軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-33 老君強化

元々、仁は電子工学系には疎い。一般常識程度しか知らないのだ。

人工頭脳の能力を上げる方法は幾つかあるのだが、今回、仁が思いついたのは、その中でもやや古いかと思われる手法。

この前、『700672号』に示唆された概念、『魔力の周波数』である。

老君の思考回路、その中心となるのは全属性の 魔結晶(マギクリスタル) である。

これを『光』属性に変更するというものだ。

最も周波数の高い魔力は闇属性であるが、最も魔力の制御をしやすいのは光属性と言うことが経験的に分かっている。

これを 制御核(コントロールコア) に応用しようというのである。

PCでいえば、CPUのクロック周波数のアップに相当するだろうか。

当然、それに留まらず、サブシステムを充実させていく。

記憶領域を今までの10倍にし、コプロセッサというべき、補助 制御核(コントロールコア) を増設。

これにより、マルチタスク……同時に処理できる件数が増えた。

老子やマキナやジョンといった、端末を操作する必要性からである。

「どうだ、老君?」

『ありがとうございます、 御主人様(マイロード) 。とても快調です。これで、今まで以上にお役に立つことができます』

仁は笑って頷いた。

「ああ、頼りにしている」

* * *

さて、こちらはショウロ皇国。

『ベルンシュタイン』は水路を抜け、海に出ていた。

「おおお、揺れるな」

波の穏やかな湖とは違い、うねりがある海は、多少勝手が違うと見え、数名の船員が船酔いでダウンしていた。

「しっかりしろ! これくらいでだらしないぞ!」

しかし、船酔いは気合いだけでどうにかできるものではない。

今まで乗り慣れた小型船とは違う、大きなうねりによる揺れは、慣れるまで少々時間が掛かりそうであった。

* * *

「お疲れさん、ジン」

仁は、ラインハルトの領地、カルツ村にやって来ていた。

一通りの仕事を終え、みんなでゆっくり話をしたかったのである。

公式な訪問ということにするため、飛行船で 蔦の館(ランケンハオス) まで乗り付けている。

「ああ、ラインハルトも」

「エルザさんも大活躍したそうですわね」

ベルチェも、ラインハルトが久しぶりに戻って来てご機嫌である。

「40メートル級の船か……見てみたいね」

「いろいろな土地へ行けるな。羨ましいねえ」

「あら、ジン君に頼めばどこへでも連れて行ってもらえますわ」

そして、サキも訪れている。当然、彼女の父トアと、その婚約者、ステアリーナも。

「エカルトさんの船はどうなったのかしらね」

ヴィヴィアンも招かれている。つまり、仁ファミリーが勢揃いしているのだ。

勢揃い、ということは、当然あと一人。

「エルザ、……あの人の具合はどうなの?」

ミーネも、である。

「ん。落ち着いてはいる、でも、元のようには」

「戻らないのね……」

脳の障害は科学でも、そして魔法でも、如何ともし難かった。

「さて、みんなに知らせておくことがある」

落ち着いたところを見計らって、仁が切り出した。

「異民族の件だ」

その一言で、一気に静かになる。

「俺が独自に調べた結果なんだが……」

仁は、これまでわかったことを簡潔に説明していった。

異民族は『ミツホ』ということ、そうとう文明が進んでいること、侵攻の意志は無さそうなこと。

『アキツ』についても、情報を読み取った後修理したことまで話した。

「ここから先は推測になるが」

一息つき、前置きをしてから、再度仁は説明を開始した。

「かの国は、先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) と、何らかの繋がりがありそうだ」

「先代と、だって?」

聞き返したのはラインハルト。

「ああ。推測に過ぎないが、その根拠は、『 賢者(マグス) 』と呼ばれる人物、『シュウキ・ツェツィ』だ」

「ツェツィ?」

今度尋ね返したのはエルザ。

「そう。アドリアナ・バルボラ・ツェツィと同じ姓だ。それ以上に、『シュウキ』という名前には、なんとなく惹かれる」

「どういう意味だい?」

サキが首を傾げながら聞いてきた。

「シュウキ、と言う名前は、俺のいた世界にもあるんだ。それだけじゃない。セキとか、カリとか、ミヤコとか、元が日本語としか思えないような地名が多い」

実は同級生に 修基(しゅうき) という者がいた、と説明する仁。もちろんこっちのシュウキ・ツェツィとは別人だろうが、とも。

「なるほど。ジン君は、要するに気になっているんだねえ」

仁の心の中を当てたのはトア。やはり年の功か。

「そう。そっちは単なる好奇心だ。でも、あの国とは上手く付き合った方がいいと思う」

そこで仁は、アスファルトで舗装された道路や、自転車の存在、それに鰹節の話をした。

「ふうん、アスファルトか。確かに小群国にはない技術だな」

「魔法が使えない代わりに、『科学』を発達させたと思えばいいのかな?」

「鰹節、ですか。どんな食材なんでしょう?」

ラインハルト、トア、ベルチェが三者三様の反応を返した。

「ああ。だから、平和的に国交を開ければ、と思う。……文明も気になるしな。……鰹節が気になるなら、今度蓬莱島で食べてみるかい?」

「国交か……難しいが、できたら国の為になるだろうな……」

「くふ、面白そうな国だねえ」

「食べてみたいですわ、ジン様」

そんな話をしつつ、その日は暮れていった。

「ジン様、お話があります」

その夜、ミーネが仁の部屋を訪れた。

「うん?」

いつになく真剣な顔つきのミーネ。仁は、ただならぬ雰囲気を感じた。

「……エルザの事です」

「うん」

「ジン様は、エルザに新しい指輪を下さいましたね?」

アクアマリンをあしらった 守護指輪(ガードリング) のことだ。

「あ、ああ、贈った」

「……エルザを、幸せにしていただけますか、等とは聞きません。あの子は、ジン様のそばに居られれば幸せなようですから」

「……」

「ですが、私はともかく、実家のマルレーヌ様……あの子の義理の母上……には挨拶してあげてくださいませ」

「あ」

仁としては、エルザに指輪を贈った、その事実だけで完結してしまっていたのである。

正式な婚約ではなし、ただエルザの想いに応えようと、贈った指輪。

「……わかっております。あれが婚約指輪とか、そういう意味ではないことは」

「……ごめん」

左手の薬指は愛情の指、ということで、この世界でも婚約指輪か結婚指輪を嵌めることが多い。特に貴族では。

が、庶民はそれほど拘らない、ということも伝え聞いた仁は、それでも気持ちを込めて指輪を贈ったつもりだった。

「わかった。とにかく、明日、行ってくるよ」

「そうしてくださいませ」

考えて見れば、仁はエルザの義理の母……ランドル夫人には会ったことがなかった。

「あー……礼儀に 悖(もと) るよな」

少し落ち込む仁であった。