軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-32 情報整理

「ところで」

アキツを再起動させる前に、仁は老君に質問した。

「アキツの持つ知識や情報はどうだった?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。残念なお知らせになりますが……』

「ん?」

『アキツの知識は非常に限定的なものでした』

「というと?」

仁の問いかけに対し、老君は申し訳なさそうな声で説明を始めた。

「なるほど、アキツの知識は、主に国の統治について、それも民主政治、か」

『はい。その他、文化に関することが少々。そのほとんどが、 御主人様(マイロード) もご存知な事ばかり』

仁は考え込んだ。『 知識転写(トランスインフォ) 』で知識を与えたなら、そこまで限定的と言うことは考えにくい。

老君は、そんな仁の思考を読んだかのように話を続けた。

『おそらく、アキツは『 知識転写(トランスインフォ) 』で知識を授かってはいません』

「何!?」

『普通の 自動人形(オートマタ) のように、1から……赤ん坊に知識を与えるように教育していったのでしょう』

『普通の』 自動人形(オートマタ) というものには、動作のための基本情報……コンピューターで言えばOSにあたるものが与えられる。が、それは本当に基本的な動作ができるだけ。

『教育』により知識を与えていかないと、使い物にならないどころか、満足に話すことも出来ないのだ。

「だが、『 知識転写(トランスインフォ) 』って、昔からある技術なんだろう? なあ、礼子?」

礼子はこくり、と頷いた。

「はい、お父さま。わたくしはお母さまからそう聞いておりますが……」

そうなると、『 知識転写(トランスインフォ) 』という魔法が出来たのが、アキツより後、礼子より前、ということになる。

それはすなわち……。

「『 知識転写(トランスインフォ) 』って先代が改良したのかな?」

『その可能性は大きいですね』

アキツの知識を解析したはずの老君が、どうやって彼女が知識を得たのか分かっていないのには理由がある。

制御核(コントロールコア) の、いわゆる『書式』が微妙に異なっているのだ。

『知識』としての情報は簡単に読み取れたが、作られてからアキツが経験した出来事などの『記憶』情報は、それこそ個人の日記のように、とりとめもない情報が交錯しており、その中から有益な物だけをピックアップするのにはいささか時間が掛かるものと思われる。

ゆえに、老君といえど、この短時間には解析しきれていなかったというわけだ。

さて、いつまでもそうしているわけにはいかない。仁は、横たわるアキツを再起動しようとしたが、ふと思いつく。

「アキツの再起動は、あのドームでやろう」

「それがいいですね」

ということで、転送機によりドーム内に移動する仁と、アキツを抱き上げた礼子。すぐ戻る予定なのでエルザは居残りだ。

「お帰りなさいませ」

留守を守っていたジョンが出迎えた。ジョンも結局は老君が動かしているので、『お帰り』を言われることに少々違和感を感じたりする仁である。

仁は、アキツを元に戻す前に、座っていた安楽椅子を確認。こちらはフレームが青銅製で、緑青が生じていたので綺麗にしておく。

「よし礼子、アキツを座らせてくれ」

「はい」

「ドーム内を調査してみて、何か気が付いたことは?」

仁がアキツを直していた間、ドームにいたジョンである。いろいろ調べていたはずだ。

「はい、特にめぼしいものは無かったですね」

「そうか」

これ以上は、アキツを再起動してから、と、仁は『 認証鍵(パスワード) 』と『 魔鍵語(キーワード) 』を口にした。

「『コウガイチョウ64』『 起動せよ(ウエイクアップ) 』」

「……はい」

アキツが目を開けた。

「ジン様、不調を直していただき、ありがとうございました。これで私は、これからもこの地で人々を見守っていけます」

誰が自分を直したのか、ちゃんと認識していたようだ。

敵対はしないだろうという老君の判断は正しかった。

「アキツ、俺が修理したという事は伏せ、ジョンが修理したということにしておいてくれ」

「はい、わかりました」

アキツは、ここで、これからも、訪れる者……首長が認めた者……に知識を授け、相談に乗っていくのだろう。彼女が必要とされなくなる、その日まで。

仁も、時々は訪れてみようと考えていた。

気になるのか、礼子は一度だけ、アキツを振り返っていた。

* * *

仁と礼子は一旦外に出、待機していたペガサス1に乗り込み、コンドル3の 転移門(ワープゲート) で蓬莱島に戻った。

コンドル3は自力で飛行し、戻ることになる。

「お帰りなさい、ジン兄」

エルザが研究所前で出迎えてくれた。

そして老君は。

『 御主人様(マイロード) 、アキツの記憶に関する情報ですが』

「うん、どうした?」

『なんとか解析をすることはできましたが、申し訳ないことに一部破損してしまいました』

老君が解析をし損なうというのは非常に珍しい。それくらい困難な作業だったということだ。

劣化してひび割れかけたオリジナルからのコピーだったことで、元々情報が不鮮明だった可能性もありそうだ。

そのオリジナルは欠けてしまっており、もう用をなさない。再度アキツの 制御核(コントロールコア) をコピーしに行くというのもなんとなく憚られた。

「まあ仕方ない。分かったことだけ説明してくれ」

『わかりました』

老君は仁が求めている情報を簡潔にまとめて報告した。

1.アキツは、仁が作った『 指導者(フューラー) 』と同様、教育・相談用 自動人形(オートマタ) である。

2.アキツは、およそ1100年前に、『 賢者(マグス) 』の弟子によって作られ、『 賢者(マグス) 』によって教育された。

3. 賢者(マグス) の名は、シュウキ・ツェツィ。黒目黒髪。魔法は使えなかった。

4.アキツの知識は、民主制と、文化に関する幾つかのものに限られる。

5.アキツの知識と仁の知識を比較してみて、目新しいものはない。

6.300年前の 魔素暴走(エーテル・スタンピード) を挟んで、アキツは動けなくなった。

7.そのため、 魔法工作士(マギクラフトマン) ( 魔法職人(マギスミス) )を求めて、ミツホ族はショウロ皇国方面へ進出しようとしたが、アキツ自身は、侵攻を指示していない。

8.今でも、ミツホ族は 魔法職人(マギスミス) を必要としている。それは、古くなった道具や魔導具を修理してもらうためである。

9.アキツの外見は黒目黒髪、彫りは浅く、肌は仁に近い。これがシュウキ・ツェツィの指示によるものなら、彼は仁と同じ、もしくは近い世界の出身の可能性が高い。

このようなことがわかったわけだ。

そして、ここからは破損したデータを補完したものとなる。

10.アキツの他にも同様な『相談役』 自動人形(オートマタ) がある。

11.それらの 自動人形(オートマタ) には、アキツにない知識が蓄えられている可能性がある。

12. 賢者(マグス) であるシュウキ・ツェツィと、先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィとは何らかの関係がある。

以上だ。

この他に、ミツホにおける 魔法工作士(マギクラフトマン) の役割や、アキツの役目、首長とアキツの関係なども類推することができた。

が、シュウキ・ツェツィの正体については依然として謎のままだ。

老君はそれについて仁と話し合う。

『ミツホの住民は、おそらく魔族と共にいた従者種族と同じ民族でしょう。ですから、彼等は魔法が使えないのです』

「そうだろうな。そして、 賢者(マグス) とその弟子、はおそらくいろいろな文化文明を伝え、指導したんだろうな」

その話し合いには、もちろんエルザも参加している。

「……きっと、その一環として、いろいろな道具や魔導具を作ってあげていた、のだと思う。それが故障したりして、修理要員が必要になり、 魔法技術者(マギエンジニア) を必要としている」

「お母さまは、そのようなお話はしていらっしゃいませんでしたが……」

礼子も、過去を思い出し、補足説明をする。

「うん、俺も先代からそんな情報は受け継いでいない。何か理由があるのか……」

『ジョン・ディニーには、引き続き情報集めをさせましょう。その過程でもっといろいろわかると思います。少ない情報で判断するのは危険です』

老君の意見に、仁も賛成する。

「それがいいな。他の『相談役』 自動人形(オートマタ) からも情報が欲しいし」

仁としても、先代に関する情報や、もしかしたら自分と同じ世界の出身かもしれない人物の情報には興味があったのである。

『それにつきまして、 御主人様(マイロード) にお願いがあります』

「うん? 何だ?」

『はい。私の処理能力……特に、ジョンや老子のような端末を複数操作する際の処理能力をもう少し向上させていただきたいのです』

「なるほどな」

仁としても、面倒事は老君に丸投げしているという自覚はある。

「分かった、すぐに取りかかろう」

『ありがとうございます』

こうして、老君の更なる改良が行われることになったのである。