作品タイトル不明
21-28 崑崙君
「まずはジン・ニドー卿に、我がエリアス王国としても、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の称号と、名誉士爵位を正式に贈りたいと思う」
宰相のゴドファー侯爵が切り出した。先日、フィレンツィアーノ侯爵から話を受けていたので、これが正式な認定となる。
「謹んでお受けします」
仁は頭を下げた。
「つきましては、俺……いえ、私から、お願いがあります」
「ほう、何かな?」
「エリアス王国、つまりエリアス半島の遙か東の海上に、『崑崙島』という島があります。そこが俺……私の拠点です」
「ほう?」
ついに、仁はその話を切り出した。前日、ラインハルトやエルザ、老君、礼子らと何度も話し合いをした、その結果だ。
「正確には、旧レナード王国の真東になりますが」
仁は幾つか補足説明をした。
「ふむ……陛下、私としましては問題ないので、認めてよいと考えますが」
そもそも知られていない島であり、エリアス王国にとってすら関係のない島、と見ることもできる。
これが、海運が発達してからだといろいろややこしくなるのではないか、というのが仁たちの一致した見解だった。
「わかった。ジン・ニドー卿、我が国は、その『コンロントウ』を貴殿のものと認める。……書面にしよう」
「ありがとうございます。できますれば、『 魔素通話器(マナフォン) 』にて、各国にそれを伝えていただけるとありがたいのですが」
「うむ、承知した。昼の定期連絡で行うことにしよう」
ブリッツェン・スカラ・エリアス12世は快く引き受けた。
これで1つ目のハードルを越えられた、と仁はほっとする。
「ありがとうございます。『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』として、貴国に、『熱気球』をお贈りしたいと思います。昨日崑崙島を出ておりますので、昼には到着するかと思います」
「おお! それは嬉しい」
仁を『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』としたのは、これが欲しいがため、という理由が半分はあったであろう。王、宰相共に喜色満面である。
まずは、これで1度目の謁見は終わりとする。
2度目は、昼の定期連絡が終わった後、各国の反応を見てから、となる。
仁たちは貴賓室に控えることとなった。
「いやあ、ジン、上手くいきそうだな」
ラインハルトもにこやかな顔をしている。
「ああ、昨夜いろいろと打ち合わせたしな」
エリアス国王の人となりを仁は知らなかったので、そのあたりはラインハルトが頼りであったのだ。
「昼の定期連絡まであと2時間か……」
時差があるので、エリアス王国の正午は、ショウロ皇国の午前9時くらい。クライン王国は正午過ぎくらい、セルロア王国で午前10時くらい。どの国も問題のない時刻である。
「その間に打ち合わせ通り、熱気球をこちらに送らせよう」
ショウロ皇国・エゲレア王国・クライン王国と同型の、熱気球を2機、エリアス王国に贈る予定である。
実際は転送機で、であるが、崑崙島から飛んできた、という形にするわけだ。
崑崙島と、エリアス王国首都ボルジアとの距離はおよそ500キロ。時速30キロで17時間弱。昨日から飛んでいるという説明はこれで辻褄が合う。
操縦してくるのは 職人(スミス) ゴーレムだ。
「あと1時間くらいですね」
礼子が老君と通信で打ち合わせしつつ言った。
「おそらく、崑崙島の件は他の国でも承認されるだろう」
ラインハルトがゆっくりと、呟くように言った。
「今のところ、崑崙島のある海域は、船で行き来できるような場所じゃないからな。エリアス王国としては何の不利益も 被(こうむ) らないわけだ」
エルザが引き継ぐ。
「……で、船がまだ未発達の今が好機、というわけ」
そして仁。
「そう。旧レナード王国の件も未解決だから、エリアス王国が 諾(だく) 、と言えば他の国も承認するだろう、というわけだったよな」
一番利害関係が発生しそうなのがエリアス王国であり、そこが承認していれば、他の国としては頷くだろうというのが仁たちの見通しである。
セルロア王国やフランツ王国ですら、これにわざわざ異議申し立てはしないだろう、と老君も推測していた。
「むしろ、熱気球欲しさに、ジン兄を 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) に認定する、といってくるかも?」
だが、ラインハルトはエルザのその発言を否定した。
「いや、セルロア王国は無駄にプライドの高い国だ。 統一党(ユニファイラー) が深く根を下ろしていたこともあって、それはないだろう」
クライン王国国王治療の時も、動力無しの熱気球を、工作員であったデライト・ドムス・ハンクス元産業相が使っていたことを仁は思い出した。
「ああ、確かにな。旧型ながら熱気球持っているし」
そして、
「まあ、別に俺は困らないしな」
そう言ってソファの背にもたれたのである。
その日の昼過ぎ。
仁たちは再び国王と面談をしていた。
「先程、昼の定期連絡会で貴殿の要望を話してみたところ、ショウロ皇国・クライン王国・エゲレア王国は問題なく承認した。セルロア王国とフランツ王国も、な」
宰相の言葉に、仁は胸を撫で下ろした。
「同時に、卿に『崑崙君』の称号も与える、と、各国の意見が一致した」
この場合の『君』は『領主』の意味である。
これで2つ目のハードルを越えた。
「ありがとうございました。ところで、そろそろ熱気球が着く頃です」
仁がそう言った矢先、ノックの音がし、衛兵が連絡を入れてきた。
「東の空から、熱気球が近付いて来ております」
「俺……私が呼び寄せた熱気球です」
「おお、そうなのか!」
「到着をご覧になりますか?」
仁がそう言うと、宰相だけかと思いきや、フィレンツィアーノ侯爵、そして国王も城の前庭へとやって来たではないか。当然、近衛騎士に守られながらではあるが。
熱気球は2機。ゆっくりと降下し、仁たちの前に着陸した。
「ご苦労、 職人(スミス) 」
「はい、ご主人様」
熱気球を操縦していたのがゴーレム、それも言葉を流暢に話し、金属製の外観以外は人間そっくり、ということに、集まった人々は皆驚いていた。
「これがお贈りする熱気球です。使い方はこの 職人(スミス) たちに説明させましょう」
「う、うむ」
早速、担当官が呼ばれる。魔法知識の豊富な中堅の官僚だ。
そちらは 職人(スミス) に任せた仁は、計画の仕上げにかかった。
「もう一つ、私から贈り物があります。ここでは拙いので、先程の部屋に戻りたいのですが」
職人(スミス) から受け取った筒状の『それ』を手にした仁が提案すると、それはすぐに受け入れられた。
「さて、ジン・ニドー卿、何かね?」
部屋に戻ると、待ち切れなさそうに宰相が身を乗り出し加減に尋ねてきた。
仁は手にした筒状の包みを開く。それは1メートル四方もありそうな大きな皮紙。仁はテーブル上にそれを広げた。
「こ、これは!?」
それは、蓬莱島で作った地図であった。
ぎりぎり右端、つまり東に崑崙島があり、南はエリアス半島とその南にある幾つかの島々。
北は、クライン王国、カイナ村付近まで。西はショウロ皇国ロイザート付近。
「空から観察して作った地図です。これを差し上げます。同じ物を、各国に差し上げる予定です」
その地図は、蓬莱島で使っているものより、かなり簡略化がされている。
地形はおおよそその通りだが、細かい町・村は省略されており、首都や主要都市だけが載っている。
エリアス王国でいえば、首都ボルジアとポトロック市、それにフィレンツィアーノ侯爵の居城があるフロレンツくらい。街道も、主要なものだけだ。経緯線も入ってはいない。
図法も、素人の仁が指導したものなので、メルカトルともミラーとも違う、至極適当な図法であるが、それでも見たものの目を見張らせるものであった。
「……」
ただ地図に目と心を奪われ、言葉もない国王と宰相、そして侯爵だったが、しばらくしてようやく落ち着きを取り戻したようだ。
顔を上げて仁を見つめ、問いかける宰相。
「ジン、殿……。これを貰えるのか」
仁は頷く。
「ええ。熱気球で各国を行き来したり、船で海を航海するためには必要でしょう。個人の作ですので調べ切れていない部分があるのはご容赦下さい」
だが、仁のその言葉を、宰相は全力で否定する。
「いや、そんなことはない! これだけの地図、はっきり言ってこの世界のどこにも無い。感謝する、ジン殿!」
仁としては、これにより、熱気球や船舶の事故が防げればいいと思っていたのだ。
この日、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、『崑崙君』・ジン・ニドー卿が誕生したのである。