作品タイトル不明
21-15 なべて世はこともなし
翌日、仁はエルザを伴って、マルシアの工房を訪れた。
ラインハルトにはまだ正大使としての公務が残っていたのである。
「あ、ジンさん、そちらは……も、もしかしてエルザさん、ですか!?」
店の前を掃除していたジェレミーが、エルザに気が付き、その顔が紅潮した。
「ん、私、エルザ」
「やっぱり! うわあ、感激です!」
エルザの手を取ると、ジェレミーは小躍りする。
「……え?」
「ゴーレム艇競技、見てました! マルシア店長とのデッドヒート! 今でも目に浮かびます!」
「そ、そう」
ジェレミーのハイテンションに、エルザも若干引き気味である。
「おい、ジェレミー、店の前で何を……エルザさん!?」
店の前で騒いでいるジェレミーに気が付いたバッカルスが表に出てきた。そしてエルザに気が付く。
「エ、エルザさん!?」
バッカルスもエルザのファンだったようだ。
若干鼻息が荒いバッカルスを恐がって、エルザは仁の後ろに隠れた。
「えーと、マルシアの事を説明しに来たんだけど」
「あ、す、済みません! どうぞ、中に!」
中に通される仁とエルザ、礼子。
「……と、いうわけで、もう容態は大分いいんだけど、大事を取って今日1日はおとなしくさせるから」
仁が説明。マルシアが無事だったことは、昨日アローから聞いていた2人だったが、具体的な説明を聞いて、更に安心したようだ。
「そうですか、よかった……!」
「エルザさんは治癒魔法もお使いになるのですね!」
なんだかまたバッカルスの目が危険な輝きを帯び始めているように見える。
「そ、それで、アローと『シグナス』はどうしたろう?」
仁としては、昨日かなり無理をしたであろうから、確認しておきたかったのである。
「あ、それでしたらうちのドックに。……道を挟んで向かいのあそこです」
ジェレミーが指差す先には、海に面したドックがあった。専用ということなので、そこで船を組み立てているのだろう。
「よし、ちょっと見てこよう」
「あ、私も」
居心地の悪さを感じていたエルザも付いてくる。
「ほう……」
ドックは小広く、10メートル級の船くらいまでなら作れる広さがあった。
普段は数隻を並行して作っているものと思われる。
一番手前に『シグナス』が繋いであり、アローもそこにいた。
「あ、 製作主(クリエイター) 様」
仁に気が付いたアローが立ち上がり、一礼する。
「アロー、昨日はご苦労だった。マルシアは無事だ。明日には戻って来られるだろう」
「そうですか、それはようございました」
「お前の調子はどうだ?」
かなり無理をしているはずなので仁は気になっていた。
「はい、脚部関節に少しガタが来ています」
「やはりな……。よし、考えておこう。まずは『シグナス』だ」
海水や、マルシアの血が付着したところは、アローが綺麗にしてしまっていた。仁は主に駆動系のチェックを行う。
「……うん、異常ないな」
エルザも一緒に確認をしてみて、その堅牢性に驚いていた。
「……今見ると、ジン兄がどれほど凄いものを作ったのかがよくわかる。ローレライが負けたのも仕方ない」
魔法工学を修めたエルザ、今更ながら『シグナス』のとんでも無さがわかったようだ。
「さて、アローはここじゃ無理だな」
ということで仁は一計を案じる。
店に戻り、ジェレミーとバッカルスの2人に、
「そろそろ戻る。アローはマルシアの世話をさせに連れていくから」
と断りを入れた。2人は何の疑問も抱かずに了承した。
アローがいない間は、 隠密機動部隊(SP) の『カトレア』と『ロータス』が姿を見せずに店を守る事になるので安心だ。
アローを加えた仁たちは、迎賓館には戻らず、海蝕洞窟に隠してある 転移門(ワープゲート) へと向かった。
蓬莱島へ転移する一行。当然、アローは初めてである。
「ここが 製作主(クリエイター) 様の拠点ですか」
「そうですよ。ほとんどの兄弟姉妹はここで作られているのです」
長女である礼子が説明した。なんだか微笑ましい。
仁は工房へとアローを連れていく。
「よし、一旦停止させるぞ」
そして仁はアローを一旦分解した。
「さて、こんな事が2度とあっては困るからな……」
『カトレア』、『ロータス』が付いているとはいっても、海の上までは同行しない(できない)ので、アローそのものの機能も向上させておこうと考えた仁である。
基本は蓬莱島標準装備。
骨格は64軽銀にし、関節はアダマンタイトコーティング。 魔法筋肉(マジカルマッスル) は 隠密機動部隊(SP) と同等とする。
動力炉は 魔力反応炉(マギリアクター) に交換し、小さめではあるが 力場発生器(フォースジェネレーター) を搭載。
これで、空を飛ぶ事はともかく、水中を自由自在に泳げるようになる。
マルシアのサポートのため、工学魔法も少し使えるようにしておく。具体的には『 職人(スミス) 』の四分の一くらいの能力で。
今の 職人(スミス) は改良されて仁の7割くらいの能力だから、その四分の一といえども、並みの 魔法工作士(マギクラフトマン) 以上なのは間違いない。
いざという時に備え、武装も追加。
障壁発生器(バリアプロジェクター) と 麻痺銃(パラライザー) を装備させ、護衛を務められるようにする。
対魔物用としても、『 水の弾丸(ウォーターバレット) 』と『 水流の刃(ウォータージェット) 』を使えるようにした。
怪我をした時のため、治癒魔法も中級までは問題なく使えるように改良。
魔素通信機(マナカム) も内蔵し、緊急時には老君に報告できるようにする。
最後に、『隷属書き換え魔法』対策を施して改良は終了。外装は今まで通りとしておく。とはいえ、『 硬化(ハードニング) 』と『 強靱化(タフン) 』を重ね掛けしておいたが。
「これでよし」
「ジン兄、ちょっと、いい?」
「うん、何だ?」
そばで見ていたエルザは仁に何か言いたいことがあるようだ。
「蓬莱島のゴーレム達を含めて、標準化したらどうかと、思うんだけど」
戦闘用、護衛用、一般用などのランク分けをし、部品や素材も区分しておいたらどうか、というのである。
「ジン兄は思いつきで時々とんでもないことをする、から」
自覚はあるらしく、締めの言葉に仁も苦笑せざるを得なかった。
「そうだな。上限は決まらないが、幾つかの標準は決めておいてもいいな」
同意する仁。
「今日は時間が無いけど、近いうちに決めよう。手伝ってくれるんだろう?」
「ん、もちろん」
頷くエルザ。
とりあえず、今は他にやるべき事もあり、仁、礼子、エルザ、そしてアローはポトロックへと戻った。
「ああ、アロー」
お昼過ぎ、迎賓館で養生しているマルシアのところにアローを連れて行った仁。
ラインハルトも午後からは身体が空いたので合流している。
もうマルシアはかなり回復しており、ベッドから降りて歩き回っていた。
「アローがあたしを見つけてくれたんだってね、ありがとう」
「いえ、それが役目ですから」
会釈をするアロー。それを見たマルシアは首を傾げた。
「あれ? アロー、動きがなんか変わったね?」
仁は、マルシアの勘の良さに驚く。それとも、毎日一緒にいる強みだろうか。
「ああ、昨日はちょっと無理をさせたから、俺が整備しておいた。ついでにちょこっと改良もしたから、そのせいだろう」
ちょこっと改良、のところで、一緒に来たラインハルトの頬がぴくりと震えたのは、仁の『ちょこっと』がどんなものか知っているが故か。
当のマルシアはまったく気が付いてはいない。
「ああ、そうなのか。ありがとう、ジン! ……いやあ、積もる話が沢山あるよ」
「俺もさ。今日はじっくり話を聞こう」
ようやく、ポトロックへ来たと言う実感を持てた仁。
その日は、夜になるまで積もる話に花を咲かせた仁たちであった。