作品タイトル不明
22-02 新発見
「おお、これは快適だ」
「ん、すごい。速いし、揺れない」
数度の試験飛行による微調整を行い、仁、エルザ、礼子は『コンロン2』に乗り、空中散歩を楽しんでいた。
「……この性能なら納得。でも一言教えて欲しかった」
少しだけ怨みがましくエルザが言った。在庫管理する側として複雑なのだろう。
「すまん。どうしても作っておきたくてさ」
「もう……ジン兄はそういう人だから、仕方ない」
仁が謝ると、エルザは笑って許した。
「お父さま、最高速度を出してみますか?」
十分高度を取ったと判断し、操縦席の礼子が尋ねてきた。
「よし、頼む」
仁とエルザはバリアを張り、非常脱出用の 転移門(ワープゲート) 近くに座った。
「では、いきます」
風避けの結界を張り、 噴射式推進器(ジェットスラスター) の最大出力を出す。
ぐん、と加速感があった。窓の外を見ればちぎれ雲が後ろへと流れていく。
『およそ時速140キロです』
老君からの連絡が入った。速度は蓬莱島を基準とした対地速度である。
「 噴射式推進器(ジェットスラスター) ではこの辺が限度か。礼子、 力場発生器(フォースジェネレーター) だ」
「はい」
今度は加速感が消滅。飛行船と乗員、その全ての分子に均等に力が働きかけているのだ。
『およそ時速220キロ』
「おお、やったな!」
想定した速度を1割ほど上回る結果となり、仁は嬉しそうに微笑んだ。
「ジン兄、すごい」
「お父さま、やりましたね」
エルザと礼子も祝ってくれた。
あとはのんびりと飛び回りつつ、西へ。眼下には崑崙島が見えてきた。
「よし、着陸だ」
「はい」
力場発生器(フォースジェネレーター) を使い、ゆっくりと下降する礼子。
『館』前の広場に『コンロン2』は着陸したのである。
「なんだか、久しぶり」
飛行船から下りたエルザは『館』を見て感慨深げに呟いた。
「初めて来たのは、ブルーランドから、だった。あの時は、ライ兄と、ビーナも一緒で」
「ああ、そうだったな」
あれは確か、去年の3月1日だった、と仁は思い出した。
今は1月23日、もう1年近くが経っている。
「長かったようで、過ぎてみるとあっという間のような気もするな」
その呟きをエルザも耳にしていた。
「ん。ほんと。ジン兄と出会ったのは2月9日。もうすぐ1年経つ」
「ああ、そうだっけ?」
「ん。ポトロックで、ゴーレム艇競技があって……」
「ああ、そうだったな。なんだか大昔のような気もする」
「私も」
異常とも言えるほど濃い日々を過ごしてきた2人はしばらく、それぞれの思いに 耽(ふけ) っていた。
「そういえば、エドガーはどうした?」
そんな中、エルザの 自動人形(オートマタ) 、エドガーが見えないことに気が付いた仁。
「ん……お母さまの具合があまり良くないので、身の回りのお世話をさせるために残して、きた」
「そう、か。暇があるときにはちょくちょく行ってあげるといい」
「ん、ありがとう」
『 御主人様(マイロード) 、そろそろよろしいでしょうか?』
いつまで経っても何も言ってこない仁たちを訝しんで老君が声を掛けてきた。
「あ、ああ。すまん。もういいぞ。何かあったのか?」
『はい。つい先程報告がありまして、ショウロ皇国からミツホ国への第1回友好先遣隊は順調に進んでいるとのことです』
「おお、そうだったか」
聞くところによると、1月12日にロイザートを発った先遣隊は、同月16日にイスマルの町着。
17日カリ集落、そして18日にセキの町に到着したそうだ。
そしてセキの町で交渉が開始されたという。
3日間の交渉を経て先遣隊はセキの町を通過することを許された。
『本日、つまり1月23日にミヤコに着いたということです』
「それは朗報だな」
老君が操る『ジョン・ディニー』により、ミツホ国の住民は好戦的ではないことがわかっていたとはいえ、国交を開くための試みが順調に進んでいるということを耳にするのは嬉しい。
『はい。そして同じく、クライン王国の調査隊一行がエゲレア王国首都アスントに到着したそうです』
「こちらもほぼ予定通りだな」
『はい、グロリアさんの一件以外は』
「そうだったな」
硫酸によく似た腐食液で顔から右腕にかけて焼かれてしまい、熱気球で治癒院へ搬送されていたのである。
『命には別状ないとのことですが』
「それだけが救いだな……」
腐食液を浴びた痕の予後がよくないらしい。
「女の人にとって、顔を焼かれたのは、辛い」
エルザも心配そうに呟いた。
「ああ。機会があったらエルザ、診てやってくれ」
「ん、もちろん」
エルザにとっても、知り合い以上友人未満ではあるものの、グロリアについては気に掛かっていた。
『 御主人様(マイロード) 、それでですね、最後に朗報があります』
「お? 何だ?」
老君がわざわざ朗報というのである。仁もエルザも期待に耳をそばだてた。
『紙と 糯米(もちごめ) が見つかりました』
「何だって!」
一見関連性のない2つがほぼ同時に見つかったという。
『ジョン・ディニーは、海辺の町『トサ』目指して街道を南下していました。その過程でその2つを見つけたのです』
仁は詳細の説明を促した。
『紙は洋紙ではありません。和紙に近いものです。木の皮を灰汁で煮た後叩いて繊維をほぐし、草から採った汁と混ぜて漉いています』
大雑把な説明であるが、まさに和紙の製法である。
『これも『 賢者(マグス) 』が伝えた製法らしいです。汁を採る草についての情報も得られまして、今、調査中です』
「ふうん……」
賢者(マグス) とはどんな人物で、どんな知識を持っていたのか、非常に気になる。
が、それは、後回し。焦ってもわかるものではない。じっくり情報を集めていく必要がある。
『糯米もほんの僅か、一掴みにも満たないほどですが、種籾を手に入れました。1年以内には食べられるくらい収穫できるでしょう』
蓬莱島でなら二期作、三期作が可能だ。一期目の収穫は全て種籾とすれば、二期目には若干、三期目には大量の糯米が得られるだろう。
『味噌、醤油、酒を造っているところがありまして、見学だけはさせて貰えました。手順はわかりましたので蓬莱島でも作れるようになるはずです』
酵母をほんの僅かだが同時に手に入れたので、期待して欲しいと、老君は仁に言った。
「うーん、ますます 賢者(マグス) の人物像が掴みづらくなったな」
『はい。製紙、醸造に通じ、鰹節も……』
「……土佐出身の人かな?」
仁はふと、マンガで読んだことを思い起こした。
「土佐和紙と鰹節……。醸造は化学の知識が少しあれば……」
それでも人物像は浮かんでこない。
「仕方ないな」
そちらは保留にし、仁は新たな産業を蓬莱島に持ち込むことを考える。
「紙は、貿易でショウロ皇国経由で小群国に普及させればいいから、蓬莱島では自給程度でいいな。他の産物もそれくらいでいい」
『わかりました』
老君は仁の指示に従うつもりであるが、蓬莱島の自給レベルというのは……推して知るべし、である。
「さて、まずはこの新型飛行船のお披露目に各国を訪れるとするか」
要は、仁の乗機がこれに変わったことを知らせて回ろうというのである。いざという時に怪しまれてはたまらないからだ。
「まずはカイナ村、クライン王国、エゲレア王国、エリアス王国、ショウロ皇国……の順でいいかな。エルザももちろん一緒にな」
「ん、お供する」
こうして、新型飛行船『コンロン2』のお披露目が始まる。