作品タイトル不明
20-30 決心
老君からの緊急連絡は珍しい。仁は期待しながら返答をした。
「老君、仁だ、なにかあったのか?」
『はい、 御主人様(マイロード) 。お邪魔してしまい申し訳ないのですが、どうしてもお耳に入れておきたいことがありまして』
そして老君は、ジョン・ディニーのこれまでを簡単に語ったあと、 転移門(ワープゲート) で移動した先にいた『アキツ』という 自動人形(オートマタ) のことを説明した。
「ふうん、先代よりも更に少し前の 自動人形(オートマタ) か……。しかも、何らかの関係性がある、と」
『はい。情報だけを引き出すことは可能ですが、それは 御主人様(マイロード) のご意志に 悖(もと) るのではないかと思いまして』
「……うーん……」
『かの『アキツ』という 自動人形(オートマタ) が、第二のエレナにならないという保証はないのです』
仁は考え込んだ。老君の心配はもっともである。老君は仁第一、で考えているのだから。
『 始祖(オリジン) 』が作ったにも関わらず、反逆を企てた『 負の人形(ネガドール) 』という例もある。
ここで、選択肢は3つ。
一、直さない。
二、限定的に直す。
三、完全に直す。
それぞれにメリット・デメリットはあるし、やり方でも変わってくる。
「……一度、直接会って話をしてみたいんだが……」
「お父さま、危険です」
礼子が即座に反対した。
「まあ、お前はそう言うと思ったよ」
「でも、ジン兄は、行ってみたいんでしょ?」
横からエルザが口を出した。そんな彼女に、礼子が少し怨みがましい目を向ける。
『礼子さん、貴方も一緒に行き、万全の態勢を取ったらいかがでしょう?』
「私も、行く」
エルザも名乗りを上げた。
「レーコちゃんはジン兄だけを守ってあげればいい。私は万が一、ジン兄が怪我をしたらすぐに治す」
「……うーん……」
だんだん話が大袈裟になってきたので唸る仁。だがそれは、皆が仁のことを案じているからこそだともわかっている。
「それで直接会いに行けるならいいか……」
結局、好奇心が勝った。
『ベルンシュタイン』も順調に水路を下って行っており、問題は起きそうもない。仁は、熱気球に乗る宰相たちに手を振ると、飛行船を海へ向けた。
熱気球には出せない速度で海へ向かえば、仁たちの行方を知る者はいなくなる。
高度も十分に取ったあと、飛行船はスチュワードに任せ、仁、礼子、エルザ、エドガーは 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へ戻った。
『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 』
老君の声が出迎える。
『準備は整っております』
以前作った強化服を着る仁。物理衝撃耐性ならかなりのものだ。
そして修理用の資材。蓬莱島仕様の 魔法外皮(マジカルスキン) 、 魔法筋肉(マジカルマッスル) 、それに 魔結晶(マギクリスタル) 。
礼子は、いざという時のためのプラズマソード、転送銃、結界爆弾を持つ。
エルザは、回復薬と 治療器(トリートメンター) 、それに 魔法無効器(マジックキャンセラー) を。
エドガーは、重力制御魔導装置、エーテルジャマーを持った。
『アキツ』の居場所はわかっている。ハリハリ沙漠よりも西にある、巨大な砂沙漠の中央部だ。
コンドル3とペガサス1も共に転送機で移動することになる。
仁たちはペガサス1に乗り込んだ。
『では、送ります』
老君が転送機を発動させた。一瞬で巨大沙漠中央部に移動した一同。
「さて、どこにいるんだか」
周囲を見回す仁。エルザも同様に、首を巡らせた。
「お父さま、あそこです」
目のいい礼子が指差した先に、明らかに砂や岩とは違う色のものが見えた。
「金属製のドームみたいだな」
1100年も前にそんなものを作ったというのが驚異であるが、その謎もこれから解けるだろうと、仁はペガサス1を移動させた。
ドームは艶消しの鈍い金色をしている。周囲の砂が黄土色をしているから、それなりに保護色ともいえる。
「まちがいないです。中にジョンがいます」
内蔵された 魔力探知装置(マギディテクター) でジョンの存在を礼子が確認した。
「良し。それじゃあ、どうやって中に入るかだ」
ドームの大きさは直径10メートル、高さ4メートル。少し砂に埋もれてはいるが、きれいな半球状をしている。
「ここは、中から開けさせた方がいいのではないでしょうか」
「なるほどな」
* * *
「アキツさん、私の製作者様に、その身体を直してもらう気はありませんか?」
「……あなたの、製作者様……?」
「そうです。今、すぐそばまでいらしています」
「……何ですって……!……?……」
驚いているのだろうが、か細い声で、しかもやや間延びしているので緊張感が伝わってこないのは致し方ない。
「……どうして……ここがわかったのですか……?」
「ここは、大きな沙漠の中央部ですよね?」
「……その通り……です。ここは、『 賢者(マグス) 』が『サハラ』と呼んだ沙漠の中央部です……そんなところにどうやって……」
「私の製作者様は、 転移門(ワープゲート) を自由に出来ます。そして、空も飛ぶことができるのです」
その言葉に、アキツは更に反応した。
「……空を……そうですか。『 賢者(マグス) 』も……そういう夢を抱いてらっしゃいました……貴方の製作者様は、たいそう優れたお方のようですね……」
そこで言葉を切り、2分ほどじっと考えていたアキツは、やがて決心した。
「……わかり……ました。このままでは、私は近いうちに停止することになるでしょう……それは、私の基本命令に背くことになります……修理をお願い致しましょう……」
「それでは、入り口を開ける、もしくは開け方を教えていただけますか?」
「……はい……動けない私には開けられません……私の右真横にあるハンドルを左に回して緩めて下さい……」
ジョンはその指示通りに、直径30センチほどのハンドルを回す。これでわかったことは、ネジの存在。
「……次は……ハンドルの右にあるレバーを押し下げて下さい……」
かなり固かったが、ジョンの力なら動かすことができた。
「……最後に……その左にあるのが扉です、外開きです……」
観察すると、確かに、縦2メートル、横1メートルほどの扉らしきものがある。
ドアノブに相当するものを掴み、ゆっくりと回すと、固く閉じられていた扉が緩むのがわかった。
パッキンが貼り付いているのか、これも開けづらかった。人間の力では無理だったろうが、ジョンは人間ではない。
ばりっ、というような音を立て、隙間が空いた。あとは自重により、扉は開いていった。
* * *
「お父さま、ジョンが説得に成功したようです。これから扉を開けるそうです」
ドームの外では、老君経由の情報を、礼子が仁に伝えていた。
そして1分ほどすると、仁たちの左手側の壁に隙間ができたかと思うと、一気に外へと倒れるようにして開いたのである。
扉位置は砂の面より50センチほど上であったので、開いた扉がそのままタラップの役目をする。
「お待たせしました、 御主人様(マイロード) 」
ジョン=老君が、扉の中に立って、仁たちを出迎えていた。
「ジョンだったな。ご苦労さん」
「いえ。 御主人様(マイロード) 、お気をつけてお入り下さい」
「エドガー、貴方が先頭」
「はい、エルザ様」
エルザの指示で、先頭がエドガー、続いてエルザ。仁、礼子の順でドームに足を踏み入れた。
「彼女が『アキツ』です」
「……ジョン殿の製作者様、はじめまして……アキツと申します……」