作品タイトル不明
21-33 謎残る接収
「すごい数だな……!」
「こ、これはもしや、レナード王国が有していた戦力……?」
「すごい、すごい、すごい!」
ジェード・ネフロイは我を忘れてゴーレムの間を駆けずり回っていた。
「おい、ゴーレムに気を取られていたが、あれを見ろよ」
後方を指差す男の声に、仲間の騎士たちも揃って振り返った。
「おわあ!」
「……すげえ」
そこにあったのは、 魔結晶(マギクリスタル) の山。属性別になってはいないが、赤、黄、緑、青、紫、白、黒、透明と、色とりどりの 魔結晶(マギクリスタル) が積まれていた。
「なんでこんなに……」
それはまだわからないが、これだけの量の 魔結晶(マギクリスタル) があれば、先年の損失……『ゴーレム 園遊会(パーティー) 』時の損失も補填できそうだと、隊長のブルーノは目を輝かせた。
* * *
そしてそれは、『 魔導監視装置(マギモニタ) 』のこちら側にいる魔法相ケリヒドーレも同じ思いだったようだ。
「すばらしい。 魔結晶(マギクリスタル) とゴーレムの発見か。これで我が国の財政も一息つけよう」
滅びたと思しき王国、その遺跡に眠るお宝。
見つけた者が所有することに異議を唱える者は、この世界にはいない。法もない。
「古い採掘場だったんだろうか?」
仁は自問自答した。
旧レナード王国がまだ機能していた頃から 魔結晶(マギクリスタル) を採掘していたとすればあの量も納得できる。
蓬莱島でも1000年間、同じようにゴーレムによる採掘が続けられていたのだから。
だが、戦闘用ゴーレムの説明がつかない。
「ふむ、確かにおかしな組み合わせだな」
興奮から冷めたケリヒドーレも、仁の疑問に同意したのである。
「……それに、あのゴーレムの向き」
エルザも疑念を口にした。
「うん? 向きですと?」
『向き』というのは、居並ぶゴーレムは全て、部屋の奥を向いていることを言っている。
「ん。あれでは、奥から出てくる何かを警戒しているみたい」
「……確かに」
こうした不可解な部分について、仁たちは事態を傍観しているからかなり冷静に判断を下せるが、当事者たる調査隊は、発見に夢中で、何ら疑念を抱いている様子はない。
そのうち、映像が動き始めた。『 魔導監視眼(マジックアイ) 』を持っている騎士が歩き出したのだろう。
映像は、ゴーレム達の間を縫って、奥へと移動していた。
* * *
「うん? このあたりのゴーレムには傷が付いているな」
400体を過ぎたあたりのゴーレムの、その鋼の外装にひっかき傷が見られたのである。
そして更に。
「……腕がない?」
500体を過ぎたものは損傷が酷くなってきていた。
「……!」
550体以降は全て破壊されていたのである。
「この惨状はいったい?」
「何故部屋の奥に行くほど被害が増えるのだ? まるで奥から敵が出て来たようではないか」
その問いへの答えはない。
部屋の奥には、瓦礫が積み上げられており、そこが何であったのか想像も出来なかったのである。
* * *
遺跡ではそれ以上の発見はなかった。とはいうものの、戦闘用ゴーレム多数、そして 魔結晶(マギクリスタル) の発見は、大きな利益をエゲレア王国にもたらす事になるだろうと思われた。
エゲレア王国では、ゴーレムと 魔結晶(マギクリスタル) を回収するための大部隊の出発準備が始められたのである。
* * *
「それでは、ひとまず我々はこれで失礼します」
仁たちは翌10日の朝、アスントを発ち、クライン王国首都アルバンを目指した。遺跡では、あれから特に進展はなかったのである。
「これでラインハルトも大使としての役目が終わるな」
「ああ、いろいろあったがね」
仁としても、直接クライン王国で崑崙島の件をはっきりさせておきたかったのだ。
距離にして約250キロ。仁の飛行船は5時間でアルバンに到着した。時刻は午後1時である。
連絡が行っていたので、アルバンではリースヒェン王女以下、見知った顔が出迎えてくれた。
「おお、ジン、久しいのう! ……といっても、父王の治療以来じゃから、ふた月弱、か」
「ジン殿、エルザ殿、そして大使ラインハルト殿、ようこそ」
リースと共に出迎えたのは第2王子アーサー。そして、
「ジン殿、またお会いできて光栄です」
第2王子アーサー付きの家庭教師、リオネス・アシュフォードであった。
すぐに仁たちは応接室に通される。
食事は飛行船の中で済ませたと言うと、お茶とお茶請けが出てきた。
「さてエルザ殿、いや、今はエルザ・ランドル媛でしたね。まずは、先日のお礼を改めて言わせていただきましょう。父王を治療して下さり、ありがとうございました」
アーサーが頭を下げた。同時にリースヒェンも頭を下げる。
「あれから父もかなり回復しまして、今では普通に政務を執れるまでになりましたよ」
「それはようございました」
少し照れながらエルザが答えた。
「さて、本日の御用向きは、幾つか承っておりますが、まずはジン・ニドー卿の方から始めましょうか」
その言葉と同時に、リースヒェン王女が皮紙を差し出した。
「ジン・ニドー卿、3458年1月10日、クライン王国は汝を『崑崙君』として認めるものである」
形式張った口調でリースヒェンが皮紙の記述を読み上げた。
「ジン、大したものじゃな! 妾(わらわ) もその崑崙島とやらへ行ってみたいぞ!」
皮紙を手渡しながら、今度は気さくな言葉を投げかけてくるリースヒェン王女である。
仁は真面目な顔で皮紙を受け取ってから、今度は笑いかける。
「ああ、いずれ、状況が落ち着いたら、きっと」
「うんうん、約束じゃぞ」
リースは満足そうに頷き、話題は次へと移る。
「ラインハルト殿、ショウロ皇国より借り受けた『ゴリアス』5体を使っての街道整備計画は今のところ順調なようです。その事に関しましてまずはお礼申し上げます」
輸送と道路の整備ができてしまうと言うことは大きい。
「この謝礼につきまして、我が国と致しましてはこのような内容を考えております」
丸め、封をした書類を差し出すアーサー王子。ラインハルトは会釈をしてそれを受け取った。
大使とはいえ、ラインハルトにその書類を見る権限まではない。ショウロ皇国へ持ち帰り、女皇帝に渡すことになる。
「ジン殿、先日貴殿が教えてくれた『ソバ』なる作物ですが、『 懐古党(ノスタルギア) 』から少々譲って貰えまして、早速栽培を始めたところです」
「それは良かった」
仁、つまり蓬莱島の在庫が少なかったため、魔族領までアンを派遣し、種を若干分けて貰い、それを 懐古党(ノスタルギア) に託した、というわけである。
「俺も先日お約束したとおり、手に入った分を持って来たのですが」
そう言って仁は礼子に命じ、小さな袋を差し出した。およそ1キロほどのソバの実である。
「おお、助かります」
約束を守った、と言う事実だけは誇れるが、到底、必要量には満たないので、仁としては心苦しかった。
「あとは、これを」
そして仁は地図を手渡した。
「おお! これは!」
「す、すごいのう」
「かのレナード王国の地形もわかる!」
白地図に毛の生えたようなものとはいえ、地図のインパクトは大きいものがあった。
これに関しての礼は後日、ということになり、約定が交わされた。念のため、明文化しておく。
話は更に進んでいく。
「……ふむ、そうすると我が調査隊は今頃このあたりを進んでいることになるな」
そう言ってアーサー王子が指差したのは、ダース川上流。
仁はそれを見て、おそらく等高線に沿って南下しているだろう、と推測する。
これは、等高線を知っているという意味でなく、わざわざ上り下りをするようなルートを選んでいないだろうという意味だ。それが一番労力が少ないという理由で。
だが、それではエゲレア王国調査隊と行き違う可能性も出てくるだろうと思われた。
熱気球をどこまで上手く活用しているか、それは仁にもわからない。
旧レナード王国の調査はまだまだ始まったばかりである。