軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-29 明るい未来

「ジン、おめでとう!」

「ジン兄、おめでとう」

「お父さま、おめでとうございます」

エリアス王国国王、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世との謁見を終えた仁たちは、王城内、貴賓室で、内輪だけのささやかな祝賀会を行っていた。

いわずとしれた、『崑崙君』就任祝いである。

「ラインハルトのおかげだよ。ここへ持っていくまでの流れは、ラインハルトの助言がなかったら無理だった」

「はは、そう言って貰えると嬉しいがな、僕の助言なんか無くとも、ジンならいずれは認められたさ。ただ早いか遅いかの違いだよ」

「いや、その早さが問題なんじゃないか。これで、今後の方針も立てやすくなった」

エリアス王国特産のワインの1つ、『クローツェル・ビアンコ』。ザウス州産の高級白ワインということで、ラインハルトのお勧めである。

3人とも、『 解毒(デトックス) 』の効果を持つ魔導具を身に着けている事を忘れて飲んでいるのでほろ酔い以上になっていないのは良かったのか悪かったのか。

ワイン代はエリアス王国持ちなので、並んだ8本の空き瓶を見て、翌朝、財務官が顔を顰めることになるのだろう。

* * *

翌8日、仁たちは宰相、そしてフィレンツィアーノ侯爵に挨拶をした後、飛行船でエリアス王国を発った。

エゲレア王国とクライン王国を回り、地図を手渡すのが目的である。この事は、朝の定期連絡により、ショウロ皇国も了承済み。

宰相から、『『崑崙君ジン・ニドー卿』に協力するように』との言葉も貰い、ラインハルトとエルザは堂々と仁に同行することができていた。

エリアス王国の首都ボルジアからエゲレア王国の首都アスントまでは150キロ、飛行船で3時間ほどの距離である。

天気はまずまず。快適な空の旅を楽しめそうだ。

「ジン、今回は助かったよ」

ラインハルトは感慨深い顔で仁に礼を言った。

「それはこっちのセリフだ。ラインハルトの協力があったからこそ、スムーズに話が運んだよ。なあ、エルザ?」

「ん。ライ兄は、こういう時に頼りになる」

「はは、ありがとう。……しかし、こうなると、崑崙島の整備ももっとしていくんだろう?」

「うん、そうなるな」

崑崙島の大きさとしては、伊豆大島くらいである。その気になれば、1万人くらいは住めるはずだが、現在の人口は0人。仁とエルザを数に入れれば2人。

まだまだ整備・改善の余地はある。

「希望者がいて、ふさわしい人なら住んでもらってもいいんだが……」

大陸間の移動が困難というデメリットがある。 転移門(ワープゲート) はやはり一般公開したくないからだ。

「利用する人数が増えれば、いずればれるよな」

「ん、それはまず間違いなく」

仁とエルザ、ラインハルトの意見はその点でも一致している。

今のところ、 転移門(ワープゲート) をいつ公開するかという点が、未解決の事案であった。

「マルシアとももう一度、もっとゆっくり話をしたいし」

「ん。今回はお仕事で来たからゆっくりできなかった」

マルシアとロドリゴには、仁ファミリーに入ってもらいたいとさえ考えているのだ。

空の上でそんな話をしているうちに、飛行船は海の上に出た。

眼下に広がるのは青々とした海原。エリアス半島や南の島々に囲まれた、言わば内海である。

故に、海流の影響も少なく、波も比較的穏やか。今のところ、危険な大型の魔物は確認されていない。

「いずれ、海路が拓かれるだろうな」

今回の『ベルンシュタイン』による成功は大きい。2番艦も作っているだろうし、セルロア王国やエゲレア王国、エリアス王国も造船に力を入れるだろう。

それを見越しての地図配布であった。

会話は、飢饉の話に移っていく。

「エゲレア王国も飢饉とは無縁のようだな」

ラインハルトが呟いた。

「ああ。内陸部が危ないようだ」

さすがに広すぎて、仁の 第5列(クインタ) たちでも、小群国全域の情報は集め切れていなかった。

「セルロア王国の東部は放牧で暮らしている人々が多いからな」

ラインハルトの説明。さすが外交官、国外の事情に詳しい。

セルロア王国東部は荒れた草原が多く、穀物の栽培に向かない。

では住民はどうやって暮らしているかというと、その答えが放牧。

遊牧民として暮らす人々は、放牧した『ムトン』、つまり飼い慣らしたシーパを財産としている。

ムトンは草食獣で、地球で言う羊にごく近い。その主な用途は毛糸を取ること。一応肉は食べられるが、野生のシーパより不味いという。

「税は原毛で収められているから、飢饉とは無縁だし、雨が多いということは草の発育が良くなるから、彼等は助かっているんだろう」

これは仁の分析。

「なるほど、そうすると、飢饉が起きるとすると、セルロア王国の中心部だな」

南部のコーリン地方も、気候的にはショウロ皇国に似ていて、飢饉の話は聞かない。

クライン王国・フランツ王国、そしてセルロア王国中心部が今回の飢饉に襲われた地域と言うことだ。

「食糧輸送の問題が解決されればな」

物流がスムーズに行けば、今回の飢饉は乗り越えられると仁は見ていた。

エリアス王国のトポポや干し魚。エゲレア王国の麦、干し魚。ショウロ皇国も麦を援助可能。

そして山地で獲れる山鹿やシーパがあれば、秋に播いた麦が収穫できるまで何とか保つだろう。

仁が援助するとすれば、間に合わなかった時や、不慮のトラブルが生じた時。

過干渉せずに切り抜けられそうで、仁はほっとしていた。

間もなくエゲレア王国である。

* * *

一方、仁が去ったエリアス王国では、国王、宰相、そしてフィレンツィアーノ侯爵らが話し合いを続けていた。

「この地図は恐ろしい程正確ですな!」

騎士団長や将軍などの軍関係者に見せると、一様に同じ反応が返ってくる。

「……ジン・ニドー卿が怖ろしくもあるな。この技術を戦争に使われたらと思うと、震えが来るよ」

宰相が正直な感想を漏らした。

「いや、先日、ラインハルト・ランドル卿とエルザ・ランドル媛も言っていましたが、彼にはそう言う野心は無く、平穏に暮らしたいだけなんだそうですよ」

フィレンツィアーノ侯爵が仁を擁護した。

「うむ、エゲレア王国国王やショウロ皇国皇帝も同じ意見らしい」

定期連絡で話を聞いているようで、エリアス王国、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世は、仁に対して必要以上に警戒する必要はない、と釘を刺した。

「それよりも、今回示唆された諸問題を検討すべきだろう」

国王の言葉。マルシアの遭難も含め、大型船で海に乗り出すに当たって、沢山の問題が出てきた。

灯台を沿岸に建設する必要性。

荷物を入れるコンテナの規格化。

旗や信号による情報の伝達、その際の国際規格化。

航路の設定と港の整備。

海難救助の体制確立。

国際的に、まず動くべき点だけでもこれだけある。検討次第ではまだ出てくるだろう。

更に、自国でも大型船を建造し、運用しようとなると、更に問題は倍加すると思われた。

「熱気球の運用と我が国での量産も考えねばな」

うまくいけば、海難救助に熱気球を使うこともできるだろう。上空からの捜索は、特に海の上では有効だろうからだ。

大型の船にも1機搭載することができるなら、偵察や救助要請にも使えると思われる。

「やれやれ、新年早々、仕事が目白押しだな」

「ですが、戦争などでなく、平和と繁栄のためですからね。やり甲斐がありますよ」

わざとらしくぼやく宰相を、フィレンツィアーノ侯爵が宥めた。

「うむ、その通りである」

国王は侯爵の意見に大きく頷く。

エリアス王国はこの年、更なる発展が見込まれるだろうと思われた。