作品タイトル不明
22-13 北限の地へ
蓬莱島に戻った仁は、さっそくエルザとサキに詳しい報告をした。
「 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻だって!?」
サキが食い付いた。
「ジン、探しに行くんだろう? 行くよね!」
「あ、ああ」
サキの勢いに気圧されつつ仁は返事をした。
「でも、準備をしないと。問題は 凍結竜(フロストドラゴン) 」
「そうなんだ。おそらく、『 超冷却(アブソリュートゼロ) 』に近い魔法を放ってくると思われる」
仁の分析。おそらくそれは正しいだろう、とエルザも頷いた。
「と、すると対抗策だな」
「お父さま、今まで作った武器では不十分なんでしょうか?」
不思議そうな顔をする礼子。
「いや、適切な武器が欲しいんだ。単体相手なら、『 光束(レーザー) 』でも『 魔力砲(マギカノン) 』でもいいと思うが、威力が強すぎる。 凍結竜(フロストドラゴン) だって数が少ないだろうし、生態系に影響を及ぼしたくないし」
「くふ、なるほどね。ジンらしい考え方だね」
サキも微笑みながら賛成してくれた。
「そうすると、寒さに対抗して火属性魔法と言うことになるのかい?」
だが、仁はサキの意見を否定した。
「いや、それは効率が悪すぎる。対抗するんじゃなく、影響を受けにくい属性を使った方がいいと思う」
「……わかる。そうすると、雷とか光とか?」
エルザも理解を示す。
「そうだな……」
そこへ礼子が発言。
「お父さま、追い払うだけでよろしいなら転送銃で十分では?」
転送銃は転送機の原理を用い、対象を遠くへ転送してしまう銃だ。発射するのは魔力の波動であり、弾丸ではない。
その性質上、転送先は決まってしまうし、消費エネルギーの関係で単発式か、せいぜい2発までしか撃てない。
「それもそうだな。転送銃を少し改良して、 魔力素(マナ) はカートリッジ式にして使い勝手を上げればいいか。あとは効果範囲を広げて、巨大な竜に対応する、と」
「ん、いいと思う」
「非殺傷だしね、ボクもいいと思うよ」
ということで、仁はさっそく改良に取りかかることにした。
場所は1階の仁の工房に移し、検討を再開。
「 魔力貯蔵庫(マナタンク) の形を決めて規格化し、空になった物には再チャージすれば使えるようにする、でいいかな」
イメージは単4型の充電池である。
「……こういうところも規格化した方が、いい」
「そうだな」
エルザの助言に従い、思いつきで作るのでなく、後々のことを考えてみることにする。
「そう考えてみると乾電池ってそれなりにうまく使われてるな」
ただしボタン電池は除く、と仁は追加で考える。あれはややこしすぎる……と。
Ⅰ型として、大体単4電池大のものを作り、以降の標準とすることにした。Ⅱ型以降はまたその時考える。
「いいと思う」
エルザも賛成してくれた。
魔結晶(マギクリスタル) を円筒形に整形し、 魔導式(マギフォーミュラ) を刻む。
「……何、それ」
今回、仁は 魔結晶(マギクリスタル) の内部に刻んでいたのである。クリスタルガラスなどの内部にレーザーで3D彫刻をするイメージだ。
さすがに表面に刻むときほどの精度は出せなかったが、 魔力貯蔵庫(マナタンク) としての用途であるから十分である。
「ん? こうすると摩耗で 魔導式(マギフォーミュラ) が消えたりしないだろう?」
「……言っていることはわかる。でもそれを実行する、ということが凄い」
「まったくだね。やっぱりジンは『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』なんだなあ、って思うよ」
サキにもその技術の高さは感じ取れた。
こうして、まず20個ほどのカートリッジ式 魔力貯蔵庫(マナタンク) を作った仁は、続いて転送銃にとりかかる。
「どうせなら、他の機能も付けた方がいいかなあ」
気が多い仁に対し、エルザが忠告する。
「でも、いざという時に転送銃として使えないとまずいと思う」
専用の使いやすさと汎用の便利さ、どちらを取るかと言うことになる。
「そうか……そうすると……」
仁は、普通に使うと転送銃、特定の操作をすると 麻痺銃(パラライザー) やレーザーガンになる様にしたらどうだろう、と提案する。
「最初に設定をしておいて、設定を変えるには一定の操作が必要になる様にしたらどうだろう?」
うっかり別の設定になっていたらまずいのでセーフティをしっかり掛ける、ということだ。
「ん、それなら」
「うん、じゃあそれでいこう」
こうして仁は、本格的な加工を始めた。
エルザは仁の技術を学ぼうと注視している。
サキは単純に仁の手際の良さを鑑賞している、といった風情だ。
礼子は素材を準備し、作業に見落としがないか、全体をチェックしていた。
1時間後、5丁の新式転送銃が完成した。デザイン的にはルガーP08に似ていなくもない。
カートリッジはグリップ先端の蓋を開けて、電池交換の要領で入れ替える。薬莢式ではない。
「このボタンを押しながら、後部のダイヤルを回す。1が転送銃、2が 麻痺銃(パラライザー) 、3がレーザーガンだ」
ボタンを押さないとダイヤルは回らないのでセーフティになっている。また、殺傷力のあるレーザーモードは、誤設定防止のためダイヤルが赤く発光するようにした。
「もう1つ安全装置があるんだ」
仁は銃の先端近くに付いた小さな 魔結晶(マギクリスタル) を指し示し、説明をする。
「これに魔力パターンを記録しておくと、その相手に向けて撃とうとしても銃は作動しない」
「それ、いい」
エルザが絶賛した。間違ってファミリーの人間をすっ飛ばしたりしないということだ。
ファミリーの魔力パターンは老君が記録を取ってあるので、コピーして終了。
「これでよし」
64軽銀で作られ、軽くて丈夫。表面は赤に発色させた。危険なので目立つ色にしたのだが、雪と氷の北の地で目立つようにという意味もある。
仁、礼子、エルザ、サキが1丁ずつ持つ。1丁は予備だ。
「くふ、なんだか少し怖いね」
荒事とは無縁の生活をしてきたサキは、銃を受け取った時、少し困った様な顔をした。
「今回だけさ。普段はそんなもの必要無いようにしたいものだよな」
サキ専用 自動人形(オートマタ) 、アアルに持たせればいいのかもしれないが、残念ながら彼女は基本性能的にやや劣るので、今回同行しない。
「そう、か…… 隠密機動部隊(SP) も見直す必要があるな……」
最近の仁は、馬車でなく飛行船で移動することがほとんどなので、 隠密機動部隊(SP) は付いて来られなくなっていた。
「飛行性能を向上させるか、別の任務に就けるか、だな」
守るだけなら、人に準拠せずとも、ミニサイズのゴーレムがいる。彼等なら、ポケットや荷物に潜み、護衛することも可能だ。
「うん、帰ってから考えよう」
それよりも仁には、もう1つ決めねばならないことがあった。それは移動手段である。
「『コンロン2』だと北極圏はきついかなあ」
寒気と強風が想像される。寒気はともかく、強風は厄介だ。
「残念だが『ペガサス1』で行くか……」
「お父さま、空からでは 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻は見つけづらいのではないでしょうか」
だが、礼子が反対意見を口にした。
「う、確かに」
雪に覆われた台地で探し物をするならやはり地上車が必要だろう。
「……『カプリコーン1』を使うか」
以前、魔族領を訪れるときに作った4足歩行車。
だが、その機能は今一つ不十分と思われる。仁はちらりとエルザを見た。
「……許可」
その視線の意味を察したエルザは笑いながら大きく頷く。
「よし、改造だ!」
極寒の地でも行動できるよう、仁はカプリコーン1の改造を開始することにした。