軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-29 アキツ

ジョン=老君が力を入れると、扉は少し軋みながら開いていった。

中は真っ暗であったが、扉が閉まると自動的に明かりが灯る。魔導ランプの光だ。

(少しちらついていますね。メンテナンスがきちんとなされていないようです)

そして更に奥へと歩を進めた、その時。

「これは!?」

人間であれば感知できなかったであろうほどの短い時間、足元に魔法陣が浮かび上がった。それは老君にはお馴染みのもの。

「 転移門(ワープゲート) !」

ジョンの姿は一瞬でかき消えた。

* * *

「ここは……」

(ハリハリ沙漠の西にある巨大沙漠の中央部付近ですね)

蓬莱島の老君は、 魔力探知機(マギレーダー) を用い、短時間で己が操るジョンの飛ばされた先を捜し当てていた。

「……そこに来たのは誰ですか……」

弱々しい声が奥の闇から聞こえた。ジョンは視界を赤外線に切り替える。

部屋の奥には人影があった。立派な安楽椅子に腰掛けている。

だが、近付くにつれ、それが『存在』と呼ばれたわけがはっきりした。

自動人形(オートマタ) だったのである。

「私はジョン・ディニーといいます。首長のヒロという方から、こちらに来るように言われまして。何をすればいいのかはこちらで聞けとだけ」

「……そう、今度は貴方が……」

「早速ですが、明かりを点けても構いませんか?」

「……ええ、どうぞ」

赤外線で見えるとはいえ、細部の観察にはやはり普通の光があった方がいい。ジョンは『 光の玉(ライトボール) 』を一つ作り出した。

一気に明るくなる室内。

「……明かりが故障して以来、久しぶりの光です……」

か細い声で呟く 自動人形(オートマタ) 。

「それで、私は何をすればいいのでしょう?」

おおよその見当は付くものの、やはり聞かないわけにはいかない。

「……私を……直して下さい……」

その答えは、ジョン=老君が予想していたものだった。

「……私は 自動人形(オートマタ) です……。……もう随分長いこと存在してきましたので……身体のあちらこちらが傷んでいます……」

明るい光の下で見ればその様子がよくわかる。

元々は美しい女性型だったのであろうが、髪の毛はほとんど抜け落ち、目は片方が外れ、虚ろな眼窩となってしまっている。

魔法外皮(マジカルスキン) は弾力を無くし、あちこちひび割れてしまっていた。

服は一見何ともないようだが、よく見ると繊維はもうぼろぼろで、動けば塵になってしまいそうなほど。

真っ暗な場所にいたのも、光による劣化を防ぐためだったのかもしれない。

「……前回……整備してもらったのが……70年ほど前……です。それでも身体を直すことはできず……発声機能の修理に留まりました……」

老君は、かつて仁が見つけ出し、修理したアンのことを思い出した。

彼女は300年以上前に作られ、放置された結果、動作不良を起こしていたのである。

この目の前に座る 自動人形(オートマタ) は、間隔は空いていても、何度か整備されていたらしい。それでも劣化は免れなかったのだ。

「失礼ですが、貴方が作られたのはいったい何年前なんですか? そして貴方は何者なんですか?」

「……おおよそ……1100年前と記憶しています……今年が3457年だとしてですが……」

老君は衝撃を受けた。1100年前。

仁の先代、アドリアナ・バルボラ・ツェツィよりも古い時代に作られた 自動人形(オートマタ) 。

「……私は……『 賢者(マグス) 』、シュウキ・ツェツィの知識を受け継ぎ……ミツホの人々に伝える存在です……名前は……アキツ……」

シュウキ・ツェツィ。仁からの知識にその名は無い。が、アドリアナ・バルボラ・ツェツィ所縁の人物かもしれない、と老君は考えた。

「 賢者(マグス) シュウキ・ツェツィ、ですか。どんな方だったのでしょう。その方が貴方をお作りに?」

「……いえ、その方は工学魔法を使えなかったので……お弟子の方が私を作って下さいました……」

「そうですか。……これは失礼、まずはお身体を調べさせていただきましょう」

今は話よりも、目の前の 自動人形(オートマタ) を直す方が優先順位が高いと判断したジョンは、断ってアキツに触れてみる。

すると、思い掛けない言葉がアキツから発せられた。

「……あ、貴方は……? 貴方も…… 自動人形(オートマタ) ……?」

驚いたことに、アキツというその 自動人形(オートマタ) は、ジョンも 自動人形(オートマタ) であることを瞬時に見抜いたのである。

知識を受け継ぐ、というのは伊達ではないということか、と老君は感心した。

そこで、正直に話すことにした。どう転んでも、目の前の 自動人形(オートマタ) が脅威になるとは思われなかったのである。

むしろ正直に話すことで、より沢山の情報を聞き出すことができると考えていた。

この時点で、 自動人形(オートマタ) を停止させて、無理矢理知識を引き出すという選択がないあたりは仁と良く似ている。

「そうです。私は、私の製作者様によって作られた 自動人形(オートマタ) です」

それを聞いたアキツは、感心したような話し方で答えを返した。

「……やはり……今の世にも優秀な 魔法職人(マギスミス) がいらっしゃるのですね……では、貴方の目的は……?」

「正直に言いましょう。この『ミツホ』の国を調べることです。これは噂ですが、こちらの国が、私どもの母国に攻め入ろうとしている、という情報もありましてね」

この言葉に、アキツはほんの僅か、首を横に振った。

「……それは……あり得ません……私は、そのようなことを示唆したことは一度たりともないのですから……」

「ですが、300年ほど前、攻めてきたという記録が残っていますよ?」

すると、アキツは無言になり、何かを考えているようだったが、やがて口を開くと思い掛けないことを言い出した。

「……そのころ……空間に充満する 自由魔力素(エーテル) が激減したことがあります……そのため、私は……一時期、動作不良を起こし……10年ほど停止していたことがあります……」

魔素暴走(エーテル・スタンピード) の事に間違いない、と老君は判断した。

「……そして……それ以降……私は動くことができなくなりました……」

そしてアキツは、彼女の停止を知ったミツホの人々が、修理できる 魔法職人(マギスミス) を求めて、東の国々——ショウロ皇国や小群国を目指したのではないかと言った。

それは、この前聞いた、魔導具が使えなくなったから……という理由とも矛盾はしない。

その事が本当なら、尚のこと、アキツは修理されなければならない。

ジョンはじっくりとアキツの身体を診察していった。

「保存状態が良かったため、 制御核(コントロールコア) の傷みは僅かですね。骨格の腐食も思ったよりは進んでいません。ですが、疑似生体組織である 魔法外皮(マジカルスキン) と 魔法筋肉(マジカルマッスル) は、もう交換するより他に方法はありません」

「……しかし、素材が手に入らないでしょう……」

アキツの言うことは正しい。魔法工学が未発達のミツホでは、これほどまでに高度な 自動人形(オートマタ) を修理する素材は流通していないのである。

「その通りですね。それからもう一つ。 魔素変換器(エーテルコンバーター) も交換しないと、今の 自由魔力素(エーテル) 濃度では動作不良を起こします」

「…… 魔素変換器(エーテルコンバーター) も……そうですか……」

今は『 魔力反応炉(マギリアクター) 』を使っている蓬莱島勢であるが、少し前までは 魔素変換器(エーテルコンバーター) であった。

それと比べても原始的なものが搭載されており、そこから見ても、アキツはアドリアナ・バルボラ・ツェツィより古い時代の 自動人形(オートマタ) であることを老君は確信した。

「……もう……私の役目は終わった……と言うことなんでしょう……」

残った目を閉じるアキツ。その言葉はいかにも無念であることを窺わせるものであった。

(……)

老君は考え込んでいた。

ジョンの目の前にいる 自動人形(オートマタ) は、貴重すぎる存在だ。このまま朽ち果てさせて良いものではない。

その一方で、修理した場合に、蓬莱島と敵対しないという保証は無い。一部の知識では老君をも凌いでいる存在なのだから。

このまま朽ち果てさせ、動作が停止した後でその 制御核(コントロールコア) を取り出し、情報を吸い上げるのが一番安全で利益が大きい。

(ですが、 御主人様(マイロード) は……)

仁が知ったら、嘆き悲しむと思われる。仁とはそういう人間だからだ。

結論として、仁に報告し、判断を仰ぐことにした。

* * *

ワス湖では、連日の試験航行を終えた海軍旗艦ベルンシュタインが海へ向けて出発する日であった。

細かい修正や装備の追加はあったものの、大成功と言っていい結果だった。

乗員も一通りの訓練を終え、なんとか格好がついてきている。

「それではこれより、『ベルンシュタイン』は、水路を通って海へと出る。そこで2日間、最終確認をしたなら、いよいよエリアス王国へ向けて出発する。これは我が国はおろか、小群国を含めても、初めての試みである!」

船長の訓辞が行われ、いよいよ出港だ。仁、礼子、エルザ、エドガーは飛行船で空から眺めている。宰相と魔法技術相は自分たちが乗ってきた熱気球から。ラインハルトとクリストフは岸辺から、それぞれ新造船ベルンシュタインの門出を見守っていた。

「出港!」

後から追加された装備、『汽笛』を鳴らし、ベルンシュタインはゆっくりと桟橋を離れていった。

付近の住民は総出でそれを見送る。

仁たちも空からそれを見送っていた。

その時、老君から連絡が入ったのである。

「お父さま、老君が大至急相談したいそうです」

「ん? 何だろう? 珍しいな」

仁は、空の上なので、飛行船備え付けの 魔素通信機(マナカム) で話をするべく、通話器を手に取った。