軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-35 ボッツファ遺跡

1月12日の昼過ぎ。

「見えました! 巨大なゴーレムです!」

エゲレア王国調査隊では、先行した偵察用熱気球から報告が入った。

場所は旧レナード王国、ツボウ集落である。

「おお! あれはエゲレア王国の熱気球?」

クライン王国調査隊でも、空を飛ぶ熱気球に気が付いていた。

「やったんだな!」

歓声が上がる。

旧レナード王国に足を踏み入れて1週間。調査隊一行は目的を8割方達成したことになる。

その報告から1時間後の午後1時半、2国の調査隊は握手を交わしていた。

「遠路はるばるご苦労でした。しかし、『ゴリアス』ですか。迫力ありますなあ」

「ええ、随分と助けられました」

「いや、なかなか興味深い旅でしたよ」

ツボウ集落の外れに立てられたテントの中、クライン王国調査隊隊長のベルナルド、副隊長グロリア。エゲレア王国調査隊隊長のブルーノ、 魔法工作士(マギクラフトマン) ジェード。

そして援軍であるショウロ皇国少佐、フリッツらが顔を合わせていた。今回の調査行の成果としてここまでの道程を報告し合っているのだ。

「ニューレア集落では海の幸、オーニング集落では野生のシーパが手に入るでしょう」

「ウーゴン集落ではハチミツ、シトランが手に入るだろう。その他にも、道中で半ば野生化しているライ麦を見つけた」

という報告がなされる。これらの恩恵を受けるのは主にクライン王国となるだろう。

「『ゴリアス』が歩いて来た道は簡易的ではあるが均され、歩きやすくなっている。できるだけ上り下りが少なくなるよう気を付けてきた」

フリッツの説明に、エゲレア王国の2人は頷いている。ジェード・ネフロイは『ゴリアス』を調べてみたくてたまらなそうな顔つきだ。

「ツボウ鉱山の調査はこれからだが、ソルドレイク遺跡では大きな収穫があった」

隠してもじきにわかることなので、駆け引きが苦手ということもあり、この場は正直に打ち明けようと、ブルーノは口を開いた。

「ほう、 魔結晶(マギクリスタル) にゴーレム、それは……羨ましい限り」

クライン王国調査隊隊長ベルナルドは少し残念そうに言った。

「ボッツファ遺跡もまだ調査しておりませんし、共同で調査いたしませんか?」

そんなベルナルドの様子を見て、ブルーノが提案する。

「おお、それは願ってもないこと」

ボッツファ遺跡は、今彼等のいるツボウ集落の南西30キロほどの場所にある遺跡だ。

熱気球、『ゴリアス』、両国の騎士、そして 魔法工作士(マギクラフトマン) 。

これだけの面子が揃っていれば、遺跡の調査も捗るに違いないとブルーノは考えたのだ。

本来なら、自国の利益を最優先をすることを考えるべきで、他国を誘うというのは普通では有り得ない選択なのだが。

これは政治的判断が苦手なブルーノらしい提案だったと言えよう。

だが、ここに待ったが掛かる。

「駄目です!」

ツボウ集落の長であった。

「うん? どうしていかんのだ?」

ブルーノが問い返した。

「あ……あそこには立ち入ってはならないのです!」

「ん? 何故だ?」

「中には、危険なものが封印されているのです!」

「危険なもの? それは何だ?」

初耳である。今まで出会った住民に、そんな話を聞いたことはない。

「わかりません。ですが、遺跡のそばに、『危険につき立ち入り禁止』とかつては記されていたそうです」

「ふむ、立ち入り禁止、か」

ブルーノは少し考えてみた。

ここは旧レナード王国。魔導大戦時にはまだ存在していたことが記録からわかっている。

騎士という立場から推測を立ててみると、可能性は幾つか考えられた。

武器や兵器などが隠されている、もしくは捨てられており、一般人が近付くと危険。

もしくは非常用の物資が蓄えられており、それを守るために立ち入り禁止にした。

本当に危険な何かがいる。

元々無骨者のブルーノ、考えることはあまり得意ではない。

「……確かめたものはいるのか?」

長にブルーノが更に問い返した。

「……」

それに対し、長は明言することができない。確かに、自分の目で確かめたわけではないし、他に確かめた者もいないからだ。

「で、ですが、言い伝えでは!」

それでも食い下がる長を、ブルーノは手で制した。

「ああ、わかったわかった。とはいえ、我々も国のためにここまでやって来たのだ。ゆっくり、慎重にやるということでどうだ?」

巨大ゴーレムが味方にいるし、とも付け加える。

確かに、『ゴリアス』の巨体は見ていて頼もしく、安心感を与えてくれる。

長もそれ以上強くは言えず、引き下がったのであった。

* * *

翌13日、調査隊は南西へと進み始めた。

先頭を行くのは『ゴリアス』。そして空には熱気球が浮かび、進行方向を指示している。

具体的には進むべき方向に少し先行して浮かび、そちらを目指して『ゴリアス』が進んでいく、という手順だ。

「ほう、これはすごい、確実だな!」

フリッツが感心したように言った。

「空からの観察がこれほど有効とはな」

また、エゲレア王国のメンバーも、手回り品以外を『ゴリアス』が運んでくれるので、身体が軽いことに感謝していた。

これを機に、遠征隊の構成として、偵察用熱気球と運搬用ゴーレムが加わることになる。

3国混成隊とした意味があったということである。

ほぼ時速4キロで進むことができたため、一行はまだ日のあるうちに30キロを踏破していた。

「ここがボッツファ遺跡か……」

目の前にあるのは崩れた鉱山の入口にしか見えない。

そもそも、旧レナード王国の『遺跡』と言うのは2種類あるのだ。

1つは、誰が見ても遺跡と思うようなもの。おそらくは研究所や物資倉庫だったもの。

もう1つは、集落のそばにあって、住民が『遺跡』と呼んでいるものだ。ここは後者だったらしい。

「……貴重な鉱石や 魔結晶(マギクリスタル) はあるかもしれないがな……」

少し、いやかなりテンションの落ちた一行である。

いずれにせよ、発掘調査は翌日以降になる。

一行は遺跡のそばに平坦な場所を見つけ、テントを張る。

その夜は何事も無く過ぎていった。

翌朝、いよいよ遺跡の発掘調査である。

坑道と思われる入口付近は崩れた土石で埋まり、掘り返すには時間が掛かりそうである。

だがこの一行には、『ゴリアス』という、強力なゴーレムがいた。

『ゴリアス』は、坑道入り口に積み重なった岩を、ゆっくりとではあるが取り除いていく。

「おお、すごいな」

「……この巨大ゴーレムが味方で良かった」

などの感想を抱く騎士たちの目の前に、坑道がその口を開いたのは昼前であった。

「さすがに内部にまでは『ゴリアス』は入れない。ゆえにあとは我々騎士の仕事となる。が、まずは腹ごしらえだな」

はやる隊員を抑えるかのように、ブルーノは冗談めかして言う。そしてベルナルドも賛同した。

「そうだな。急ぎ昼食を摂るとしよう」

両隊長に言われ、隊員たちははやる心を抑え、それでも大急ぎで昼食の準備を進めていく。

とはいえ、スープを温め、干し肉を焼き、堅パンを切って並べるだけだ。手慣れた彼等は15分で仕度を終えた。

「……フリッツ殿、どう思われる?」

干し肉を飲み込んだグロリアは、たまたま隣にいたフリッツの意見を聞いてみることにした。

「ん? 何がだ?」

パンを飲み込んだフリッツが怪訝そうな顔をする。グロリアは補足説明をした。

「いや、この遺跡に封印されているもののことだ」

その問いにフリッツは珍しく難しい顔をした。

「俺にはわからんな。だが、隊長が決めたなら従うだけだ」

「貴殿はショウロ皇国の軍人だ。そのあたり、裁量権があるのでは?」

「確かにそれはある。が、一旦組織の一員になったら、よほどの理由がない限り、俺はその組織全体の方針に従う」

考えることは苦手だからな、と付け加えるように言ってフリッツは苦笑気味に笑ったのである。