作品タイトル不明
21-07 仁たちは
12月23日朝。
仁、礼子、エルザ、エドガー、そしてラインハルトは首都ロイザートの 宮城(きゅうじょう) 前広場にいた。
「それでは、ラインハルト・ランドル卿、エルザ・ランドル媛、無事役目を果たすことを願っていますよ」
「は、陛下」
女皇帝自ら、エリアス王国宛の親書を大使であるラインハルトに手渡したのである。
「ジン・ニドー卿、2人をよろしくお願いしますね。レーコちゃんが付いているから心配ないと思うけど」
「あ、はい」
途中からいきなりフランクな口調に変わる女皇帝。
「あと一つ。おそらく今日の夕刻、『ベルンシュタイン』はポトロックに着くと思うの。だからジン君たちは1日遅れの明日、24日に着くようにしてね」
「え?」
てっきり、向こうでベルンシュタインを出迎えるのだと思っていた仁は女皇帝の意外な言葉に驚いた。
だが、その後に続いた説明に納得する。
「ジン君の飛行船が速い事は知っているわ。でもね、新造船より遅く出て、新造船よりも早く着いてしまったら、彼等もがっかりすると思うのよ」
確かに、 徒(いたずら) に性能の良さを誇示することが名誉でもない。仁は頷いた。
「わかりました。ポトロックに着く時間を調整します」
仁の返事を聞いた女皇帝はにっこりと笑った。
実際のところは、更に改良を加えた結果、風避け結界と 力場発生器(フォースジェネレーター) を使えば、時速150キロくらいまでは安心して出せるようになっているのだが。
* * *
それからの仁たちは、飛行船に乗ってロイザートを出発。
高度を上げたところで、 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へと移動。
操縦士のスチュワードにより、飛行船はエリアス王国へと向かう。
その日はセルロア王国の山中か野原で野営した、と対外的には言う予定だ。
で、蓬莱島ですることと言えば。
「おお! これが『シャチ』か!」
ラインハルトを潜水艇に乗せてやることであった。
「くふ、楽しみだね」
サキも来ていたので当然誘う。彼女が断るはずもなく、今回は仁、エルザ、ラインハルト、サキが乗り込む。操縦は礼子だ。
あれから、空調と酸素供給機を改良してある。
具体的には、湿気の水分H2Oの酸素分は、呼気由来のものがほとんどであるという認識。つまり、CO2から酸素を回収するだけでは不十分だったと言うことに気付いたのだ。
それで、湿気の水分からも酸素を回収するようにし、更に、いざという時には、海水からも酸素を得る事が出来るように改良したというわけである。
「苦しくなったらすぐに言ってくれ。それから脱出はこの 転移門(ワープゲート) を使って……」
非常用の装備について簡単に説明した後、出発である。
「おお! これは斬新な眺めだ!」
仁が初めて乗った時と同じ感想を抱くラインハルト。サキはといえば、海底の様子に興味津々だ。
「くふ、こんな景色を目にする日が来るとは、去年のボクには想像もできなかったね」
今、『シャチ』は水深100メートルほどを進んでいる。緩く傾斜する大陸棚は次第に深くなっていく。
「お? あれは?」
水深200メートル付近で、ラインハルトが声を上げた。指差す方を見れば、それは。
「ああ、海底資源の採掘場だな」
「へえ……」
『シャチ』で初めて深海に潜った時に見つけた海底資源だが、本気になって探すと、浅いところも含め、あちらこちらに優秀な鉱床が見つかったのである。
作業の中心になっているのはマーメイド部隊。ここではマーメイド21から30までの10体が採掘を行っていた。
採掘された鉱石は、海上に浮かべてある 転移門(ワープゲート) で『しんかい』へ送る。
『しんかい』には 職人(スミス) が5体詰めており、到着した鉱石を選別し、精錬してから蓬莱島へと送り出している。
鉱滓(鉱石の屑)は送り返し、掘り出した穴を埋め戻すのに使っていた。
「ふうん、凄いものだな」
仁から説明を受け、ラインハルトは感心している。
「面白い鉱石とか見つかっているのかい?」
サキはそちらに興味が向いているようだ。
「始めたばかりなんで、今のところはまだそういう鉱物は出ていないな……」
近付いて眺めていても面白いものではないので、採掘した鉱石などは後で見ることにして、『シャチ』は先へ進んだ。
水深は200メートルを超え、300メートルくらい。日の光が届かないため、かなり暗い。探照灯を付けて進むと、光に照らされた魚が驚いたように逃げていったりして見飽きない。
「いやあ、興味深いな。……だが、そろそろ戻らないといけないか……」
残念そうなラインハルト。元々、遊んでいていい立場ではないのである。
「戻るか」
「ん」
ということで、仁たちを乗せた『シャチ』はUターン。タツミ湾へと戻っていった。
* * *
「いやあ、ジン、短い間だったが、楽しかった!」
「うんうん、ボクも楽しかったよ」
蓬莱島に戻ったラインハルトとサキは上機嫌。
更にサキは、海底資源が送られてくる 転移門(ワープゲート) へ、珍しい素材が無いか見に行ってしまった。
「サキも相変わらずだな」
目を細めてその後ろ姿を見送りながら、ラインハルトがぽつりと言った。
「今夜は館で泊まって、明日の午前中に飛行船へ転移しよう」
タイムテーブルをホワイトボードに書きながら仁が言った。
ここ蓬莱島は目的地ポトロックよりも東にあるため、時差計算をきちんとしないと後々面倒なことになりそうだからだ。
「うん、わかったよ。……蓬莱島の食事も楽しみだ」
ソレイユやルーナ、また、ペリドリーダーは、すっかり料理上手になってしまい、仁ファミリーの胃袋をがっちりと掴んでいる。
食卓に並べられた味噌汁を一口飲んだラインハルトとサキは、
「う、美味い!」
と驚いた顔。
「いつも食べている物と違うね!」
仁は笑って説明する。
「ああ、これは『鰹節』でちゃんと出汁を取ったからな」
ロイザートで出している物とは比べものにならない完成度である。
「……異民族……いや、『ミツホ国』だったっけな。彼等はこんな物を作る文化があるのか」
「ああ。もっともっといろいろな物を持っているらしい」
「興味はあるな」
ラインハルトも少し行ってみたそうな顔をするが、最早、エリアス王国に行くことは決定済みだ。
「まあ、近いうちにもっとはっきりするさ」
ジョン・ディニーが潜入しているのである。まだまだ情報は送られてくるはずであった。
* * *
そして予定通り、12月24日の昼、仁たちは蓬莱島を発つ。
「ジン、ラインハルト、エルザ、レーコちゃん、エドガー、気を付けて行っておいで。ボクは鉱石の選別をして楽しんでいるから」
サキが見送ってくれる中、一行は 転移門(ワープゲート) に踏み込んだ。
そして一瞬で転移、スチュワードの操縦する飛行船に出たのである。
「スチュワード、今、どのあたりだ?」
「はい、エゲレア王国の上空を通り過ぎ、エリアス王国に差し掛かるところです」
見下ろせば、青い海と、大きな半島が見える。
「よし、少し高度を落とせ」
「わかりました」
地上からも視認できるくらい、高度400メートルにまで下げていく。
空を見上げる人は少ないため、大して騒ぎも起こすことなく、現地時間で午後3時、飛行船はポトロックに着いた。
懐かしい中央広場に向けて高度を下げていくと、女皇帝から連絡が行っていたとみえ、歓迎の式典が準備されていた。
「……人が集まっているな」
少し仁は引いている。
広場は、着陸スペースを除き、人で埋め尽くされていたのである。
「まあ、当然だろう。空を飛んで来たのは我々が最初だろうからな」
エリアス王国は、先の『 統一党(ユニファイラー) 』騒動を経験していない。ゆえに彼等の『熱飛球』も見ていないわけである。
「あー……確かに、俺たちが『ベルンシュタイン』より早く着いていたら、彼等の偉業も霞んでいたろうな……」
改めて、女皇帝の気配りに気付き、感心した仁であった。
そして、集まった人々の大歓声に迎えられ、飛行船は広場中央にゆっくりと着陸したのである。