軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-03 接触

1月24日、ショウロ皇国。

「 木紙(もくし) 、ですか?」

「はい。なんでも、木の皮を使って作るのだそうです」

「面白いわね。 皮紙(ひし) より薄くて軽いのね?」

「と、書いてありますな」

ショウロ皇国では、女皇帝と宰相が、第1回先遣隊からの知らせを読んでいた。鳩で送られて来た情報である。

「ジン君の言う通り、なかなか得るものの有りそうな国ね」

「はい、楽しみですな」

宰相と女皇帝は顔を見合わせて笑った。

「フリッツ・ランドル中佐からの報告もあったわね。なんとかエゲレア王国に到着したそうで、まずは一段落」

「そうですな。かのレナード王国跡地では苦労したそうですが」

不気味な化け物との一戦についても報告されていた。

「『ゴリアス』を溶かすような化け物を、かつて作っていたというのは怖ろしいわね」

「同感ですな。……最後に、セルロア王国がまたぞろ不穏な動きを見せていると言うことです」

「……旧レナード王国を勝手にさせるか! といったところかしらね」

「国境警備隊には特に注意させましょう」

* * *

エゲレア王国に到着した、ショウロ皇国国外駐留軍中佐のフリッツ・ランドルは、必要な報告を 魔素通話機(マナフォン) で送ってもらうよう依頼をした。

「ふう、これで取りあえずは2日間の休養日を取れるわけだ」

鍛えている彼にとっても、旧レナード王国での十数日間は辛いものがあった。

それは、同行したクライン王国の者たちも同様であろう。

彼等は全員、外宮にある迎賓館に宿泊していた。

「……あ、フリッツ様」

戻る途中、女性騎士のシンシアと出会う。彼女の顔を見て、フリッツはあることを思い出した。

「シンシア殿か。……グロリア殿はどうしているか知ってい……いや、ご存知か?」

問われたシンシアは、いつもの少し寂しそうな顔で答える。

「……ええ。ここの治癒院に入院なさってます」

「そうか。面会はできるかな?」

「それは大丈夫だと思いますが」

「済まんが、一緒に行って貰えないかな? 女性の病室を訪れるのもまずいかと思うのだが」

ほんの僅か逡巡した後、シンシアは頷いた。

「……ええ、構いません」

「ありがとう。……少しだけ待っていて貰えるか? 彼女に返す剣を取ってくる」

グロリアが溶解液を浴びた際に取り落とした剣をフリッツが拾って持っていたのである。

返事も聞かずに自室へ早足で向かったフリッツの背中を見送り、シンシアは小さく溜め息をついた。

「すまん、待たせたな」

「いえ」

短いやり取りの後、2人は治癒棟へ向かった。

そこは急病や怪我をした来賓用の施設で、外宮の外れにある。

グロリアの病室は個室であった。

「グロリア様、シンシアです」

ノックをし、声を掛ける。『どうぞ』との返事が中からあったので、シンシアはドアを開けた。気が急いていたフリッツもシンシアに続いて中に入った。

実は、これは重大なマナー違反である。

本来なら、入室したシンシアが改めてグロリアにフリッツの来訪を告げ、許可を得てから招き入れるというのがこの場合の流れであるべきなのだ。

「フ、フリッツ殿!? 来ているなら来ていると……」

シンシアに続いて入って来たフリッツに驚いたグロリアは、飛び上がらんばかりに驚き、毛布を急いで引っ被った。

その短い時間で、フリッツは見てしまった。

グロリアに残った傷跡……腐食液に焼かれた、顔の右側から首筋、そして右肩から右腕に至る醜い跡を。

「……すまん。貴殿に剣を返し、容態を見るだけのつもりだったのだが」

「……」

毛布を被ったまま、グロリアは返事をしない。

「傷痕なら気にするな」

口にしてから、さすがのフリッツも失言だったと気が付いたがもう遅い。男と女では違うのだ。

「悪かった。……治癒師に診てもらったのか?」

その質問に答えたのはシンシアである。

「ええ、フリッツ様。こちらの治癒師によりますと、既に傷痕が落ち着いてしまっているので、治癒を掛けても良くはならないとのことでした」

治癒魔法は、基本的に生物が持つ治癒力を何倍、何十倍にも高めるものである。つまり、古傷となって定着した傷痕は治せないのだ。

どのくらいの期間が過ぎたものを古傷と見なすかは置いておくとして、今回グロリアは、皮膚を焼かれた際に応急手当としての治癒魔法を受けていた。

そのため、ダメージを受けた状態のまま回復してしまったため、傷痕になって残ってしまったというわけだ。

いくらフリッツが鈍くとも、女性にとって、あの傷痕が治らないと知った時の衝撃は想像できる。

「すまん。配慮が足りなかった。……すぐに出て行くから気にしないで欲しい」

そう言って出て行こうとした時。

「……フリッツ殿」

小さな声が聞こえた。

振り向けば、毛布から目までを出したグロリアがフリッツを見つめていた。

「わざわざ見舞いに来てもらったのに、すまない。……また、来てくれるか? その、私が、もう少し、落ち着いたら」

ドアの手前で足を止め、振り向いたままフリッツは、

「……また、来る」

それだけを言って部屋を出ていったのだった。

* * *

エゲレア王国は、ソルドレイク遺跡で見つけた500体を超すゴーレムを回収するべく、1月18日に出兵していた。

構成は第3騎士隊20名と戦闘用ゴーレム2体に万能型ゴーレム20体、それに 魔法工作士(マギクラフトマン) 互助会(ギルド) ブルーランド支部長のフィリップ・ティーフォとその 自動人形(オートマタ) 、ドーナ。

同月25日には遺跡に到着。

そんな彼等の目の前に、信じられない光景が広がっていた。

500を超す数のゴーレムが遺跡の外に整列していたのである。

「な……!」

「おや、どちら様で?」

驚きを隠せない隊長、ポウル・レイドをあざ笑うように迎えたのは、セルロア王国の辺境兵団であった。その数、およそ50名か。ゴーレムまで擁している。

おそらく、国境付近のソノマ砦に駐屯する部隊であろう、とポウルは考えた。

「貴様等! ここで何をやっている!」

ポウルは、馬に乗ったままその部隊に近付き、大声を上げた。

それに呼応するように、馬に乗った1人の男が前に進み出てきた。着ている鎧から見て、団長らしい。

「おや、山賊かな? だとしたら消えた方がいい。我等は甘くないですよ?」

ポウルの怒声を柳に風と受け流し、辺境兵団の団長らしき男は平然と言い放つ。

「誰が山賊だ! 旗が見えないか! 我等はエゲレア王国第3騎士隊だ!」

「おや、それは失礼。私はセルロア王国第2辺境兵団。私は団長のトリスト・クラロートです」

「その辺境兵団が何をしている!」

慇懃無礼な物言いに、ポウルは次第に苛立ち、声も大きくなっていく。

「放置されている遺跡を発掘し、中のゴーレムと 魔結晶(マギクリスタル) を回収しているところですよ」

「放置だと!? それは我が国の調査隊が発見、発掘した遺跡だ!」

「証拠はあるのですかな?」

証拠と言えるものは、遺跡入口に残してきたエゲレア王国の紋章が入った盾だけだ。

だが、そんなものは処分されてしまっており、辺境兵団の団長も知らないと言い張っている。

このままでは 押し問答、水掛け論になるのは火を見るより明らか。

そこに、追撃が入った。

「それに、これらのゴーレムは私どもの 魔法工作士(マギクラフトマン) が苦労して再起動したのですよ?」

「うっ……」

当時、随行したジェード・ネフロイが調べてもわからなかったゴーレムを解析し、再起動させたということは、セルロア王国の技術が優れているからに他ならない。

ぎこちない動きから、仮の起動であることがわかるが、それでも驚くべき技術である。

単純動作だけ、とはいえ自分で歩かせられるなら、運搬の手間が一切かからないのだから。

だが、ポウル・レイドとしては、それくらいで引き下がるわけにはいかなかった。

「ここを我等が先に発見したことを証明してくれる者もいる」

「おや? どこにそんな方が?」

「この場にはいないが、各国が認めた『崑崙君』、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、ジン・ニドー卿だ」