軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-31 アキツの修理

仁とエルザは、『アキツ』の惨状に息を呑んだ。思った以上に酷い。

思わず駆け寄ろうとする仁を、エルザが引き止めた。

「ジン兄、注意して」

「あ、ああ、悪い、わかったよ、エルザ。……礼子、ちょっと診てやってくれるか?」

まずは礼子に診断をさせることにした。

「失礼しますね」

動かないアキツの身体を診断していく礼子。そんな彼女にアキツは声を掛けた。

「……貴方……も 自動人形(オートマタ) 。 賢者(マグス) に……少し、似ていますね……」

「似ている?」

「……ええ。 賢者(マグス) も……黒目、黒髪でした……」

その話し方がか細いため、仁は気になった。

「礼子、どうだ?」

「……はい、できれば研究所で修理した方がいい、と思うのですが」

素材は用意できているものの、アキツの全身はかなり傷んでおり、この場で行うよりも各種素材が揃っている研究所の方がやりやすいことは明らかだった。

「ですが……」

アキツが直ったときの危険性があるので躊躇っている礼子なのである。

「うーん……」

ここで、仁は一計を思いついた。

「アキツ、君を直すには一旦停止させなければならないが、停止と起動の『 魔鍵語(キーワード) 』を教えてもらえるか? それから 認証鍵(パスワード) を」

認証鍵(パスワード) とは、製作者以外が停止させる際に必要となるもので、普通の魔導具のように誰にでも停止させられてしまってはまずい場合に設定する鍵である。

「……はい……停止は『 停止せよ(ビホールト) 』……起動は『 起動せよ(ウエイクアップ) 』です…… 認証鍵(パスワード) は……『コウガイチョウ64』です」

素直に教えてもらえたと言うことは、アキツが好戦的でないことを示していると言える。

そしてやはり、かなり古い型式であった。

「よし、それじゃあ一旦停止させるぞ。『コウガイチョウ64』『 停止せよ(ビホールト) 』」

こうして、アキツは動作を停止した。

「お父さま、これからどうするのですか?」

仁が何かを思いついた事を察した礼子が尋ねた。

「ああ、このままアキツを蓬莱島へ連れていく。そこで修理し、同時に 制御核(コントロールコア) をコピーしてしまう。それを解析すれば、アキツが敵になるかどうかがわかるだろう?」

この言葉に、礼子もエルザも頷いた。

「さすがお父さま」

「……準備が無駄になった、けど、よかった」

念入りに準備してきたが、蓬莱島に連れ帰るというので少し気が抜けたエルザであった。

「ああ、それは安全のためだったからな。急いで戻ろう」

今にも壊れそうなアキツに、礼子が重力魔法を掛け、少しでも壊れ難くしてから持ち上げた。

そのままそっと移動、着陸したペガサス1内の 転移門(ワープゲート) を使い、蓬莱島へと移動する一同である。

ジョンだけは残り、万が一に備え、ドーム内を警護することになる。

蓬莱島の研究所に戻った仁は、早速修理を開始した。

「ジン兄、こんなに酷く劣化した 自動人形(オートマタ) 、どうやって修理するの?」

明るいところで見ると、その劣化具合がよくわかる。

「まあ、見ていてくれ」

「ん」

一方、仁の助手を務める礼子は無言。

「……」

礼子は昔を思い出していたのである。

彼女も、先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィに作られて以来、およそ1000年、後継者を探すという使命を果たしてきたのだ。

(この 自動人形(オートマタ) も……孤独に過ごしてきたのでしょうか……)

目の前に横たわるアキツというこの 自動人形(オートマタ) も、似たような境遇にあることがわかっている。

礼子よりも完成度は低いのに傷みが少ないのは、あのドームからほとんど動かずに、教育という役割を続けていたためだろう、と仁は推測した。

まずは一旦解体することになる。

「これは……」

アドリアナ系の 自動人形(オートマタ) との共通点がかなりある。とはいえ、旧式な構造も多々見られて、アキツの方が時代的に古いものだとわかるのだ。

「これが 制御核(コントロールコア) だな」

全属性の 魔結晶(マギクリスタル) 。これも幾分劣化している。

新しい 魔結晶(マギクリスタル) を用意し、『 知識転写(トランスインフォ) 』を行う。コピーも作り、一つは老君に解析を依頼する。

「頼むぞ。知識の検証の前に、敵対する可能性があるかどうかを確認してくれ」

『はい、 御主人様(マイロード) 。大至急行います』

このやり方で 制御核(コントロールコア) を新調した場合、仁の魔力パターンが基準となるため、アンやエレナのように、仁を 製作主(クリエイター) として認めるようになる事が多い。

が、アキツは先代の時代より古い型の 自動人形(オートマタ) なので、どうなるか不明な部分があるのだ。

老君が 制御核(コントロールコア) を解析している間に、ボディの修理を進める仁。

「骨格は普通の鋼鉄だな」

炭素鋼。特殊な微量元素は添加されていない。熱処理も少々甘いものだった。

「 魔法筋肉(マジカルマッスル) は……もう駄目だな。全部交換だ」

ちょっと引っ張っただけで千切れるものもあり、仁は全部を交換することにした。

「……そうなると、やっぱり新規製作と同じだな。材質はあまりグレードを上げるのは止めておいたほうがいいかな」

「お父さま、その方がいいと思います」

万が一にも敵対された場合に、性能は低い方がいい、と礼子は主張した。

「心配しすぎだとは思うけどな。……エルザ、骨格を頼めるか? 材料は5半ニッケル鋼があるからそれを使おう」

5半ニッケル鋼は鋼に5.5パーセントのニッケルを混ぜた物。

かつて仁がクライン王国での依頼により、作った汎用ゴーレム。それを、王国は仁へ贈与する予定の鉱山で秘密裏に鉱石を採掘するのに使い、挙げ句の果てに、這い出してきた 巨大百足(ギガントピーダー) に破壊されてしまったのである。

その素材を、仁は回収して保管していたのだ。

「ん。了解」

この分野では、エルザはもう一流の 魔法工作士(マギクラフトマン) だ。仁には及ばないが、15分ほどで骨格を作り終えてしまった。

「ジン兄、関節部は今の型式にしたけど、いい?」

「ああ、言い忘れていたな。ありがとう、上出来だ」

仁は仁で、低グレードの 魔法筋肉(マジカルマッスル) や 魔法外皮(マジカルスキン) を準備していたのだ。

蓬莱島標準の物では性能が高すぎたので、かえって手間が掛かっている。

「よし、組み立て開始。……礼子、配線用の魔導神経の準備を頼む。エルザ、シールドケースを取ってくれ」

「はい」

「ん」

礼子とエルザを助手に、マイペースで組み上げていく仁。一応、『隷属書き換え魔法』対策も取っておく。

「よし、身体はこれで良し、と。後は頭部か。残った目を見ると……これは 黒曜魔石(マギオブシディアン) じゃないな……」

分析してみるとトルマリンである。単に色で決めただけのようで、視覚は眼球本体の 魔水晶(マギクオーツ) が受け持っているようだ。

「これじゃあ礼子ほどの視力も出ないわけだ」

独り言っぽく呟いた仁の言葉を聞きながら、礼子は微笑んでいる。

「お父さま、黒いトルマリンよりも、普通の黒曜石がありますから、こちらをお使いになっては?」

黒いトルマリンは透明感がないが、黒曜石は天然のガラスであるから、瞳に使うにはこちらの方が向いている。

「よし、そうしよう」

そして顔の復元。仁はエルザと協力し、形状を整えていく。

「これでいい?」

「うん、いいな。……にしても、日本人みたいな顔だな。彫りが浅いし」

魔法外皮(マジカルスキン) を被せる前に、仁は老君に尋ねる。

「老君、解析の方はどうだ?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。今終了したところです。このアキツという 自動人形(オートマタ) は、本当にただの教育用です。限定的な知識を伝える以外に役目は持っていません』

「そう、か。要するに以前ショウロ皇国に贈った『 指導者(フューラー) 』みたいなものか」

これで敵対される可能性も消えた。仁は安心して 制御核(コントロールコア) を取り付ける。

そして最後は、作り直した 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を組み込めば完了。

その2つも、仁が使っている物より効率が落ちる物だったが、これについても仁はなんとか対応し、同レベルの物に仕上げたのである。とはいえ、今の 自由魔力素(エーテル) 濃度に対応したものだ。

「こんなところで苦労するとは思わなかったよ」

性能アップするのではなく、ダウンに苦労したというのは、仁としても思い掛けないことだったのである。

「これで直ったな。あとは 魔法外皮(マジカルスキン) を被せて、と」

人造の皮膚。色は異民族……ミツホ国の者たちに比べ、色白だ。

「やっぱり日本人っぽいなあ」

「ん、ジン兄に少し似てる」

仁の皮膚は、一度電気炉の取り鍋で焼けた後、魔素で補完され、それを再度生きた細胞に置き換えたためか、こちらの世界対応、ということなのか、エルザやラインハルトにも少し似た感じの色になっている。

自由魔力素(エーテル) を多く含む細胞はこうなるのだろうか、と考えたりしてはいるが、そちらの専門家ではないので、結論は出ない。

それはさておき、仁はエルザに手伝ってもらい、外観を仕上げていった。

髪の毛は、僅かに残った物から判断し、黒に。

と、そこで仁ははたと思い当たる。

「老君、アキツの 制御核(コントロールコア) に、自分の外観についての情報は無かったのか?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。お待ち下さい。……ございます。礼子さんに転送します』

「わかった。……礼子、外観の最終仕上げを頼む。エルザは、アキツの服を」

「はい、お父さま」

「ん」

こうして、太古の知識を伝える 自動人形(オートマタ) 、『アキツ』の修理は完了した。