作品タイトル不明
21-34 複雑な現状
クライン王国を発った仁たちは、カイナ村、二堂城前に着陸した。雪の上である。
「おお、雪か! 珍しい!」
ラインハルトはあまり雪景色を見たことが無いらしく、少しテンションが高い。
そんなラインハルトの様子を珍しく思った仁が、
「意外だな」
と言えば、エルザがフォローした。
「ショウロ皇国は内陸にあるためか、あまり雪が降らないから」
「ああ、そういうことか」
「それに、外交官としても、積雪で日程に差し障りがあるような季節は避けるし」
仁はそれもそうか、と納得した。エルザたちとエリアス王国から旅をした時も、あまり雪は見なかったことを思い出す。
雪合戦のとき、エルザが囮になったが、あれも雪ではしゃいだ結果なのかもしれない、と仁は頭の片隅で思っていた。
「おにーちゃん、おねーちゃん、おかえりなさーい!」
ハンナがやって来た。仁の飛行船を見つけて、急いで駆けてきたようだ。
「ただいま、ハンナ」
またじきに出掛けることになるとはいえ、少しでもハンナの相手をしてやりたく思う仁である。
「あれ? えーと……そうだ、ラインハルトおじちゃんだっけ?」
「お、おじちゃん……」
ラインハルトを見たハンナがおじちゃん呼ばわりしたので少し落ち込むラインハルト。
「ライ兄、どんまい」
どこで覚えたのか、そんな言葉でエルザがラインハルトを慰めていた。
* * *
日暮れまで、仁はエルザと共にハンナと遊んだ。
その後、蓬莱島へ移動。3458年最初の仁ファミリー全員集合である。
「遅ればせながら、新年おめでとう。今年もよろしく」
と、当たり障りのない挨拶を交わした後、仁は全員の前で抱負を口にした。
曰く、崑崙島を正式に領地としたいということ。
曰く、旧レナード王国を再興し、王と王妃にはアーネストとリースがなってくれたらいいな、ということ。こちらは長期的な話である。
「いろいろ言いたいことはあると思うが、崑崙島については、クライン王国、エゲレア王国、エリアス王国から承認を得て、『崑崙君』の称号を貰った」
そこまで仁が説明し、一旦口を噤むと、ファミリーのメンバーが発言を始める。
「崑崙島を本来の意味でダミーとして使うのはいいだろうな。いや、もうダミーじゃないな。ジンの正式領地だ」
ラインハルトがまず口を開いた。
「だが、旧レナード王国を再興するというのは大変だし、周りとの軋轢もあるだろうし、一筋縄じゃ行かないぞ?」
と、彼は仁に釘を刺すのも忘れない。
「ああ、それは確かに。で、俺の言い方が悪かった。別に俺が表立って旧レナード王国を再興しようというんじゃないんだ。今、エゲレア王国とクライン王国から調査隊が出ていることでもあるし、アーネストもリースもいい為政者になりそうなのに今のままじゃ惜しいなあと思うこともあったりで……」
「なるほど、情勢をそういう流れに持って行けたらいい、というくらいなのね」
今度はステアリーナが仁の言いたいことを酌み取って発言。
「ああ、そういうことさ。別に俺が各国に声を掛けて……というつもりはないよ」
仁の補足説明に、全員が納得したように頷いた。
「それならいいかな。ジン君が世界を裏で牛耳るのかと思っちゃったわ」
ヴィヴィアンが語り部らしい意見を述べた。言われた仁は頭を掻く。
「流石にそれはしませんよ……面倒臭いし」
「くふ、面倒臭いというのがジンらしいよね」
サキもそんなことを言って笑った。
「今、各地でいろいろな動きが出ている。それをまとめてみたいと思う」
落ち着くと、仁は2つ目の議題を口にした。とはいえ、説明役は老君である。
『まず、船についての動きが各国で活発化しています』
老君の落ち着いた声が説明を開始した。
『ショウロ皇国では『ベルンシュタイン』の成功を機に、大型船の更なる建造が進められています。 御主人様(マイロード) やラインハルトさんがいないため、少々難航してはいますが』
ラインハルトは苦笑しつつそれを聞いた。
『エゲレア王国では、大型船と共に、河川を使った物資輸送を念頭に置いた浅底の小型船を量産すべく動き始めました』
仁も知っている。『棹』を使うことを提案したときの話だ。
『エリアス王国も同様です。マルシアさんの工房では、中型船の注文を受けたそうです』
ロドリゴも戻っているので、きっと上手くやれることだろう、と仁、ラインハルト、エルザは思った。
『そして、セルロア王国ですが、エカルトさんが成功したことを受け、あの船を徴発しようという動きもあるようです』
「何!? なんて無茶な」
ラインハルトが大声を上げたのも無理はない。民間の一商人が心血注いで開発、作り上げた大型船を国が接収してしまうと言う。正気の沙汰ではない。
『他の国に遅れたことが許せないのでしょう』
老君の冷静な声が分析結果を述べるが、それで納得できるようなことではない。
「あの国は遠からず人材不足に陥るぞ……」
ラインハルトの呟き。それは仁ファミリー全員の思いでもあった。
『次は旧レナード王国の調査隊ですね。エゲレア王国とクライン王国から調査隊が出ております』
「フリッツ兄様も協力していると言ってた」
エルザが補足する。
『はい。クライン王国からの調査隊には、大型ゴーレム『ゴリアス』5体を率いて、フリッツさんが参加しています。そのままエゲレア王国に抜けることで、道を付け、帰国も楽になる、そういう目算でしょう』
『ゴリアス』5体ならば、その通った後は簡易舗装並みに踏み固められるからだ。ロードローラーというものを知らないこの世界としては画期的な方法と言える。
『クライン王国の調査隊は順調に進み、本日ツボウ集落に到着したようです』
魔導投影窓(マジックスクリーン) に映し出した地図に赤い線が引かれており、ツボウ集落は赤丸で示されていた。
『対して、エゲレア王国の調査隊は遅々として進んでいません。というのも、ソルドレイク遺跡で戦闘用ゴーレムと 魔結晶(マギクリスタル) 多数を見つけたからです』
それは仁たちも『 魔導監視装置(マギモニタ) 』を通してその様子を見ていたからよく知っている。
『それを回収すべく、更なる部隊がエゲレア王国を出発しておりますね』
「まあ、わかるな。エゲレア王国はゴーレム 園遊会(パーティー) の騒ぎで、かなり経済的に打撃を受けたからな」
ラインハルトが一人頷く。
「しかし、遺跡か……興味あるねえ」
トアは行ってみたそうな顔をしている。
「くふ、父さん、父さん」
苦笑交じりにサキはそんなトアを 突(つつ) いていた。
「でもほんとに興味深いわね」
語り部であるヴィヴィアンまでそんなことを言う始末。
『これも、セルロア王国が聞きつけ、調査隊を出そうという動きがあるようですね』
「あの国は……」
などという呟きがラインハルトの口から漏れた。
『最後に、ショウロ皇国では、異民族への友好使節が明日出発するようです』
「え、明日?」
『はい。大使はウッドルフ・アーベライン・フォン・エルム伯爵、ロイザートで右隣のお宅ですね』
お宅、という単語が妙に場違いで、仁は思わず笑ってしまいそうになった。
「確か、魔法技術省技術部部長、だと言ってた気がする」
エルザが考え考え口にした。引っ越しの挨拶回りをしたからその辺はエルザの方が仁よりも詳しかったりする。
『はい、エルザさんの仰る通りです。 御主人様(マイロード) が、魔法工学を使える人がいい、というような助言をされたからと思われます』
異民族……ミツホ国では、古くなって故障した魔導具を直せる技術者が慢性的に不足しているため、こういう点が友好の糸口になれば、との助言であった。
『護衛隊長はマテウスさん……ベルチェさんのお兄さんですね』
「ああ、兄様がそんなことを言ってましたわ」
『ミツホ国の情勢は安定していますので危険は無いでしょう。当面の問題は旧レナード王国ではないかと思われます』
全員、それに異論はなかった。
「ん。フリッツ兄様と、グロリアさんもいる」
『一応、空からスカイ21が見張っております』
「……ありがとう」
何かあったらすぐに救援に向かえるというのは安心材料である。エルザは老君に礼を言った。
一通りの現状が明らかになったが、なかなかの混沌ぶりである。
加えて、クライン王国やセルロア王国の飢饉も始まりそうということで、3458年は波乱の幕開けと言えそうである。