軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-35 未来への展望

「美味しかったわ。あのスープが、ジン君お勧めの味ね?」

食後のお茶を飲みながら、女皇帝は上機嫌だった。

「ええ、そうです。そして、それに関して、陛下にご報告したいことが」

「あら、なにかしら?」

「……出来ましたら人払いを」

仁の目を見た女皇帝は、近衛騎士フローラ、デガウズ魔法技術相、そして秘書官に、しばらく外に出ているよう指示をした。

「しかし、陛下……」

フローラは、護衛という立場上ぐずったものの、仁は帝室名誉顧問であるから、と言われ、渋々ながら部屋を出ていった。

これで部屋の中には、女皇帝と仁の他には、礼子、エルザ、エドガー、ラインハルト、ベラがいるのみ。

「さあ、ジン君、聞かせてちょうだい」

「はい」

仁は礼子に命じ、『 物理障壁(ソリッドバリア) 』を張らせた。空気の振動、つまり音も遮断する強力な物だ。

但し、空気の流通もなくなるので、張っていられる時間が限られる。それで仁は手短に話すことにした。

「異民族に関しての報告です」

女皇帝の顔が強ばった。

「……是非聞かせてちょうだい」

「はい。……俺が独自に調査したところ、異民族には侵攻の意志はありません」

この言葉に、女皇帝の緊張が抜けた。

「本当?」

「はい。あくまでも俺の調べたところでは、ですが。……詳細をお話しします」

そこで仁は、イスマルの町の話をする。

幾人かの商人が、異民族の製品を購入していること、異民族はショウロ皇国を警戒していること、また、 魔法技術者(マギエンジニア) を欲していること。

そして仁は、ここで賭けに出た。

「俺は、 自動人形(オートマタ) を潜入させました」

「えっ!?」

これにはさすがの女皇帝も驚いた。

「ジ、ジン君!? ……そんなことが……いえ、ジン君ならできるわね」

礼子や『 指導者(フューラー) 』を見ていれば、仁が人間と区別できないような 自動人形(オートマタ) を作ることができることが理解できるというもの。

「その 自動人形(オートマタ) からの情報です。300年前に侵攻しようとした、というのは、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) により 自由魔力素(エーテル) が激減したため、彼等が使っていた数少ない貴重な魔導具が動かなくなってしまったための非常手段でした」

一通り説明する仁。が、催眠の魔導具を用いて、ショウロ皇国の工作員が排除されていることまではまだ話さないでおいた。

「……」

「そして彼等は、魔法を使えないがゆえに、科学を発達させています。その点では、俺の知る限り、小群国よりも進んでいます」

「……そうなの?」

「はい。……ただし、その知識がどこから来たのか……はまだ調査中ですが」

そして仁は、これを最後と、思い切って進言する。

「陛下、異民族……『ミツホ』国というそうですが……と、是非国交を結んで下さい」

仁が言葉を切ると、女皇帝は目を閉じて少し俯き、沈思黙考といった構えを見せた。

そして、およそ5分が過ぎた。

女皇帝は目を開け、顔を上げて仁を見つめた。

「ジン君、ありがとう。……よく考えてみるわ」

「是非、お願いします。……ああ、あのスープの出汁……味付けの秘密は、彼等が作った『鰹節』にあるんですよ」

「そうなのね……。確かに、私たちにない物を持っているというわけね」

仁は『 物理障壁(ソリッドバリア) 』を解除した。

「ジン君にはそこまでのことができるのね。正直、その力が欲しいけど、無理強いはしないわ。……でも、これからも、助けてちょうだい」

そう言って、女皇帝は仁に頭を下げたのである。

仁は驚くと共に、この女皇帝の元でなら、世界をより良く、平和にできるかもしれない、とも考えるのであった。

* * *

「ジン、ちょっと驚いたよ」

「……私も」

同席していたラインハルトとエルザは、女皇帝が帰った後、仁に向かい、感心したような、呆れたような口調で言った。

「ああ、ちょっと賭けだった。話したとおり、異民族……ミツホ国は、好戦的じゃ無さそうだ。あの『 瀝青(れきせい) 』一つ取っても、交易をする価値はあると思う」

「それには同意するけどね」

「……でも、そんなに簡単にいく?」

現在は、新造船でポトロックへ向かうという計画が発動中である。

「うーん、今の我が国は安定しているし、経済的にも余裕があるから、できなくはないだろうな」

ラインハルトの分析。

「大きな利益も見込める。もし、国交が成ったら、西の警備に回している兵を半分……いや、4分の1にできるだろうし、もちろん交易で得られる利益もある」

仁とエルザはラインハルトの意見に頷き、賛成の意を示した。

「ところで、陛下はどちらへ向かわれたんだろう?」

仁が素朴な疑問を漏らすと、ラインハルトがそれに答える。

「テオデリック侯爵領方面だな。トスモ湖をぐるりと巡ってロイザートにお帰りになる予定だそうだ」

「なるほど」

「侯爵もだいぶお加減がいいようでね。エルザに感謝しているそうだよ」

「ん、お手紙、いただいたから」

エルザの治療と、 自動人形(オートマタ) 『リサ』の献身によるものだろう。

「侯爵はまだまだ国のために働きたいと仰っていたからな」

ラインハルトは感に堪えない、という表情で言った。

そこに、ベルチェ、サキ、トア、ステアリーナ、ヴィヴィアン、ミーネらがやって来て、再び仁ファミリーが勢揃いした。

それからの話題は再び仁の話になる。

「ジン、君は最近、この国に随分と肩入れしてくれているようだが、いいのかい?」

ラインハルトが複雑な顔つきで言った。

「僕としては嬉しいんだが」

仁は随分とショウロ皇国に貢献してきている。『 指導者(フューラー) 』、『熱気球』、巨大ゴーレム修理、乾燥剤プラント、そして新造船。

「ああ、確かにな。……正直言って、この国はやりやすいんだよな」

「やりやすい?」

「ああ。小群国じゃない、ということもあるが、そういった国々のごたごたから一歩引いたところにある。これがクライン王国やエゲレア王国だと、隣国との軋轢を気にしなくちゃならない」

「ふふ、確かにね。ジンもいろいろ考えているんだね」

サキが茶々を入れた。

「そりゃあな。俺の望みは好きな物を作って過ごすことで、それを人の役に立てられたら言うことないよ」

「……それには、平和でないと、ということ?」

エルザは仁の心意を酌み取る。

「そうさ。魔族問題は解決したし、異民族……ミツホ国も問題無さそうだ。むしろセルロア王国とフランツ王国がきな臭い」

仁の言葉に、全員が頷いた。

「ショウロ皇国が主導権を握って、和平への道筋を付けてもらえたら……なんて漠然と思っているんだ」

「そうか、ジン君はそれで我が国に肩入れしてくれているんだねえ」

トアがしみじみとした声音で言った。

「確かに私だって、素材を求めてあちらこちら彷徨っていたときにも、もっと国境間が穏やかになればいいのにと思ったものだよ」

「くふ、父さんもそんなこと考えていたんだね」

「そりゃあな。研究者にとって、国家間の争いなんて害悪でしかないものだ」

そのトアの発言にも、全員が同意した。

「旧レナード王国もどうにかしたいものだな」

再び仁の発言。問題は山積している。

「……旧レナード王国なんだが、立て直して、というか、改めて建国すればいいのに、とも思うよ」

ラインハルトがしみじみと言った。

「そうだね。あそこは地下資源が豊富だし、気候がいいから、農作物もたくさん穫れると思う」

旅行好きのトアは、旧レナード王国も知っているようだ。

「今は、国を逃げ出したような連中が集落を作り、鉱石を掘って生計を立てているんだよ」

さすがに素材捜しに血道を上げていただけのことはある。皆、トアの話に聞き耳を立てた。

「レナード王国産、という宝石や 魔結晶(マギクリスタル) はみんな、そういう連中が掘ったものだ。ああ、あとハチミツ採りをやっている連中もいたっけねえ」

「父さん、詳しいんだね」

「そりゃあな、1年くらいあそこを流離ったからな」

「え?」

「ああ、お前がまだ侯爵邸にいたときの話だからな」

「そうだったの」

「私だって、お前と一緒に暮らすようになってからは1年も家を空けたことは無いだろう?」

「まあ、ね。半年、っていうのはあった気がするけど」

自慢げに胸を反らすトアと、顔を 顰(しか) めるサキ。父と娘の掛け合いに、他の面々は苦笑いをしていた。