作品タイトル不明
21-05 ラッシュ
「そう、それは喜ばしいわ」
女皇帝は喜んだ。
「それではラインハルト・ランドル卿を正大使、エルザ・ランドル媛を副大使に任命します」
「陛下、俺の飛行船に乗せて行ってもいいでしょうか?」
黙っていられなくなった仁が口を挟んだ。
「ええ、そうしてもらえると非常に助かります、ジン・ニドー卿」
エルザとラインハルトを任命すれば、仁もきっと一緒に行くと思っているのだとしたら女皇帝はなかなかの策士であるが、実際には天然でやっているあたり、仁との相性はいいと言えよう。
* * *
「いやあ、ジン、助かるよ」
「ん、ジン兄、ありがとう」
女皇帝の前から下がった仁たちはあらためて話をしていた。
「いや、俺もポトロックは少し気になっているから。……ロドリゴさんとマルシアのこととか」
「ん、わかる」
「ああ、同感だ」
エルザも頷く。ラインハルトも同じ気持ちのようだ。
「そうすると、仕度とか含めて、12月23日出発、でいいんだよな?」
「ああ、そうだな。陛下もそう仰っていたし。明日明後日は準備に追われるだろう」
ラインハルトも一度領地に帰り、仕度を調えてくると言う。正式な大使であるのだから当たり前だが、国からの任命書も明日出来上がるらしい。
「何にしても色々面倒だよな」
仁はその一言で片付けてしまったが、それが現実である。
仁は大して準備する物もないので、ラインハルトやエルザと一旦別れ、カイナ村を訪れることにした。
ハンナともしばらく会っていないので、恨み言を聞かされる覚悟を決めて。
1月以上空いてしまったカイナ村訪問。
仁はマーサ邸前の工房地下にある 転移門(ワープゲート) に転移した。
地上へ出てみると、曇り空である。標高と緯度の高いカイナ村ではそろそろ雪が近いらしい。
「おや、ジン、久しぶりだねえ」
「おにーちゃん、お帰りなさい! レーコおねーちゃんも!」
仁と礼子に気が付いて、マーサとハンナが家の中から出てきた。
「ただいま、ハンナ」
飛び付いてきたハンナを抱き留めた仁は、少しハンナが大きくなったのを感じる。
別れて一月半にもならないのに、成長期の子供なんだなあ、と感慨を抱く仁である。
「長いこと留守にしてごめんな」
謝る仁であったが、ハンナは首を横に振る。
「ううん、おにーちゃんはいろいろ忙しいんでしょ?」
その答えに、仁はますますハンナの成長を感じる。
「あたし、いっぱいべんきょうして、おにーちゃんをてつだえるようになるからね!」
「ハンナ……」
仁はハンナの頭をそっと撫でてやる。にこにこ顔のハンナ。
「そんなところで何やってるんだい、中にお入り」
2人を見かねたマーサに声を掛けられ、仁とハンナ、礼子はマーサ邸に入った。
「もうすぐ年が改まるねえ。そろそろ雪が降りそうだよ」
温かいお茶(ペルヒャ茶)を飲みながらマーサが言った。
「でも、降った雪は雪室に入れればいいし、ゴンとゲンはいるし、ゴーレム馬はあるし、身体が冷えたら温泉もあるし、ジンのおかげで随分と楽になったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
話をしながら、仁は新たな工夫を考えている。
(ゴーレム馬に 橇(そり) を牽かせるのもいいな)
(二堂城の大広間にコタツを置いて談話室にするか)
(温泉の施設をもっと充実させるのもいいな)
そんなところへ、仁が戻って来たのを耳聡く聞きつけた村長ギーベックがやって来た。
「おお、ジン、戻っていたな」
「ああ、村長さん、お久しぶりです」
「久しぶり。……今年の麦の収穫も順調だったぞ。もう城に運んである。で、これが帳簿だ。あとで見ておいてくれ」
ギーベックは皮紙でできた薄い帳面を差し出した。
「ああ、わざわざ済みません」
「それと」
ギーベックの話には続きがあるようだ。
「12月の5日に、ジョナスとノナに子供が生まれたよ。名前はフラン。女の子だ」
「えーっ! そうだったんですか」
「それだけじゃないぞ。6日にはデイブとリルのところにホークという男の子が生まれたんだ」
「ベビーラッシュですね」
ギーベックはにこにこしながら頷く。
「これもジンが来てから、環境がよくなったおかげだ。できれば後で2人の家に行ってやって欲しい」
仁は頷く。
「ええ、わかりましたよ」
そして出産祝いをどうしようかと考え出すのであった。
結局、今後のこともあるので、地球にいたときに聞いた風習を参考に、食器セットを贈ることにした仁である。
「どこだったかの国では、子供が食べるのに困らないように、って願いを込めて贈るんだそうですよ」
と、言いながら。
併せて、夏に生まれたライナスのところへも、遅ればせながら、と言いながら届ける仁であった。
物は GS(グランドスパイダー) P(樹脂) 製のスープ皿と、銀のスプーンである。
あまり高価すぎても、との配慮をしたつもりの仁であるが、 GS(グランドスパイダー) P(樹脂) という部分で台無しになっている。
「あとはハワードのところがもうすぐ、ってところだね」
「子供が増えるのはいいですよね」
ミレスハン診療所でサリィに礼を述べていた仁は、おめでたの予想を聞いて頬を緩めていた。
更に年が明ければ、また何軒かでおめでたがありそうということで、まさにカイナ村はベビーラッシュである。
「先生がいてくれて助かりますよ」
「ふふ、治癒師としては、新しい命が生まれるというのも嬉しいものさ。それに、城の図書室で勉強させてもらっているし、ここはいい村だ」
そう言いながら、ちらりと流し目をした。その視線の先には村長のギーベックが。
「先生、ずっとここにいて下さいね」
お茶を運んできたバーバラもサリィにそう言っている。
「ああ、そのつもりだ。……なあ、ベック」
「う、うむ」
年甲斐もなく赤面する叔父を見て、バーバラが微笑んだ。
(いいな、こういう雰囲気)
目の前に、新たな『家族』が出来上がりつつある。仁は心の中が温かくなるのを感じた。
(マルシアも、ロドリゴさんと上手く行くといいよな……)
「おにーちゃーん!」
そんな時、ハンナの声が聞こえた。
「ごはんできたよ!」
今夜はマーサ邸で御馳走になる仁である。
(またしばらく留守にするからな……)
ハンナへの家族サービスのつもりもあった。
「ああ、今行く」
そして仁はサリィとギーベック、バーバラらに 暇(いとま) を告げるのであった。