軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-03 海底探検

12月19日、仁とエルザは朝食もそこそこに、タツミ湾のドックにやってきていた。

いよいよ、潜水艦に乗って海底探検に向かうつもりだ。

「ジン兄、この船の名前は?」

直前にエルザが気付く。

「うーん、そうか。正式名がほしいな。『サブマリン』じゃそのまんまだし、『Uボート』も駄目だ……」

やはり悩む仁。

「うーん……『シャチ』ってのはどうだ?」

「……いいと思う」

「よし、ふさわしい色にしよう」

外板の1層目は64軽銀なので自由に色を変えられる。仁は手早く、黒と白(実際は艶消しの銀白色)に仕上げた。

「エルザ、命名してやってくれ」

「え、私!?」

「ベルンシュタインだってエルザだったろ」

「……うん」

服もそのままだが、エルザは姿勢を正し、新潜水艦に向け、宣言する。

「我、汝を『シャチ』と命名する」

ぱちぱちぱち、と、礼子とエドガー、そして仁が拍手をした。

「さあ、行こう」

「ん」

仁はエルザの手を取って、舷側のハッチから『シャチ』へと乗り込む。礼子とエドガーも続いた。

出入り口は二重になっており、外側のハッチをしっかりと閉めると、内側のハッチが開くようになっている。

宇宙船のエアロックと同じ考え方だ。

「礼子、操縦を頼んでいいか?」

「はい、お父さま。お任せ下さい!」

潜水艦は飛行機と同じく、3次元機動……きりもみや宙返りはあまりやらないが……なので、慣れないと混乱する。

今回、仁は素直に、テスト航行で慣れている礼子に操縦を任せることにした。礼子も喜々として任される。

自動操縦用の 制御核(コントロールコア) の練度が十分上がったなら補助をさせて、仁も自分で操縦して見るつもりである。

「では、行きます」

ドックのゲートが開き、海と繋がる。まずは 水魔法推進器(アクアスラスター) を使い、『シャチ』はゆっくりと動き始めた。

「おお、なかなか快適だ」

視線が海面にかなり近いというのも新鮮な眺めである。

そうこうしているうちに『シャチ』はタツミ湾を出た。

「では、潜ってみます」

礼子は重力制御魔導装置を起動する。それにより、僅かに水より重くなった『シャチ』は、ゆっくりと水面下へと沈んでいった。

「水中を航行する際にはもう必要ないんです」

両側に付いている小さなフィン……主翼と、後方に付いているフィン……尾翼の働きで、航行中は流体力学的なダウンフォースを発生させることができるので、無理に重くなる必要はないというわけだ。

「まずは通常航行です」

水魔法推進器(アクアスラスター) で進む『シャチ』。

「水中での 自由魔力素(エーテル) 確保は、どうなってるの?」

ふと、エルザが思いついた疑問を口にした。

「はい、エルザさん。空気中と変わりないですね」

それを聞いた仁は考え込む。

「うーん、やっぱり 自由魔力素(エーテル) の粒が小さいから、大気中や水中といったことに影響されないんだろうな。……ということは、真空中にも十分な 自由魔力素(エーテル) がある可能性が」

そんな物思いを打ち破ったのは礼子の声。

「それでは『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』推進です」

「お、おう」

一拍遅れて、浮遊感が襲う。 力場発生器(フォースジェネレーター) は船全体……乗員含めて、全てのものの分子に直接働きかけるため、加速度を感じることはなくなるのだ。

「は、速い」

窓の外は青い海だが、透明度が高いので海底までよく見え、それがすごい勢いで後ろへ過ぎ去っていく。

『時速300キロくらいです』

老君が知らせてくれる。

「これ以上はお父さま達が乗っているときは危険です」

礼子が申し訳なさそうな顔で言う。

実際、時速3600キロ、空気中でのマッハ3が、風避け、水避けの結界生成速度の上限らしいので、理論上は水中でも時速3600キロを出せるはずなのだが。

『万が一の事を考えますと、有人でその速度はお勧めできません』

と、老君にも釘を刺されてしまった。

「わかったよ。それじゃあ、最大潜航深度はどのくらいだろう?」

現在の地球での潜水艦の最大潜航深度は500〜600メートルくらい。ロシアのシエラ型原子力潜水艦が750メートル前後といわれている(軍用なので明確なデータは無い)。

そもそも船殻は、耐圧が限界を超えると、一気に圧壊する危険性を孕むので、わざわざギリギリの限界を調べたりはしない、という専門家もいるくらいだ。

「1000メートルはいけると思いますが……」

「よし、ゆっくり沈下させてくれ。俺は工学魔法で船体の歪みをモニタする。危なくなったらすぐに 力場発生器(フォースジェネレーター) で浮上するんだ」

「いいんですか?」

「ああ、その方法なら危険は少ないと思う」

仁としては海底探査のため、最大潜航深度を知っておきたかったのである。

「エルザさん、念のため、 転移門(ワープゲート) の準備もしておいて下さい」

「ん、了解」

こうして、『シャチ』はゆっくりと沈んでいく。

実際のところ、蓬莱島のあるあたりは、地形学上で『大陸棚』と呼ばれる水深200メートルくらいの緩傾斜地が尽きるあたりであり、付近には一気に深く落ち込む、いわゆる『海溝』が存在する。

今現在、仁たちがいるあたりは、1500メートルほどの深さがあると思われた。

ソナーを使い、現在位置から海底までの距離を、海面で測定した深さから引くことで深度を計算していく。

「……深度500……550……600」

現代地球の潜水艦の潜航深度を超えた。

「……700……750……800」

もう外は真っ暗である。仁は集中し、船殻の歪みをモニタしていた。

「……800……850……900」

まだ問題ないレベルだ。 巨大百足(ギガントピーダー) の甲殻は思った以上に優秀らしい。

「……950……1000」

実際のところ、外には老君の指示によるマーメイド部隊も待機している。彼女等は5000メートルの水圧にも耐えた実績があり、『シャチ』の様子をそっと見守っていた。

「1100……1200……」

強力なライトに照らされ、海底がぼんやりと浮かび上がってきた。

そしてシャチの周りには雪のような白い浮遊物が。『マリンスノー』である。このあたりから、海流の関係か、透明度が急激に変わっている。

「……きれい」

いっとき危険な深海にいることを忘れさせてくれるような眺めであった。

「……1400、海底です」

『シャチ』の下には1400メートルの海底があった。まだ外殻の歪みは許容範囲である。

仁はほっと息を吐いた。

「『 地下探索(グランドサーチ) 』」

せっかく辿り着いた海底なので、念のため海底資源を調べてみる仁。

「お?」

「ジン兄、何かあった?」

「ああ。…… 軽銀(ライトシルバー) と、 魔結晶(マギクリスタル) がある。その他にもいろいろな金属の鉱脈がけっこう浅い場所に」

その言葉を老君も聞いていた。

『それは朗報ですね。採掘の準備を進めましょう』

「うん、頼んだ」

思わぬ収穫までおまけに付いてきた。

「よし、これ以上無理をしても仕方ない、浮上だ」

浮上には 力場発生器(フォースジェネレーター) を使い、一気に海面まで戻る。

風属性に特化した結界、つまり気密性に特化した結界を船体内に施してあるため、加圧・減圧のリスクが無いというのは大きなアドバンテージだ。

魔法には一切影響が無く、気圧を一定に保ってくれる。

真っ暗だった深海から、明るい海面に出た時は、エルザだけでなく仁もほっとした。

「大成功だな。これで海底資源の探査も楽になるだろう」

とは言ったものの、一点だけ欠点が露わになった。

それは湿気。仁とエルザ、2人分の呼気に含まれる水蒸気で、船室内が湿気っぽく……有り体にいうなら、あちこちに結露が起きたのである。

呼吸をしない礼子が試験した時にはわからなかった欠点だ。

「これは、水属性魔法『 凝縮(コンデンス) 』で水分を取り除く必要有りだな……」

それに対し、酸素の再利用はうまくいった。

空気中の二酸化炭素を全て分解するのではなく、窒素と酸素の割合を判定する 魔導式(マギフォーミュラ) を仁がうまいこと構築できたからである。

つまり、使った分だけの酸素を生成する、という制御方法を取ったことが正解だったわけだ。

分離した炭素は、黒鉛として固めてある。

「鉛筆でも作ろうか……」

などと考える仁であった。

閑話休題。

一旦浮上し、空気を入れ換えた後、仁は改めて海中を楽しむために走り出した。今度は時速50キロ程度で。

「あー、やっぱりこのくらいがちょうどいいな」

色とりどりの魚が泳いでいるのが見える。

仁とエルザはそれからしばらく海中の景色を楽しんだのである。

もちろん、帰った後に湿気対策を施したのは言うまでもない。