軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-02 潜水艦

「あー、いい湯だ」

温泉に浸かりながら、仁は考えを巡らす。

「 力場発生器(フォースジェネレーター) で水中を突っ走って相手を切り裂いたり穴を空けたりして戻ってくる魚雷……は駄目か。敵の手に落ちたら解析されちまうしな」

「でも、お父さま、それは……」

すかさず入る礼子の指摘。それは、仁の作ったゴーレム達も同じである。

「あー、そうか。敵の手に渡ったら爆発とかするように組んでおけばいいのか」

「そうですよ」

「うーん、だがなあ。なんとなく気が乗らないなあ」

便利に使っておいて、都合が悪くなったら切り捨てるような気がするのだ。

ゴーレム達には意志があるので、その辺の判断を自分でするようにしているから、それほど気は咎めないのだが。

「そうか、通常で考えられるような相手には絶対に捕まらないように作ればいいのか」

仁のゴーレム達も、並の……いや、並以上の相手にも負けない実力を持たせている。

「そうしよう」

考えがまとまった仁は、のぼせる前に風呂を上がった。

脱衣所では礼子が背中を拭いてくれる。このあたりは今までどおりだ。

婚約したと言っても、天然で 初心(うぶ) なエルザと、筋金入りの朴念仁では、進展のしようがなかったのである。

まして仁は、その昔、中学の時同級生に『おじいさんみたい』と言われたくらい古い人間で、婚前交渉はしないものという意識があった。

上気した身体を冷まそうと、縁側に出る仁。そこには先客がいた。言わずとしれたエルザである。

「……ジン、さん」

どうにも余所余所しく感じてしまうため、仁としてはあまり気に入らないのだが、それを言い出すとまたしても不毛な話し合いになるので、そこはぐっと堪え忍ぶ。

「エルザも夕涼みか」

「ん」

北回帰線上にある蓬莱島は、冬でもそこそこ暖かい。

言葉少なに寄り添う2人、夜空の月だけが見守っていた。

……とはいかず。

「お父さま、エルザさん、湯冷めして風邪引きますよ」

忠実な 自動人形(オートマタ) 、礼子が2人の健康を気づかって声を掛けたのである。

「……もう休むか」

「ん」

「おやすみ、エルザ」

「おやすみなさい、ジン、さん」

* * *

さて、日も改まり、仁はいよいよ潜水艦を造るべく動き出す。

「ところで、ジン……さん」

何ごとか思いついたらしいエルザが声を掛けてきた。

「蓬莱島の資材在庫、ってちゃんと管理してる?」

「在庫か……老君は把握している。……と思う」

仁は把握していないということでもある。

「ん、確かに。今聞いてきた。それによると、ジン、さんはここ1年半で、軽銀20年分、鉄15年分、 魔結晶(マギクリスタル) 80年分を消費してる」

昨夜、実の母ミーネに薫陶を受けたエルザであった。

曰く、『いい奥さんになるには、経済観念が必要なのですよ』とのこと。

それでエルザは、朝から素材の在庫を調べていたらしい。

「あー……そんなにか?」

「……普通の国だったら、何度も経済が破綻しているレベル」

先代の頃から1000年間、ずっと採掘を続けている、蓬莱島という特殊すぎる環境だから許されているのである。

「それにとやかく言うつもりはない。ほとんど全部が必要な事だったと思うから」

仁が無駄遣いをしたというわけではない、それはエルザも分かっている。

「意識だけでもしていた方がいい」

「そうだな。分かったよ。ありがとう」

「ん」

「蓬莱島の地下ゴーレムの採掘分だけじゃ、今の俺みたいな消費をしていたらじきに枯渇してしまうということか……」

仁も多少反省したようである。

「よし、潜水艦を造ったら、海底資源を探査しよう!」

そして、どうやら目的もはっきりしたようである。

「よーし、デザインは昨日検討したあれを基にして、と」

水圧に耐えるよう、構造はモノコック、とはいかない。構造材を組み合わせ、堅牢性と気密、水密性を重視する。

「アダマンタイトを使ったら重くなりすぎるかな?」

「64軽銀がいいと思う」

エルザも、言うことを言ってしまったので、今は仁と共に潜水艦造り。

「お父さま、 巨大百足(ギガントピーダー) の甲殻も使えるのでは?」

礼子の助言。 巨大百足(ギガントピーダー) の甲殻は、アダマンタイトよりは弱いが、軽銀よりは強い。そして、軽銀よりも軽いのである。

欠点は、加工の自由度が低い、ということ。薄い板状なので、柱や桁には使いづらいのである。

「お、それがあったな。よし、外装はそれにしよう」

であるから、仁は外板に用いる事に決めた。

「窓は10センチ厚……いや、3層にした GS(グランドスパイダー) P(樹脂) を使おう」

割れたりヒビが入ったときのことを考えると、単体よりも、重ねて使った方が良さそうだとの判断からである。

層と層の間には透明度の高い軟質魔導樹脂を充填し、修復性も持たせる。

こうして、素材も決まり、潜水艦の建造が始まった。

職人(スミス) 20体と、ダイダラ4体が建造をサポートする。

「ジン兄……あっ!」

またしてもうっかりジン兄、と呼んでしまったエルザ。

「エルザ、やっぱり『ジン兄』が一番耳に心地いいなあ」

「……ん、私も呼び慣れてる」

「……じゃあ」

どちらからともなく、当分『ジン兄』で行くことにしたのであった。

「で、何だっけ?」

「……あ、そうそう。製作手順の記録を残しておくことをお勧め、する」

前回、ショウロ皇国のワス湖畔で新造船を造ったときの経験からの助言である。

「ああ、そうか。……老君、頼めるか?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。それは礼子さんが適任かと』

老君は礼子に気を使った。

「ああ、より現場に近いからな。礼子、頼んでいいか?」

仁の頼みを断るような礼子ではない。

「はい、お任せ下さい!」

喜々として受諾する礼子。仁の役に立てて見るからに嬉しそうだ。

「そうですね、専用の 魔結晶(マギクリスタル) に記録していきましょう!」

皮紙に書くよりも早いし、使った工学魔法の記録も簡単。更に、老君ならば、これがあれば簡単に複製を作る事ができる。

仁、エルザ、礼子、老君の協力体制はなかなか効果的であった。

そしてその日のうちに、新型潜水艦が完成したのである。

全長10メートル、『シャーク』とほぼ同じ。全幅は3メートル、8人乗り。

シルエットは流線型で、潜水艦というより潜水艇というイメージ(大きさからいっても潜水艇)。

そのまま宇宙まで行ってもおかしくないようなデザインであるが、海に浮いていたら『斬新な船だな』と思えなくもない。

構造材は64軽銀、外板は 巨大百足(ギガントピーダー) の甲殻と64軽銀の2層構造。内面に軟質魔導樹脂を塗布し、水漏れ対策及び緊急修復用としている。

動力は 水魔法推進器(アクアスラスター) と 力場発生器(フォースジェネレーター) 。

武装は水中用 魔力砲(マギカノン) (魚雷型砲弾用)2門、 魔力爆弾(マナボム) 魚雷( 水魔法推進器(アクアスラスター) 推進)10発、アダマンタイト製の誘導型水中魚雷( 力場発生器(フォースジェネレーター) 推進)4発。

レーザー砲1門、 音波砲(ソニックカノン) 1門。

音波砲(ソニックカノン) は、可聴域〜超音波まで、周波数を可変させ、指向性の音波もしくは超音波を発することのできる攻撃兵器だ。これはかつて仁が使った『 音響探査(ソナー) 』の魔法を応用したもの。

麻痺銃(パラライザー) 1門、 魔力妨害機(マギジャマー) 1門、エーテルジャマー1門。

強力なサーチライト2灯、補助ライト2灯。海底探査用ゴーレムハンド2対(マギ・アダマンタイト製)。

防御用に、 魔法障壁(マジックバリア) と 物理障壁(ソリッドバリア) を備える。当然、水避け・風避け結界も備え、いざとなれば超音速を出せる。

非常脱出用には 転移門(ワープゲート) を装備。

エネルギー源は 魔力反応炉(マギリアクター) と非常時用にエーテノール。

もちろん、通信装置として 魔素通信機(マナカム) は積んでおくし、 魔力探知装置(マギディテクター) と探査用の水中ソナーも搭載した。

制御核(コントロールコア) 応用の、自動操縦装置も備えている。

一番仁が苦心したのは酸素の確保であった。だが、名案を思いつく。

「そうだ、工学魔法『 抽出(エクストラクション) 』で空気中の二酸化炭素から酸素を分離すればいいんだ!」

排出した二酸化炭素から酸素を取り出すこの方法なら、酸素濃度が上がりすぎることもなく、安心であった。念のため、同じものを2基積み、1基が故障しても、もう1基でカバーできるようにした。

これだけ念入りに行った製作だが、やはりテストは礼子に任せる事になる。

「お父さま、お任せ下さい!」

嬉しそうに笑って礼子は潜水艦に乗り込み、半日かけて入念な試験を行ってくれたのである。

その結果、重力制御魔導装置が追加された。

これは、軽銀や 巨大百足(ギガントピーダー) の甲殻を使うといった、軽量化がなされている船体全体としての比重が、偶然だが1を僅かに下回ったことによる。

ゆえに何の苦もなく水に浮かぶのだ。逆に沈むために、重力魔法を使わざるを得ない。仁がバラストを思いつかなかったためであるが、構造的には有利であるので結果オーライである。

「あー、作っている時には気が付かなかったことってやっぱりあるんだな……」

だが、製作者である仁は少し落ち込んでいた。

「お父さま、試作ですから致し方ないかと。それに、魔法でフォローできますし」

操縦している礼子が慰める。

仁と並んで座っているエルザは、礼子にセリフを取られ、少ししゅんとしていた。

というわけで、小型の重力制御魔導装置を追加搭載することで対策したのであった。