」

仁は若干固めに炊いたご飯が好きである。だが、下手をするとお米に芯が残りやすいのだ。

味噌汁の出汁もきちんと鰹節で取られており、文句は無かった。

エルザも概ね仁と好みが似通っているので美味しそうに食べていた。

「ごちそうさま」

食後はほうじ茶。ゆっくりと飲んでいると、気分が落ち着く仁であった。

「明日は朝一番で城へ行って『コンロン2』のお披露目をしてしまおう」

誰に言うともなしに、呟くように口にする。エルザがそれに反応した。

「……きっと、陛下は乗ってみたいと仰る気がする」

「確かにな」

苦笑する仁。

「まあ、今度の飛行船はずっと安全性が高いし、定員も多いし」

「……いつか、首脳を崑崙島に連れて行くため?」

30人という、『コンロン2』の定員について、エルザがずばり言い当てた。

「鋭いな。まあ、いつになるかわからないけどね」

もう少し世界が平穏になったら、と呟き、仁は窓の外の暗闇を見つめた。

翌朝、頃合いを見計らって、仁は『コンロン2』を 宮城(きゅうじょう) に向けて発進させた。乗員は仁、礼子、エルザ。

時刻は午前9時。

宮城(きゅうじょう) 前広場、仁専用着陸床には、予想どおりに女皇帝陛下もやって来ていた。

「『崑崙君』ジン・ニドー卿、ようこそ! 凄い物を作っちゃったわねえ! 乗せて貰えるのかしら?」

その言葉も予想どおりである。

おそらく 魔素通話機(マナフォン) で、アーネスト王子やフィレンツィアーノ侯爵が乗ったという話を聞いているのだろう。

仁は微笑みながら、渋い顔をしている宰相と、女皇帝にぴったりくっついて離れない近衛女性騎士、フローラにも、どうぞ、と声をかけた。

彼等を乗せた飛行船は空へと舞い上がる。はしゃぐ女皇帝、感心する宰相。

「うわあ、凄いわ! ほとんど揺れないと言うのはいいわね!」

「……う、うむ、これは本当に凄い。風も感じない。ジン殿、いったいどのくらいの速度が出せるのだね?」

仁は宰相の質問に答える。

「およそ時速200キロは出せます」

その数値にはフローラまでもびっくりする。

「そ、それでは、ショウロ皇国とエリアス王国を1日で往復できるというのか!」

「その通りです。地図をご覧になったのですね?」

縮尺も経緯線も入れていない地図ではあったが、位置関係はかなり正確。ゆえに、既知の2点間の距離から、任意の2点間の距離を計算することは難しくはない。

もっとも、高緯度に行くほど東西(緯線)方向の形は歪むのだが。

「うむ。近衛騎士隊の幹部以上は全員が拝見した。あの地図は素晴らしい。それもこうした飛行船を持つジン殿ならではなのだろうな」

フローラの言葉に仁は頭を掻く。

「私たちもジン殿に倣って、自らを高める努力をしていきたいものだ」

宰相が締めた。飛行船ももう速度を落としつつ、 宮城(きゅうじょう) に戻りつつある。

「甘いと言われようと……。戦争など起こさずに、自らを高めていければ、そう願わずにはいられません」

女皇帝の呟きに、乗っていた者たちは皆頷いたのであった。

無事着陸し、地上に降り立つと、女皇帝は仁に礼を述べる。

「ジン君、いえ、『崑崙君』ジン・ニドー卿、ありがとう。とても楽しいひとときでした。お礼代わりに昼食をご馳走するわ」

女皇帝は軽く頷いて 踵(きびす) を返し、城へ戻る。宰相とフローラは守るようにその両脇に付いた。

仁、礼子、エルザは更にその後ろを付いていった。

昼食は、女皇帝、仁、エルザ、そしてフローラの4人で摂ることになった。

献立はお粥に味噌汁、お茶という組み合わせ。付け合わせは仁が驚いたことに漬け物である。

「これはね、異民族……ミツホに行った先遣隊から届けられた珍しい食べ物なのよ」

漬け物を指して微笑む女皇帝。

「お粥にとても合うの。試してみて?」

「はい、いただきます」

一口食べた仁は、それが茄子に似た野菜の糠漬けであることを確かめた。蓬莱島でも少量作っているが、こちらの方が美味い。

「美味しいです」

「そう、よかったわ。フローラはこの味苦手みたいなの」

確かに、乳酸菌発酵で得られる酸味は苦手な人がいる。その点エルザはこの味が好みであるようだった。

味噌汁はカブに似た野菜の味噌汁であった。出汁も鰹節で取ってあるようだ。

「お味はどうかしら? 以前ジン君に聞いた、鰹節? それを削って、出汁? というのを取ったのよ」

「美味しいです」

陳腐ながら、そうとしか言えない。懐かしい味であった。季節柄なのか、それとも稀少なのかわからないが、このカブに似た野菜はジョン・ディニーからは知らされてこなかった。

なんとか種を入手したいと思う仁。同時に老君も密かに同じことを目論んでいた。

少人数のため、仁も肩肘張ることなく食事を終えることができ、食後の緑茶をゆっくりと味わって飲んでいると、女皇帝が、

「実はジン君に会わせたい人がいるのよ」

と言うではないか。

「どなたです?」

怪訝そうな顔の仁。心当たりがない。

「呼んでもいいかしら?」

「ええ、どうぞ」

仁が頷いたので、女皇帝はテーブルの上の呼び鈴を振った。

ちりりん、と澄んだ音がするとドアが開き、侍女が顔を出す。その侍女に女皇帝は頷いてみせると、あらかじめ打ち合わせてあったのだろう、侍女はすぐに引っ込んだ。

そして1分後、1人の男を伴って現れた。その男に仁は見覚えがあった。

「エカルトさん!」

そう、男はエカルト・テクレス。元セルロア王国の大商人で、巨大船『ブリジット』を建造した男である。

「ジン殿、お久しぶりですね」

半年ぶりに会ったエカルトは少しやつれたように見えた。

「彼はね、せっかく作り上げた大型船……我が国のものに引けを取らないようなものを、セルロア王国に接収され、家財まで取り上げられてね、亡命してきたのよ」

「そうでしたか……」

老君から聞いて知ってはいるものの、とぼけつつ、頷いておく仁。

「私もジン君から彼の名前を聞いていたから、すぐに保護させてもらったわ。今は客分としていろいろ話を聞かせてもらっているところ」

「ええ、九死に一生と言いますか、雇った 魔法工作士(マギクラフトマン) のおかげで家族ぐるみ亡命することができましたよ」

少し寂しげに微笑むエカルト。

「その 魔法工作士(マギクラフトマン) は?」

分かっていてあえて聞いてみる仁。

「ええ、それが、私たちがこちらの国で保護される直前、消えてしまいまして」

正体は仁が作った 自動人形(オートマタ) 、レグルス50とデネブ30。もう心配はいらないと、姿を消したのである。

「このまま仕官させてもらうか、それともどこかでまた商売を始めるか、それは未定なんですけどね」

と、エカルト。女皇帝が後を続ける。

「彼の商人としての伝手を朽ちさせるのは惜しいと思ってるわ」

エカルトのコネクションはセルロア王国だけではない。ショウロ皇国やエゲレア王国にもそれは及んでいた。

「数年は準閣僚として働いてもらい、その間の俸給で後に独立したら、と思っているんだけどね」

「ええ、その方向で考えさせていただきますよ」

そんな女皇帝の言葉にエカルトも頷いたのである。