軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-06 ポトロック到着

セルロア王国を無事通過した『ベルンシュタイン』は順調に航海を続けていた。

12月15日にはエゲレア王国に差し掛かり、乗組員達の顔にもほっとした様子が見られるようになった。

「昼食ができたわよ!」

食事当番のクレイアが声を掛けた。

「おー、昼飯か」

「なんといっても食うくらいしか楽しみはないしなあ」

出港して1日2日は、緊張したり、初めて見る風景に感動したりしていた乗組員達であったが、5日も経つと、変わり映えのしない風景に少し飽きがきていた。

(非番の時の楽しみも用意する必要あり、と)

造船工(シップライト) として乗船しているロドリゴは、気付いたことをマメにメモしていた。

(食事を豊かにすると言うのも手かもしれないな)

そんな事を考えながら食堂へ。そこには半数の乗組員が集まっていた。

テーブル・椅子は半固定式。揺れても偏ったりしない造りである。

「ほう、今日は久しぶりに軟らかいパンか」

乾パンが出てくることが多い中、軟らかいパンというのは珍しい。

「あたしが焼いたのよ」

無い胸を張るクレイア。

「ほう、そりゃすごい!」

「クレイア嬢ちゃんも女だったんだな」

「それ褒めてんの?」

紅一点のクレイアは乗組員達に人気があった。

普通ならいろいろまずいことが起きそうなものだが、145センチ、39キロという小柄な身体のおかげで、21歳という年齢にも関わらず彼女を大人の女性として見る者が誰もいなかったのは幸いと言えよう。

(乗員の性別にも気を配る必要あり、と)

ロドリゴは、娘マルシアと同年代であるクレイアを、そこはかとなく気に掛けていた。

「おー、こりゃ美味い!」

「当然よ!」

こうした煮炊きをはじめとする加熱調理は仁が開発した魔石コンロを使っている。直接火で炙らないため、火事については比較的安全である。

油を使った揚げ物などは当然厳禁。

であるから、自ずとメニューは限られてくる。

クレイアが食事当番のときは、工夫された献立となるため、乗組員も楽しみにしているのであった。

「クレイア、美味しかったよ。ありがとう」

「お粗末様でした」

ロドリゴはクレイアに一声掛けて食堂を出、甲板に上がる。

午後の陽光に波がきらめき、眩しい。

「眩しさを弱めるために何らかの工夫がいるな」

目に対する日除けの必要性をメモするロドリゴであった。

こうした改善点の洗い出しは、当然ながら船長であるルガリア・ガスカル・フォン・アルコイスも行っていた。

「港に灯りがあるといいな。夜の位置確認ができる」

要は灯台である。沿岸に沿っての航行であるから、有効だろう。

また、乗員達の意見も聞き、まとめている。いずれ報告書として提出する予定だ。

「光を点滅させて簡単な通信ができるのでは?」

「昼間なら、旗を揚げるというのはどうです?」

航行中に気が付いたことは多い。いろいろな改善案が出された。

現代で言うタグボートの必要性。

急制動スラスターによる緊急停止。

救難信号。

とりあえず、どのようにして実現するか、は二の次に、まずは必要と感じたことを洗い出す事を念頭に置いている。それはなかなか良いやり方だったと言えよう。

期せずして、新造船開発時に行ったブレーンストーミングに近いやり方をしていたのである。

* * *

晴天にばかり恵まれたわけではなく、荒天の日もあった。そういう日は、岸により近く、かつ水深の深いところに停泊してやり過ごしていた。

入江などがあればより安全なのだろうが、それでも、帆や帆柱と言った、風の影響を受けやすい部材が無いだけでもベルンシュタインの安定性は優れていた。

そして12月18日、エゲレア王国最大の港町、『ナールネッカ』に到着したのである。

ナールネッカ港は小さな湾内に作られており、波も穏やかで、そのうえ水深も深く、ベルンシュタインの停泊地には最適であった。

更には、ショウロ皇国の新造船を迎えるため、突貫工事で桟橋が設けられており、乗員達は9日ぶりに陸地を踏んだのである。

現代地球の船乗りとは違い、船の上で寝泊まりするとしてもせいぜい2泊程度であったから、彼等の喜びは推して知るべし。

船長と保守要員のロドリゴを除いた全員は喜々として上陸。ナールネッカの町に繰り出していった。

「船長も大変ですね」

公式の時間以外は、ロドリゴとルガリア船長は、同い年ということもあって気さくに話す仲になっていた。

「ああ、まったくだ。君は行かなくていいのかね?」

「私は過去に酒と女と博打とで一度は身を持ち崩しましたからね。懲りています」

「ああそうか、ポトロックにいる娘さんに会いに行くのも目的の1つだったっけな」

「ええ。許してもらえるかどうかわかりませんが」

「私にも国に娘が2人いるがね。……軍属と言うことで、会えるのは年に一月もないだろう。それでも娘は可愛いし、父親として慕ってくれるよ。血の繋がりというのはそんなものさ」

「だといいんですが」

そんな時、大声が聞こえた。

「伝令! 伝令! どなたかいらっしゃいませんか!」

「……何だろう?」

船長とロドリゴは共に外に出てみる。桟橋の外れに、エゲレア王国の軍服を着た男が1人立っていた。

「私は船長だ。何用か?」

伝令は答える。

「は! 自分はエゲレア王国第1騎士隊所属、ワーカーズと申します! ここに、我が王、ハロルド・ルアン・オートクレース=エゲレア国王よりの親書をお持ちしました!」

「何、エゲレア国王の親書だと? ……ご苦労であった」

一介の船長で、軍における階級も中佐でしかない自分宛、ということで受け取った親書を緊張しながら開いてみると、そこには。

『この度の新造船の成功と、小群国初の快挙と言うべき航海を讃え、明日19日、歓迎の式典を行いたい』

……というような内容が書かれていたのであった。

国同士の友好度を深めるという意味でも、断る理由はなく、返事を待つ伝令のワーカーズに、謹んでお受けする、という言葉を託したのである。

* * *

式典は盛大すぎず、かといって簡素でもない、質実剛健といった雰囲気に終始した。

首都アスントからは直線で60キロほどであったので、国王自らが、王妃を伴って熱気球でやって来たのには、一行皆、驚かされた。

一方、エゲレア王国の船は10メートルを超すものは無く、全長40メートルのベルンシュタインはそれだけで人々の注目の的。

更には、帆もオールも使わずに進む『 噴射式推進器(ジェットスラスター) 』を見て、エゲレア王国の技術者たちは溜め息を禁じ得なかったのであった。

* * *

12月20日、英気を養った乗組員達を乗せて、ベルンシュタインはナールネッカを出港。

これまで東に向けていた進路を、南へと向けた。目指すはエリアス半島である。

その日はエリアス王国ノルド州のネフォツォ港に停泊。

翌日はコンジョル港、翌々日はモウグス港。

そして23日、ベルンシュタインは最終目的地、ポトロック港に到着したのである。

港には、歓迎の式典が準備されており、この世紀の一瞬を見逃すまいと、大勢の見物客が詰めかけていた。

「……マルシアは?」

ロドリゴは観客の中に娘の顔を探した。時が何年経とうが、見忘れるはずがない愛娘の顔を。

だが、それは見つからずじまいだったのである。