軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-04 来襲

仁が証人だ、と聞き、初めてトリスト・クラロートの顔が歪んだ。

「ふむ、そうですか。だとしても、ここにいないのではしょうがないでしょう。そして、証言だけではなんとも……ねえ」

しかし、それでも不貞不貞しさは崩れず、のらりくらりとポウル・レイドをからかうように言葉を紡いでいく。

「あくまでもしらを切るというなら、こちらにも覚悟があるぞ」

睨み付けながらポウルが放った言葉にも、トリストは侮蔑で答える。

「おや? 腰抜け王国の騎士殿にどのような覚悟が?」

この言葉で、ついにポウルは切れた。

「貴様……! 舐めるのも大概にしろよ?」

馬の鞍に付けていたロングソードを抜き放ったのである。

「抜きましたね? そちらが先に仕掛けてきたのですよ?」

トリスト・クラロートの狙いはこれであった。あくまでもエゲレア王国側から先に手を出したと言える状況を作ること。

それが中央からの指示だったのである。

「ゴーレム隊、前へ!」

トリストの号令に応じ、セルロア王国の戦闘用ゴーレムが10体、前に進み出た。

「人的被害を出すのは心苦しいですからねえ。そちらもゴーレムを出しませんか?」

「何……」

ポウルが率いていた戦闘用ゴーレムは2体。対するセルロア王国は10体。

「ああ、数が足りないのでしたら、合わせてあげましょうか? これも騎士道ですからね」

嘲るような言い方をしつつ、トリストは手振りで8体の戦闘用ゴーレムを下がらせた。

「2対2、正々堂々の勝負。いいですね?」

この期に及んでも、真面目さを感じられないトリストを横目で見ながら、ポウルは戦闘用ゴーレムに命令を発した。

「目標、敵ゴーレム撃破。 行け!」

それを受けて、トリストも命令を下した。

「目標、敵ゴーレム。目的、殲滅」

ここに、2国の戦闘用ゴーレム同士の戦いが始まった。

どちらも自律型であるので、最早人間の出る幕はない。巻き込まれないよう、遠巻きに眺めるだけである。

両国の戦闘用ゴーレムは、体格に関しては同じくらいであるが、速度が違った。

セルロアゴーレムは、エゲレアゴーレムの倍近い速度で動いている。

格闘戦において速度の差は大きい。まして、体格・体重が近いなら、速いということは大きなアドバンテージである。

セルロアゴーレムはエゲレアゴーレムの死角を付き、攻撃を加えていた。

エゲレアゴーレムの突進を 躱(かわ) し、背後に回り、剣で斬り付ける。

エゲレアゴーレムが振り向き、剣を振るえば、セルロアゴーレムは既に届かない位置に移動している。

そしてセルロアゴーレムの振るう剣はエゲレアゴーレムに浅い傷を付けていく。

明らかに嬲っているのが見て取れた。

「ははは、無様ですね。これが格の違いというものですよ」

「ぐぬう……」

歯がみするポウル。彼の背後では、騎士隊の者たちも同様に悔しがっていた。

「隊長! ゴーレムではなく我等に戦わせて下さい!」

血の気の多い隊員が大声を上げた。が、ポウルはそれを却下。頭に血が上ってはいても隊長である。

「いかん。奴等のゴーレムを見よ。8体がまだ動いておらん。あれが出てきたら人間など一ひねりだ。昨年のゴーレム 園遊会(パーティー) の惨劇を覚えているだろう?」

「うう……では、ここでこうやって、我等のゴーレムが破壊されるのをじっと見ていなければならないのですか!」

「そうは言わん。言わんが……この情勢を打開する策が……ない」

悔しそうなポウル・レイドと違って、トリスト・クラロートは余裕綽々である。

「何なら、そっちの『雑用』ゴーレムを使ってもいいですよ?」

万能型ゴーレムをわざわざ貶めるような言い方をして挑発する。

さすがに我慢しきれなかったか、ポウルは命を下した。

「万能型ゴーレム、戦闘モード。目標、敵ゴーレム。連携し、撃破せよ」

「では、こちらも。行け」

万能型ゴーレムは戦闘用ゴーレムに比べ、一回り小さい。装甲が薄いのである。その分重量も小さく、身軽。

だが、その体重差も、敏捷さで敵ゴーレムを上回ることはできなかった。

「連携! 連携! 連携!」

矢継ぎ早に出す指示。3連続のこれは、3体で1体を相手にする命令だ。

その命令を受け、万能型ゴーレムは3体で1体を相手取る。

さすがに3体からの攻撃では捌ききれず、セルロアゴーレムは防戦に徹せざるを得なくなった。

が、数で言えば、戦闘用ゴーレムが1対1で戦っているから、残りは8対20。3倍には足りない。

つまり、自由に動き回れるセルロアゴーレムが1体、また、2体で相手取っているセルロアゴーレムが1体いるということ。

遊撃の役目をするゴーレムは、縦横無尽に動き回っていた。

3体掛かりで押さえつけたと思えば、背後から襲われ、弾き飛ばされてしまい、押さえつけたことが無駄になってしまう、その繰り返し。

明らかにセルロア側に遊ばれている構図は変わらなかった。

そして、万能型ゴーレムは性能で更に劣る。

次第にエゲレアゴーレムの動きが悪くなっていく。遊ばれながらも攻撃を受け、ダメージが少しずつ蓄積しているのだ。

「そろそろ終わりにしましょうかね」

トリストがそう呟いた、その時。

彼の首筋に短剣が押しつけられた。

「ゴーレムを止めなさい」

それを行ったのは少女。いや、フィリップ・ティーフォの女性型 自動人形(オートマタ) 、ドーナであった。

トリストの鞍の後ろに器用に立ち、短剣を突き付けていた。

いつの間にかトリストの馬に近づき、機会をうかがっていたらしい。

「貴様……」

先程までの余裕はどこへやら、憎々しげに顔を歪めるトリストがいた。

「聞こえませんでしたか? ゴーレムを止めなさいと言ったのです」

「団長!」

辺境兵団の兵士が駆け寄ろうとする。が。

「動かないで。動けば団長の命はありませんよ」

感情の籠もらない 自動人形(オートマタ) の声は、こういう時には不気味に聞こえる。団員たちは足を止めた。

「さあ」

再三脅され、ついにトリストは屈服した。

「……と、止まれ」

その命令に従い、セルロアゴーレム10体は動きを止めたのである。

「よし、そのままそいつをこちらに連れてきてくれ」

ポウルがフィリップに頼むと、フィリップはドーナに目配せをする。そしてドーナは、トリストを脅す。

ゆっくりと近付いてくるトリスト。だが、そこでトリストは賭けに出た。

手綱を思い切り引き絞り、馬を竿立ちにさせたのである。

さすがに立っていられず、ドーナは馬から飛び降りざるを得なかった。

「ゴーレム! 奴等を行動不能にしろ!」

脅されたことで、トリストも頭にきたらしい。ゴーレムに仮借無い命令を下した。

と、その時。

「うわあああああ!」

トリストの背後にいた兵士が悲鳴を上げたのである。

「な、なんだ、あれは!?」

エゲレア王国の騎士たちは恐怖に目を見開きつつ、トリストの背後を見つめている。

その様子には、トリストも振り返らざるを得ない。

そして振り返ったトリストが見たものは。

ソルドレイク遺跡から這い出してくる無数の黒い虫であった。